43 / 56
3章 子どもの終わり
第43話 大人だって間違える
しおりを挟む
クロスのバカは俺に剣を向けた。
ムカつく、というよりも悲しい気持ちになった。
このバカの気持ちは、なんとなくわかっている。
本当に国を守りたいという正義感で突き進んでいるんだろう。
もしかしたらネネちゃんの事も犠牲にする気なんてなくて、美子さんがどうにかしてくれると思っているのかもしれない。
彼は美子さんが起こす奇跡を知っているのだ。
クロスは瀕死の重症から美子さんに救ってもらっている。
だけど、あの奇跡を起こすミルクはもう出ない。
そしてクロスは俺に認められたいんだろう。
クロスなりに苦悩を俺にぶつけている。この国を守りたい、だけど自分達には守るだけの力がない。だから勇者がほしい。この国を守るために。
先生はわかってない、と彼は言ったのだ。
この俺の苦悩を先生はわかってくれない、と嘆いていたのだ。
わからなくていいし、わかりたくもない。
俺はお前に娘を譲る気は1ミリもないのだ。
彼が自分で考えて行動していることはわかっていた。もし王族の命令ならクロス単独では来ないだろう。もしかしたらネネちゃんが勇者であることも王族には伝わっていないのかもしれない。
仮に王族の命令でネネちゃんが大々的に奪いに来たら俺はこの国を捨てるだろう。
クロスなりに考えて、みんなを守ろうとしているんだろう。だけど偉いなんて俺は1ミリも思わない。
クロスの考えは、人頼りである。
クロスの考えは、誰かを犠牲に成り立っている。
しかも俺の大切な娘を犠牲にしよとしているのだ。
どこの親が娘さんを死なせていいですか? と問われて「はい」って言うんだよ。
バカクロス。
お前は本当にバカだ。
剣を向けられて悲しかったけど、やっぱりムカつく。
考えが人頼りだし、人の娘を死なせようとしているし、国のために犠牲にしようとしている娘の親に向かって、なんで俺の気持ちわかんねぇーんだよ、と駄々をこねている。バカすぎる。
クロスはかつての師匠に剣を振り下ろした。
振り下ろされた剣を、俺は人差し指と親指で掴んだ。
「なっ」とクロスが驚愕している。
「お前は修行をサボっていただろう」
と俺が言う。
クロスは両手で剣を抜こうとしていた。
だけど俺は2本の指を離してあげない。
「2年前からレベルが変わってないのはお前だけだぞ」
と俺が言う。
クロスのレベルは2年前から47だった。
「俺ぐらい強くなるとレベルなんて変わんねぇーんだよ」
「アイリとマミはレベル100を超えてるぞ。ステータスも全てお前の倍以上はある」
と俺が言う。
アイリとマミは2人で強敵を倒して来たのだ。
今は魔王軍が活発になっている。
実際にこの国を守っているのは2人だった。1年前までは強敵を3人で討伐していた。2人で十分だと気づいてから、俺が強敵の討伐に向かうのは2人でも敵わない時だけである。
だから国は俺達に何も言わない。言えないのだ。クロスみたいに娘を奪いに来たら、それこそ俺達が国から出て行き、本当に国力が下がる。
「アイツ等と違って、俺には国のために考えることがいっぱいあるんだよ」とクロスが言う。
「その結果、俺の娘を死なせることになったのか?」と俺が尋ねた。
「うるせぇー。もうお前は師匠じゃねぇ。俺だって、頑張ってるんだよ」
「もっと考えて行動しろクロス」
と俺が言う。
歯を剥き出してクロスが俺に手のひらを見せた。
彼が唯一持っている攻撃魔法を出すつもりだろう。
「ファイガ」とクロスが叫んだ。
彼はファイガの攻撃魔法だけは持っていた。
俺は虫を叩き落とすみたいに、片手でファイガを弾いた。
攻撃魔法が広場の噴水に当たり、壊れた。
俺にはクロスの攻撃は効かない。
不意打ちなら多少はダメージを負うかもしれないけど、俺達にはレベル差があった。
俺のレベルは327だった。
勇者より伸び率は低い。だけどステータスだけなら勇者にすら引けを取らないレベルになっている。
毎日、毎日、5人以上の経験値を貰っているのだ。ステータスアップを販売していたのは自身のステータスを上げるためでもあった。
オークキング戦で自分が弱い事を痛感した。だから家族を守るために俺は強くなっていた。
「ファイガ」とクロスが次の攻撃魔法を撃とうとした。
これ以上、被害が出ないように、俺はクロスのお腹を殴った。
一撃で気絶した。
「バカクロス」と俺は呟く。
弟子に手を出したのは初めてだった。
オークキング戦の時にクロスを抱きしめて死ぬのを覚悟した事を思い出す。
口の中が酸っぱくなる。
クロスがこんなにバカで、間違った正義に突き進んでしまうのは自分の責任のような気がした。
クロスの近くにいた大人は俺なのだ。
彼に伝えることや、叱り方や、注意の仕方を間違えたのだ。
大人だって、いっぱい間違える。
いっぱい後悔している。
アイリやマミに刺さる言葉が、彼には意味を持たなかった。
もっと、こんな風に言ってあげればよかったとか色々と思う。
でも……もう無理である。
俺がクロスに何も言いたくない。
クロスのために何かをしてあげることも、何かを言ってあげることも無理である。
「行こうか?」と俺はネネちゃんに言う。
「抱っこ」とネネちゃんが怯えた顔で言った。
俺はネネちゃんを抱っこする。
「怖かった」と娘が言った。
俺はネネちゃんの背中を撫でてあげる。
そして倒れたクロスに背を向けて、家に戻った。
『クロスが庇護下から外れました』
と女性のような、機械音のような声が脳内に聞こえた。
ムカつく、というよりも悲しい気持ちになった。
このバカの気持ちは、なんとなくわかっている。
本当に国を守りたいという正義感で突き進んでいるんだろう。
もしかしたらネネちゃんの事も犠牲にする気なんてなくて、美子さんがどうにかしてくれると思っているのかもしれない。
彼は美子さんが起こす奇跡を知っているのだ。
クロスは瀕死の重症から美子さんに救ってもらっている。
だけど、あの奇跡を起こすミルクはもう出ない。
そしてクロスは俺に認められたいんだろう。
クロスなりに苦悩を俺にぶつけている。この国を守りたい、だけど自分達には守るだけの力がない。だから勇者がほしい。この国を守るために。
先生はわかってない、と彼は言ったのだ。
この俺の苦悩を先生はわかってくれない、と嘆いていたのだ。
わからなくていいし、わかりたくもない。
俺はお前に娘を譲る気は1ミリもないのだ。
彼が自分で考えて行動していることはわかっていた。もし王族の命令ならクロス単独では来ないだろう。もしかしたらネネちゃんが勇者であることも王族には伝わっていないのかもしれない。
仮に王族の命令でネネちゃんが大々的に奪いに来たら俺はこの国を捨てるだろう。
クロスなりに考えて、みんなを守ろうとしているんだろう。だけど偉いなんて俺は1ミリも思わない。
クロスの考えは、人頼りである。
クロスの考えは、誰かを犠牲に成り立っている。
しかも俺の大切な娘を犠牲にしよとしているのだ。
どこの親が娘さんを死なせていいですか? と問われて「はい」って言うんだよ。
バカクロス。
お前は本当にバカだ。
剣を向けられて悲しかったけど、やっぱりムカつく。
考えが人頼りだし、人の娘を死なせようとしているし、国のために犠牲にしようとしている娘の親に向かって、なんで俺の気持ちわかんねぇーんだよ、と駄々をこねている。バカすぎる。
クロスはかつての師匠に剣を振り下ろした。
振り下ろされた剣を、俺は人差し指と親指で掴んだ。
「なっ」とクロスが驚愕している。
「お前は修行をサボっていただろう」
と俺が言う。
クロスは両手で剣を抜こうとしていた。
だけど俺は2本の指を離してあげない。
「2年前からレベルが変わってないのはお前だけだぞ」
と俺が言う。
クロスのレベルは2年前から47だった。
「俺ぐらい強くなるとレベルなんて変わんねぇーんだよ」
「アイリとマミはレベル100を超えてるぞ。ステータスも全てお前の倍以上はある」
と俺が言う。
アイリとマミは2人で強敵を倒して来たのだ。
今は魔王軍が活発になっている。
実際にこの国を守っているのは2人だった。1年前までは強敵を3人で討伐していた。2人で十分だと気づいてから、俺が強敵の討伐に向かうのは2人でも敵わない時だけである。
だから国は俺達に何も言わない。言えないのだ。クロスみたいに娘を奪いに来たら、それこそ俺達が国から出て行き、本当に国力が下がる。
「アイツ等と違って、俺には国のために考えることがいっぱいあるんだよ」とクロスが言う。
「その結果、俺の娘を死なせることになったのか?」と俺が尋ねた。
「うるせぇー。もうお前は師匠じゃねぇ。俺だって、頑張ってるんだよ」
「もっと考えて行動しろクロス」
と俺が言う。
歯を剥き出してクロスが俺に手のひらを見せた。
彼が唯一持っている攻撃魔法を出すつもりだろう。
「ファイガ」とクロスが叫んだ。
彼はファイガの攻撃魔法だけは持っていた。
俺は虫を叩き落とすみたいに、片手でファイガを弾いた。
攻撃魔法が広場の噴水に当たり、壊れた。
俺にはクロスの攻撃は効かない。
不意打ちなら多少はダメージを負うかもしれないけど、俺達にはレベル差があった。
俺のレベルは327だった。
勇者より伸び率は低い。だけどステータスだけなら勇者にすら引けを取らないレベルになっている。
毎日、毎日、5人以上の経験値を貰っているのだ。ステータスアップを販売していたのは自身のステータスを上げるためでもあった。
オークキング戦で自分が弱い事を痛感した。だから家族を守るために俺は強くなっていた。
「ファイガ」とクロスが次の攻撃魔法を撃とうとした。
これ以上、被害が出ないように、俺はクロスのお腹を殴った。
一撃で気絶した。
「バカクロス」と俺は呟く。
弟子に手を出したのは初めてだった。
オークキング戦の時にクロスを抱きしめて死ぬのを覚悟した事を思い出す。
口の中が酸っぱくなる。
クロスがこんなにバカで、間違った正義に突き進んでしまうのは自分の責任のような気がした。
クロスの近くにいた大人は俺なのだ。
彼に伝えることや、叱り方や、注意の仕方を間違えたのだ。
大人だって、いっぱい間違える。
いっぱい後悔している。
アイリやマミに刺さる言葉が、彼には意味を持たなかった。
もっと、こんな風に言ってあげればよかったとか色々と思う。
でも……もう無理である。
俺がクロスに何も言いたくない。
クロスのために何かをしてあげることも、何かを言ってあげることも無理である。
「行こうか?」と俺はネネちゃんに言う。
「抱っこ」とネネちゃんが怯えた顔で言った。
俺はネネちゃんを抱っこする。
「怖かった」と娘が言った。
俺はネネちゃんの背中を撫でてあげる。
そして倒れたクロスに背を向けて、家に戻った。
『クロスが庇護下から外れました』
と女性のような、機械音のような声が脳内に聞こえた。
128
あなたにおすすめの小説
没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活
アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。
妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。
貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。
しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。
小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる