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からだ貸します

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ぽかん、といった擬音がぴったりの顔をして冬佳は聞き返す。

「霊に、からだを、貸す…?」

神妙な顔をして、オオカミさんが頷く。
首そこなんだ…。

「未練があって成仏できない霊というものは意外と多い。この街にもな。
 悪い奴らではないのだが、心残りがあるばかりに、何とかしてくれ何とかしてくれとうるさいんだこれが。
 が、未練というのは現世のこと。現世に関わるには生きた身体が必要というわけだ。
 そこで、おぬし!」

ビッ、とオオカミさんが決めポーズを決めながら冬佳を指さす。
2本足でも立てるんだ…。

「おぬしは、生きた身体を一時的にでも手放したい」
「別にそういうわけじゃ…そういうわけか?」
「霊たちは、生きた身体を一時的にでも使いたい」
「と、いうことは…」

ゴクリ

「れっつ、からだ貸し!」
「うわあ」

冬佳は感嘆とも諦念ともつかぬ声を漏らす。
がっくりと肘を太ももに立てて俯いた顔を支える。

「つまりは幽霊相手の体張ったレンタルサービスってこと?」
「れんたさびす?」
「それ安全なんですか?返ってこなかったりとかは…」
「未練さえ晴れれば自然と成仏する、心配ないぞ。
 それに、返ってこなかったり暴走した霊のせいでおぬしの身体が死したりしたとして、おぬしにとっては好都合ではないか?」
「…たしかに」

きょとん、とした顔で首を傾げるオオカミさんに冬佳も神妙に頷く。

「よし、交渉成立だ」
「う~ん」

いまいち納得がいかない冬佳だが、ここ数年で育ってきた「どうにでもなれ」という投げやりな心が顔を出す。
もういいか。
どうにでもなれ。たとえこれで死んだとしても。

「おぬしの身体の操作権は完全に相手の霊に移り、同時に記憶も伝わる。日常生活も霊たちが勝手に送ってくれるぞ」
「俺の意識は?」
「あるっちゃあるし、ないっちゃない」
「はあ?」
「まあ、体験した方が早い!」
「えっちょ、待っ!」

その短い手足で、と驚くほど俊敏に茂みの中に去っていく白い後姿を見送る。

「どうなるんだろうなア。まあいいか」
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