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第1章:港町ポルト編
第031話 『その日、アリシアを堪能した』
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「第二回、1日の総括~! ドンドンぱふぱふー!」
「わー」
パチパチと拍手するとシラユキが満面の笑みを浮かべる。
「なぁに、マスター。随分とノリが良いじゃない?」
「だって愛しのシラユキがテンション高いんだぞ。こっちもテンションあがっちゃうよ」
まだ3回目だが、シラユキとのお話が出来るというだけでテンションが上がる。
「ふふっ、そう。じゃあまずはリーリエさん、もといママね! 私、親がマスターだけだったから母親が欲しかったのよねー。でも、想像以上に優しい人でよかったわ。マスターも存分に甘えてるみたいだし、カワイイ妹もできたし、良いこと尽くめね!!」
「そうなんだよねぇ、ママってなんだか甘えたくなるオーラを身に纏っているというか、アレには抗えないんだ。強力な魅了状態に掛かったみたいだ」
「マスター、抗う必要なんてないわ。心が求めているのよ。人間ってばすぐ恥だのプライドだので自分の欲しいことに蓋をして見ないようにするけど、そんなの無意味よ。心が本当に欲している物は我慢しちゃダメ。抗うのは間違っているわ」
シラユキが力説する。まぁ、無駄っていうか、周囲の目が気になる人はそうしないと生きていけないんだと思うよ、そういうのは。
俺のように他のものに目が行かなくなれば、そんな些事は気にならなくなるだろうけど。
「内なる欲望は言う事が違うね。まぁ、相手に迷惑が掛からない事なら、無駄な足掻きはしないようにするよ」
「そうそう、人間素直が一番よ。次はアリシアね。この子はなんと言うか、面白いくらいに信頼度がカンストしているわね。あと愛情値も親愛度も信仰心もあるかしら。欲張りセットね!」
「『白の乙女』がエルフにとって信仰の対象なのは知っていたけど、彼女がエルフだなんてまるで気づかなかったよ。ゲーム内でももしかしたら、聞けば教えてくれてたのかなぁ。もっと会話すればよかったかも」
惜しい事をしたなぁ。精霊の森に連れていって精霊に会わせたら、何かアクションを起こしてくれたかもしれない。
「まぁ昔のあの子は置いといて、今大事なのは今のあの子よマスター。アリシアはどう? 好き? 大好き?」
「好きだよ。あんなに真っ直ぐ慕われちゃうと弱いなぁ。あの子がどんどんカワイく見えてくる。シラユキもそうでしょ? 君の気持ちも俺の感情に乗っているのはわかるよ」
「ええ、カワイくって大好きよ。キスも返してくれるし、触ったら逆にこっちが気持ち良くされちゃうし、暖かくてポワポワして、あの子はもう手放せないわ。それでね、マスター。あの子と私どっちが好き?」
「ええ? 知ってるくせに」
いくらあの子がカワイイからって、そこが揺らぐことはありえないでしょ。
「あなたの口から聞きたいの」
「勿論シラユキが一番好きだよ」
「ふふっ、ありがとマスター。貴方の気持ちが私から一生離れることはないのは理解しているわ。でもやっぱり、好きと言う気持ちは直接言ってほしいの。私たちは通じ合ってるからまだ良いけど、本来は言葉にしないと伝わらないものよ。『言わなくても分かるでしょ』っていうのは、通じ合ってるっていう特別っぽい事を盾に、伝える事を恥ずかしがってるだけのズルい言い訳なのよ?」
……確かにそうかもしれない。シラユキとは沢山話がしたいと思える分、伝えなくても良いと思ってしまったことは簡略化して、もっと話をしなきゃと思ってしまっていたが、そうではないのだろう。
どんなに些細なことでも、わかりきっていることでも、言葉にしなければ、本当の意味で相手に伝わることはないのだ。
「そうだね、これからはちゃんと口にするよ」
「よろしい。あっ、だから私以外の女の子とイチャイチャしてもキスしても、エッチなことしても浮気じゃないからね」
「ぶふッ!」
「だって私も、中で一緒に楽しんでるんですもの。これからもずっと一緒よ、マスター」
シラユキの意識が中にあると言っても、実際に体を動かして女の子とイチャイチャしているのは俺であって、その点が少しモヤモヤしていたんだけど、シラユキはお見通しだったようだ。
本当に心が見えているかのようだ。敵わないなぁ……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
目覚めると、3回目の天井。まだ見慣れないけれど。
シラユキと話をたくさんしたのに、まるで疲れていない。まぁ実際、シラユキとのお喋りで疲れるはずなんてないのだが。実に心地のよい目覚めだった。
隣にはアリシアの温もりを感じる。寝顔でも確かめてみようと身動ぎすると、隣で眠っていたはずのアリシアが覆いかぶさり、キスをしてきた。
動いた事で、私の目覚めに気づいたのだろう。仕事熱心なメイドさんの最初のお仕事だ。柔らかい唇に、絡めて来る舌。昨日は受け身だったが、今日は随分と積極的だった。
何か心境の変化が……心当たりがありすぎる!
長い長いキスを終え、アリシアは目覚めの言葉を告げる。
「おはようございます、お嬢様。今日はとても良い天気のようですよ」
「おはようアリシア、大好きよ」
「……ッ! 私もです、お嬢様。心からお慕い申しております。あっ」
起き上がると同時にアリシアを押し倒し、もう一度キスをした。
感情は伝える! シラユキ教官の言うように実践すると、アリシアはとても幸せそうに微笑んだ。それがカワイくて、我慢できなかった。
ふと、ベッドの横に転がるビンを見つけた。
「昨日はいっぱいシちゃったね」
「そうですね……私も熱くなってしまいました」
「そのあと疲れて寝ちゃったもん。アリシアが運んでくれたの?」
「はい、とても軽かったですよ」
「うぇー、抱き枕堪能できなかったぁー」
「お嬢様は可愛らしい寝顔でしたよ。さて、片付けますね」
そう言ってアリシアは散乱した調合セットを片付け始めた。昨日は結局、素材を全部使い切るほど熱中しちゃったからなぁ……おかげでスキルは、もう12に到達したけど。
出来たポーションも、良品質38本に、最高品質26本。解毒薬14本に両方の効果がある特殊薬10本。
アリシアにはまだ作り方の細かいレクチャーはしていないが、最後の方には1束から2本作る事ができていた。あの時の驚きと感動した顔は、しばらく忘れそうにない。カワイイ物フォルダに入れておきましょ。
「アリシア、答え合わせは要るかしら?」
「いいえ、私がお嬢様の技を盗んでみせます。完璧にできた時には、改めてお願いします」
アリシアは負けず嫌いな所がある。割と自信のあった調合に知らない事がありすぎたのだろう。その結果昨日は、何度かやり方を教えようとしたが断固として拒否された。
アリシアのスキルは急ぎで必要としているわけでもないので、暖かく見守ろうと思う。……でも、イタズラはしなくっちゃね?
「そう、頑張ってね。でも私、もうスキル12になっちゃったから、急がないとポーション作らなくなっちゃうわよ」
「なっ!? 早すぎませんか、お嬢様……」
「ふふっ。効率的な作り方で、更に効果の高い作成をすると、スキルの上昇も早いのよ」
「ううっ、ですがお嬢様の作り方は頭に入っていますので!」
本当に頭のいい子ね。反応もカワイイし、もっと困らせたくなったわ。
「そう、でも良いの? 速めに終わらせないと、私貴女のスキル追い越して次の段階に進んじゃうけど。あーあ、そしたら1人で作らないといけないのね。一緒に楽しくできると思ったのになぁ~……」
「ううううっ! で、では1日お暇をいただいても……」
あら、イジメすぎちゃったかしら。
「いや、貴女まだ雇われて2日目じゃない……。はぁ、仕方ないわね。今日のデートと領主への挨拶が終わったら暇になるわ。そのあとは好きになさいな」
「ありがとうございます、お嬢様!」
まったく、嬉しそうにしちゃって……カワイイんだから。もし出来なかったとしても、この子が満足するまではちゃんと待ってあげるけれどね。
「そういえばアリシア、普通のメイド服って無いの?」
「普通の、ですか? 勿論あります。小さなお子様がいらっしゃるところでのお仕事もありましたし……あっ、今の服は、お気に召しませんでしたか……?」
「ないない。カワイくって好きよ。でもあれは、私にだけ見せるものであって、よそ様には見せたくないわ。だから、外に出るときは普通のメイド服でいなさい。良いわね?」
「確かに……私の体はお嬢様の物であって、塵芥に見せて良いものではありませんでした。反省します」
別に怒ってはいなくて、ただの独占欲だったんだけど……、まあいいか。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ご飯を食べて2人でお出かけした。まずはアリシアが念押ししてきたので服を買いに行くことに。さすがアリシアね。私、下着の記憶はもうすでになかったわ!
「そう言えば下着を買うんだったわね」
「まさか、もう忘れていたのですか?」
「だって、アリシアとデートだもの。楽しみすぎて何のためのデートだったかも、覚えていなかったわ」
「ま、またそんな……、ううっ。し、仕方のない人ですね……」
顔を赤くしながらモジモジしている。カワイイ。アリシアの腕を取り引っ張っていく。
「時間がもったいないわ。早く行きましょう!」
「は、はい!」
服屋に到着した。下着に関してはアリシアのセンスに任せて、外出用のお洋服を選ぶことにした。といっても王都ではなく港町。先進的なものは少ないが、それでも国外からの貿易品が少なからず入ってきている。
店主の話では、昨日になって色々と値下がりが起きたらしい。まぁ、どこぞの何かが仲介料として上乗せしていた分がなくなったから安くなったのだろう。良い事だ。
麦藁帽が似合いそうな白のワンピースに、和国からの輸入と思われる水玉模様の浴衣、そしてとってもファンシーなネコミミフード付きのチュニックなどを購入した。
ネコミミフードは、親子セットなのだろうか? 子供サイズのものとで2セットあったので大人買いした。全員で着てみたい!
「見て見てアリシア。にゃぁ~ん」
「はぅっ!」
猫撫で声でポーズを取ると、アリシアは崩れ落ちてしまった。
「お嬢様……可愛すぎます」
「アリシアの分もあるのよ。あとで着ましょう?」
「ああ、お嬢様とお揃い……」
ふふ、アリシアは私が喜ぶポイントはしっかり押さえているわね。その上本心で言ってくれてるのがわかるから、なおのこと嬉しいわ。
この時アリシアのセンスに任せて下着を購入したが、後程見たらドエロイ攻め攻めの下着だった。娼婦脳、恐るべし……! それとも見たかったのかしら。あとでイジメてあげましょ。
「それで装備品なんだけど、私は特にないわね。防具は『白の乙女』で十分強いし、武器はこれを鍛えていくつもりだから追加購入の予定はないし。アリシアはどうする?」
「私もメイド服が正装ですし、武器も使い慣れた短剣がありますから、特にこれと言って必要にはならないですね。あるとすれば、控えの投擲用の得物が少々心許ないくらいでしょうか……。ただ、この街には置いていなかったはずです。今の私には魔法もありますし、特別必要なものはありませんね」
『ローグ』に『暗殺者』だものね。軽装に短剣がデフォルトよね。
「短剣かぁ。なら、アリシアには近いうちに私が武器を作ってあげられるわね」
「本当ですか!? 嬉しいです……!」
ふふっ。
結局、私たちが買った物は、装備品でも旅の準備品でもなく、私の着替えだけだったわね。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ギルドに到着し、そのまま顔パスでギルド長の部屋にノックして入っていく。
「おじゃましまーす」
「いらっしゃーい」
メアがソファで寛ぎながら出迎えてくれる。シェリーは、机に向かって書類仕事中ね。
……ギルドマスターの机に書類は山のようにあるけど、アレ、本当にメアがこなせるのかしら? 寛いでるし。
「おお、シラユキか。……なんだその格好は」
「カワイイでしょ?」
猫のポーズを取る。にゃーん。
「まぁ、可愛いとは、思うが……その格好で領主に会うのか?」
「この下に正装を着てるから、あとで脱げばいいのよ」
「そうか、なら問題はないな。ところで後ろのメイドは誰だ? どこかで見たような気もするが……」
「この姿では初めまして。特殊奴隷改め、シラユキお嬢様のメイド、アリシアと申します」
そう言ってアリシアはカーテシーを行う。うーん、普通のメイド服だと、普通にメイドさんだ。今までの服でそれを行うと、やっぱり卑猥な印象を持ってしまう。
魔改造メイド服の印象本当に強いわね。……やっぱり衣装は人を変えるのよ! 衣装こそ全て!
「エルフ……だったのか。それに改め、だと?」
「私はお嬢様に出会った瞬間、特殊奴隷を辞めました。お嬢様に永劫お仕えする所存です」
「そう、か……。まぁシラユキは特別だからな。エルフが心を奪われても不思議には思わん」
「ほえー。アリシアさんは仕事先で何度か会うことがありましたが、エルフだったんですねぇ。昔から容姿が変わらなくて不思議に思っていました」
「みんな顔見知りなんだ?」
「メアは一応貴族だからな。私はそれの付き添いで行動することが多かったし、アリシアは色んな貴族の所を転々としていたからな」
アリシアって、だいぶ前から主人を探していたのね。それでも巡り合えなかったなんて、みんなアリシアの考えを見抜けなかったのね。あとステータスも足りなかったのねきっと。
「まぁ改めましてってことで、紹介するね。アリシア、この2人が闇ギルドをぶっ壊すときに流れで助けた2人よ。ギルドマスターとしての存在が怪しいメアと、意外と照れ屋さんなシェリーよ」
「ひ、ひどいですぅ!」
「おいシラユキ、何だその紹介は……」
2人からはブーイングが入る。本当の事だもの、ウソは言ってないわ。
「あと、この2人が今日の抱き枕よ。だから今晩は自由にしていいわ」
「なるほど、理解しました」
「理解しないでくれないか!? いや、間違ってはいないが……」
「お嬢様はこういう方です。諦めてください」
そうよ、諦めて抱き枕になりなさい!
「あ、シェリー、相談があるんだけど。リリちゃんね、ちゃんと魔法使いになれたんだけど、リリちゃんのママの勧めで初等部に入ることになったの。それで私がママごと連れていくことになったんだけど、初等部って推薦状はいるのかしら?」
「ほう、リリが初等部にか。あの子なら上昇志向もあるし、十分上を目指せるだろう。高等部は、初等部からの自動繰り上げが基本だから割り込みで入るには推薦状が必要になるが、初等部は入口だ。特に必須ではない」
「そうなんだー」
途中入学のための特殊枠かぁ。まぁプレイヤーの設定は基本年齢15歳以上だものね。12歳のところに混ざるわけにもいかないか。
「……だが、あって困るものではない。彼女に対して誰がバックについているかで、彼女の存在感が増すだろう。余計なやっかみを受ける心配もなくなるから、用意しておこう。それにあの子は、共に奴らを倒しに行った仲間だからな」
「きゃー、シェリーカッコイイ!」
「ふふ、そう褒めるな。シラユキの分と合わせて、明日にでも用意しておこう」
「じゃあそろそろ、領主の館から馬車が来る時間だわ。行きましょうか」
そうしてメアの言葉の通りにギルドの前に移動すると、確かに箱型の馬車が待っていた。中も広そう……向かい合って座る形ね。馬は魔獣だけど。
「この馬で牽引してきたのね。領主様も本気みたいだわ」
「領主様には簡単な報告しかできていないが、まぁ……そうなるだろうな」
……へぇ、さすが貴族。レベル20ちょっとの魔獣かぁ。これだけでそこそこの戦力にはなるわね。
**********
名前:バトルホース
レベル:23
説明:プライドが高く、人には中々懐かない事で有名。赤子の頃から人の手で育てられた場合は従順になるため、貴族からの人気が高い。
**********
バトルホースがこちらに熱い視線を送ってくる。まぁ、懐かせる条件ってのが実は単純で、特定ステータスが特定値に達していることが条件だ。
簡単に言えばSTRとCHRが300を超えていれば良い。シェリーは難しいが、私やアリシアなら簡単に懐く。そう思いバトルホースに近づくと御者さんが止めてきた。
「お嬢さんがた、この馬は魔獣です。認めていない者に触れられると蹴り殺されることがあります。近づかない方が良いですよ」
「問題ないわ。ほら、この子もこっちをみているじゃない」
御者さんを躱して、バトルホースを撫でてあげると、嬉しそうに顔をこちらに擦り付けてくる。
「今日はよろしくね」
「ブルルルルッ」
「ふふ、相変わらず良い毛並みですね」
「そ、そんな……。あれほど他人を認めないバトルホースが……」
御者さんが驚き固まっているのをよそに、シェリーが馬車の中へと入っていく。
「やれやれ……先に乗っているぞ、シラユキ」
「はーい」
「では行きましょう、お嬢様」
「うん」
私達も乗り込み馬車の扉が閉まる音で、ようやく御者さんが再起動したようだ。まもなくして馬車は走り出した。
街の住人は、この馬の事は知っているのか、遠目から見守っている様子が窓から窺えた。
「そういえば、アリシアを連れていくこと、相手に伝えていないけど良いのかしら?」
「構わんだろう。シラユキの仲間なのだし、それにアリシアの事は向こうもご存じのはずだ。エルフであることを除けばな」
「そうなの?」
「ええ、お嬢様の3つ前のご主人様です。給金に関しても一番惜しいところまで行った方だったのですが……最後には給金を吊り上げられてしまいました。あの時は残念に思えましたが、そのおかげでこうしていられますね」
アリシアが寄りかかってくる。愛い奴めー、うりうり。
「あの常に冷めた目をしていたアリシアが……人は変わるものだな」
「本当ね……。ポルト男爵もビックリするんじゃないかしら」
「アリシアー、ひざまくらしてー」
「はい、どうぞ」
「ごくらくー」
太もも柔らかいし、いい匂いするし、頭を撫でてもらえるし。天国はここにあったのね……。
昨日はひざまくらで満足して忘れてたけれど、今度はお部屋で耳かきをセットでしてもらおう。
「彼女のために大金を提示したとも噂されていますし、卒倒してしまうかもしれないわね」
「……かもしれんな」
2人が何か言っているが、アリシアのひざが快適過ぎて耳に入ってこない。はー、安らぐー。
『マスターも遠慮なく甘えだしたわね。その調子よ!』
「わー」
パチパチと拍手するとシラユキが満面の笑みを浮かべる。
「なぁに、マスター。随分とノリが良いじゃない?」
「だって愛しのシラユキがテンション高いんだぞ。こっちもテンションあがっちゃうよ」
まだ3回目だが、シラユキとのお話が出来るというだけでテンションが上がる。
「ふふっ、そう。じゃあまずはリーリエさん、もといママね! 私、親がマスターだけだったから母親が欲しかったのよねー。でも、想像以上に優しい人でよかったわ。マスターも存分に甘えてるみたいだし、カワイイ妹もできたし、良いこと尽くめね!!」
「そうなんだよねぇ、ママってなんだか甘えたくなるオーラを身に纏っているというか、アレには抗えないんだ。強力な魅了状態に掛かったみたいだ」
「マスター、抗う必要なんてないわ。心が求めているのよ。人間ってばすぐ恥だのプライドだので自分の欲しいことに蓋をして見ないようにするけど、そんなの無意味よ。心が本当に欲している物は我慢しちゃダメ。抗うのは間違っているわ」
シラユキが力説する。まぁ、無駄っていうか、周囲の目が気になる人はそうしないと生きていけないんだと思うよ、そういうのは。
俺のように他のものに目が行かなくなれば、そんな些事は気にならなくなるだろうけど。
「内なる欲望は言う事が違うね。まぁ、相手に迷惑が掛からない事なら、無駄な足掻きはしないようにするよ」
「そうそう、人間素直が一番よ。次はアリシアね。この子はなんと言うか、面白いくらいに信頼度がカンストしているわね。あと愛情値も親愛度も信仰心もあるかしら。欲張りセットね!」
「『白の乙女』がエルフにとって信仰の対象なのは知っていたけど、彼女がエルフだなんてまるで気づかなかったよ。ゲーム内でももしかしたら、聞けば教えてくれてたのかなぁ。もっと会話すればよかったかも」
惜しい事をしたなぁ。精霊の森に連れていって精霊に会わせたら、何かアクションを起こしてくれたかもしれない。
「まぁ昔のあの子は置いといて、今大事なのは今のあの子よマスター。アリシアはどう? 好き? 大好き?」
「好きだよ。あんなに真っ直ぐ慕われちゃうと弱いなぁ。あの子がどんどんカワイく見えてくる。シラユキもそうでしょ? 君の気持ちも俺の感情に乗っているのはわかるよ」
「ええ、カワイくって大好きよ。キスも返してくれるし、触ったら逆にこっちが気持ち良くされちゃうし、暖かくてポワポワして、あの子はもう手放せないわ。それでね、マスター。あの子と私どっちが好き?」
「ええ? 知ってるくせに」
いくらあの子がカワイイからって、そこが揺らぐことはありえないでしょ。
「あなたの口から聞きたいの」
「勿論シラユキが一番好きだよ」
「ふふっ、ありがとマスター。貴方の気持ちが私から一生離れることはないのは理解しているわ。でもやっぱり、好きと言う気持ちは直接言ってほしいの。私たちは通じ合ってるからまだ良いけど、本来は言葉にしないと伝わらないものよ。『言わなくても分かるでしょ』っていうのは、通じ合ってるっていう特別っぽい事を盾に、伝える事を恥ずかしがってるだけのズルい言い訳なのよ?」
……確かにそうかもしれない。シラユキとは沢山話がしたいと思える分、伝えなくても良いと思ってしまったことは簡略化して、もっと話をしなきゃと思ってしまっていたが、そうではないのだろう。
どんなに些細なことでも、わかりきっていることでも、言葉にしなければ、本当の意味で相手に伝わることはないのだ。
「そうだね、これからはちゃんと口にするよ」
「よろしい。あっ、だから私以外の女の子とイチャイチャしてもキスしても、エッチなことしても浮気じゃないからね」
「ぶふッ!」
「だって私も、中で一緒に楽しんでるんですもの。これからもずっと一緒よ、マスター」
シラユキの意識が中にあると言っても、実際に体を動かして女の子とイチャイチャしているのは俺であって、その点が少しモヤモヤしていたんだけど、シラユキはお見通しだったようだ。
本当に心が見えているかのようだ。敵わないなぁ……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
目覚めると、3回目の天井。まだ見慣れないけれど。
シラユキと話をたくさんしたのに、まるで疲れていない。まぁ実際、シラユキとのお喋りで疲れるはずなんてないのだが。実に心地のよい目覚めだった。
隣にはアリシアの温もりを感じる。寝顔でも確かめてみようと身動ぎすると、隣で眠っていたはずのアリシアが覆いかぶさり、キスをしてきた。
動いた事で、私の目覚めに気づいたのだろう。仕事熱心なメイドさんの最初のお仕事だ。柔らかい唇に、絡めて来る舌。昨日は受け身だったが、今日は随分と積極的だった。
何か心境の変化が……心当たりがありすぎる!
長い長いキスを終え、アリシアは目覚めの言葉を告げる。
「おはようございます、お嬢様。今日はとても良い天気のようですよ」
「おはようアリシア、大好きよ」
「……ッ! 私もです、お嬢様。心からお慕い申しております。あっ」
起き上がると同時にアリシアを押し倒し、もう一度キスをした。
感情は伝える! シラユキ教官の言うように実践すると、アリシアはとても幸せそうに微笑んだ。それがカワイくて、我慢できなかった。
ふと、ベッドの横に転がるビンを見つけた。
「昨日はいっぱいシちゃったね」
「そうですね……私も熱くなってしまいました」
「そのあと疲れて寝ちゃったもん。アリシアが運んでくれたの?」
「はい、とても軽かったですよ」
「うぇー、抱き枕堪能できなかったぁー」
「お嬢様は可愛らしい寝顔でしたよ。さて、片付けますね」
そう言ってアリシアは散乱した調合セットを片付け始めた。昨日は結局、素材を全部使い切るほど熱中しちゃったからなぁ……おかげでスキルは、もう12に到達したけど。
出来たポーションも、良品質38本に、最高品質26本。解毒薬14本に両方の効果がある特殊薬10本。
アリシアにはまだ作り方の細かいレクチャーはしていないが、最後の方には1束から2本作る事ができていた。あの時の驚きと感動した顔は、しばらく忘れそうにない。カワイイ物フォルダに入れておきましょ。
「アリシア、答え合わせは要るかしら?」
「いいえ、私がお嬢様の技を盗んでみせます。完璧にできた時には、改めてお願いします」
アリシアは負けず嫌いな所がある。割と自信のあった調合に知らない事がありすぎたのだろう。その結果昨日は、何度かやり方を教えようとしたが断固として拒否された。
アリシアのスキルは急ぎで必要としているわけでもないので、暖かく見守ろうと思う。……でも、イタズラはしなくっちゃね?
「そう、頑張ってね。でも私、もうスキル12になっちゃったから、急がないとポーション作らなくなっちゃうわよ」
「なっ!? 早すぎませんか、お嬢様……」
「ふふっ。効率的な作り方で、更に効果の高い作成をすると、スキルの上昇も早いのよ」
「ううっ、ですがお嬢様の作り方は頭に入っていますので!」
本当に頭のいい子ね。反応もカワイイし、もっと困らせたくなったわ。
「そう、でも良いの? 速めに終わらせないと、私貴女のスキル追い越して次の段階に進んじゃうけど。あーあ、そしたら1人で作らないといけないのね。一緒に楽しくできると思ったのになぁ~……」
「ううううっ! で、では1日お暇をいただいても……」
あら、イジメすぎちゃったかしら。
「いや、貴女まだ雇われて2日目じゃない……。はぁ、仕方ないわね。今日のデートと領主への挨拶が終わったら暇になるわ。そのあとは好きになさいな」
「ありがとうございます、お嬢様!」
まったく、嬉しそうにしちゃって……カワイイんだから。もし出来なかったとしても、この子が満足するまではちゃんと待ってあげるけれどね。
「そういえばアリシア、普通のメイド服って無いの?」
「普通の、ですか? 勿論あります。小さなお子様がいらっしゃるところでのお仕事もありましたし……あっ、今の服は、お気に召しませんでしたか……?」
「ないない。カワイくって好きよ。でもあれは、私にだけ見せるものであって、よそ様には見せたくないわ。だから、外に出るときは普通のメイド服でいなさい。良いわね?」
「確かに……私の体はお嬢様の物であって、塵芥に見せて良いものではありませんでした。反省します」
別に怒ってはいなくて、ただの独占欲だったんだけど……、まあいいか。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ご飯を食べて2人でお出かけした。まずはアリシアが念押ししてきたので服を買いに行くことに。さすがアリシアね。私、下着の記憶はもうすでになかったわ!
「そう言えば下着を買うんだったわね」
「まさか、もう忘れていたのですか?」
「だって、アリシアとデートだもの。楽しみすぎて何のためのデートだったかも、覚えていなかったわ」
「ま、またそんな……、ううっ。し、仕方のない人ですね……」
顔を赤くしながらモジモジしている。カワイイ。アリシアの腕を取り引っ張っていく。
「時間がもったいないわ。早く行きましょう!」
「は、はい!」
服屋に到着した。下着に関してはアリシアのセンスに任せて、外出用のお洋服を選ぶことにした。といっても王都ではなく港町。先進的なものは少ないが、それでも国外からの貿易品が少なからず入ってきている。
店主の話では、昨日になって色々と値下がりが起きたらしい。まぁ、どこぞの何かが仲介料として上乗せしていた分がなくなったから安くなったのだろう。良い事だ。
麦藁帽が似合いそうな白のワンピースに、和国からの輸入と思われる水玉模様の浴衣、そしてとってもファンシーなネコミミフード付きのチュニックなどを購入した。
ネコミミフードは、親子セットなのだろうか? 子供サイズのものとで2セットあったので大人買いした。全員で着てみたい!
「見て見てアリシア。にゃぁ~ん」
「はぅっ!」
猫撫で声でポーズを取ると、アリシアは崩れ落ちてしまった。
「お嬢様……可愛すぎます」
「アリシアの分もあるのよ。あとで着ましょう?」
「ああ、お嬢様とお揃い……」
ふふ、アリシアは私が喜ぶポイントはしっかり押さえているわね。その上本心で言ってくれてるのがわかるから、なおのこと嬉しいわ。
この時アリシアのセンスに任せて下着を購入したが、後程見たらドエロイ攻め攻めの下着だった。娼婦脳、恐るべし……! それとも見たかったのかしら。あとでイジメてあげましょ。
「それで装備品なんだけど、私は特にないわね。防具は『白の乙女』で十分強いし、武器はこれを鍛えていくつもりだから追加購入の予定はないし。アリシアはどうする?」
「私もメイド服が正装ですし、武器も使い慣れた短剣がありますから、特にこれと言って必要にはならないですね。あるとすれば、控えの投擲用の得物が少々心許ないくらいでしょうか……。ただ、この街には置いていなかったはずです。今の私には魔法もありますし、特別必要なものはありませんね」
『ローグ』に『暗殺者』だものね。軽装に短剣がデフォルトよね。
「短剣かぁ。なら、アリシアには近いうちに私が武器を作ってあげられるわね」
「本当ですか!? 嬉しいです……!」
ふふっ。
結局、私たちが買った物は、装備品でも旅の準備品でもなく、私の着替えだけだったわね。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ギルドに到着し、そのまま顔パスでギルド長の部屋にノックして入っていく。
「おじゃましまーす」
「いらっしゃーい」
メアがソファで寛ぎながら出迎えてくれる。シェリーは、机に向かって書類仕事中ね。
……ギルドマスターの机に書類は山のようにあるけど、アレ、本当にメアがこなせるのかしら? 寛いでるし。
「おお、シラユキか。……なんだその格好は」
「カワイイでしょ?」
猫のポーズを取る。にゃーん。
「まぁ、可愛いとは、思うが……その格好で領主に会うのか?」
「この下に正装を着てるから、あとで脱げばいいのよ」
「そうか、なら問題はないな。ところで後ろのメイドは誰だ? どこかで見たような気もするが……」
「この姿では初めまして。特殊奴隷改め、シラユキお嬢様のメイド、アリシアと申します」
そう言ってアリシアはカーテシーを行う。うーん、普通のメイド服だと、普通にメイドさんだ。今までの服でそれを行うと、やっぱり卑猥な印象を持ってしまう。
魔改造メイド服の印象本当に強いわね。……やっぱり衣装は人を変えるのよ! 衣装こそ全て!
「エルフ……だったのか。それに改め、だと?」
「私はお嬢様に出会った瞬間、特殊奴隷を辞めました。お嬢様に永劫お仕えする所存です」
「そう、か……。まぁシラユキは特別だからな。エルフが心を奪われても不思議には思わん」
「ほえー。アリシアさんは仕事先で何度か会うことがありましたが、エルフだったんですねぇ。昔から容姿が変わらなくて不思議に思っていました」
「みんな顔見知りなんだ?」
「メアは一応貴族だからな。私はそれの付き添いで行動することが多かったし、アリシアは色んな貴族の所を転々としていたからな」
アリシアって、だいぶ前から主人を探していたのね。それでも巡り合えなかったなんて、みんなアリシアの考えを見抜けなかったのね。あとステータスも足りなかったのねきっと。
「まぁ改めましてってことで、紹介するね。アリシア、この2人が闇ギルドをぶっ壊すときに流れで助けた2人よ。ギルドマスターとしての存在が怪しいメアと、意外と照れ屋さんなシェリーよ」
「ひ、ひどいですぅ!」
「おいシラユキ、何だその紹介は……」
2人からはブーイングが入る。本当の事だもの、ウソは言ってないわ。
「あと、この2人が今日の抱き枕よ。だから今晩は自由にしていいわ」
「なるほど、理解しました」
「理解しないでくれないか!? いや、間違ってはいないが……」
「お嬢様はこういう方です。諦めてください」
そうよ、諦めて抱き枕になりなさい!
「あ、シェリー、相談があるんだけど。リリちゃんね、ちゃんと魔法使いになれたんだけど、リリちゃんのママの勧めで初等部に入ることになったの。それで私がママごと連れていくことになったんだけど、初等部って推薦状はいるのかしら?」
「ほう、リリが初等部にか。あの子なら上昇志向もあるし、十分上を目指せるだろう。高等部は、初等部からの自動繰り上げが基本だから割り込みで入るには推薦状が必要になるが、初等部は入口だ。特に必須ではない」
「そうなんだー」
途中入学のための特殊枠かぁ。まぁプレイヤーの設定は基本年齢15歳以上だものね。12歳のところに混ざるわけにもいかないか。
「……だが、あって困るものではない。彼女に対して誰がバックについているかで、彼女の存在感が増すだろう。余計なやっかみを受ける心配もなくなるから、用意しておこう。それにあの子は、共に奴らを倒しに行った仲間だからな」
「きゃー、シェリーカッコイイ!」
「ふふ、そう褒めるな。シラユキの分と合わせて、明日にでも用意しておこう」
「じゃあそろそろ、領主の館から馬車が来る時間だわ。行きましょうか」
そうしてメアの言葉の通りにギルドの前に移動すると、確かに箱型の馬車が待っていた。中も広そう……向かい合って座る形ね。馬は魔獣だけど。
「この馬で牽引してきたのね。領主様も本気みたいだわ」
「領主様には簡単な報告しかできていないが、まぁ……そうなるだろうな」
……へぇ、さすが貴族。レベル20ちょっとの魔獣かぁ。これだけでそこそこの戦力にはなるわね。
**********
名前:バトルホース
レベル:23
説明:プライドが高く、人には中々懐かない事で有名。赤子の頃から人の手で育てられた場合は従順になるため、貴族からの人気が高い。
**********
バトルホースがこちらに熱い視線を送ってくる。まぁ、懐かせる条件ってのが実は単純で、特定ステータスが特定値に達していることが条件だ。
簡単に言えばSTRとCHRが300を超えていれば良い。シェリーは難しいが、私やアリシアなら簡単に懐く。そう思いバトルホースに近づくと御者さんが止めてきた。
「お嬢さんがた、この馬は魔獣です。認めていない者に触れられると蹴り殺されることがあります。近づかない方が良いですよ」
「問題ないわ。ほら、この子もこっちをみているじゃない」
御者さんを躱して、バトルホースを撫でてあげると、嬉しそうに顔をこちらに擦り付けてくる。
「今日はよろしくね」
「ブルルルルッ」
「ふふ、相変わらず良い毛並みですね」
「そ、そんな……。あれほど他人を認めないバトルホースが……」
御者さんが驚き固まっているのをよそに、シェリーが馬車の中へと入っていく。
「やれやれ……先に乗っているぞ、シラユキ」
「はーい」
「では行きましょう、お嬢様」
「うん」
私達も乗り込み馬車の扉が閉まる音で、ようやく御者さんが再起動したようだ。まもなくして馬車は走り出した。
街の住人は、この馬の事は知っているのか、遠目から見守っている様子が窓から窺えた。
「そういえば、アリシアを連れていくこと、相手に伝えていないけど良いのかしら?」
「構わんだろう。シラユキの仲間なのだし、それにアリシアの事は向こうもご存じのはずだ。エルフであることを除けばな」
「そうなの?」
「ええ、お嬢様の3つ前のご主人様です。給金に関しても一番惜しいところまで行った方だったのですが……最後には給金を吊り上げられてしまいました。あの時は残念に思えましたが、そのおかげでこうしていられますね」
アリシアが寄りかかってくる。愛い奴めー、うりうり。
「あの常に冷めた目をしていたアリシアが……人は変わるものだな」
「本当ね……。ポルト男爵もビックリするんじゃないかしら」
「アリシアー、ひざまくらしてー」
「はい、どうぞ」
「ごくらくー」
太もも柔らかいし、いい匂いするし、頭を撫でてもらえるし。天国はここにあったのね……。
昨日はひざまくらで満足して忘れてたけれど、今度はお部屋で耳かきをセットでしてもらおう。
「彼女のために大金を提示したとも噂されていますし、卒倒してしまうかもしれないわね」
「……かもしれんな」
2人が何か言っているが、アリシアのひざが快適過ぎて耳に入ってこない。はー、安らぐー。
『マスターも遠慮なく甘えだしたわね。その調子よ!』
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