260 / 389
045 : 盗み聞きの値段
15
しおりを挟む
「カール…騙されないようにすることはもちろん大切なことだけどな、だからといってなんでもかんでも疑うのは間違いだ。
誰でも彼でも疑うのは、おまえに人を判断出来る目がないからだ。
大切なのは疑うことじゃない。
誰が本当のことを言ってて、誰が騙そうとしてるのかを見極める事だ。
……世の中ってのはな、悪い奴や冷たい奴ばかりじゃないんだ。
そうじゃない奴だって悪い奴と同じくらいたくさんいるんだぜ。
おまえ、あのクロワさんがおまえ達を騙そうとしてるって思うのか?
第一、騙して一体どんな得があるってんだ?
クロワさんはな、今までだってたくさん困ってる人を助けて来た。
この俺だって、クロワさんやマルタンに救われたんだぞ。
おまえが今回の治療費をどうしても返したいと思うのなら、おまえが大きくなって、誰かを助けられるようになってから返せば良い。
……ただし、返す相手は俺達じゃないぞ。
今のおまえみたいに困ってる人にだ。
その頃にはきっと俺の話の意味がわかる筈だ。
世の中には損得関係なしに困ってる人を放っておけない者がいることも、どいつが悪い奴でどいつがそうじゃないかってこともな。」
リュックはいつもより低い声で話していたが、その声には熱がこもっていた。
彼なりの飾らない言葉で、カールにわかりやすいようにゆっくりと話されたその内容に偽りがないことは明らかだった。
「リュックさん…本当にありがとう。
俺…本当に感謝してる…」
目を潤ませたテリーの隣で、カールは何も言わず俯いたままだった。
幼い彼にリュックの話がうまく伝わったかどうかはわからない。
だが、利発な彼のことだ。
きっと、今夜のことを忘れはしないだろう。
「カール、おまえはクロワさんとここに泊まりこみだ。
テリーは明日も仕事があるんだろ?
俺とマルタンがおまえの家に泊まらせてもらうよ。」
「リュックさん、俺、一人だって大丈夫だ。」
「ま、そう言うな。
おまえだって、まだ大人じゃないんだから。
……じゃ、クロワさん、後のことは頼んだ。」
「ええ。」
私達は、テリーと連れ立って診療所を後にした。
クロワと並んで手を振るカールの青い瞳は、ずっとリュックをみつめていた。
誰でも彼でも疑うのは、おまえに人を判断出来る目がないからだ。
大切なのは疑うことじゃない。
誰が本当のことを言ってて、誰が騙そうとしてるのかを見極める事だ。
……世の中ってのはな、悪い奴や冷たい奴ばかりじゃないんだ。
そうじゃない奴だって悪い奴と同じくらいたくさんいるんだぜ。
おまえ、あのクロワさんがおまえ達を騙そうとしてるって思うのか?
第一、騙して一体どんな得があるってんだ?
クロワさんはな、今までだってたくさん困ってる人を助けて来た。
この俺だって、クロワさんやマルタンに救われたんだぞ。
おまえが今回の治療費をどうしても返したいと思うのなら、おまえが大きくなって、誰かを助けられるようになってから返せば良い。
……ただし、返す相手は俺達じゃないぞ。
今のおまえみたいに困ってる人にだ。
その頃にはきっと俺の話の意味がわかる筈だ。
世の中には損得関係なしに困ってる人を放っておけない者がいることも、どいつが悪い奴でどいつがそうじゃないかってこともな。」
リュックはいつもより低い声で話していたが、その声には熱がこもっていた。
彼なりの飾らない言葉で、カールにわかりやすいようにゆっくりと話されたその内容に偽りがないことは明らかだった。
「リュックさん…本当にありがとう。
俺…本当に感謝してる…」
目を潤ませたテリーの隣で、カールは何も言わず俯いたままだった。
幼い彼にリュックの話がうまく伝わったかどうかはわからない。
だが、利発な彼のことだ。
きっと、今夜のことを忘れはしないだろう。
「カール、おまえはクロワさんとここに泊まりこみだ。
テリーは明日も仕事があるんだろ?
俺とマルタンがおまえの家に泊まらせてもらうよ。」
「リュックさん、俺、一人だって大丈夫だ。」
「ま、そう言うな。
おまえだって、まだ大人じゃないんだから。
……じゃ、クロワさん、後のことは頼んだ。」
「ええ。」
私達は、テリーと連れ立って診療所を後にした。
クロワと並んで手を振るカールの青い瞳は、ずっとリュックをみつめていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
転生したので生活環境(ダンジョン)作ります。
mabu
ファンタジー
気がついたらダンジョンコアとして転生してしまったので開きなおって生活環境を整えていこうと思います。
普通に環境を整えるのとは違うみたいだけど
好きにしてイイそうなので楽しみます!
書き溜めをしてから投稿していこうと思っていたのですが
間違えて即投稿してしまいました。
コチラも不定期でマイペースに進めていくつもりの為
感想やご指摘等にお応えしかねますので宜しくお願いします。
収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい
三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです
無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す!
無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!
妾の子だった転生勇者~魔力ゼロだと冷遇され悪役貴族の兄弟から虐められたので前世の知識を活かして努力していたら、回復魔術がぶっ壊れ性能になった
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
◆2024/05/31 HOTランキングで2位 ファンタジーランキング4位になりました! 第四回ファンタジーカップで21位になりました。皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!!
『公爵の子供なのに魔力なし』
『正妻や兄弟姉妹からも虐められる出来損ない』
『公爵になれない無能』
公爵と平民の間に生まれた主人公は、魔力がゼロだからという理由で無能と呼ばれ冷遇される。
だが実は子供の中身は転生者それもこの世界を救った勇者であり、自分と母親の身を守るために、主人公は魔法と剣術を極めることに。
『魔力ゼロのハズなのになぜ魔法を!?』
『ただの剣で魔法を斬っただと!?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ……?』
『あいつを無能と呼んだ奴の目は節穴か?』
やがて周囲を畏怖させるほどの貴公子として成長していく……元勇者の物語。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
おしとやかな令嬢だと思われていますが、実は王国内で私だけ無限にスキルを取得できるので、裏では最強冒険者として暗躍しています。
月海水
ファンタジー
表の顔はおしとやかな令嬢。
でも、裏の顔は赤いフードを被った謎の最強冒険者!?
エルバルク家の令嬢、キリナは他に誰も持っていない激レアスキル『スキル枠無限』の適正があった。
この世界では普通なら、スキル枠はどんな人間でも五枠。
だからできることが限られてしまうのだが、スキル枠が無制限のご令嬢は適正のあるスキルを全部取得していく!
そんなことをしているうちに、王国最強の人間となってしまい、その力を役立てるため、身分を隠してこっそりと冒険者になったのだった。
正体がバレないよう、こっそり暗躍する毎日です!!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる