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少女ボスに敗北した際、勇者の剣は「これはわしの戦利品。いわばお主のドロップアイテムよ!」とよく分からん理由で奪われてしまったらしい。
何だか深い意味はなさそうだから、事情を話せば返してくれるんじゃないだろうか。
「かもしれないが、えらく気に入っていたからな。遊び半分で面白がって『では取り返してみせよ』と言い出す可能性が高い。多分そうなる」
「そうですかね…?」
そういえば以前、少女ボスがラスタさんの剣について「あれは見事な剣だ」と話してたのを思い出した。その後「どこにやったか忘れたが」とか言ってなかったか?
俺は何とも腑に落ちなかったが、ラスタさんは完全に一戦の構えだ。少女ボスと戦えば無傷では済まないから、代わりに湖へ返してきて欲しい、という。
「湖のある森には魔物が出る。ベラトリア程ではないが、閉ざされた危険な場所だ。無理にとは言わないが…もし引き受けてくれるなら、俺の持ち物を可能な限り譲ろう」
太っ腹や。妙に装備品やドロップアイテムをくれようとしたり、レベル上げにかなり協力的だったのは、そういう事だったんだ。
いわゆる、ウィンウィンってやつだ。親身になってくれた事に変わりはないし、俺はレベルが上がって地上へ行く手段を得られた。
引き受ければ、お礼になるんじゃないか。
「そんな神聖そうな場所、俺みたいな一般人が入っても大丈夫なんですか?」
「ああ。立ち入ったからといって、咎められるような所じゃない」
ただ、さっきも言ったように魔物と出くわすのは覚悟がいる。ジズみたいなとんでも怪物はいないらしいので、ステルスモードは使えそうだ。
「そういうことなら…やってみます」
「いいのか」
「ラスタさんは恩人ですし、色々貰えるのは助かります。俺、文無しなんで」
「ありがとう……ありがとう、シマヤ。勿論、地上で住む場所が見つかって、落ち着いて暮らせるようになってからでいいから」
「いいんですか?…1、2年かかるかも」
「全く構わない」
わー、やった。路銀ゲットだぜ。
何だか安請け合いした気もするが、全然悪い話では無い。落ち着いてからでいい、の一言はありがたいね。そしてお金がとてもすごくありがたいネ!
「あとは、何とかあいつを宥めよう…」
やはり戦う気なのか。
「対話もなく襲いかかるような品のない真似は嫌だ」なんて言っていた少女ボスが、本当に勇者の剣返却を渋って戦ったりするのか?嫌がらせはしてきそうだが…。
実際どうなのかは、この後すぐに判明した。
ーーー
ラスタさん宅の、通りを挟んだ向かい側。ヨーロピアンな街並みに全く似つかわしくない、現代の建築物がデデンと悪目立ちしている。
俺が昼飯を買うのによく使っていたコンビニが、そこにあった。
「いらっしゃいませ!何だ、遅い戻りではないか」
見慣れた自動ドアが開くと、これまた聞き慣れた入店音が鳴るのに驚く。昨日まで入店音なんてなかったのに。
どうやら、遠慮なくズカズカ記憶を覗かれているらしい。嫌だな。
「……俺の野菜が」
後ろでボソリとラスタさんが呟く。入って対面の、現実だとおにぎりや弁当が入れられてるケースに、ぎっしりと芋や葉野菜、薬草的なものが陳列されていた。
「どうじゃ、綺麗に並んでおろう。使う時は手前から取れ。奥から取ったら許さんぞ」
「勝手にマジックバックから出すなよ。悪くなったら勿体無いだろう」
「仕方なかろう、他に食い物がないのだから。何しろこんびには、商品の半分以上が食い物だ。のう?」
レジカウンターの上に座ってふんぞり返る少女ボスが、俺に同意を求める。俺は「あ、そうですね」と短く頷いた。
少女ボスはどうやらラスタさんの持ち物で、できる限りコンビニ内装を再現する気のようだ。雑誌コーナーには数冊の本と、大量のスクロールが並べてある。飲み物のショーケースには瓶詰めの物(ポーション類や謎の粉末、どう見ても目玉にしか見えないモノまである)が陳列され、それっぽく見せようという努力の跡が伺える。
だが殆どの棚がどうしてもガラガラになる様で、少女ボスは不満気だ。
「さ、早う今日の成果をここに出すのだ。わしが陳列してやろう」
「その前に……ああ、ちょうど良かった」
スタスタと彼はコンビニ店員の入るカウンターへ侵入し、贈答品やお歳暮なんかがディスプレイされる棚の前に立った。
そこにあるのは勿論お歳暮ではなく、美しい細工の鞘に収まった一振りの剣だ。
「おい、コラお客様よ。無断でこの中に……」
「これを返してもらうぞ」
ぷりぷりと怒って注意していた少女ボスが、ラスタさんのその一言でピタリと口を閉じた。
そのまま、しんと静かな間があく。
気のせいか背筋がひんやりとしてきて、思わず身体が硬直した。
「ほぅ…これは驚いた。そんな物に今更、何の用がある?勇者のなりそこないよ」
少女ボスは口元にうっすら笑みを浮かべているが、声が聞いたことないほど低い。いつもの調子とは明らかに違う雰囲気に、俺はすっかり気圧されてしまった。突然どうしたってんだ。
「これはお前のものじゃない。あるべき所に、返させてもらう」
「つまりは、ここを出て行くと……わしとやる気か?」
ラスタさんがそれに何か返そうと口を開いた途端、パッと音もなくその姿が消えてしまった。
驚きと恐怖で声も出ない俺を一瞥して、少女ボスはすいと宙に浮かんだ。
「命が惜しければ、どこぞにすっ込んでおれ」
ゾッとするほど冷たい声でそう言うと、彼女も同じ様に一瞬で消えていった。
何だか深い意味はなさそうだから、事情を話せば返してくれるんじゃないだろうか。
「かもしれないが、えらく気に入っていたからな。遊び半分で面白がって『では取り返してみせよ』と言い出す可能性が高い。多分そうなる」
「そうですかね…?」
そういえば以前、少女ボスがラスタさんの剣について「あれは見事な剣だ」と話してたのを思い出した。その後「どこにやったか忘れたが」とか言ってなかったか?
俺は何とも腑に落ちなかったが、ラスタさんは完全に一戦の構えだ。少女ボスと戦えば無傷では済まないから、代わりに湖へ返してきて欲しい、という。
「湖のある森には魔物が出る。ベラトリア程ではないが、閉ざされた危険な場所だ。無理にとは言わないが…もし引き受けてくれるなら、俺の持ち物を可能な限り譲ろう」
太っ腹や。妙に装備品やドロップアイテムをくれようとしたり、レベル上げにかなり協力的だったのは、そういう事だったんだ。
いわゆる、ウィンウィンってやつだ。親身になってくれた事に変わりはないし、俺はレベルが上がって地上へ行く手段を得られた。
引き受ければ、お礼になるんじゃないか。
「そんな神聖そうな場所、俺みたいな一般人が入っても大丈夫なんですか?」
「ああ。立ち入ったからといって、咎められるような所じゃない」
ただ、さっきも言ったように魔物と出くわすのは覚悟がいる。ジズみたいなとんでも怪物はいないらしいので、ステルスモードは使えそうだ。
「そういうことなら…やってみます」
「いいのか」
「ラスタさんは恩人ですし、色々貰えるのは助かります。俺、文無しなんで」
「ありがとう……ありがとう、シマヤ。勿論、地上で住む場所が見つかって、落ち着いて暮らせるようになってからでいいから」
「いいんですか?…1、2年かかるかも」
「全く構わない」
わー、やった。路銀ゲットだぜ。
何だか安請け合いした気もするが、全然悪い話では無い。落ち着いてからでいい、の一言はありがたいね。そしてお金がとてもすごくありがたいネ!
「あとは、何とかあいつを宥めよう…」
やはり戦う気なのか。
「対話もなく襲いかかるような品のない真似は嫌だ」なんて言っていた少女ボスが、本当に勇者の剣返却を渋って戦ったりするのか?嫌がらせはしてきそうだが…。
実際どうなのかは、この後すぐに判明した。
ーーー
ラスタさん宅の、通りを挟んだ向かい側。ヨーロピアンな街並みに全く似つかわしくない、現代の建築物がデデンと悪目立ちしている。
俺が昼飯を買うのによく使っていたコンビニが、そこにあった。
「いらっしゃいませ!何だ、遅い戻りではないか」
見慣れた自動ドアが開くと、これまた聞き慣れた入店音が鳴るのに驚く。昨日まで入店音なんてなかったのに。
どうやら、遠慮なくズカズカ記憶を覗かれているらしい。嫌だな。
「……俺の野菜が」
後ろでボソリとラスタさんが呟く。入って対面の、現実だとおにぎりや弁当が入れられてるケースに、ぎっしりと芋や葉野菜、薬草的なものが陳列されていた。
「どうじゃ、綺麗に並んでおろう。使う時は手前から取れ。奥から取ったら許さんぞ」
「勝手にマジックバックから出すなよ。悪くなったら勿体無いだろう」
「仕方なかろう、他に食い物がないのだから。何しろこんびには、商品の半分以上が食い物だ。のう?」
レジカウンターの上に座ってふんぞり返る少女ボスが、俺に同意を求める。俺は「あ、そうですね」と短く頷いた。
少女ボスはどうやらラスタさんの持ち物で、できる限りコンビニ内装を再現する気のようだ。雑誌コーナーには数冊の本と、大量のスクロールが並べてある。飲み物のショーケースには瓶詰めの物(ポーション類や謎の粉末、どう見ても目玉にしか見えないモノまである)が陳列され、それっぽく見せようという努力の跡が伺える。
だが殆どの棚がどうしてもガラガラになる様で、少女ボスは不満気だ。
「さ、早う今日の成果をここに出すのだ。わしが陳列してやろう」
「その前に……ああ、ちょうど良かった」
スタスタと彼はコンビニ店員の入るカウンターへ侵入し、贈答品やお歳暮なんかがディスプレイされる棚の前に立った。
そこにあるのは勿論お歳暮ではなく、美しい細工の鞘に収まった一振りの剣だ。
「おい、コラお客様よ。無断でこの中に……」
「これを返してもらうぞ」
ぷりぷりと怒って注意していた少女ボスが、ラスタさんのその一言でピタリと口を閉じた。
そのまま、しんと静かな間があく。
気のせいか背筋がひんやりとしてきて、思わず身体が硬直した。
「ほぅ…これは驚いた。そんな物に今更、何の用がある?勇者のなりそこないよ」
少女ボスは口元にうっすら笑みを浮かべているが、声が聞いたことないほど低い。いつもの調子とは明らかに違う雰囲気に、俺はすっかり気圧されてしまった。突然どうしたってんだ。
「これはお前のものじゃない。あるべき所に、返させてもらう」
「つまりは、ここを出て行くと……わしとやる気か?」
ラスタさんがそれに何か返そうと口を開いた途端、パッと音もなくその姿が消えてしまった。
驚きと恐怖で声も出ない俺を一瞥して、少女ボスはすいと宙に浮かんだ。
「命が惜しければ、どこぞにすっ込んでおれ」
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