上 下
99 / 190

第46話 新しい大きな仕事の依頼①

しおりを挟む
「描いて欲しいテーマは、うちの家族3人の肖像画です。この工房は代々続く伝統ある工房でして。それを残しておきたいのです。」
「家族の肖像画……。」

 そう言えば、人物を描くのは初めてだわ。
 私にうまく描けるかしら……。
 しかも100号という巨大なサイズ。
 ちょっぴり不安になってくるわね。

「100号とは具体的に、どのような大きさなのでしょうか?かなり大きいのだろうということだけは、想像出来ますが……。」

「でしたらこちらに本物があります。」
 そう言って、工房長が私を手招きして呼び寄せた場所に、巨大なキャンバスがいくつも立てかけられていた。

「こちらのキャンバスですね。
 これが100号サイズの物になります。」
 工房長が、よっ、と言いつつ取り出したのは、私の身長はあろうかという高さの、巨大なキャンバスだった。

「こちらは横幅が1303ミリのものになりますね。ちなみに1112ミリのものと、970ミリのものもありますが、3人並ばせるのであれば、1303ミリのものがよいでしょう。1人座らせるにしても、立たせた時に全身を描きやすいキャンバスかと。」

「……そうですね、バランスを考えると、1人は座らせたいです。それと、もう少し横幅が狭い方が、考えている構図には余白が余り過ぎなくてよいかなと思っています。」

「では1112ミリでしょうか。」
「見せていただいても?」
「どうぞ。」

 工房長が1112ミリ幅のキャンバスを引っ張り出して見せてくれたのだけれど、思ったより縦長に見えた。
 縦幅はすべて1621ミリ前後らしい。

「……これだと、バランスを考えた時に、先程のもののほうが、まだイメージが近いですね。あまり細いと全身を入れたら、今度は上下が余ってしまう気がします……。」

「では1303ミリになさいますか?」
「そうですね、それでお願いします。」
 サイズは1303ミリ幅に決まった。

「わかりました、キャンバスはご自宅に運ばせましょう。我々がご自宅にお伺いしますので、そちらで絵を描き進めて下さい。」

「わかりました、誠心誠意、引き受けさせていただきますわ。」
 こんな大作、初めてだけど、頑張って描きあげよう。せっかくのお仕事だもの。

「それと、軸の長い筆がほしいですね。キャンバスいっぱいに絵を描こうと思ったら、筆を長く持たないと、バランスが崩れる気がします。そういう筆はありますか?」

「ありますよ。必要であれば、ご希望の長さに合わせて特注も可能です。」
「ではこのぐらいの……長さのある筆が欲しいです。」

 私は手で幅を示した。筆を長く持って絵を描く練習も必要ね……。
 長い筆で描くにはコツがいりそうだわ。

「その長さだと、特注になりますね。すぐに作らせましょう。正確に長さを測らせてください。──巻き尺を持ってきて。」

 従業員にそう指示をすると、従業員に持ってこさせた巻き尺で、私の手で示した幅を測りだした。巻き尺を巻き取ると、

「では、すぐに取り掛かります。1日あれば作れますので、すぐにお届けしますね。」
「はい、よろしくお願いいたします。」

「アルベルトを呼んできてくれ。」
 今度は従業員にアルベルトを呼びに行かせた。すぐにアルベルトがやって来て、この長さの筆を作ってくれ、と指示をしていた。

 絵の具だけじゃなく、それ以外の画材も作っているのかしら。──と思ったら、
「わかった。指示しておく。」
 とアルベルトが言った。

 後継者として、職人の管理もしているのかしら?画材を作る人は専門にいるのね。
 職人として、しっかり仕事をしているんだわ。料理のことといい、案外大人なのね。

 そして私に気付き、
「彼女に絵を頼んだの?」
 と祖父に尋ねた。

「ああ。お前の提案通り、肖像画を飾るのも悪くないと思ってな。彼女の絵は温かい。
 素晴らしい肖像画が出来るだろう。」

「そう。──良かったね。」
 そう言って、アルベルトが私にニッコリと優しく微笑んだ。ひょっとして、これはアルベルトの提案が発端の仕事だったの?

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深
恋愛
 国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。  婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。  こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?  小説家になろうの方でも公開しています。 2024/08/27  なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、142話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(11/21更新)

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...