異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万

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3章 子どもの終わり

第43話 大人だって間違える

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 クロスのバカは俺に剣を向けた。
 ムカつく、というよりも悲しい気持ちになった。
 このバカの気持ちは、なんとなくわかっている。
 本当に国を守りたいという正義感で突き進んでいるんだろう。
 もしかしたらネネちゃんの事も犠牲にする気なんてなくて、美子さんがどうにかしてくれると思っているのかもしれない。
 彼は美子さんが起こす奇跡を知っているのだ。
 クロスは瀕死の重症から美子さんに救ってもらっている。
 だけど、あの奇跡を起こすミルクはもう出ない。
 
 そしてクロスは俺に認められたいんだろう。
 クロスなりに苦悩を俺にぶつけている。この国を守りたい、だけど自分達には守るだけの力がない。だから勇者がほしい。この国を守るために。
 先生はわかってない、と彼は言ったのだ。
 この俺の苦悩を先生はわかってくれない、と嘆いていたのだ。

 わからなくていいし、わかりたくもない。
 俺はお前に娘を譲る気は1ミリもないのだ。

 彼が自分で考えて行動していることはわかっていた。もし王族の命令ならクロス単独では来ないだろう。もしかしたらネネちゃんが勇者であることも王族には伝わっていないのかもしれない。
 仮に王族の命令でネネちゃんが大々的に奪いに来たら俺はこの国を捨てるだろう。

 クロスなりに考えて、みんなを守ろうとしているんだろう。だけど偉いなんて俺は1ミリも思わない。
 クロスの考えは、人頼りである。
 クロスの考えは、誰かを犠牲に成り立っている。
 しかも俺の大切な娘を犠牲にしよとしているのだ。
 どこの親が娘さんを死なせていいですか? と問われて「はい」って言うんだよ。

 バカクロス。
 お前は本当にバカだ。
 剣を向けられて悲しかったけど、やっぱりムカつく。
 考えが人頼りだし、人の娘を死なせようとしているし、国のために犠牲にしようとしている娘の親に向かって、なんで俺の気持ちわかんねぇーんだよ、と駄々をこねている。バカすぎる。

 クロスはかつての師匠に剣を振り下ろした。
 振り下ろされた剣を、俺は人差し指と親指で掴んだ。
「なっ」とクロスが驚愕している。
「お前は修行をサボっていただろう」
 と俺が言う。
 クロスは両手で剣を抜こうとしていた。
 だけど俺は2本の指を離してあげない。
「2年前からレベルが変わってないのはお前だけだぞ」
 と俺が言う。
 クロスのレベルは2年前から47だった。
「俺ぐらい強くなるとレベルなんて変わんねぇーんだよ」
「アイリとマミはレベル100を超えてるぞ。ステータスも全てお前の倍以上はある」
 と俺が言う。

 アイリとマミは2人で強敵を倒して来たのだ。
 今は魔王軍が活発になっている。
 実際にこの国を守っているのは2人だった。1年前までは強敵を3人で討伐していた。2人で十分だと気づいてから、俺が強敵の討伐に向かうのは2人でも敵わない時だけである。
 だから国は俺達に何も言わない。言えないのだ。クロスみたいに娘を奪いに来たら、それこそ俺達が国から出て行き、本当に国力が下がる。

「アイツ等と違って、俺には国のために考えることがいっぱいあるんだよ」とクロスが言う。
「その結果、俺の娘を死なせることになったのか?」と俺が尋ねた。
「うるせぇー。もうお前は師匠じゃねぇ。俺だって、頑張ってるんだよ」
「もっと考えて行動しろクロス」
 と俺が言う。

 歯を剥き出してクロスが俺に手のひらを見せた。
 彼が唯一持っている攻撃魔法を出すつもりだろう。

「ファイガ」とクロスが叫んだ。
 彼はファイガの攻撃魔法だけは持っていた。

 俺は虫を叩き落とすみたいに、片手でファイガを弾いた。
 攻撃魔法が広場の噴水に当たり、壊れた。

 俺にはクロスの攻撃は効かない。
 不意打ちなら多少はダメージを負うかもしれないけど、俺達にはレベル差があった。

 俺のレベルは327だった。
 勇者より伸び率は低い。だけどステータスだけなら勇者にすら引けを取らないレベルになっている。
 毎日、毎日、5人以上の経験値を貰っているのだ。ステータスアップを販売していたのは自身のステータスを上げるためでもあった。
 オークキング戦で自分が弱い事を痛感した。だから家族を守るために俺は強くなっていた。

「ファイガ」とクロスが次の攻撃魔法を撃とうとした。
 これ以上、被害が出ないように、俺はクロスのお腹を殴った。

 一撃で気絶した。

「バカクロス」と俺は呟く。
 弟子に手を出したのは初めてだった。
 オークキング戦の時にクロスを抱きしめて死ぬのを覚悟した事を思い出す。
 口の中が酸っぱくなる。
 クロスがこんなにバカで、間違った正義に突き進んでしまうのは自分の責任のような気がした。
 クロスの近くにいた大人は俺なのだ。
 彼に伝えることや、叱り方や、注意の仕方を間違えたのだ。
 大人だって、いっぱい間違える。
 いっぱい後悔している。
 アイリやマミに刺さる言葉が、彼には意味を持たなかった。
 もっと、こんな風に言ってあげればよかったとか色々と思う。
 でも……もう無理である。
 俺がクロスに何も言いたくない。
 クロスのために何かをしてあげることも、何かを言ってあげることも無理である。

「行こうか?」と俺はネネちゃんに言う。
「抱っこ」とネネちゃんが怯えた顔で言った。
 俺はネネちゃんを抱っこする。
「怖かった」と娘が言った。
 俺はネネちゃんの背中を撫でてあげる。

 そして倒れたクロスに背を向けて、家に戻った。

『クロスが庇護下から外れました』
 と女性のような、機械音のような声が脳内に聞こえた。

 
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