上 下
8 / 50
第一章

第2話(3)上から目線

しおりを挟む
「ふふふ……」

 黒い翼で身を包んでいる美しい顔立ちのその女が妖しげな笑みを浮かべる。

「お前は……逆さま女!」

「⁉ 見たまんまじゃないの!」

 女が妖しげな笑みを崩し、タイヘイに突っ込みを入れる。

「お前……」

「なによ……」

「頭に血が上らないのか?」

「余計なお世話よ! 私を見て最初に抱く感想がそれ⁉」

「だって、初めて会ったわけだしな……」

「私のことを知らないの?」

「あいにく……ちっとも」

「ち、ちっとも⁉」

 女は愕然とする。タイヘイは申し訳なさそうにする。

「すまん……有名なのか?」

「有名もなにも!」

「!」

 女が木の枝をくるっと半周し、タイヘイの方に向き直り、体を包んでいた黒い翼を広げて、高らかに宣言する。

「この辺を抑えているリーダー的存在、『黒き翼のモリコ』とはこの私のことよ!」

「黒き翼……?」

「そうよ」

「黒一色の間違いじゃないのか?」

 タイヘイはモリコを指差す。黒い髪に黒い瞳、そして服装も上下黒で統一している。

「そ、そんな二つ名を付けるわけないでしょう!」

「似たようなもんだと思うが……」

「似てないわよ!」

「そうか?」

「あ、あなた……この辺のリーダー的存在である私に対して、良い度胸しているわね……」

「この辺のリーダー的存在って結構曖昧だな」

「う、うるさいわね! ただの人間が偉そうな口を!」

「ただの人間?」

「そうよ、あなたみたいなのは、私に頭を垂れるべきなのよ!」

「へえ……そうかよ!」

 タイヘイはモリコが立っている太い木に思い切りぶつかる。モリコが驚く。

「なっ⁉ なにをするつもり⁉」

「その上から目線が気に食わねえから、引きずり下ろす!」

「ど、どうやって⁉」

「こうやってだ! うおおっ!」

 タイヘイが木を引っこ抜く。モリコが驚く。

「ぶ、物理的に……⁉」

「そらっ!」

「くっ⁉」

 タイヘイが木を投げる。

「はあ、はあ……どうだ?」

「危ない、危ない……」

「ん⁉」

 モリコが空中に浮かびながら腕を組み、タイヘイに尋ねる。

「ひょっとして……あなた、『超人』?」

「は?」

「それならばその怪力も説明が付くわ……でもそれなら、三兄弟に喰らわせた石頭は一体どういうこと? まさか天然?」

「何を訳の分からないことを言っていやがる! 降りてこい!」

 モリコはタイヘイの言葉を鼻で笑う。

「はっ、降りるわけがないでしょう。怪力自慢とまともにやり合う気はないわ」

「そうか……よ!」

「えっ⁉」

 タイヘイが足裏から火を噴き出して、モリコの高さに到達する。

「どうだ、これでもう見下せねえな!」

「高さを保っている……? 超人は人並み外れた能力は一つくらいしか体得出来ないはず……ほ、本当にどういうこと?」

「面食らっている暇あんのかよ!」

「むっ⁉」

 タイヘイが足裏から火をさらに噴き出し、モリコに向かって突っ込む。

「行くぞ!」

「ちっ!」

「のわっ⁉」

 モリコが翼をはためかせ、強風を起こして、タイヘイを後退させる。

「き、気安く接近させるわけがないでしょうが……」

「ぐっ……な、なんて圧だ、さっきの連中とは違う……」

「当たり前でしょう! リーダー的存在をあんまり舐めないでちょうだい!」

「どわっ⁉」

 モリコがさらに高速で翼をはためかせ、より強い風を起こし、タイヘイを後方に吹っ飛ばす。モリコは笑みを浮かべる。

「はん……私が本気を出せばざっとこんなものよ……」

「そ、その翼が厄介だな……」

「ん?」

「まずそれを黙らせないと話にならないな……」

「そうね、接近すらままならないものね」

「ああ、よって……」

「よって?」

「その翼を黙らせる!」

 タイヘイはビシっとモリコの黒い翼を指差す。モリコが首を傾げる。

「はあ?」

「悪いがそのご自慢の翼、無力化させてもらうぜ」 

「出来るものならやってみなさいよ、出来るものならね!」

「ああ、やってやるよ!」

 タイヘイの両手が鋭い鎌のような形状に変化する。モリコが驚く。

「なにっ⁉」

「行くぞ!」

「ちょ、ちょっと待った!」

「待たねえよ!」

「マ、マズい……!」

 危険を察知したモリコが慌てて回避行動を取ろうとする。

「逃がさねえよ!」

「ぐっ⁉」

 タイヘイが両手を振るうと、風の斬撃が飛び、モリコの黒い翼を傷つける。モリコはバランスを崩し、空中でよろめく。

「もらった!」

 タイヘイがモリコとの距離を詰める。モリコが呟く。

「な、なによ、その斬撃は……?」

「これは俺に受け継がれる妖の……『かまいたち』の力だ」

「はあ⁉ あ、妖の力? そ、そんなのあり?」

「これで決まりだ! おらあっ!」

 タイヘイがモリコの頭に頭突きを喰らわせる。

「ぐふっ! ……」

 空中から地面に叩き落とされたモリコが動かなくなる。タイヘイが額をさする。

「ふう……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あやかし学園

盛平
キャラ文芸
十三歳になった亜子は親元を離れ、学園に通う事になった。その学園はあやかしと人間の子供が通うあやかし学園だった。亜子は天狗の父親と人間の母親との間に生まれた半妖だ。亜子の通うあやかし学園は、亜子と同じ半妖の子供たちがいた。猫またの半妖の美少女に人魚の半妖の美少女、狼になる獣人と、個性的なクラスメートばかり。学園に襲い来る陰陽師と戦ったりと、毎日忙しい。亜子は無事学園生活を送る事ができるだろうか。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

祓い姫 ~祓い姫とさやけし君~

白亜凛
キャラ文芸
ときは平安。 ひっそりと佇む邸の奥深く、 祓い姫と呼ばれる不思議な力を持つ姫がいた。 ある雨の夜。 邸にひとりの公達が訪れた。 「折り入って頼みがある。このまま付いて来てほしい」 宮中では、ある事件が起きていた。

ショタパパ ミハエルくん(耳の痛い話バージョン)あるいは、(とっ散らかったバージョン)

京衛武百十
キャラ文芸
もう収集つかないくらいにとっ散らかってしまって試行錯誤を続けて、ひたすら迷走したまま終わることになりました。その分、「マイルドバージョン」の方でなんとかまとめたいと思います。 なお、こちらのバージョンは、出だしと最新話とではまったく方向性が違ってしまっている上に<ネタバレ>はおおよそ関係ない構成になっていますので、まずは最新話を読んでから合う合わないを判断されることをお勧めします。     なろうとカクヨムにも掲載しています。

無色の男と、半端モノ

越子
キャラ文芸
 鬼は「悪」だと思い込んで育った青年と、鬼と人の間に産まれた半端モノの物語。  ここは、鬼と人がいる世界。  鬼は人に害を与え、喰うことがある。鬼の中には特殊な能力を持つ鬼もいた。  人の世には鬼退治を専門とする「退治屋」という組織があり、彼らは鬼特有の匂いを感じ取ることができた。  卯ノ国の退治屋にハクという青年がいた。彼は眉目秀麗で天賦の才に恵まれていたが、他人に無関心、且つ、無表情で無口のため、仲間たちは「無色の男」と残念がった。ハクは全ての鬼は「悪」であると言い、力の弱い鬼や、害のない子鬼も容赦なく退治した。  ある日、任務中だったハクたち退治屋に、大勢の鬼たちが襲いかかってくるその時、不思議な笛の音色と男の命令によって鬼たちは姿を消し、彼らは助けられた。  ハクが笛の音色を辿ると、姿形はどこにもなく、僅かに鬼の匂いだけが残っていた。それ以来、ハクはその匂いを忘れることができない。  数ヶ月が経ち、ハクは町で一人の女と出会う。彼女は、あの日と同じ鬼の匂いをしていた。 ※ BLを思わせる描写があります(多分)。少しでも苦手な方は避けてください。 ※ 一部に残酷、残虐な描写があります。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

処理中です...