異世界でもうちの娘が最強カワイイ!

皇 雪火

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第1章:港町ポルト編

第030話 『その日、アリシアとイチャイチャした』

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「とりあえずリリちゃんはこのまま魔法使いを続投してもらうとして、ママはどうしよっか」
「……えっ、私?」

 ボードからのフリーズを脱したママであったが、今度は困惑している。今日は顔色をコロコロ変えて忙しそうね。……犯人は私なんだけど。

「ママはこのまま狩人を育てるか、それとも別の職業を育てるか、ね」
「……シラユキちゃんとしては、どうすればイイと思う?」
「私としては、便利になるからレンジャーを育てることをお勧めするわ。転職条件も満たしているしね」
「なら、その通りにするわね。少しでもシラユキちゃんの負担を減らせられるように、ママ頑張るわ。……でも、レンジャーの試練の情報を知らないわ。アリシアちゃんは知っているかしら?」
「いえ、私も存じ上げません」

 あら、意外ね。
 アリシアも……というか森で生活する上では必須の職業なのに。
 リリちゃんは難しい話になったとわかったのか、再び膝の上でゴロゴロし始めた。自由だなー。

「エルフは弓使いが大半じゃない。それなのに、困らないの?」
「はい、特には。……国の守人達も、狩りを経験する中でいつのまにか獲得しているものですから、そういうものとして扱われています」
「アリシアもその口?」
「私は、遺伝がありましたので……」

 そう言ってアリシアは期待する目でこちらを見てきた。そんな目をされたら答えなきゃならないじゃない。呼ばれなくても応えていたけど。

「条件は簡単よ。10メートル以上先から、獲物の眉間に矢を穿ち、一撃で絶命させる事。これだけよ」
「やはりご存知でしたか。流石です、お嬢様」
「もうママも驚き疲れちゃったわ」

 ママも慣れてきたみたい。ママは優しい上に器量もあるなー。ママがママでよかったわ!

「アリシアは私の職業一覧、見たでしょう? あれは遺伝は何1つとしてないわ。私が1から……いえ、文字通り0から私が育て上げたものよ」
「ああ……なんて凄まじい。お嬢様の努力と比べ、私の努力なんて、小さなものでした。あの程度で頑張ったなど、自惚れが過ぎました」
「アリシア、そんなこと言わないで。貴女は効率的な戦い方や育て方を知らない中で、それだけの職業を高レベルに育て上げてきたわ。その努力は驚嘆に値するものだし、他の追随を許さないほどよ。私がちょっと別格だっただけで、貴女は本当に頑張ってきたわ。胸を張りなさい」

 そもそもプレイヤーは死んでも全損するわけではない。この世界ではわからないけれど、死んで覚えるの試行錯誤の果てに効率を見つけ出し、育成手順を革新させてきた。
 死んだら終わりのアリシア達に、それを強いるのは土台無理な話。そもそもの立ち位置が違うのだ。プレイヤーと比べてはいけない。

「お嬢様……もったいないお言葉です」
「まったくもう、アリシアはカワイイわね」
「お嬢様……」

 アリシアと見つめあう。カワイイなぁ……。

「ちょっと2人共? ママ達置いてけぼりだわ」
「あら、ごめんなさい。アリシアがあまりにもカワイくて」
「申し訳ありません。お嬢様があまりにも尊くて」
「もう限界! アリシア好き!」

 我慢の限界! アリシアに思いっきりキスをした。深い方で。

「わぁ、大人のキスだー!」
「も、もう……本当に仲の良い、良すぎる姉妹ね」
「ぷはっ、ご馳走さま」
「んっ……お粗末様でした」

 アリシアを抱きしめて頬ずりする。はぁー、癒されるわー。

「ふぅ、話を戻すわねシラユキちゃん。レンジャーの試練だけれど、それくらいならママでも出来そうよ」
「あ、うん。ただ、職業レベルが0になるから、今の力とは違って弱くなるし、ちょっと大変かもしれないわ。なんなら手伝うわよ、ママ」
「フフ、ママもシラユキちゃんに頼ってばかりじゃダメだから、今すぐの手伝いは要らないわ。しばらくダメそうならお願いできるかしら?」

 私はついつい身内を甘やかそうとするけど、出来るところは自分でしようとする姿勢は大好きよ。応援しちゃうわ。まぁ手伝いといっても、ウサギの首根っこを掴んで、飛んできた矢に、頭を持っていくだけの簡単なお仕事なんだけど。
 今のステータスなら余裕で出来てしまうだろう。

「そういうことなら喜んで。もう転職する? それとも今度にする?」
「今は弓がないから……でもそうね。昔の感覚を思い出すためにも、もう変更してもらってもイイかしら?」
「お安い御用よ。『職業神殿』」

**********
変更する職業を選択してください

剣士:レベル0
格闘家:レベル0
魔法使い:レベル0
狩人:現在選択中
槍使い:レベル0
シーフ:レベル30
遊び人:レベル0
調合師:レベル0
レンジャー:レベル0
暗殺者:レベル0
**********

「それじゃ、レンジャーに変更しておくね。ポチっとな」

 ママの体が一瞬光り、消える。

「終わったわ」
「えっ、もう終わったの? 特別な祝詞とか……手続きとか……」
「要らないわ。教会ってそんなことをしているの? だとしたらそれは魔法の詠唱と同じく、格好つけね」
「……」

 ママはポカーンとしていて、アリシアは吹き出しそうな顔をしている。思い出し笑いだろうか?

「ママ、体はどう? 動かせる?」
「えっ、ええ……。大丈夫そうね。明日にでも、リリと一緒に挑戦してみるわ。リリ、明日はよろしくね」
「うん! ママと一緒に頑張るよ!」
「2人ともレベル0と1なんだから、無茶しちゃダメよ? ワイルドラビットは攻撃されても逃げるだけだけど、森に行っちゃダメよ?」
「「はい、先生!」」

 2人とも片手を上げ答えた。声まで揃われると本当に姉妹みたいね。ふふっ、カワイイ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 その後もアリシアとイチャイチャしてたら日が暮れてきたので街へ戻ることにした。ママには支度金として金貨10枚を渡しておいた。
 多すぎると文句を頂戴したが、余った分は装備に回してほしいと言ったら渋々了承してくれた。
 今はアリシアと『ロイヤル』に向かっている。

「もしかして多かったのかしら」
「過保護すぎるくらいには多かったですね。支度金としては金貨1枚でも多すぎるくらいです」

 隣を歩くアリシアが優しく咎めてくる。微笑みがカワイイ。

「あら、そうなの? 物価がよく分からなくて、適当に渡しちゃったわ」
「お母様なら、余るようなら返しに来られると思いますけれど、ああ言われては使い切るしかありませんね」
「ええ。身を守るためなら金額を惜しんではいけないと熱弁したら理解してくれて助かったわ。ママなら、レベル1で扱えないような装備を買ってくることもないでしょうし、2人分と考えれば十分でしょ」
「2人分……ですか?」

 アリシアが不思議そうな顔をしている。4人分だとおもったのかしら。

「アリシアと私の分は、また明日買い物デートの時にしましょ」
「っ! はい、お嬢様。……ところで、物価は分からないのにメイドの月給などは調べられたんですね?」
「分かってるでしょ? 私、貴女のことをそれだけ本気で欲しかったんだもの。なら、徹底的に調べるしかないじゃない」
「私は幸せ者ですね。お嬢様にここまで想っていただけるなんて。……しかし、今だから明かせますが、ワークス殿に給金を聞いても、ヒントを出しておくようにはしていたんですよ。結局、誰も聞かなかったみたいですが」

 イタズラが成功したかのようにクスリと笑った。それって灯台下暗しって奴ね!?

「な、なんですって……! 盲点だったわ。そもそも彼が情報屋という事すら気付かなかったのよね……ほんと、1つのことに集中すると周りが見えないわ。アリシア、こんな抜けてて世間知らずな主人だけど、これからお願いね」
「はい、誠心誠意、愛情たっぷりお仕えいたします」

 意外な事実よりも、アリシアの微笑みに改めて驚いた。
 先ほどから何度も笑いかけてくれているが、肩ひじ張らずにアリシアと会話が楽しめるだなんて、ゲーム時代では考えられなかった。
 こんな風に冗談を言ったりすることもなかったし、笑顔なんてほとんど見なかった。すごいドライでツンツンだったもの。今のこの状態は『白の乙女』による効果が前提なところはあるだろうけど、きちんと信頼してくれている感情が伝わってくる。

 そのままアリシアと手を繋いで『ロイヤル』に辿り着いたが、そこで一悶着あった。
 と言っても、私の世話は全てアリシアが行うので、用件は全てアリシアを通すようにとのことだ。過保護なメイドさんと見るべきか、仕事熱心なメイドさんと見るべきか。どちらにせよ興奮したように「私の仕事です!」と意気込むアリシアがカワイかったので良しとしよう。

 簡単に折れてくれたおじさまに聞いてみると、こういうことは貴族にはよくあるので慣れているとのことだ。というか、私の事も貴族のお忍びだと思っているらしく、違うとは言っておいたのだけれど……でも、実際お忍びでも皆同じ言い訳を言いそうだわ。
 まぁいいわ。貴族と思われたとしてもデメリットなんてそんなにないと思うし。チップとして大銀貨1枚を渡しておいた。

 その後はアリシアが「名誉挽回です!」と言ってのけ、その言葉通りお世話されまくった。
 お風呂ではアリシアに身体を丹念に洗ってもらい、長い髪も丁寧にといでもらった。女の子に自分の髪をお世話されるって、なんだか不思議な気分。初めての経験だったけど、とても気持ちよかった。毎朝してもらおうかな……。そういうとアリシアは柔らかく微笑んでくれた。カワイイ。

 お返しにアリシアを洗う事にした。メイドを言い訳に洗わせてくれないと思ったが素直に洗わせてくれた。家族という言葉が効いたのだろうか。実に嬉しい。いっぱい堪能しよう。

 そのまま服を洗う段階で、ようやく、下着の購入をまたしても忘れていたことに気付いた。やってしまった!
 やること多すぎて……あと前世では下着なんてこだわりなかったし、完全に失念していた。
 もう忘れたりしないようにアリシアに伝えておくことにしよう。

「ねぇ、アリシア。実は下着なんだけど……それ一着だけなの」
「……え?」

 その時のアリシアの驚きようは今日一番だったかもしれない。……え? それほど?

「で、では『白の乙女』以外のお洋服は……?」
「か、『革の鎧一式』だけよ……」
「お母様に金貨10枚を渡してしまえるほど大金をお持ちなのでしょう。なぜ服も下着も買っていないんですか!?」
「わ、忘れてて……?」
「なぜ疑問形なのです! ……はぁ、わかりました、明日一番に買いに行きますからね?」
「あっはい」

 やばい、怒らせちゃったかな……。
 そういえばミーシャにも、「あんたたまにバカよね」って言われたっけ。
 でもしょうがないじゃない。忙しかったんだし……。目覚めて、お金稼いで、レベル上げて、闇ギルド倒して、アリシア貰いに行って……。うん、私は悪くない。スケジュールが悪いのだ!
 アリシアは『白の乙女』を前に、どう洗うべきか思案している。

「あ、でも『浄化』の魔法で綺麗になるから、汚れてもすぐに落とせるよ!」
「そういう問題ではありません」
「あっはい」

 怒られちゃった……。しょんぼりと部屋を見まわしているとあることを思い出した。

「あ、もう1着あったよ。ここにあったベビードール。ここのおじさまに頂いたの」

 ニコニコ笑顔で着てみせると、しばらくポカーンとしたあと、ため息をつかれた。
 あれ? 間違ったかな?

「……お嬢様に常識を問うても仕方がありません。その分は私が全力でサポートいたしましょう」
「うん、アリシアにお世話されるなら安心ね!」
「お……お任せください」

 なにやらアリシアの様子が落ち着かない。挙動不審になりだした視線を辿ってみると……あ、下着つけてなかった。

「なぁに、アリシア。さっきまで熱心に洗ってくれていたのに、気になっちゃうんだ?」

 ベビードールの裾をゆっくりとたくし上げていく。

「め、目を瞑ってましたから」
「いいのよ、アリシアにならいくら見せても」

 限界ぎりぎりまで引き上げると顔を手で隠してしまった。

「お嬢様、お、おやめください」
「キスは良いのに、こっちはダメなんだ?」
「その……お嬢様の肌も、髪も、美しくて。見ているだけで胸がドキドキして……」
「……」

 なんだろうこのカワイイ生き物は。イジメたくなっちゃうじゃない。

「今晩、貴女は抱き枕よ? ちゃんと私の事を見て、目をそらしちゃだめよ?」
「は、はい……」

 といっても抱きしめられるだけの簡単なお仕事だが。アリシアには、少し慣れてもらわないといけないわね。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 晩御飯を食べて、アリシアにひざまくらをしてもらっていると、1つやっていないことを思い出した。

「そうだわ、アレやらなきゃ!」
「あれ、ですか?」
「うん。アリシアもやる? 調合なんだけど」
「調合ですか。森である程度は習いましたね」

 知ってる分野の事が出てきたからか、少し自慢げだ。カワイイ。

「あ、そうなんだ。スキルはいくつなの?」

 そういえばアリシアの生産スキル知らないや。というか生産スキルを見る方法が、錬金術で作る専用のアイテムでしかわからない。
 この世界でも作られているのかな? っていうか無いと、自己申告制になるから詐欺もありそう。

「確か……14ですね」
「お、そこそこあるのね」
「はい。お嬢様は?」
「私は0よ。その内100にするわ」

 まぁ、シラユキを作るためにもまずは58以上は必須ね。

「……はは、ご、ご冗談を」
「えー、冗談じゃないのにー。……え? 本気で冗談だと思ったの?」
「え? 冗談では、なかったのですか……?」

 まさかのマジトーンで返事が来た。え? この世界、生産スキルも大丈夫じゃない!?
 いや、魔法に関する知識がアレなのだ。その結果強い魔物がいるダンジョンや土地の素材がどうしても足りなくなってくる。その結果素材がなければレシピも生まれない悪循環に陥っている可能性すら……。

 このままではシラユキの作製に辿り着けない可能性も出てきてしまう。こちらは魔法が何とかなれば引っ張られて改善されるかも知れないけど、対策は必要ね。

「鍛治、調合、錬金術のそれぞれの人類の最高値は幾つかしら」
「確か、それぞれ54、47、49だったかと……えっと、100というのは本当に……?」
「そうよ。アリシアはこの中からならどれを極めたいとかある?」
「えっと……では調合を」
「分かったわ。じゃあポーションを作るから、まずは違いを見ていてね」


◇◇◇◇◇◇◇◇


 その日、私はもう何度目かも分からない驚きを体験していた。目の前の光景が信じられず、目を何度も擦ったほどだ。

「質問は後ね。とりあえず私が持っている『リト草』と『ゲドク草』が尽きるまでは、見て覚えなさい」

 私の中でも馴染みが深く、森の中でも誰しもが行っていた調合。1つ1つ丁寧に作り上げることで、熟練の調合師なら1束で2本のポーションを作り上げる事が出来る。私が師事した方もその内の1人だった。
 しかし、目の前にいる私の主人はいともたやすく1束から最低2本作り始めた。そう、最低2本だ。しかも本来調合に10分かかるはずの処置を僅か3分に短縮させ、更には3つのフラスコを並べそれぞれ同時に調合を行うなど狂気の沙汰としか思えない。
 だが、主人はそれをやってのける。平然と、まるで当たり前のように。

 本来生産職の人間は、家族であってもおいそれと自分の技術は見せないものなのだ。ただ、私の主人にはそれがない。今日の魔法に関してもそうだ。秘匿はせず、家族ではなくても分け隔てなく教えようとする。
 話せば話すほど、知れば知るほどに尊敬の念が深くなる。自分にできる全てを使って、この人を支えよう。本日何度目かも分からないが、誓いを新たにした。

 しかし、見ているだけは辛い。私も試してみたい。それにこの御方は、私に隣にいてほしいと願っている。なら、私は今ここで、指を咥えて見ているだけではきっとダメだ!

「お嬢様、私も自前の道具を持っているのですが、真似させていただいても構いませんか」
「ええ、良いわよ。一緒にやりましょう!」

 嬉しそうにそう答えた主人の顔が、とても眩しく思えた。

『一緒に調合をする姿もカワイくて良いわね』
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