キラースペルゲーム

天草一樹

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終焉の銃声響く五日目

佐久間哄笑す

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 シアタールームを出た二人は、周囲を見回し誰もいないことを確認した。
 ここに入る瞬間は見られていないため、不意打ちの恐れなどは考えていなかったが、油断は禁物である。
 人がいないのが分かった後は、耳を澄ませて何か音が聞こえないか探ってみる。すると、意外にも何やらすすり泣くような音が微かに耳に届いた。
 それが空耳でないことを確かめようと、明は神楽耶に目を向ける。神楽耶にもしっかりその音は聞こえていたようで、やや硬い表情で頷いてきた。
 二人は再度耳を澄ませ、音の発信源をより正確に特定しようとする。どうやら音は左側の通路――ⅩⅢ号室の六道が寝泊まりしている側から聞こえてくるようだった。
 明は神楽耶に後ろから付いてくるよう囁き、慎重に音源へ向かって歩き出す。
 物置、ⅩⅣ号室、そして六道の泊まるⅩⅢ号室までは何事もなく通り過ぎる。
 念のため六道が部屋から出てくることを考えて、神楽耶に背後を振り返りながら歩くよう指示しつつさらに前進。
 ⅩⅡ号室を過ぎた所で、ついにすすり泣く男の後姿を発見した。
 予想通りというべきか。すすり泣きしている者の正体は佐久間だった。加えて彼の足元には、真っ青な顔でかっと目を見開き、首元を手で押さえつけている架城が転がっていた。
 架城は全く動く気配を見せず、瞬きも全くしない。わざわざ近くに寄るまでもなく、死んでいることは明らかだった。
 まるで前日の一件を想起させる、出来の悪い再現のよう。
 神楽耶がウっと呻き声を漏らす中、明は佐久間の背に声をかけた。

「そろそろ全員動き出すだろうとは思っていたが、まさかお前が架城を殺すとはな。全員生きて助かろう計画は完全に放棄したのか?」
「……その声は、東郷君かな?」

 明の声を聞き、佐久間は緩慢に振り返る。
 悲壮感と絶望感が相混ぜになったような、見ているだけでこちらも落ち込んでしまいそうな顔つき。
 どうせ演技だろうが、その憔悴しきった表情を見ていると、自然に同情心が湧き上がってくる。
 明は小さくため息をついてから佐久間に近づく。が、彼の手に握られているものを見て足を止めた。
 架城の死体に気を取られ気づかなかったが、佐久間の右手にはナイフが握られていた。
 ナイフには血が付いておらず、架城にも出血が見られないことからナイフを使って殺害したとは思えない。しかしこの状況でナイフを気に掛けないでいられるほど、明は図太くなかった。
 先より警戒した声音で、明は改めて佐久間に尋ねた。

「本当に、お前が架城を殺したのか? その右手で持っているナイフで架城を脅し、無理やり毒を飲ませた、とかか」

 佐久間は茫洋とした目で明を眺めた後、自身の持つナイフへと視線を向けた。

「本当に、と聞いてきたということは、多少の信頼は得られていたのかな……。でも、そうか……このナイフを見て、東郷君は……。ああ、だけど……私は、彼女を殺してはいないよ……。このナイフは、たまたま持っていただけで――」
「たまたまでナイフを持つわけないだろう。言い訳にしてももう少しまともな嘘をつけ」

 眉間に皺をよせ、佐久間の戯言を一蹴する。
 佐久間は悲し気に首を横に振る。そして明から視線を外し、憂いを込めた目を神楽耶に向けた。

「神楽耶さん……。あなたなら、信じてくださいますよね……。私が彼女を殺していないと……。私はまだ、一線を越えていないと……」
「それは、その――」

 困ったように神楽耶は視線を彷徨わせる。
 怪しいことは間違いないが、本当に殺したのかどうかは状況から判断しづらい。普通に考えれば、殺害者本人が死体の前ですすり泣くなどと言うことはありそうもないこと。死体を発見して純粋に悲しんでいるとみるのが一般的に思える。しかし、こと佐久間に限っては。殺した直後にその死を悼んで泣くという行為も、決して不自然ではない――容易に想像できてしまうものだった。
 泣いていることが演技なのか。
 否定していることが演技なのか。
 結局答えは見つけられず、神楽耶は「分かりません」と首を横に振った。
 神楽耶にも信じてもらえず、佐久間はいよいよ絶望した表情を浮かべる。しかしまだ諦めてはいないようで、「そうだ、ならあのスペルを唱えてください」と提案してきた。

「宮城さんが所持していた『虚言致死』のスペル。あれを唱えていただければ、私が嘘をついていないことは証明できるはずです……。神楽耶さんは昨日、教祖様に唱えてしまっていますから、東郷君……お願いできないでしょうか? 私は本当に、彼女を殺してはいないのです……」

 瞳に微かな希望の光を宿して、佐久間はじっと明を見つめてくる。
 だが当然、明が彼の提案を受けることはなかった。

「ふざけたことを抜かすな。お前はその宮城が死ぬことになったカウンタースペルを所持しているだろ。そんな奴相手にそのスペルを唱えられるか。お前が今ここで自分の無実を証明したいなら、架城を殺した張本人を連れてくる以外にはない」

 これ以上の戯言には耳を貸す気はない。佐久間相手にでもそれがはっきりと伝わるほど、冷え切った声音で明は告げる。
 数秒の間、佐久間はその意味を咀嚼するように天井を見上げていた。それから今の状況に疲れたのか、大きなため息を一つ。
 吐き出される息と共に、微かに残っていた希望の光が消え、代わりに虚無を想起させる漆黒が瞳に宿る。
 その目はまるで、生きることを諦めたかのような死人の目。
 演技――というにはあまりに真に迫った雰囲気で、これは本当に佐久間がやったわけではないのでは、という思考が頭をよぎる。
 それは神楽耶も同じだったようで、「大丈夫ですか?」と心配そうに声をかけていた。
 しかしその呼びかけに反応せず、佐久間はしばらくの間虚ろな瞳で天井を見上げ続ける。だが、不意に俯くと、肩を震わせ、小さな声で呻き始めた。
 どうしていいか分からず立ち尽くす明たちを前にして、彼の呻き声は徐々にボリュームを上げていく。
 いや、それは呻き声ではなく笑い声。
 館中に響かんとするほどの大声量で、佐久間は笑い声を上げ始めたのだ。

「ふふふふふ! はははははは!! あっはっはっはっは!!!」

 狂気を感じさせる大哄笑。
 館が振動しているのではという錯覚を抱くほどの大声に、明と神楽耶は慌てて耳を塞いだ。
 その唐突な大哄笑は一分以上の間館に響き渡った。そして、その終わりも唐突に訪れた。
 急にピタリと口を閉ざし、今までとはまるで別人のような据わった目付きで虚空を睨む佐久間。
 それから小さく何かを呟いたと思うと、からくりじみた奇怪な動きで首だけを動かし、明たちに目を向けた。そして口をにんまり三日月形に開くと、

「ああ面倒くさい。運営への嫌がらせは、全プレイヤー皆殺しという形で叶えましょう」

 と、穏やかな声で言い切った。
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