キラースペルゲーム

天草一樹

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終焉の銃声響く五日目

キラースペルゲーム終了

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「おい! 判定人ども! 今の映像を巻き戻して三百六十度隅々までチェックしろ! 何? もうとっくにやってる? なら早く結果を話せ! 鬼道院と東郷、あの二人は確かに死んだのか!」

 薄いフィルムに向かって喜多嶋は大声で怒鳴りつけている。
 興奮しているのかピエロ顔は赤く染まり、ぎらぎらと血走った眼をしていた。
 フィルムの先の判定人と何度か言葉を交わすうちに、少しずつ元の落ち着きが戻って来る。
 通話を切る頃には完全に普段の状態に。気色の悪い笑みを浮かべながら「キキキキキ」と声を上げた。
 自身の声が血命館にも伝わるようフィルムを操作してから、御方々に対し深々とお辞儀をする。それからくるりとモニターへと振り返り、声を張り上げ、高らかに宣言した。

「キラースペルゲーム終了です! 勝者は、
 神楽耶江美様!
 秋華千尋様!
 六道天馬様!
 おめでとうございます!
 見事ゲームを勝ち残った御三方には、後日ゲームのクリア報酬をお渡ししたいと思います! すぐに迎えの者を遣わしますので、それまでは血命館でごゆるりとおくつろぎください!
 五日間の死闘、お疲れさまでした!」

 キラースペルゲームの閉幕を告げる宣言。
 いつもであれば安堵や喜悦、悲壮な顔など多種多様な表情が見れるこの一瞬。されど今回の勝者たちは、特に表情を変えることなく黙ってそれを受け入れる。

 一人は顔どころか姿が見えず。
 一人はこのゲームで一度として表情が変化しておらず。
 最後の一人も結末に予想がついていたからか済ました顔を崩さない。

 彼ら相手では撮れ高もないかと早々に見限り、館内放送を打ち切る。
 喜多嶋は再び御方々に向き直ると、改めて、大きくお辞儀をした。

「皆さま、この度のキラースペルゲームは如何だったでしょうか? 私としましては杉並の使者様の参加によりこれまでにない白熱したゲームになったのではと考えます! そしてそして、ゲーム勝利者となった三名のプレイヤーも意外性に溢れると同時に、終わってみればどこか納得できる者が揃いました! 途中とあるプレイヤーによって非常に退屈な時間を提供してしまった点は大変申し訳なく思いますが、総合的には満足のいくゲームだったのではないでしょうか! 是非ご感想をお聞きしたいと思います!」

 野田が死んですぐ、杉並の使者はこの場から姿を消していた。そのため今ここにいるのは、喜多嶋と四人の御方々のみ。
 帰り支度を始めつつも、やはり口火を切ったのは八雲だった。

「ふん。確かにゲームとしては悪くなかったが、最後だけは気に食わん。鬼道院の奴、なぜすぐに東郷を殺さなかったんだ。銃口を奴に向けた時点で引き金を引けばその時点で自身がゲームの勝者となっていたはずなのに。教祖などと言う死ぬことに鈍な者を選んでしまったことが腹立たしくて仕方がないわ!」

 声を荒げ、猛然と席から立ち上がる。そして他の観覧者の感想を聞くこともなく、部屋から退出していった。
 憤った様子で帰る八雲を見て、喜多嶋の顔がみるみる青ざめていく。するとそんな彼を励ますように、金光が「とても面白かったよ」と声をかけた。

「君の言う通り、今回のゲームは非常に見応えがあって十分楽しめた。完全犯罪を成し遂げた者たちだけあって、序盤からスペルが飛び交い見応えもあったし。六道君や野田君みたいにゲームを深く知っている者の参加も、実にうまい具合にゲームのアクセントになってたと思うから。まあ最後、東郷君と鬼道院君が相討ちになって、僕たちにどう復讐するつもりでいたか分からなくなったのは残念だったけどさ。是非この調子で続けていってほしいかな。今度のゲームもまた、期待しているよ」
「あ、有難うございます!」

 暖かな言葉をかけてもらい、ほっとした様子で喜多嶋は感謝の言葉を述べる。
 金光も他の観覧者の感想に興味はないのか、そのまま席を立ち部屋を去っていく。
 金光が部屋から去ると同時に、今度は天上院が立ち上がった。

「それでは、妾も帰るとしますよう。ああ、ゲームに関しては金光老と同じく非常に楽しむことができました。まあ、妾が推したプレイヤーが全員死んでしまったのは悔しくありますが。そうだ、この度のゲーム動画も後で送ってくださるのでしょう?」
「はい! それは勿論!」
「では、此度のゲームを見直して、次こそは勝利者を当てられるようにしておきますよう。八雲様も今回予想を外したので、次はもっとスペックの高い人格になって参戦するでしょうからなあ。あまり気を抜いてはいられぬでしょうし。それでは、失礼致しますよう」

 最後まで仮面を外すことなく、扇で顔を仰ぎながら優雅に退場する。
 残っているのは如月のみ。唯一席を立つ気配を見せず、眉間に皺を寄せてじっとモニターを睨み付けている。
 生き残ると予想していた東郷明が最後に死んだため、八雲同様苛立ちを抱いてしまっているのか。
 戦々恐々としながらそっと如月の様子を窺う。
 およそ一分近くの息が詰まるような静寂。
 その後、如月は急に緊張感を解いた様子で息を吐き出した。そして緩慢な動作で席を立ち、喜多嶋に問いかけた。

「君は、これから血命館へと向かうんだったかな?」
「は、はい。司会者の仕事はゲーム勝利者にクリア報酬を渡すまで続きますので。それが如何致しましたでしょうか?」

 何を言われるのかと、やや怯えながら尋ね返す。
 しかし如月に詰問するような様子はない。むしろ憐れんだ瞳を浮かべている。
 緊張しきった喜多嶋の肩に、如月はポンと手を置いた。

「大した意味はありません。ただ、血命館の片づけをする際はできるだけ気を抜かずにやった方がいい。そう忠告しておこうと思いまして」
「は、はい。それは勿論。生き残りの参加者が反逆してくる可能性もありますし、トラップが仕掛けられている可能性もありますので。細心の注意を払って作業致しますが」
「注意を払うのは……いや、何でもありません。最後まで気を抜かずにお仕事頑張ってください。それでは、お疲れ様でした」
「は、はい、お疲れさまでした……」

 如月が部屋を出て、喜多嶋だけが残される。
 しばらくの間どこか呆けたように立ち尽くすも、これからすぐに移動しないといけないことに気づく。
 手早くモニターの電源を消していき、駆け足で部屋を後にした。
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