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13話 逃亡者
しおりを挟む翌朝。少し遅く起きた私は、残り物のパンをかじりながら珈琲を淹れる。
今日の仕事は午後からなので、腐れ女子の醜態を晒してしまった事を反省し、出勤の前にこれからの事を考えようと思う。
異世界へ来てまだそう月日は経っていないのに、あれやこれやの不思議体験は数多くあった。
マンモを倒し、冒険者になり、樵の仕事、巡回警備のボランティア、ギルドのイベント、罠にハマった牢屋体験、王宮見学ツアー、兵士との練習試合、そして、魔獣の討伐。
これでダンジョン攻略とか言ったら、男の冒険活劇の何物でもない。確かに、男を想定して異世界へ飛ばされたんだろう。でも実際のところ、女性には変わりないので、もうちょっとこう緩っとね、異世界を楽しみながら歳を重ねたいのだ。
当初から苦労を強いられたパンツ不足。何が楽しくて毎日洗濯せにゃならんのかと、吐いて出るのは愚痴ばかり。衣類大国にも関わらず、衣類不足とか言語道断。
今回の魔獣討伐で改善はされるだろうが、見込みは見込みであって、すぐさま衣類が増えるとは考え難い。これはもう国外へ探しに出た方が得策と考えるのがセオリーでしょ。
マンモ退治でお金も冒険者カードもある。ならば仕事も辞めてパンツ充実生活を目指す旅に出よう。
題して、"パンツ充実無双旅"決まりだな。
善は急げ、何か事が起きる前に、お頭のカイルに仕事のことを話してみよう。
そう言えば、今日の待ち合わせ場所はライラの店だった。ついでに昼食も取れるし一石二鳥だ。
戸締りをして、少し早いが王都へ向かった。
街に着くと、相変わらず買い物客で賑わっている。しかし、いつもとは違う雰囲気が漂う。
彼方此方で人々が肩を寄せ合い、噂話だろうか、ヒソヒソと難しい顔でお喋りを交わす。
事なかれ主義の私は、耳を傾けることなくライラの店へ直行した。
昼時で店の中も客で賑わっているだろうと、ドアを開けるて見ると、客はまばらで静かだ。
中へ入ると、カイルとライラがカウンターに座っていたので、近寄って声を掛ける。
「こんにちはライラ。カイルが一番乗りか。なあ、今日はお客さんが少ない様だけど……」
「あら紅ちゃん。それどころじゃないわよ。お客も街の皆んなもショックで塞ぎ込んでるのよ。どうなっちゃうのかしらねぇ。紅ちゃんはどう思う?」
どうと言われでも、何の話かちっとも分からない。街の人達の噂話と関係があるのだろうか。
「何かあったの? 街の様子がいつもと違うのは感じたけど。塞ぎ込むとか、よっぽどの事だよね?」
「あら、知らないの? 王女様が隣国へ嫁がれる事になったのよ。皆んな団長さんとの結婚を楽しみにしてたのにね。さっきアルが来て話してたわ」
アルかあ。あいつも暇人だなあ。だが王女の結婚とは驚きだ。でもそうなるとライはどうなるのだろう。婚約破棄ではないのだから、このまま団長を続けられると思うんだけど。
それにしても随分と急な嫁入りだ。
「ねえ、なんで王女様は隣国へ嫁ぐことを承諾したんだ? 団長さんと何かあったとか?」
「ああ、それはなあ、元々は隣国の王子と婚約していたんだが、こっちの大将がふらっと居なくなっちまってな、仕方なく王女が後を継ぐことになって、団長さんに婚約者と言う白羽の矢が立ったんだよ」
そういう経緯をちゃんと教えろ。無駄な筋書きを想像したではないか。馬鹿ライ。
「えっ、大将ってこの国の王子? じゃなに、王女が嫁ぐってことは王子が戻って来たってこと?」
「そういうことだ。団長さんもホッとしてんじゃないのかなあ。例え相手が王女であっても、さほど好いてもいない女性と結婚なんぞしたいと思わないさ。儂なら御免だね」
流石は私の救世主カイル様、よく心情を見抜いていらっしゃる。
「そう言われると、王女様の横で笑ってる団長さん見たことないわねえ。じゃあさ、団長さんはずっと我慢してたのね。なんだか可哀想……」
ライラが悲しそうな面持ちで話す。王宮の裏事情とでも言うべきか。
「だとすると、王女様は政略結婚になるとか?」
「いや、王女様と隣国の王子は相思相愛だったんだよ。だからきっと、王女様は喜んでいると思うぜ」
そういう事か。ならある意味、王女も被害者側なんだろう。お人形とか言って悪かったかな。
とちらにせよ、ライも王女も救われたわけだ。
それにしても、この国の王子はなぜ居なくなってしまったんだろう。大体の察しは付くが、でもさ、責任逃れはちょっとねえ。一応は次期王様なんだし、被害者出しちゃってるし、相当な悪よのう。
「カイルはさ、逃げた王子のこと知ってるのか?」
「おう、知ってるぜ。団長さんと寸分違わぬ剣術の使い手でなあ、良い男なんだよ」
ほうほう、悪人ではなさそうだ。
「ちょっとばかし野生児みてぇなところがあってよ、王族にはいないタイプだな。細長い剣を縦横無尽に疾らせて、そりゃあ見事だぞ」
細長い剣? あれ、どっかで……。
「背の高い、団長さんとはまた違う、黒髪に凛々しい顔のイケメンって奴さ」
黒髪……もしや!
「ええっと、王子は何で逃げていたのかな?」
「あれは確か、1日に何十件という見合いが嫌になってだと聞いたがな。平民にも冒険者にも親切で優しいとくりゃ、女どもが放っておくわけがない。それにイケメンとなりゃ尚更だ」
どうしよう、もの凄く心当たりのある人物なんだけども。ならさ、どうして捕まったのかな。なんかそれも心当たりがあるですけど……。
「そのイケメン王子は何で捕まったの、かな?」
「ああ、何だったかなあ……」
そこへライラが呆れた顔でカイルに話す。
「もう、さっきアルが息巻いてたでしょ。団長さんが取っ捕まえたって。もう忘れちゃったの?」
ああ、最悪。恩を仇で返してしまったらしい。おそらく、王子とはレオのことだろう。
ならライとレオも幼馴染で……もう今更そんなことはどうでもいい。
だって知らなかったし、関係ないし、もうどうにもならないし。でも一応その勇者の名前は聞こう。
「へ、へえ~、団長さんがあ。で、王子の名は?」
「レオエルド・アラウザル王子だ。皆んなレオ様と呼んでるなあ。まあ、紅は知らんだろうけど」
やっぱり。実は知っているのだお頭。私は相当ヤバい立場にいるみたいなのだよ。
なにね、シャツが原因でふたりを会わせちまったらしいんで。でですね、ライには絶対怒られそうな予感と、レオには呪いを掛けられる可能性がありそうなのだよ。なので早急にとんずらこきます。
私はどさくさに紛れて、考えていた事をさっそく申し出た。
「あの、カイル。突然なんだけど、実は、仕事を辞めて旅に出たいんだ。もの凄くお世話になったカイルには申し訳ないと思ってる。でも、このままで終わりたくないんだよ。許して欲しい」
私の突然の申し出に、ふたりは唖然としている。私にとってカイルとライラは父親であり、姉のような存在だ。随分と支えられて来た。自分勝手なのは承知している。でも旅の夢は捨てられない。
動機は不純なんで答えられませんが。
「アハハハ! 許すも何も、お前の人生だ。好きにすれば良いさ。紅はこんな小っぽけな街で収まっちゃいけない器なんだよ。こっちこそ仕事に託けて縛っちまって悪かったな。でも必ず帰って来いよ」
カイルは大笑いと共に、呆気なく私私を解放してくれた。器が大きいのはカイルの方だ。こんな私に帰る場所を開けて置いてくれる。有難い……。
「カイル、ありがとう! 必ず帰ってくる。その時はまた雇って下さい。約束だよ」
「ああ、約束だ。気を付けてな。仲間達には儂から言っとく。その様子だと直ぐに立つんだろ? こっちの事は気にせず、早く帰って支度しろ」
「うん、そうする。ライラも元気で。また必ず食べに来るよ。下着、助かりました」
「ハァ、もうお父さん物分かり良過ぎ。ま、だから私もこうやってお店を出せてるんだけどね。紅ちゃんと離れるのは悲しいけど、大人しく待ってるわ。男には十分気を付けるのよ。襲われたら張り倒してやんなさい。じゃ、いってらっしゃい」
「ありがとうライラ。じゃあ、行ってきます。皆さんによろしく!」
期待していた食事にあり付けないまま、名残惜しくも店を後にした。
その後、ダグの店で旅に必要な物を揃えようとも思ったが、ライ達に見つかっては元も子もない。
石鹸の話も聞きたかったが、今となっては諦めるしかない。正体がバレていないことを祈ろう。
私は犯罪者ではない……逃亡者なのだ。
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※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
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