40 / 50
序章
第10話(3)陰の者たち
しおりを挟む
「い、今のは完全に『合格よ!』の流れっしょ⁉」
「勝手に判断しないでちょうだいよ……」
レオナルドは太い首をコキコキと鳴らす。光たちが言葉を失う。
「そ、そんな……」
「不合格ね」
「……何故?」
「うん?」
「理由を聞かせて!」
「う~ん……」
レオナルドはこれまた太い両腕を組んで首を傾げる。光たちが黙る。
「……」
「なんというか……」
「な、なんというか?」
「『これよ!』という決定打に欠けていたのよね~」
「あ、曖昧な答え⁉」
光が愕然とする。
「不思議なもんで、案外そういう曖昧なものが明暗を分けたりすんのよ、この業界……」
レオナルドが肩をすくめる。蜜が頷く。
「なるほど、妙に説得力がある……」
「どこがよ! 蜜、アンタ騙されているから! どうせ適当言ってんのよ!」
「今回はご縁がなかったということで……」
「ふざけんな! アンタ、そうやっていい加減な……」
「帰るぞ、余計に心象を悪くしてどうする……」
純が騒ぐ光の口を塞ぎ、強引に部屋の外へと連れ出す。光はなおも騒ぐ。
「ちょ、ちょっと待って……!」
「失礼します。ありがとうございました」
「……ました」
純と蜜が頭を下げて部屋を出る。男性がハンカチで汗を拭いながら呟く。
「い、いきなり不合格とは……先生の反応も良さそうに見受けられましたが……」
「……きっと違う形で会うことになるわ」
「はい?」
「なんでもないわ、こっちの話よ」
レオナルドが右手を振る。男性が言いにくそうに問う。
「あの、この後ですが……?」
「ああ、最後の一組が遅れているんだっけ?」
「え、ええ……」
「不合格で」
「え⁉」
「こんなにも遅刻している段階で論外でしょ。ついでに控室にいる連中にも伝えてきて、あなたたち全員不合格ですよって」
「ええ⁉」
「お願いね」
「は、はあ……」
男性がトボトボとした足取りで控室に向かう。レオナルドが伸びをする。
「わざわざ広島まで来たけど、実りは少なかったわね……」
「うわあ!」
「!」
男性が部屋に駆け込んでくる。
「い、『陰の者』が!」
複数の黒い影がオーディションの部屋と控室を繋ぐドアごと壁を破壊してくる。レオナルドが舌打ちする。
「ちっ、陰と陽の気が複雑に絡み合うこの土地、陰の気が大量に流れ込んで、陰の者が大量に発生したのね!」
「……ううっ、合格……」
「オーディション参加者がことごとく陰の者に⁉」
レオナルドが驚く。
「ううっ、合格……させろ!」
陰の者たちが影を伸ばし、レオナルドに迫る。レオナルドが懐から銃を取り出す。
「そういう積極性がオーディション時に欲しかったわね!」
「‼」
レオナルドが銃を発砲し、迫る影を簡単に祓う。しかし、レオナルドが再び舌打ちする。
「ちっ……数が多すぎるわね、これはちょっと今のアタシでは難儀しそう……」
「うおおっ!」
「しまった⁉」
レオナルドの死角から三体の陰の者が迫る。
「はっ!」
「⁉」
「ぐおおっ……『平和』……」
「ぶおおっ……『正義』……」
「どおおっ……『自由』……」
それぞれ矢が刺さった陰の者たちが元の男性たちの姿に戻る。レオナルドが視線を向ける。そこにはロリータファッションの蜜が弓を構えていた。レオナルドが感心する。
「矢を三本連続で放ったの? なんという連射速度……」
「なんということはないです……」
「ぎゃああ!」
「うおっ⁉」
再び二体の陰の者が、死角からレオナルドに襲いかかる。
「はあっ!」
「うぎゃあ! 『夢』……」
「ぐぎゃあ! 『希望』……」
二体が倒れ、元の女性の姿に戻る。レオナルドの前にはライダースを着た長身の純が立っていた。純の両手には短い二本の鉄の棒が握られている。レオナルドが頷く。
「なるほど、ドラムスティックさながらにそれを操って、叩いて祓ったのね……」
「これくらい造作もありません……」
「ぶはあっ!」
「なっ⁉」
さらにもう一体の陰の者がレオナルドに迫る。
「そうはさせないっての!」
「あ、貴女!」
レオナルドと迫る陰の者の間に光が立つ。マイクスタンドのようなものを立てる。レオナルドが納得したように声を上げる。
「なるほど! ボーカルらしく、歌声で祓うのね!」
「そらあっ!」
「ええっ⁉」
レオナルドが驚く、光がマイクスタンドのようなものから剣を引き抜き、切り裂いてみせたからである。
「ぐはあっ……あ、『愛』……」
陰の者が元の白黒タイツの姿に戻る。光が苦笑する。
「こういう一見陽キャっぽい奴の方が、陰の気が流れ込みやすかったりするのよね~」
「い、いや……歌声は⁉」
「喉は命っすから、無駄遣いはしないっすよ……」
レオナルドの問いに対し、光は喉をさすりながら答える。
「見上げたプロ意識ね。ややこしいけど……しかし、思ったより早く再会したわね……」
「え?」
「これはある意味合格かしらね……」
「ちょっと待って。話が見えないっす……⁉」
「ぎゃおおっ‼」
ひと際大きな陰の者が現れ、ビルをたちまち半壊させてしまう。
「勝手に判断しないでちょうだいよ……」
レオナルドは太い首をコキコキと鳴らす。光たちが言葉を失う。
「そ、そんな……」
「不合格ね」
「……何故?」
「うん?」
「理由を聞かせて!」
「う~ん……」
レオナルドはこれまた太い両腕を組んで首を傾げる。光たちが黙る。
「……」
「なんというか……」
「な、なんというか?」
「『これよ!』という決定打に欠けていたのよね~」
「あ、曖昧な答え⁉」
光が愕然とする。
「不思議なもんで、案外そういう曖昧なものが明暗を分けたりすんのよ、この業界……」
レオナルドが肩をすくめる。蜜が頷く。
「なるほど、妙に説得力がある……」
「どこがよ! 蜜、アンタ騙されているから! どうせ適当言ってんのよ!」
「今回はご縁がなかったということで……」
「ふざけんな! アンタ、そうやっていい加減な……」
「帰るぞ、余計に心象を悪くしてどうする……」
純が騒ぐ光の口を塞ぎ、強引に部屋の外へと連れ出す。光はなおも騒ぐ。
「ちょ、ちょっと待って……!」
「失礼します。ありがとうございました」
「……ました」
純と蜜が頭を下げて部屋を出る。男性がハンカチで汗を拭いながら呟く。
「い、いきなり不合格とは……先生の反応も良さそうに見受けられましたが……」
「……きっと違う形で会うことになるわ」
「はい?」
「なんでもないわ、こっちの話よ」
レオナルドが右手を振る。男性が言いにくそうに問う。
「あの、この後ですが……?」
「ああ、最後の一組が遅れているんだっけ?」
「え、ええ……」
「不合格で」
「え⁉」
「こんなにも遅刻している段階で論外でしょ。ついでに控室にいる連中にも伝えてきて、あなたたち全員不合格ですよって」
「ええ⁉」
「お願いね」
「は、はあ……」
男性がトボトボとした足取りで控室に向かう。レオナルドが伸びをする。
「わざわざ広島まで来たけど、実りは少なかったわね……」
「うわあ!」
「!」
男性が部屋に駆け込んでくる。
「い、『陰の者』が!」
複数の黒い影がオーディションの部屋と控室を繋ぐドアごと壁を破壊してくる。レオナルドが舌打ちする。
「ちっ、陰と陽の気が複雑に絡み合うこの土地、陰の気が大量に流れ込んで、陰の者が大量に発生したのね!」
「……ううっ、合格……」
「オーディション参加者がことごとく陰の者に⁉」
レオナルドが驚く。
「ううっ、合格……させろ!」
陰の者たちが影を伸ばし、レオナルドに迫る。レオナルドが懐から銃を取り出す。
「そういう積極性がオーディション時に欲しかったわね!」
「‼」
レオナルドが銃を発砲し、迫る影を簡単に祓う。しかし、レオナルドが再び舌打ちする。
「ちっ……数が多すぎるわね、これはちょっと今のアタシでは難儀しそう……」
「うおおっ!」
「しまった⁉」
レオナルドの死角から三体の陰の者が迫る。
「はっ!」
「⁉」
「ぐおおっ……『平和』……」
「ぶおおっ……『正義』……」
「どおおっ……『自由』……」
それぞれ矢が刺さった陰の者たちが元の男性たちの姿に戻る。レオナルドが視線を向ける。そこにはロリータファッションの蜜が弓を構えていた。レオナルドが感心する。
「矢を三本連続で放ったの? なんという連射速度……」
「なんということはないです……」
「ぎゃああ!」
「うおっ⁉」
再び二体の陰の者が、死角からレオナルドに襲いかかる。
「はあっ!」
「うぎゃあ! 『夢』……」
「ぐぎゃあ! 『希望』……」
二体が倒れ、元の女性の姿に戻る。レオナルドの前にはライダースを着た長身の純が立っていた。純の両手には短い二本の鉄の棒が握られている。レオナルドが頷く。
「なるほど、ドラムスティックさながらにそれを操って、叩いて祓ったのね……」
「これくらい造作もありません……」
「ぶはあっ!」
「なっ⁉」
さらにもう一体の陰の者がレオナルドに迫る。
「そうはさせないっての!」
「あ、貴女!」
レオナルドと迫る陰の者の間に光が立つ。マイクスタンドのようなものを立てる。レオナルドが納得したように声を上げる。
「なるほど! ボーカルらしく、歌声で祓うのね!」
「そらあっ!」
「ええっ⁉」
レオナルドが驚く、光がマイクスタンドのようなものから剣を引き抜き、切り裂いてみせたからである。
「ぐはあっ……あ、『愛』……」
陰の者が元の白黒タイツの姿に戻る。光が苦笑する。
「こういう一見陽キャっぽい奴の方が、陰の気が流れ込みやすかったりするのよね~」
「い、いや……歌声は⁉」
「喉は命っすから、無駄遣いはしないっすよ……」
レオナルドの問いに対し、光は喉をさすりながら答える。
「見上げたプロ意識ね。ややこしいけど……しかし、思ったより早く再会したわね……」
「え?」
「これはある意味合格かしらね……」
「ちょっと待って。話が見えないっす……⁉」
「ぎゃおおっ‼」
ひと際大きな陰の者が現れ、ビルをたちまち半壊させてしまう。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる