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【番外編&おまけ】
こぼれ話その1【前編】/ 公爵令息は妹の従者にずっと連戦連敗である
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【前書き】
前編の時間軸は、二人が小さい頃です。
===================
「カレン! お前従者のくせに生意気だぞ!」
「違うもん! 私を従者扱いして良いんはディアナお嬢様だけやもん! ヘリオス様なんて大嫌い! あっちいって!」
「なにっ……!?」
カレンの言葉にカッとなるヘリオス少年。普段は子供らしくない冷静沈着な態度で居るのですが、思わず拳をぎゅっと握ります。
「やー!!」
「うっ……」
そこにヘリオスへどすんとぶつかる何か。ぶつかった拍子にヘリオスの呻き声が漏れ、何かの銀糸のような髪の毛と身につけたドレスのスカートがふわりと広がりました。
「嫌や! ケンカせんといて!」
ヘリオスがその何かを見下ろすと、磁器人形のように可愛らしい妹が赤いつり目に涙を溜め、口をへの字にしてこちらを見上げています。
「ディアナ……」
「お嬢様!」
「お兄ちゃんも、カレンも、仲良うして……ううっ」
そこまで言った妹の口元がわななき、遂に涙がポロリとこぼれ落ちました。
「ごっ……誤解だよ! 仲悪くないよな? カレン!」
「そうです! ヘリオス様と私はめっちゃ仲良しですよー! ほらねっ」
慌てたふたりはディアナの前で手を繋いでぶんぶんと振って見せます。
涙に濡れた目をぱちぱちさせて訊くディアナ。
「ほんま……?」
「本当だ!」
「ホンマにホンマです!」
「……良かった~。どないしよと思ったぁ……」
「「!」」
赤いほっぺたを緩ませ、涙声でふにゃりと笑顔になるディアナ。それを見たヘリオスは複雑な気持ちになります。
(クソっ、めっちゃ可愛いな。コレじゃ八つ当たりもできひん……って、おい、カレン?!)
ディアナの笑顔に心を撃ち抜かれたカレンはヘリオスの手を振りほどいて駆け出し、がばりとディアナを抱きしめます。
「天使……! うちのお嬢は世界一優しくて美しくて可愛い!! 天使過ぎるっ……!」
「カレン……なんで泣いてんの? どっか痛いん?」
「心臓ですー! キュンキュンしてますー!」
「?……だいじょうぶ? とんとんしよか?」
「うああああ! 可愛いっ!!」
涙が引っ込み、不思議そうな顔をしたディアナをそのまま抱き上げるカレン。この歳で既に厳しい訓練を重ねているためか、10センチも身長差の無いディアナを軽々と持ち上げてみせます。
「さっ、あっちで涙を拭いて、ちーんして、お顔をキレイキレイしましょうねっ」
「うっ、うん……?」
「あっ、カレン……」
呼び止めようとするヘリオスの声が聞こえないのか、それともわざとなのか、カレンはディアナを抱えたままさっさと遠くへ行ってしまいました。
「クソっ……あいつ腹立つ…………」
そう言いながら、先程まで繋いでいた右手をじっと見つめるヘリオスの後ろから、世話係の侍女ドロランダがそっと現れます。
「坊、手がどうかされました?」
「わあっ!?……いっ、いや何でもない! それから"坊"はやめろ!」
「失礼致しました"ヘリオス様"。……おや、カレンは?」
少しだけムッとして返答するヘリオス。
「またディアナの世話を焼きにいったよ」
「あらあら、まあ。カレンはお嬢様を溺愛してますからねぇ」
「でもシノビならさ、僕に従うべきだろ!? 僕は将来父上の跡を継いで公爵になるんだから。それなのにカレンは僕に言い返すばっかりで生意気なんだよ……」
ドロランダは目をぱちくりさせました。
「ヘリオス様、カレンに何を命じたんですか?」
「え?……いつもディアナの為に働いてるか、訓練してるかのどっちかだろう? だから『たまには息抜きをしろ』って言ったんだよ」
「ふふっ。そんなお優しい事を言ったのに、何故あんな言い合いに発展するんでしょうね?」
「聞いてたのか!? じゃあわざわざ訊くなよ!」
ドロランダは目だけでニヤッとしながらも優しい口調で返します。
「いいえ。最初は聞こえませんでしたよ。ヘリオス様とカレンが勝手に大声で言い合いをし始めたので、私のいる所まで声が届いただけです。……でも、ヘリオス様? 嘘は良くないですね」
「何が?!嘘なんて……」
「そういう時は素直さが肝心ですよ。『息抜きをしろ』ではなく、『たまには僕とも遊んでくれ』と言わなくては」
「は?…………はぁ!?!?」
ところで、ヘリオスは誰もが認める美少年です。
先程カレンはディアナを天使と讃えましたが、その兄の外見こそ多くの貴族に『天使のよう』と例えられ誉めそやされ、軽く愛想笑いをすれば皆がつられて笑顔になり、あちこちから誘いを受け、時には絵のモデルを求められる程の人気ぶりです。
太陽を連想させる美しい黄金の髪。青い目はグレーが入りやや曇天気味ではあるものの、何故か見るものが引き込まれる空を思わせます。
恐ろしいほど整った顔立ちは愛らしさと美しさに理知的な面も混じっており、その白い肌はきめ細かく艶があり白磁のようです。
そして、その白磁のような美しいヘリオスの頬が今は少し朱に染まっています。
「ドロランダ!……僕を馬鹿にする気か!?」
「まさか! ヘリオス様は私の大事なお坊っちゃまですからね。……そうそう。僭越ながらこの私めが大事なことをふたつ申し上げたいのですが宜しいでしょうか?」
「なんだ!?」
「ひとつ目は、ヘリオス様がシノビを将来使うのならシノビについての知識と理解が必要という事です。私達は組織的に動きますが、単独行動を許されている者は主を持つ者が多いのです」
ヘリオスとディアナの世話係、そしてシノビとして主のアキンドー公爵に仕えるドロランダは微笑んで続けます。
「そういったシノビは常に主の為を考えて動きます。主の命令は基本的に絶対服従ですが、その命令が主自身を脅かすものであれば敢えて諫言をする者もいるほどです。カレンは生まれた時からのシノビです。もうあの歳で"主とは何か"を肌で理解しているのです」
「……」
(あれは諫言ではなく反発だった……。僕はまだ、あいつに主だと認めて貰えないと言うことか)
ヘリオスは苦い顔で下唇を噛みました。
ドロランダは自分が匂わせた内容をきちんと理解した様子のヘリオスの聡明さに感心と満足の笑みを浮かべ、話を切り替えます。
「ではふたつ目です。……これは相手がシノビですとか、女性であるか等とは全く関係ないのですが。例えば、これから仲良くしたいと思う人間との距離を縮めるためにはどうしたら良いと思いますか?」
「話すとか、贈り物とか?」
「そうですね。まずは話し合うこと。中でも劇的に効果があるのは"共通の敵が存在すると相手に認識させること"です。敵の敵は味方というでしょう?」
「!!」
「しかしこれは毒を薄めて薬として使うような物で、劇的に効果はありますが長続きしなかったり、デメリットが付いてきたりします。そこでお薦めは"共通の趣味があると相手に認識させること"です」
「しかし、あいつに趣味なんて………あ。」
「ふふふ。趣味とは、何も遊びや特技に限りません。好みや愛でる物も含みますね?」
「……ディアナか」
「そうですよ。ディアナお嬢様に嫉妬したり八つ当たりをしても逆効果です。お嬢様と一緒に三人で楽しく過ごせば状況はきっと変わりますよ?」
「……わかった。……でも! 嫉妬なんかしてないからな!」
ヘリオスはそう言うと、カレンとディアナを探しに世話係の元を去ります。その後ろ姿を見てニィ~と笑うドロランダ。
「うふっ。坊が素直なのって良いわねぇ。坊と仲良くするように是非カレンも誘導しなくっちゃ!」
ヘリオスがディアナの部屋を訪れると、長椅子の端に座るカレンの膝を枕にしてディアナは眠っていました。
「……昼寝か」
小さな声でカレンに言うと、彼女はコクリと頷きながら優しい伏し目でディアナの顔を眺め、髪の毛を撫で、整えています。そのカレンの長い睫からディアナの寝顔に視線を移すヘリオス。
ディアナはすうすうと寝息を立てています。薔薇色のふくよかなほっぺたとカレンよりも更に長い銀の睫が愛らしさをより際立たせているのを見て、ヘリオスは先程のカレンの言葉を思いだし呟きました。
「……天使、か」
カレンが音もなく素早く顔をあげ、ヘリオスの方を見ました。ヘリオスも目を合わせると今まで見たことのない彼女の表情がそこにあります。
目に力を込め口は一文字に引き結んでいるのに、いつもの挑戦的な態度はひとかけらもありません。むしろこちらの意見を強く肯定するような、喜びを爆発させるのを必死で止めているような様子で、小刻みにコクコクと首を縦に振っています。
ヘリオスは思わず口元が緩みました。
「ふっ。お前はそういうが、天使にしてはちょっと目が吊り上がってるし髪も綺麗な銀髪だろ。見た目だけならむしろイタズラ好きな雪か氷の妖精……のほうがぴったりじゃないか?」
「んんんッ。それも捨てがたい……でもお嬢様はイタズラ好きとはちゃいます!」
ヒソヒソと……しかし嬉しそうに眦を下げて言うカレンの様子に、ヘリオスは今までにない手応えを感じて密かに高揚します。元々ディアナの事を可愛いと思っていたのですから少々それに色を付けて言えば良いだけなので、無理をする必要や嘘をつく罪悪感もありません。
「まぁ、見た目のイメージだからな。名前のイメージだとそのまま『月の女神』だが」
「あーそれ、お嬢様の未来確定ですわ。旦那様と奥様の名付けセンス凄すぎません? もう天才かと」
(……それ多分、僕の名前と対になってるだけなんだけどなぁ。そんな事も気づかないくらい僕は眼中に無いとか、ここら辺の貴族全員を探してもカレン以外には居なさそうだな……)
「…………ふぇ?」
興奮を抑えきれないカレンがほんの少し動いてしまったためか、ディアナがパチリと目を開けます。ヘリオスはディアナに優しい眼差しを向けて言いました。
「お目覚めかい、妖精さん? 僕の世界で一番可愛い妹」
前編の時間軸は、二人が小さい頃です。
===================
「カレン! お前従者のくせに生意気だぞ!」
「違うもん! 私を従者扱いして良いんはディアナお嬢様だけやもん! ヘリオス様なんて大嫌い! あっちいって!」
「なにっ……!?」
カレンの言葉にカッとなるヘリオス少年。普段は子供らしくない冷静沈着な態度で居るのですが、思わず拳をぎゅっと握ります。
「やー!!」
「うっ……」
そこにヘリオスへどすんとぶつかる何か。ぶつかった拍子にヘリオスの呻き声が漏れ、何かの銀糸のような髪の毛と身につけたドレスのスカートがふわりと広がりました。
「嫌や! ケンカせんといて!」
ヘリオスがその何かを見下ろすと、磁器人形のように可愛らしい妹が赤いつり目に涙を溜め、口をへの字にしてこちらを見上げています。
「ディアナ……」
「お嬢様!」
「お兄ちゃんも、カレンも、仲良うして……ううっ」
そこまで言った妹の口元がわななき、遂に涙がポロリとこぼれ落ちました。
「ごっ……誤解だよ! 仲悪くないよな? カレン!」
「そうです! ヘリオス様と私はめっちゃ仲良しですよー! ほらねっ」
慌てたふたりはディアナの前で手を繋いでぶんぶんと振って見せます。
涙に濡れた目をぱちぱちさせて訊くディアナ。
「ほんま……?」
「本当だ!」
「ホンマにホンマです!」
「……良かった~。どないしよと思ったぁ……」
「「!」」
赤いほっぺたを緩ませ、涙声でふにゃりと笑顔になるディアナ。それを見たヘリオスは複雑な気持ちになります。
(クソっ、めっちゃ可愛いな。コレじゃ八つ当たりもできひん……って、おい、カレン?!)
ディアナの笑顔に心を撃ち抜かれたカレンはヘリオスの手を振りほどいて駆け出し、がばりとディアナを抱きしめます。
「天使……! うちのお嬢は世界一優しくて美しくて可愛い!! 天使過ぎるっ……!」
「カレン……なんで泣いてんの? どっか痛いん?」
「心臓ですー! キュンキュンしてますー!」
「?……だいじょうぶ? とんとんしよか?」
「うああああ! 可愛いっ!!」
涙が引っ込み、不思議そうな顔をしたディアナをそのまま抱き上げるカレン。この歳で既に厳しい訓練を重ねているためか、10センチも身長差の無いディアナを軽々と持ち上げてみせます。
「さっ、あっちで涙を拭いて、ちーんして、お顔をキレイキレイしましょうねっ」
「うっ、うん……?」
「あっ、カレン……」
呼び止めようとするヘリオスの声が聞こえないのか、それともわざとなのか、カレンはディアナを抱えたままさっさと遠くへ行ってしまいました。
「クソっ……あいつ腹立つ…………」
そう言いながら、先程まで繋いでいた右手をじっと見つめるヘリオスの後ろから、世話係の侍女ドロランダがそっと現れます。
「坊、手がどうかされました?」
「わあっ!?……いっ、いや何でもない! それから"坊"はやめろ!」
「失礼致しました"ヘリオス様"。……おや、カレンは?」
少しだけムッとして返答するヘリオス。
「またディアナの世話を焼きにいったよ」
「あらあら、まあ。カレンはお嬢様を溺愛してますからねぇ」
「でもシノビならさ、僕に従うべきだろ!? 僕は将来父上の跡を継いで公爵になるんだから。それなのにカレンは僕に言い返すばっかりで生意気なんだよ……」
ドロランダは目をぱちくりさせました。
「ヘリオス様、カレンに何を命じたんですか?」
「え?……いつもディアナの為に働いてるか、訓練してるかのどっちかだろう? だから『たまには息抜きをしろ』って言ったんだよ」
「ふふっ。そんなお優しい事を言ったのに、何故あんな言い合いに発展するんでしょうね?」
「聞いてたのか!? じゃあわざわざ訊くなよ!」
ドロランダは目だけでニヤッとしながらも優しい口調で返します。
「いいえ。最初は聞こえませんでしたよ。ヘリオス様とカレンが勝手に大声で言い合いをし始めたので、私のいる所まで声が届いただけです。……でも、ヘリオス様? 嘘は良くないですね」
「何が?!嘘なんて……」
「そういう時は素直さが肝心ですよ。『息抜きをしろ』ではなく、『たまには僕とも遊んでくれ』と言わなくては」
「は?…………はぁ!?!?」
ところで、ヘリオスは誰もが認める美少年です。
先程カレンはディアナを天使と讃えましたが、その兄の外見こそ多くの貴族に『天使のよう』と例えられ誉めそやされ、軽く愛想笑いをすれば皆がつられて笑顔になり、あちこちから誘いを受け、時には絵のモデルを求められる程の人気ぶりです。
太陽を連想させる美しい黄金の髪。青い目はグレーが入りやや曇天気味ではあるものの、何故か見るものが引き込まれる空を思わせます。
恐ろしいほど整った顔立ちは愛らしさと美しさに理知的な面も混じっており、その白い肌はきめ細かく艶があり白磁のようです。
そして、その白磁のような美しいヘリオスの頬が今は少し朱に染まっています。
「ドロランダ!……僕を馬鹿にする気か!?」
「まさか! ヘリオス様は私の大事なお坊っちゃまですからね。……そうそう。僭越ながらこの私めが大事なことをふたつ申し上げたいのですが宜しいでしょうか?」
「なんだ!?」
「ひとつ目は、ヘリオス様がシノビを将来使うのならシノビについての知識と理解が必要という事です。私達は組織的に動きますが、単独行動を許されている者は主を持つ者が多いのです」
ヘリオスとディアナの世話係、そしてシノビとして主のアキンドー公爵に仕えるドロランダは微笑んで続けます。
「そういったシノビは常に主の為を考えて動きます。主の命令は基本的に絶対服従ですが、その命令が主自身を脅かすものであれば敢えて諫言をする者もいるほどです。カレンは生まれた時からのシノビです。もうあの歳で"主とは何か"を肌で理解しているのです」
「……」
(あれは諫言ではなく反発だった……。僕はまだ、あいつに主だと認めて貰えないと言うことか)
ヘリオスは苦い顔で下唇を噛みました。
ドロランダは自分が匂わせた内容をきちんと理解した様子のヘリオスの聡明さに感心と満足の笑みを浮かべ、話を切り替えます。
「ではふたつ目です。……これは相手がシノビですとか、女性であるか等とは全く関係ないのですが。例えば、これから仲良くしたいと思う人間との距離を縮めるためにはどうしたら良いと思いますか?」
「話すとか、贈り物とか?」
「そうですね。まずは話し合うこと。中でも劇的に効果があるのは"共通の敵が存在すると相手に認識させること"です。敵の敵は味方というでしょう?」
「!!」
「しかしこれは毒を薄めて薬として使うような物で、劇的に効果はありますが長続きしなかったり、デメリットが付いてきたりします。そこでお薦めは"共通の趣味があると相手に認識させること"です」
「しかし、あいつに趣味なんて………あ。」
「ふふふ。趣味とは、何も遊びや特技に限りません。好みや愛でる物も含みますね?」
「……ディアナか」
「そうですよ。ディアナお嬢様に嫉妬したり八つ当たりをしても逆効果です。お嬢様と一緒に三人で楽しく過ごせば状況はきっと変わりますよ?」
「……わかった。……でも! 嫉妬なんかしてないからな!」
ヘリオスはそう言うと、カレンとディアナを探しに世話係の元を去ります。その後ろ姿を見てニィ~と笑うドロランダ。
「うふっ。坊が素直なのって良いわねぇ。坊と仲良くするように是非カレンも誘導しなくっちゃ!」
ヘリオスがディアナの部屋を訪れると、長椅子の端に座るカレンの膝を枕にしてディアナは眠っていました。
「……昼寝か」
小さな声でカレンに言うと、彼女はコクリと頷きながら優しい伏し目でディアナの顔を眺め、髪の毛を撫で、整えています。そのカレンの長い睫からディアナの寝顔に視線を移すヘリオス。
ディアナはすうすうと寝息を立てています。薔薇色のふくよかなほっぺたとカレンよりも更に長い銀の睫が愛らしさをより際立たせているのを見て、ヘリオスは先程のカレンの言葉を思いだし呟きました。
「……天使、か」
カレンが音もなく素早く顔をあげ、ヘリオスの方を見ました。ヘリオスも目を合わせると今まで見たことのない彼女の表情がそこにあります。
目に力を込め口は一文字に引き結んでいるのに、いつもの挑戦的な態度はひとかけらもありません。むしろこちらの意見を強く肯定するような、喜びを爆発させるのを必死で止めているような様子で、小刻みにコクコクと首を縦に振っています。
ヘリオスは思わず口元が緩みました。
「ふっ。お前はそういうが、天使にしてはちょっと目が吊り上がってるし髪も綺麗な銀髪だろ。見た目だけならむしろイタズラ好きな雪か氷の妖精……のほうがぴったりじゃないか?」
「んんんッ。それも捨てがたい……でもお嬢様はイタズラ好きとはちゃいます!」
ヒソヒソと……しかし嬉しそうに眦を下げて言うカレンの様子に、ヘリオスは今までにない手応えを感じて密かに高揚します。元々ディアナの事を可愛いと思っていたのですから少々それに色を付けて言えば良いだけなので、無理をする必要や嘘をつく罪悪感もありません。
「まぁ、見た目のイメージだからな。名前のイメージだとそのまま『月の女神』だが」
「あーそれ、お嬢様の未来確定ですわ。旦那様と奥様の名付けセンス凄すぎません? もう天才かと」
(……それ多分、僕の名前と対になってるだけなんだけどなぁ。そんな事も気づかないくらい僕は眼中に無いとか、ここら辺の貴族全員を探してもカレン以外には居なさそうだな……)
「…………ふぇ?」
興奮を抑えきれないカレンがほんの少し動いてしまったためか、ディアナがパチリと目を開けます。ヘリオスはディアナに優しい眼差しを向けて言いました。
「お目覚めかい、妖精さん? 僕の世界で一番可愛い妹」
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