お題小説

094 ： 名声と恋

１４

「クロワさん…
あなたは何を隠しているのですか？
何がそんなにもあなたを苦しめているのです…？
私に…あ…！！クロワさん…！！」

クロワはクロードの言葉が終わらないうちに、その場から走り去って行った。



（クロワさん……）



＊



それから数日後の昼休み、クロワがクロードの部屋を訪ねた。



「あぁ、クロワさん…何か？」

「先生…勝手なことを言って申し訳ないのですが、こちらを辞めさせていただきたいのです。」

「えっっ！」

クロードは目を大きく見開き、クロワをじっとみつめた。



 「……そうですか。わかりました。
一つだけ、お聞きしたいのですが…クロワさん、それは私が嫌いだからですか？」

「……いえ、そうではありません。」

「どうか正直に答えて下さい。
本当に私のことは嫌いではないのですか？」

「……はい。
先生のことは嫌いではありません。」

その言葉に、クロードは満足したように微笑んだ。



「そうですか…
あなたは今まで本当によく働いてくださいました。
ありがとうございました。
ただ…少し準備もありますので、今月末まで働いてはいただけないでしょうか？」

「……わかりました。
勝手なことを言って、本当に申し訳ありません。」

「ここをやめられたら…またマルタンさん達と旅に出られるのですね。」

「はい、そのつもりです。」

「そうですか…わかりました。
では、今月末までよろしくお願いしますね。」

クロードはクロワに向かいにっこりと微笑んだ。



（先生、本当にごめんなさい…）



 遣り甲斐のある仕事、待遇も給料も良くやめたい理由等本当はないのだが、クロワは、ただ、クロードの気持ちが怖かった。
 自分の気持ちがクロードに向いていくことが怖かった。



（私には、誰かに愛される資格なんてないんだから…）