お題小説

098 ： 返還

６

「おじさん…どうしたの？
どうして泣いてるの？」

「ごめんよ、ミシェル…
おじさんにも君と同じくらいの子供がいたんだけど、死んじゃったんだ…
それで…」

「可哀想に…
でも、その子はきっと死んでもおじさんのことを見守ってくれてるっと思うよ。
だから、おじさんも悲しまないで…
おじさんが悲しんだら、その子もきっと悲しむから…」

そう言って、ミシェルは小さな手で私の涙をぬぐってくれた。



「ありがとう、ミシェル…
パパやママを大切にして、元気でね…」

「うん！パパやママにはとってもお世話になったから、これからは僕が二人を大切にするんだ！」

「ミシェル…おまえのためにわざわざお守りを持って来て下さったおじさんの顔をようく覚えておきなさい。」

「うん！」

ミシェルが、私の顔をじっと見つめる…
彼の中にエリーゼの面影を…今までの彼との思い出を感じ、いたたまれなくなった私は視線をあわせていることが出来なくなってしまった。



「…では、ベルガーさん、私はもう行かなくてはなりませんから…」

「ヴィクトルさん、玄関までお送りします。」

立ちあがった私を、ベルガーが追って来た。



「ヴィクトルさん、本当にありがとうございます。」

「いえ…こちらこそ…
あんな風にロザリオを渡して下さって感謝しています。」

「ミシェルの事は心配なさらないで下さい。
彼には、十分な教育を受けさせ立派に育ててみせます。
万一のことも考えて、私達は近々大きな町に移ろうと考えていたのです。
大きな病院のある町に…」

「そうでしたか…
どうぞ、ミシェルのことをよろしくお願いします…」

私は、ベルガー氏と固い握手を交わし、その場から駆け出した。
ここで振り返ったら…ここで立ち止まったら…
私は、ミシェルを離すことが出来なくなってしまうかもしれない…

だから、私は走った。
ベルガー夫妻のあの赤い屋根の家が見えなくなるまで…息が切れるほどに…






さようなら…ミシェル…
どうか、幸せに…