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恋ってウソだろ?! 51
しおりを挟むACT 4
クリスマスイブ、東京の空は朝からぐずついていて、せっかくのイリュミネーションも雨に煙っている。
直子はジャスト・エージェンシーに出かけたので、佐々木は一人でパソコンに向かっていた。
仕事がもたついている。
昨日の休日も一人オフィスに出てきてやっていたのだが、思うように進まずに結局イチからやり直しだ。
その上、家に帰ってから母屋に出向いて母親にお茶の稽古をつけてもらったのだが、柄杓は落とす、袱紗捌きを間違える、水差しの蓋を戻し忘れる、これで母親が怒らないはずはない。
「周平! 稽古になってません! 今夜はもう、これでしまいです!」
母親の鬼の形相を思い出し、はあ、とひとつ大きな溜息をついて、佐々木はコーヒーを入れにキッチンに立った。
電源を切っている携帯を故意に見ていないのだが、仕事相手は携帯がつながらなければオフィスにかけてくるので、今のところ問題はない。
だが…………。
「いい加減、覚悟決めて話せばいいだけの話やろ。って、覚悟決めなあかんほどのことか」
トモからは昨日も数件、携帯に電話が入っていた。
会社にも何回かかけてきたようだが、たまたま出かけていたりで直接話していない。
取り次いだ直子は電話があったことを伝えるだけで何も聞かないが、トモという男が佐々木とどういう関係かと、怪訝に思っているだろう。
実際に声を聞く方がいい、メールはあまり好きではないようなことをトモは言ってたっけな。
それは佐々木もわかる気がする。
今更やけどな。
昨日は仕事に集中したくて電話線を抜いていた。
「きっちりケジメつけへんから、仕事もうまくいかんのや」
さっさと自分から電話をすればいいだけの話だが、ぐずぐずしているのはけじめをつける度胸がないせいだと、わかっていた。
「別に恋人とかやないんやし。ゲームオーバー言うだけやないか」
そう呟いておきながら、電話が鳴るとドキリと肩が揺れる。
「……はい、佐々木……、あ、直ちゃん、今どこ? え、まだ会社なん?」
佐々木にとっては古巣のジャスト・エージェンシーの新年会の打ち合わせをしてから帰ると言う。
直子はそこから出向という形をとっている。
はよ、帰ってきて欲しいわ、直ちゃん。
「え、俺? そうやなぁ、大和屋のイベントが終わらんうちは予定がたたんなぁ。そう、五日。とりあえず俺は六日以降。無理やったら俺抜きでも………え? わかった。ほな聞いてみて」
直子は佐々木がいないと始まらないだろうと言う。
とりあえず聞いてダメならまた連絡すると言って直子は電話を切った。
相変わらず貧乏なくせにイベント好きな会社だ。
「あ~あ、俺、やっぱまた会社に出戻りたいなぁ」
またしても弱音が口をついて出てしまう。
「俺なんか、あの会社でゆったりやってんのんが合うてるんやけどなぁ」
独り言を言っているうちにまた電話が鳴った。
「はい、やっぱ、あかんかった? 直ちゃん」
「トモです」
てっきり直子だと思って取った受話器の向こうから聞こえてきた声に、佐々木は絶句する。
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