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第54話 本気の違い①

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 ……レオンハルトさまのような?私ったら、ずいぶんと図々しい妄想をしてしまったわ。レオンハルトさまのような素敵な方なら、たくさんお相手もいらっしゃる筈よ。

 ほんの少し、ご近所だからという理由で構っていただけたからって、こんな妄想をしていいお相手ではないわ。レオンハルトさまはただ、お優しいというだけだもの。

 イザークや父から逃げて、自立したいという私の夢を、応援してくれたというだけ。
 強盗に入られて寝るところのなくなった私を心配してくださっただけ。それだけよ。

 思わず恥ずかしくなって頬をおさえる。
「どうかしたか?」
「いえ、なんでもありません。」
 というか、言えません……。

 私はそう言って無言で朝ごはんを口の中に運んだのだった。朝ごはんはどれもとても美味しかった。特にパンをおかわりした。レオンハルトさまがご自分で焼いているらしい。

 ひょっとして、パン作りもご趣味なのかしら?先日いただいたクッキーも、とても美味しかったし、料理がとてもお上手なのね。

 料理の得意な男性というのはいいわね。一緒に料理を出来るというのもいいけれど、お互い得意な料理があったら、とても楽しいと思うわ。私も料理が好きだし、こうして時々一緒に作れたら楽しそうだと思った。

 そうよ、これからはご近所さんなんだし、時々一緒に料理を作りませんか?とお誘いするのは、少しも不自然ではないわ。

 レオンハルトさまは、掃除は苦手でも料理はお好きなようだし、今朝も一緒に朝ごはん作りを楽しんでくださったもの。

 一緒に料理をしたいとお誘いしたら、きっと喜んでご一緒してくださるのではないかしら。もしそうなれたら素敵ね。料理を誰かと一緒にしたいというのは、私の夢の1つだ。

 それに、料理を通じて、もっとレオンハルトさまと親しくなれるかも知れないわ。
 騎士団を引退したということは、かなり時間には余裕がある筈だもの。

 初めてお会いした時も、虫干しをしながら本を読んで時間を潰していらっしゃったし。
 気軽にお誘いしてみようかしら?
 そんなことを考えつつ料理を咀嚼する。

「食事が終わったら、私、レオンハルトさまの家の掃除をやらせていただきますね。
 料理と、泊めていただいたお礼です。」
 私は笑顔でそう宣言した。

「料理は一緒に作っただろう?」
「でも、突然泊めていただいたことは事実ですから。……それに、以前からずっと気になっていたんです。」

「──俺のことがか?」
「違います!その……ある意味違いませんけれど、レオンハルトさまのお家の廊下のことです。かなり汚れてらっしゃいますよね?」

 ……本当は少し気になっています。
 なんて、そんなことは恥ずかし過ぎて口にだして言えないけれど。今はそれを言う権利もないし。いつか言える日がくるかしら?

 ……実際かなり気になっているのだから、あまり際どい冗談を言うのはやめていただきたいわ。ドキッとしてしまうもの。本当に毎回心臓に悪い発言をされる方だわ。

「ああ、まあ確かにな。俺は気にしないが、客を呼ぶにはあまりいい環境とは言えないかも知れないな。掃除してくれるのか?」
「はい、お礼にと思って。」

「そいつは助かるよ。そろそろ誰か人でも雇ってやらなくちゃならないかと思っていた頃だったんだ。任せて構わないか?」
「はい、どうぞお任せくださいね。」

「じゃあ、申し訳ないが頼んだ。いや、本当に助かるよ。やらなきゃとは思うんだが、掃除だけはどうしても苦手なもんでな。」
「だと思いました。」

 私はそう言ってクスリと笑った。
 やっぱりかなり苦手でらしたのね。
 朝ごはんを食べ終えて、私はレオンハルトさまの家の掃除をすることにした。

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