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2章 赤ちゃんと孤児とオークキング

第20話 中本ネネのステータス画面を確認できるようになりました

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 柔らかくてミルク臭い小さい生き物を俺は抱っこしていた。
 俺はネネちゃんの事を愛している。
 たまらなく、愛している。
 生きて帰って来れて、ネネちゃんに会えただけでも俺は幸運だった。

『パッシブスキルに庇護下が追加されました』

『中本ネネが庇護下に入りました』

 脳内で声が聞こえた。
 女の人のような、機械音のような声である。

『中本ネネのステータス画面を確認できるようになりました』
 
 庇護下ってなんだよ?
 ネネちゃんのステータス画面の確認?

 とりあえず『庇護下』を確認するために、自分のステータス画面を開いた。念じる事で目の前にステータス画面を開く事ができる。
 パッシブスキルの欄に『庇護下』というスキルが追加されていた。
 なにかの拍子にパッシブスキルが増えたらしい。なにかの条件を満たしたのか? どうしてパッシブスキルが増えたのかは謎だった。

 ステータス画面の庇護下という文字を触ってみる。すると詳細が出てきた。

『庇護下……庇護下のステータス画面を確認できる。中本淳が庇護下にブーストをかけた場合、その効果は2倍になる』

 ブーストって(パパは戦士)のパッシブスキルの『愛情』や『サポーター』ってことか?

 ネネちゃんのステータスが見たい、と念じる事でステータス画面が開いた。
 
『中本ネネ 0歳』

 相変わらず、確認できるステータスは簡素である。

 ある文字に視線がいった。
 俺の欄では『称号』となっている文字が、ネネちゃんの場合は『職業』となっていた。

『職業 勇者』

 勇者?

 勇者の文字を呆然と俺は見つめた。
 誰かのために犠牲になる職業。
 成長する兵器。
 ネネちゃんにはなってほしくない職業だった。
 誰かのためじゃなく、自分の人生を歩んでほしい。

 ステータス画面には、他に何も表示されていなかった。
 攻撃力も守備力も魔力量も書かれていない。そこに何かが書かれるはずの空白があるだけだった。
 俺は空白の画面を触った。

『この項目はレベルが達していないため、表示されません』

「淳君、淳君」
 と美子さんが俺を呼んでいた。
「大丈夫? さっきからずっと呼んでるんだけど」
「あっ、ごめん」
 と俺は謝る。
「ご飯食べる?」
 と妻が尋ねた。
「先に聞いてほしい事があるんだ」
 と俺は言った。

 今日の出来事について俺は美子さんに話した。オークが大量発生していること、ステータス画面が発現できるようになったこと、子どもを助けたこと、庇護下というスキルでネネちゃんのステータス画面も見れるようになったこと、ネネちゃんが勇者であること。

 彼女は静かに俺の話を聞いていた。
「淳君はどうしたいの?」と全てを聞き終わった後に美子さんが尋ねた。
「……ネネちゃんを勇者にしたくない」と俺は言った。
「どうして勇者にしたくないの?」
 わかってるくせに美子さんが尋ねる。
「殺されるかもしれない魔王を倒しに行くんだよ」と俺は言った。
「殺されるのが嫌なら、殺されないように教育したらいいじゃない」と彼女が言った。
「魔王を倒せると思ってるの?」
 と俺は尋ねた。
 彼女は首を横に振った。
「倒せない敵だとわかったら逃げれるように育てたらいいの」と彼女が言った。
「ネネちゃんがどんな選択をするかはわからないけど、子どもの人生は子どものモノなのよ。彼女がどんな人生を歩んでも幸せになるように教育すればいいの」

 俺は美子さんの発言に感心する。
「やっぱり学校の先生だね。美子さんは凄いな」と俺は言った。
 美子さんは異世界に来る前は小学校の先生だった。
「そんな事ないわよ。ご飯の用意するわね」と美子さんは言って、キッチンに行く。

 俺はネネちゃんを抱っこして、美子さんに付いて行く。
 ネネちゃんは俺の腕の中で眠っていた。
「明日、森に行くから」と俺は言う。
 美子さんが驚きながら俺を振り返った。
「でもオークが大量発生してるんじゃないの?」
「だから行くんだ。明日行かないと2度と俺は森に行けない」
 と俺が言う。

 森に行けない、ということは冒険者を辞めなくてはいけない。本当は嫌いな仕事だし、やりたくない仕事だけど、職を失うということは家族が明日のご飯を食べれなくなるということだった。

「大丈夫なの?」
 と美子さんが不安そうに尋ねた。
「必ず家に帰って来るけど、もし俺が帰って来なかったら」
「帰って来なかったら、の話はやめて」
「オークキングが街に来るかもしれないんだ。その時は、あの老夫婦を頼ってほしい」と俺が言う。

 彼女は黙って料理を作った。
 明日には『魔物の場所』に行かないといけない。
 あの恐怖がこびりついた森に入らなくては行けなかった。
 俺は森に入って大丈夫なんだ、と認識しないといけなかった。
 
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