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ルカ(聖夜月ルカ)

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098 : 返還

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「彼女は、たった三ヶ月しか彼の傍にいられませんでしたが、ミシェルのことを心から愛していました。
まさに、ミシェルは彼女の命そのものだったのです。
ですから…どうか、これを彼の傍に置いてやってほしいのです。
もちろん、これが実の母親のものだなんてことはおっしゃらなくて構いません。
お守りだと…そう言って渡して下されば…
そうすれば、私も安心してここを離れることが出来ます…」

「ここを離れる…?
では、ヴィクトルさん、あなたはミシェルを取り戻しに来られたわけではないのですか?!」

「ええ…
私もあれから心が揺らいだことはありました。
じっくりと自分の心と向き合い…そして結論を出しました。
ミシェルにとって、何が一番幸せなのかということを…」

「ヴィクトルさん…!!」

夫人は感極まったのか、夫の胸に顔を埋めて泣いていた。



「ママ…どうしたの?」

ふと見ると、そこにはミシェルが立っていた。



「ミシェル、ここに来ちゃだめって言ったでしょう!?
お部屋にもどりなさい!」

「ママ、どうして泣いてるの?
あ…このまえのおじさん…
おじさんがママを苛めたの!?」

「そうじゃない。
……ミシェル、こっちに来なさい。」

ベルガー氏はミシェルを自分の傍に呼び寄せた。



「このおじさんはね…おまえが二度と酷い病気をしないようにとお守りを持って来て下さったんだよ。」

「お守り…?」

ベルガーは、エリーゼのロザリオをミシェルの首にかけてくれた。



「少し長いから、後で調節しような。
さぁ、ミシェル…おじさんにお礼を言いなさい。」

「そうだったの…おじさん、ごめんね、間違えて。
それと、お守りありがとう…!」

「ミシェル…!!」

私は思わず彼の身体を抱き締めてしまっていた。
こうして彼の温もりを感じられるのもこれが最後なのだ…
そう思うと、胸が張り裂けそうに痛んだ…
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