恋ってウソだろ?!

chatetlune

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恋ってウソだろ?! 20

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「だから、子供の頃からトモちゃんって呼ばれてたって、あなたの別れた奥さんと同じトモちゃんだって、言ったじゃないですか、夕べ」
「え……?」
 佐々木は言葉に詰まる。
 友香のことをどうしてこの男が知ってる?
「俺、そないなことまで話しましたか?」
「いや、まだ吹っ切れていないんだったらすみません。でも、そのトモちゃんを忘れさせてくれた人がいたんですよね? ただ、その人も去っていってしまったと……」
 男を凝視したまま、佐々木の思考は一瞬停止した。
「参ったな………そんなに酒に弱かったやなんて、市中引き回しの上磔獄門ってやつやわ。見ず知らずのあなたに」
 冷や汗が背中を伝うような気がした。
「安心して下さい。さらっと恋人がいないってことくらいで、大事な仕事に関係することなんか何も聞いたりしてませんから」
 男は優しく微笑んだ。
「それに、見ず知らずだからじゃないですか? 俺も、ガキの頃から好きだったヤツに振られたって、話しましたよね。その分だと覚えていないみたいだけど」
「あ、そう……なんですか」
 少しだけ、佐々木の中で気がかりが減った気がした。
「せぇけど、あなたは俺のこと、仕事場まで知っているのに、あなたのことはトモちゃんってだけって、やっぱり全然不公平やないですか。俺が名刺渡したんなら、あなたも名刺ください」
 佐々木はキッと男を睨み付けるように言った。
「実は名刺じゃないんですよ、あなたのことが知りたいと思って、手がかりを伝っていったらたまたま、わかったんです」
「はあ?」
「だからもし……あなたが俺のことを知りたいのなら、知る術はありますよ」
「判じ物みたいなこと言わんといて」
 男は爽やかな笑顔を向けた。
「判じ物って……シャーロック・ホームズとか? 会ったばかりの男が手先を使う仕事をしていたとか、嗅ぎ煙草を愛用していたとかフリーメイスンだとか当ててみせたっていうような」
「赤毛連盟ですか。俺はクック・ロビンの殺人事件の方が面白かったな」
「ビショップ・マーダー・ケースですか、ファイロ・ヴァンスも好きですよ。話が合いますね」
 ったくお見合いやないで……話が合うたって、やからなんやね……
「やから、そんなことはどうでも、俺は……」
「だから………、あなたが俺のことを知りたければ、知ることができるってこと。名前なんて、呼べたらいいじゃないですか。トモちゃんでもトモでも何でも」
 知りたければ………そうや、この男のことを知って、どうしろいうんや………
「とりあえず、出ましょう」
 促された佐々木は慌ててバッグを抱えると、立ち上がって部屋を出る男の後に続いた。
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