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第4章:魔法学園 入学準備編

第102話 『その日、ソフィーと友達になった』

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 とりあえず私は、興奮し続ける彼女たちを落ち着かせる事にした。
 皆大興奮してたからか、私の機嫌の悪さにも気付いてないみたい。あのアリシアが気付かないだなんて、よっぽどのことだわ。

 服の『打ち直し』は、成功してしまった以上やり直しが出来ない。過ぎたことを気にしても仕方がないので、心を落ち着ける為にも、部屋にあったベルを鳴らしてセバスさんを呼ぶ事にした。
 近くには居なかったはずなのに、どこからともなくセバスさんが駆けつけ、扉前でノックをして来た。マップで見るとその機敏な動きにビックリする。音も立てずに超スピードで走って来たわね。しゅごい。

 そんな彼曰く、ソフィー達の着付けがそろそろ終わりそうなんだとか。
 なので私達は、先に玄関口で待たせてもらうことにした。

 で。

 改めて私の格好は、このまま出ていけば皆の反応からしても色んな意味で悪目立ちしそうだった。いや、確実に目立つ。
 今はまだ目立つべきではないし、上から何か羽織ろうかな。

「なりませんお嬢様。いくら汚れないと言っても、それを覆い隠すなんてとんでも無い事です。あまり人目に触れたく無いと言う事ですが、ここからは馬車での移動ですし、王宮内でも人払いをさせます。ですから、隠すのはどうか……」

 と、思った時には懇願されていた。
 アリシアも、今目立つのは得策では無いと理解してくれてるはずなんだけど、それでも伝えてくるという事は貴女にとって譲れないポイントなのね?
 ならここは、私が折れてあげましょうか。複雑な気持ちだけど。

「分かったわ。その代わり、ちゃんと人払いはお願いね?」
「はいっ、ルドルフ様と共謀し、必ずや。この姿のお嬢様を見れば、あの方もご理解くださるでしょう」

 共謀て。
 それにすごい自信ね。私、自分のカワイさには自信があるけど、美しさと言われるとよく分からないのよね。多分他との感性の違いなんだろうけど。

 そして、部屋から出た後はアリシアとイングリットちゃんが率先して、玄関口までの人払いを実行している。本来それを止めるべきはずのセバスさんはと言うと、私の姿に息を飲み、全てを察したかの様な顔をして手伝ってくれた。
 うーん、良いのかな。私がボロ布とまでは言わないけど、何か羽織れば解決する様な気も……。

「なりませんぞ、シラユキ様。そのお姿をお隠しになると言うことは、美の女神に対する冒涜です。シラユキ様は堂々となさって下さい」
「あっ、はい」

 セバスさん、まさかのこっち側の人!? というかさらりと私の思考読まれたし!
 ベテランの従者はそういうスキルを皆持ってるのかしら? それとも私、本当に顔に出やすいの??
 顔をむにむにするけど、柔らかいのとくすぐったい以外に感想は出てこなかった。うーん、いつまでも触っていたいマシュマロほっぺ。むにむに。

 やっぱり今の『白の乙女』は、人を狂わせる魔性の力が働いてるわよね。はぁ、お気に入りの服だったのに……。
 今日以降、有事の時以外では封印安定ね。ただ、アリシアが悲しそうな顔をするだろうから、着ることはないにせよ、どこかに飾っておくくらいは、いいかな。
 私が着ていない状態で服が褒められる分には、嫌じゃ無いし。

 玄関の隅にまで到着し、アリシア、イングリットちゃん、セバスさん達が壁となって私を覆い隠す奇妙な光景が始まった。公爵家に仕える従士さんやメイドさん達の不思議そうな視線に晒され続けること数分。ようやく彼女たちがやってきた。

「……なにしてるの、あなたたち」

 セバスさんの向こうから、訝し気なソフィーの声が聞こえてきた。
 セバスさんって、結構背が高くてガタイも良いから、私の身長だと向こう側がまるで見えないのよね。ぴょんぴょんして向こう側を見たいけど、加減をミスるとこのステータスでは、天井に勢いよく「ゴツン★」しかねないのよね。
 普段意識して飛び跳ねる事がないから、慣れない事をするとギャグ漫画みたいになりかねないわ。

 はっ! 向こうが気になってぴょんぴょんする私、きっとすっごくカワイイんじゃないかしら!?
 ああ! どうして私ったら、それに今まで気付かずに練習してこなかったの……!
 くっ、足腰を使った力加減はそうそう使うことはないと高を括っていたけど、見通しが甘いと言わざるを得ないわっ!! 私のおバカッ!
 ……今度、足腰周りの加減練習をしよう。

「これはお嬢様方。本日もお美しいですな」
「ありがとうセバス。それで? そこにいるのはシラユキよね、何で隠れてるわけ?」

 考え事に耽っていると、ソフィーの声が聞こえてきた。

「好きで隠れてるわけじゃないわ。成り行きでこうなっただけよ」
「?? 何がどうなればそうなるのよ?」

 ホントよね。

「ルドルフ様、大事なお話が」
「何かね、アリシア」

 アリシアが壁役をやめて、公爵様の元へと向かい内緒話を始めた。
 公爵様とアリシアがコショコショと何か話しているのを、セバスさんを盾に覗き見る。

 いやまぁ、話す内容はほぼ解りきってるんだけど、なんというか……ああいう内緒話もいいわね。仲良しみたいで。
 ちょっと妬いちゃうなー。

 ちょっとぷくーっとむくれていると、公爵様がこちらを向いたので、それに合わせてセバスさんが壁をやめた。そうする事で、彼らとの間に視線が通った。

 公爵様は軍服を身に纏い、キリッとしている。ああ、私が見た絵画はまさにこの姿ね。凛々しくてカッコイイわ。
 ソフィーとフェリス先輩は、それぞれのイメージカラーにあったドレスを身に纏っている。それぞれを『視て』みるが、防具としての性能は無いに等しい。きっと、魔物素材が貧弱なのしかなさ過ぎて、オシャレを併用出来る戦闘用の装備が無いのかもしれないわね。
 これは由々しき事態だわ。もっとこの世界を発展させて、色んなお洋服コーディネートが出来る環境を作り上げていかなきゃ。

 まあ戦闘面に関する評価はさておき、性能を度外視すれば2人の衣装は決して悪くない。装飾が過度に施されているわけでも無く、地味でも無地でもない。上品な仕上がりのドレスだった。このままダンスパーティーに参加してもおかしくないわね。

 そんな3人でさえ、私の姿に見惚れていた。ここは1つ、愛想でも振りまいてみよう。

「いかがでしょう、私のお気に入りの服は」

 裾を掴んでカーテシーと共に、最上級の笑顔を魅せる。
 このカワイさに抗える者はいないはずよ。というかアリシアがまた再起不能になりかけているわね。

 しばらく無言が続き、一番最初に正気を取り戻したのはセバスさんだった。

「失礼します」

 彼はそう言うと、私と公爵様との間に割って入った。そうすることで皆、次第に意識を取り戻す。

「……これは、確かに危ういな。他の貴族達の目に入れてはならない。アリシア、君の言う通りに動こう」
「……あっ、ありがとうございます」

 若干アリシアはトロけかけた顔をキリッと戻して、公爵様に答えた。まだ頬が緩んでるけど、教えてあげた方が良いかしら?

「ではシラユキお嬢さん、そしてご家族の方々も。こちらの馬車へ」
「ありがとうございます、公爵様」

 馬車に入ると、そこはマジックテント内蔵式のタイプだった。広々とした空間には調度品が入れられており、皆で寛ぐことが出来る広さだった。
 公爵家ともなれば、マジックテントの内部空間は広い物になるわね。閣下の用意してくれたテントも、ベッド2つにキッチンもあったし快適空間だったけれど……。
 ここにはベッドは入っていないけれど、王宮に着くまで快適な時間を過ごせそうだった。

「公爵様。快適な馬車を使用させて頂き、感謝致しますわ」
「構わないよ。君を守る以前に、君は娘たちの恩人でもあるのだ。このくらいはさせて欲しい」

 テーブルを皆で囲い一息ついた時には、アリシアは紅茶を配り終えていた。家族にリディ、イングリットちゃん。閣下にレイモンド、公爵一家にセバスさん。
 セバスさんだけは公爵様の後ろで待機してるけど、それでも11人もテーブルについているのだ。にも関わらず全員に紅茶を瞬く間に配り終えたアリシアには、正直脱帽しかない。

 私も速度だけならなんとかなるかもだけど、技術力はどうにもならないわね。メイド服姿の私かぁ。うん、きっとカワイイんだろうけど、問題は誰に奉仕するのかってことよ。
 ……強いて挙げるとすればアリシアに日頃のお返しを? と思ったけど、恐縮されっぱなしで寛げなさそう。となれば、シラユキを作った後、シラユキにご奉仕? ……有りね!!

「ありがと、アリシア」
「はい」

 紅茶を一口飲み、隣に腰掛けるアリシアに感謝の言葉を伝える。
 紅茶を淹れてくれた後には、必ずと言って良いほど彼女に感謝の言葉を告げてるけど、変じゃないかしら? 私はしたいからしてるけど、変だったらどうしよう。
 まあ変でも言い続けると思うけどね?

「アリシア姉さんの早業、更に磨きが掛かっていますね」
「いつの間にかお茶を出されるのは、昔から不思議だったけど……全然見えなかったわ」
「私も最初は気になったけど、アリシアの邪魔はしたくないし。今はアリシアに任せることにしたわ」
「そう。本当に仲が良いのね……はぁ、それにしても、自信無くすわ」
「うん?」

 ソフィーがちょっとむくれてるわね。……ああ、そういうこと?

「ソフィーも十分綺麗よ?」
「……ありがと。シラユキの言葉は嘘でもお世辞でもないし、ましてや嫌味でもないのはわかるわ。私もこの世界に身を置いて長いもの。その言葉が装飾されたものか本意かどうかくらい解るくらいの経験はしてる」
「うん」

 私の、自分に対する評価の本意が解るのと同じような物よね。

「上手くは言えないんだけど、あなたは私の何倍も綺麗だわ。そんな服を夢見た事はあったけど、私じゃあなたのように着こなすことは出来ないかも……。しかも魔法は私達以上の実力者で、あのアリシア姉様が本気で尊敬してる。それなのに……。私に無い物を沢山持っているのに、私と友達になりたいですって? メリットなんて何もないじゃない! あなたの考えが理解できないわ、一体何が目的なのよ!」

 今日の鬱憤が爆発したかのようにソフィーが語気を強めた。

「ソフィア!」
「先輩、待って」

 見ていられないと思ったフェリス先輩がソフィーを叱ろうとしたみたいだけど、ちょっと待ってもらった。娘がこうなるのは初めてなのかしら、公爵様も面食らった顔をしているわ。
 ソフィアの手を握り、彼女を真っ直ぐ見つめる。

「ソフィー、落ち着いて」
「うぅ……」
「まずは……そうね。この服に関してなんだけど、公爵様。この服の事、陛下も興味を持たれると思いますか?」
「……あ、ああ。兄上は愛妻家だからね。側室を含め皆を心から愛しているんだ。王妃様達に着させてやりたいと思うかもしれない」
「さすがにこの服は差し上げられませんが、入手手段についてであればお話し出来ますよ。ソフィーは今聞きたい? それとも陛下と一緒に聞く?」

 息を荒げていたソフィーも、徐々に冷静さを取り戻していったようだった。

「……陛下より先に聞くなんて、無礼な真似は出来ないわ。だから、あとで良いわ。……それと、取り乱して、ごめんなさい」
「いいのよ。その内爆発するだろうなと思っていたし、それが陛下の前じゃなくて良かったわ」
「ううっ……」

 ソフィーは顔を赤らめて縮こまっていく。カワイイけど、今はまだ弄らないでおこう。

「それよりも今は、せっかく出してくれたアリシアの紅茶でも飲みなさい。飲めば気持ちが落ち着くわよ」
「うん、そうする……。あ、美味しい」
「ふふ、沢山召し上がってくださいね」

 私もアリシアの紅茶を味わっていると、申し訳なさそうなフェリス先輩と目が合った。

「シラユキちゃん、ソフィアが迷惑をかけて、申し訳ないわ。普段は優しくて気配りが出来る優しい子なんだけれど、今日は落ち着きがなくて……」
「そうだね、本当にどうしたんだいソフィア。シラユキお嬢さんが許してくれているから良いものの、本来なら激怒されても仕方のない事を言い続けるなんて」
「そ、それは……」

 多分、本人も何故こんなに感情が昂っているのか気付いていないのかも。ソフィーの事は理解しているつもりだし、こうなってる理由も察しが付く。……きっと不安なのよね。
 あと私は、特定の地雷以外は基本穏やかだから、そう簡単に怒ったりしないから大丈夫よ。……ホントよ?

「ソフィー、自分が何に対して心を掻き乱されているのか、よく分かんないのよね?」
「えっ、どうしてわかるの?」
「友達だもの。わかるわ」
「私は……全然あなたの事、まだ分からないのに?」
「そこは人生経験の差ね」

 あと、多少の事前交友と前世界の記憶の差ね。
 貴女の事、大好きだったもの。知らないわけがないわ。

「むぅ。じゃあ、わかってるなら教えて欲しいわ」
「そこはほら、自分の気持ちなんだから自分で気付かないと」
「うー……。お願い、意地悪しないで教えて。胸がモヤモヤして仕方がないの。こんな実体の掴めない感情のせいで、あなたとのこれからを悪くしたくないわ」
「胸がムラムラ?」
「茶化さないで」

 良いのかなぁ、言っちゃって。ある意味恥ずかしい事をたくさんの人に見られながら暴露される様な物なんだけど。少なくともここには10人以上いるわけだし。
 アリシアをチラリと見ると、にっこりと微笑んだ。良いんだ? じゃあ言っちゃおう。

「言われてみれば恥ずかしいことかも知れないけど、良いのね?」
「これ以上醜態を晒すよりはマシよ」
「……簡単な話よ。今まですっごく尊敬していて、身近な存在の中でも最高峰の魔法使いでもある、大好きで目標だった2人の姉。それを遥かに凌駕した魔法スキルを持った私が突然現れて、ショックを受けたのよ。あとはアブタクデの陰謀を聞いて身の危険を感じて不安になったというのもあるでしょうし。更には常識外れの話が飛び交って、貴女は心を整理する時間が欲しくても周りは待ってくれない。……表面上はどうにか落ち着いて見えるけれど、内面では混乱しっぱなしなのね。こんな状態では、まともに思考出来るわけないわ」

 度重なる新事実を前に、噛み砕く時間はまるで用意されいないし、更にはリリちゃんなんていうジョーカーが現れる始末。落ち着いて考えようにも私が弄り倒すし。
 ……あれ? 私も悪いのかも。……言わぬが華ね。

「……そっか、そうなのね」

 ソフィーが、ゆっくりと手を握り返してくれた。

「……スッキリしたわ。ありがとう、シラユキ。私の目標を簡単に超えていったと思ったら、急に私と友達になりたいだなんて言って、終いには混乱する私を慰めて。だけど私の命の恩人で。……正直あなたが何をしたいのか、よくわからないわ。分かったことといえば、あなたが変わった人ってだけね」
「褒められてるのかしら?」
「ただ本当にわからないのは、今のあなたが私と友達になるメリットね。どうして、私と友達になりたいの?」
「もう、メリットなんて関係ないわ。私は貴女が気に入ったの。好きになった人と友達になりたいと思うのは自然な事よ、そうでしょう?」
「シラユキ……」

 ソフィーはまだ混乱は解けていないのだろうけど、私の言葉を反芻し、改めてこちらをみた。

「なら、私と友達になったからには後悔させるようなことはしないわ。改めてよろしくね、シラユキ」
「こちらこそ、よろしくね」

 この会話が1対1の会話だったら良かったんだけど、2つの家族が1つのテーブルに集まって、誰もお喋りせずに見守る中での会話だったのよね。あとでソフィーがその事実を思い出して、顔から火が出ないか心配だわ。
 まあそれはさておき、彼女が今日初めて見せるその笑顔は、とてもカワイらしくて、それを見ていたらそんな心配はどこかに飛んでいってしまったわ。
 ソフィーが嬉しそうなら、別に良いかな。

『同年代のお友達ね!』
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