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095 : 修道院
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*
「あ…あなたは昨日の…」
「あ…あぁ、昨日はどうも…」
私は昨日と同じ時間に同じ場所にいた。
そこで彼女に会えると思ったからだ。
「あの…昨日はどうもありがとうございました!」
「いえ…少しはお役に立てましたか?」
私はそう話しながら、咳をして見せた。
「もしかしたら昨日の雨のせいで風邪をひかれたのではありませんか?!」
「違いますよ。
前から少し風邪気味だったんです。
昨日のことは関係ありませんから、お気になさらないで下さい。
では…失礼します。」
「あ!待って下さい!
昨日、お借りした傘をお返ししたいのですが…」
「良いんですよ、あんな傘のことなんて。
適当に処分して下さい。」
「そんなこといけません!
今から取って来ますから、少しここでお待ちいただけませんか?」
「今日は少し急いでますので…」
「そうなんですか…では…どうしましょう…」
「……そうだな…では、明日ではいかがですか?
明日の今頃、町の広場で…」
「わかりました!では、よろしくお願いします!」
うまくいった…私は込み上げてくる笑いを押さえることが出来なかった。
パトリスは、昨日までは雑貨屋へ日参していたようだが、彼女の態度がそっけないためか、ここ数日は姿を現していない。
おそらく新しい作戦を考えているのだろう。
考えてから行動した私の方が少しリードしているように思えた。
しかし、問題はこれからだ。
ここでしくじったら、今までの苦労が水の泡になる。
これからは、一層慎重に事を運ばなくてはならない。
*
「あ!こんにちは!」
少し遅れてその場に着いた私に、彼女が無邪気に手を振った。
「遅れてしまって、すみません!」
「そんなこと、良いんですよ。
それより…傘、どうもありがとうございました!」
「わざわざ、どうもすみませんでした。
却ってお手間をかけてしまいましたね。」
「いいえ。あの時は本当に助かりました。
あの…お洋服は、大丈夫でしたか?」
「あぁ…あれなら、汚れが取れそうになかったので捨ててしまいました。」
「そんな…私のせいで…どうしましょう…
そうだわ、私、弁償します!
おいくらですか?」
「良いんですよ。転んだのは私なんですから。
それに、一番悪いのはあの雨ですよ。
天が相手ではどうしようもありませんからね。」
「あ…あなたは昨日の…」
「あ…あぁ、昨日はどうも…」
私は昨日と同じ時間に同じ場所にいた。
そこで彼女に会えると思ったからだ。
「あの…昨日はどうもありがとうございました!」
「いえ…少しはお役に立てましたか?」
私はそう話しながら、咳をして見せた。
「もしかしたら昨日の雨のせいで風邪をひかれたのではありませんか?!」
「違いますよ。
前から少し風邪気味だったんです。
昨日のことは関係ありませんから、お気になさらないで下さい。
では…失礼します。」
「あ!待って下さい!
昨日、お借りした傘をお返ししたいのですが…」
「良いんですよ、あんな傘のことなんて。
適当に処分して下さい。」
「そんなこといけません!
今から取って来ますから、少しここでお待ちいただけませんか?」
「今日は少し急いでますので…」
「そうなんですか…では…どうしましょう…」
「……そうだな…では、明日ではいかがですか?
明日の今頃、町の広場で…」
「わかりました!では、よろしくお願いします!」
うまくいった…私は込み上げてくる笑いを押さえることが出来なかった。
パトリスは、昨日までは雑貨屋へ日参していたようだが、彼女の態度がそっけないためか、ここ数日は姿を現していない。
おそらく新しい作戦を考えているのだろう。
考えてから行動した私の方が少しリードしているように思えた。
しかし、問題はこれからだ。
ここでしくじったら、今までの苦労が水の泡になる。
これからは、一層慎重に事を運ばなくてはならない。
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「あ!こんにちは!」
少し遅れてその場に着いた私に、彼女が無邪気に手を振った。
「遅れてしまって、すみません!」
「そんなこと、良いんですよ。
それより…傘、どうもありがとうございました!」
「わざわざ、どうもすみませんでした。
却ってお手間をかけてしまいましたね。」
「いいえ。あの時は本当に助かりました。
あの…お洋服は、大丈夫でしたか?」
「あぁ…あれなら、汚れが取れそうになかったので捨ててしまいました。」
「そんな…私のせいで…どうしましょう…
そうだわ、私、弁償します!
おいくらですか?」
「良いんですよ。転んだのは私なんですから。
それに、一番悪いのはあの雨ですよ。
天が相手ではどうしようもありませんからね。」
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