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第54話 本気の違い②

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 掃除用具はさすがに持っているらしい。それを借りて、まずはずっと気になっていた、玄関周辺にたまっている、靴で踏み潰された泥の掃除から始めることにした。

 泥の量が凄くて、何度もバケツの水を代えなくてはならない程、泥の量が凄かった。
 だけどかなりきれいになったわね。
 ようやく床が見えてきたわ。

「おお、随分ときれいになるもんだな。」
 感心したようにレオンハルトさまが言う。
「玄関に靴の泥を落とせるように、足ふきマットでも置いてはいかがですか?」

 お店や美術館なんかじゃ、そういったものを置いているものね。レオンハルトさまの家には必要なもののひとつだと思うわ。

「玄関マットか。まあそうだな。考えておこう。掃除しなくて済むようになるなら、そのほうがいいだろうしな。家の中も汚れなくなる。気になってないわけじゃあないんだ。」

「ぜひそうしてくださいな。毎回私が掃除して差し上げるわけにもいきませんし。」
 雑巾を絞りつつ、そう言った。

「一緒に暮らしてくれる人がいれば、その人に掃除してもらうのもありだと思うがな。」
 そう言って、私のほうをチラリと見た。

「そういう方がいらっしゃればいいでしょうけれど、今はいらっしゃらないわけですし。
 きちんと毎日掃除をするか、掃除をしなくてすむようになさってくださいな。」

 私はバケツを移動させつつそう言った。
 玄関ほどじゃないにしても、やはり泥を踏んで歩いているから、キッチンとお風呂場と寝室以外の床は汚れていた。

 そこもきっちり掃除をする。お風呂場とイッチンはお金をかけていると言っていたし、きちんと掃除しているみたいなのよね。その時に床も掃除しているということかしら。

 暖房すらないと言ってたし、寝室にはお金をかけていないみたいだけれど、それでも寝室の床はきれいだったわ。掃除しているのはその3個所のみということかしら?

 ついでに借りたお風呂も掃除して、ベッドマットを立てかけて天日干しにして、ようやく私の掃除が終わった。ふう、メッゲンドルファー子爵家以来ね、ここまでやるのは。

 私の実家は貧乏子爵家で、ほとんど従者らしい従者を雇えなかったから、自分で色々やることが多かったのよね。私は半ば引きこもっていた関係で、世間の知識こそ疎いが、家事や掃除全般は一通り出来るのだ。

 だからお金さえ稼げれば、いつでも一人暮らしが出来ると思っていたのよね。
 手伝ってもらわないと脱ぎ着も出来ない貴族の服を着なければ、誰かに手伝ってもらわなきゃ暮らせないわけではないもの。

 イザークには無理でしょうね。人がいないと何も出来ない人だから。だから私が家を出たら、困ると思っていたんだろうけれど。
 一緒にしないでちょうだいと言いたいわ。

「おお……、見違えるようだな。」
 感心したようにレオンハルトさまが言う。
「そう言っていただけて何よりです。」
 私は汗を拭いながら微笑んだ。

「あんた、いい奥さんになるよ。どうだ?離婚したら、俺のとこに嫁にくるかい?」
「え!?」
 思わずドキリとする。

「じょ、冗談はやめてください。」
 本当に、心臓に悪いことを気軽におっしゃられる方ね。本気にしてしまうわよ?

「冗談じゃないんだがなあ……。」
 そう言いつつ、まだ剃っていない顎髭を手でさすりながら、こちらを見て笑っている。

「そろそろ身を固めようと思っているのは本当さ。俺もいい歳なんでな。」
 と言った。

「レオンハルトさまなら、引く手あまたでしょうね。元王国の第1騎士団長でいらっしゃるのですもの。国からも打診があるのでは?そういうのはお断りされているのですか?」

「いや?……まあ、確かにまったくないわけじゃあないんだがな。ちょくちょく話自体はもらうことがあるよ。国だったり、騎士団を通じてだったりな。先日も紹介を受けて、1人女性と会ってきたが、断ったばかりさ。」

 やっぱりそうなのね。レオンハルトさまと結婚されたい女性なんて、きっとたくさんいらっしゃるに決まっているわ。でも、何が気に入らなくて断ってしまったのかしら?

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