お題小説

095 ： 修道院

１１

その日はまるで私に味方するかのような天候だった。
朝は良い天気だったが、夕方近くから曇り空になって来たのだ。
彼女は毎日、近所の雑貨店で働いている。
こんな天候なのだから、彼女ははきっと傘を持っていないはずだ。
私は雑貨店から少し離れた道で彼女が来るのをじっと待った。
空からはぽつりぽつりと雨が降り出して来た。
しかし、まだそれほどたいした雨ではない。
早く、もっと雨が降り出すようにと空に向かって念じていると、私の祈りが通じたのかのように、そのうちにバケツをひっくり返したような土砂降りの雨が降って来たのだ。



（来た…！）



視界さえ遮られる激しい雨の中をマリアが走り込んで来るのが見えた。
私は、道に飛び出すと、わざと彼女にぶつかり派手に転んで見せた。



「ご、ごめんなさい！
大丈夫ですか？
あ…大変！お洋服が…！」

私はこの計画のために、わざと白いシャツとズボンをはいてきたのだが、計画通り、その服は泥にまみれ見事に汚れてくれた。

「そんなこと…
それよりも、あなたは大丈夫ですか？
お怪我はありませんか？」

「いえ…私はどこも…」

「それは良かった…
あれ…？あなたの傘が見当たらないようですが…」

「私、傘は持ってないんです。」

「えっ！そうだったんですか？
…じゃあ、これを使って下さい。」

「いえ、そんな…
私は大丈夫ですから。」

「女性が困ってらっしゃるのに、そのまま見過ごすなんてことは出来ませんよ。
さぁ、もって行って下さい。」

「そ、そんな…」

私は、彼女に微笑みかけ、そのまま走り去った。



彼女は、なにかを叫んでいるようだったが、私は振り返ることもせずに走り続けた。
これで、彼女の中にしっかりと私のことを印象付けられたはずだ。

そのことが私の思い込みではなかったことが次の日にはっきりとわかった。