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第43話 新しい生活③

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「これ、いいですね。気に入りました。」
「そう。着ていく?」
「ええ、このまま着ていこうかと。」
「わかった。じゃあこれをください。」

「アルベルトが、ついに女の人に服を買う日がきたのねえ。感慨深いわあ。」
 店員さんが頬に手を当てながら、うっとりと目を細めている。

「えっ?これは自分で……。」
「いい、プレゼントさせて。引っ越し祝い。
 新しい生活に。」

「そ、そうですか?ありがとうございます。
 なんか悪いわ……。」
 私は思わず恐縮してしまう。

 思えば男の人から服をプレゼントされるのなんて初めてじゃないだろうか。パーティに必要な服はイザークが準備していたけれど、あれは仕立て屋さんが選んでいるものだし。

「その……。似合ってる。」
 恥ずかしそうに目線を反らしながら、アルベルトが褒めてくれる。
「あ、ありがとう……。」

 私も思わず恥ずかしくなってくる。
 将来のお嫁さんにする人に服を買う為に、今まで一度も誰にも服を選んであげなかったというアルベルト。その言葉を思い出す。

 冗談……よね?私がまだ結婚していることだって、さっき知っただろうし、何より私はアルベルトの苦手な年上なんだもの。

 他にも複数洋服を選んで購入する。アルベルトのお母さまがお気に入りなだけあって、可愛らしい平民服がたくさん揃っていた。

「洋服ダンスを買おう。」
「確かに必要ね……。」
 これだけの服を、直接並べて置く、というわけにもいかない。

「町に納品している大工がいる。洋服ダンスのひとつくらいなら、わけてくれる筈。」
 そう言って、いったん購入した服を店に預けたまま、今度は大工さんのところへ行く。

「よう、アルベルト、珍しいな、お前が女連れとか。今日はどうしたんだ?」
「この人、新しい村人。さっき服を購入したから、洋服ダンスが欲しい。」

「そうか!納入予定で作ってた洋服ダンスがあるんだが、まだ納期も先だし、ひとつわけてやるよ。引っ越し祝いだ、持ってきな。」

「わ、悪いですよ……。」
「いいさいいさ、これからお仲間になるんだから。お互い助け合っていこうぜ。」
「あ、ありがとうございます……。」

 無事洋服ダンスを手に入れて、アルベルトがそれを家に運んでくれた。私が鍵を開けて扉を開くと、アルベルトが2階の居住スペースまで、洋服ダンスを運んでくれた。

 それから古着屋さんに戻って、預けてあった洋服を取りに行くと、洋服を持って家に戻り、洋服ダンスの中へとしまった。

「生活に必要なこまごまとしたものや、食器なんかは、この村にはないから、明日町に買いに行こう。俺、明日休みだから。」

「ありがとう、何から何まで悪いわね。」
「せっかくのご近所さん。仲良くやろう。」
 アルベルトが微笑んでくれる。ありがたい話だわ。こんな優しいご近所さんばかりで。

 素材はもらえても、調理器具がないから、というわけで、その日の夕ご飯も、アルベルトの家で食べさせてもらえることになった。
 しかもそのまま泊まらせてくれることに。

 アンの家にでも寄ろうと思っていたのだけれど、よく考えたら新婚さんのお邪魔をするのは、よくなかったわね。

 お昼ご飯はみんな仕事に出ているから、ということで、村の入口の食堂に行くよう、案内を受けた。料理の支度が面倒な時や、たまの外食に、よく使っているらしい。

 アルベルトも仕事に行ったので、私は家に鍵をかけて、1人、村の入口まで歩いて行った。この村には何度も来たけれど、食堂に入るのは初めてだわ。

 ロイエンタール伯爵家の御者も、確か美味しかったと言っていた筈だ。
 ドアノブを回してお店の扉を開けると、
「おや、久しぶりだな。」

 そこには1人で昼食を食べている、レオンハルトさまの姿があった。そうか、彼もこの村で一人暮らしをしていたんだったわね。

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