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【第233話】ドラウの森の植物
しおりを挟む大昔の女神が残した手記には帝国の恐ろしい策謀が記されていた。ディアトイルに生まれた俺が今まで苦しみ続けたのは大昔の皇帝のせいだったのかと思うと、はらわたが煮えくりかえりそうだ。
今すぐにでもこの事実を大陸中に公表したいところではあるが、人間ではない女神が残した証拠であり、証明するのも難しそうだ。
一応帝国の印が入っているものの遥か昔の事だから『今の帝国を責められても困る』と言われたらそれまでだ。過去に祖先が犯した愚行を今の世代に償わすのも筋違いだし、だからこそ長く生きているサキエルはこの事を他の女神には伝えなかった可能性も考えられそうだ。
サキエルには色々話を聞きたいし、俺とリリスが新たに発現したスキルの解読も手伝ってほしいところではあるが、接触すれば俺達の旅の軌跡を伝えなければいけない訳で、当然リヴァイアサンの事や七恵の楽園での出来事も話さないといけない。
暗い雰囲気になりそうな気がするし、サキエルの古傷を刺激する事にもなりかねないから会うのは全てが片付いてからにした方が良さそうだ。
俺が手紙を読み終えると、フローラは手紙を片付けて改めて俺達にお願いしてきた。
「今の帝国が過去の帝国と同じぐらい悪い国だとは言いません。ですが、それでも私は個人的に帝国リングウォルドを信じず、警戒し過ぎるぐらい警戒してほしいと思ってます。その為にはシンバード領が中心となって帝国と対して欲しいですし、今まで以上に他国との協力関係を結んでいってほしいと思ってます。よろしくお願いします、英雄ガラルド殿」
代表である俺に畏まってお願いしてきたけれど俺達がやるべきことは変わらない。俺は率直な気持ちを伝える事にした。
「帝国もそれなりに警戒はするが、とにかく俺達はモンストル大陸の危機を救いたいと思ってる。だから第一に優先するのは魔日の対応と死の山の魔獣殲滅だ。大陸会議では手持ちの情報で帝国の悪事を追及するつもりではあるが、帝国にだって信用している人物はいる。帝国を憎んでいるフローラの望み通りに動けるとは断言できないが、俺達はきっと大陸を平和にしてみせる。見守っていてくれ」
「分かりました、安心して見守っていますね、いや、見守るだけじゃなくて手伝えることは何だって手伝います。過去の女神族の失敗は総じて人々と手を取り合って動かなかったことが原因なのですから。幾らでも私や七恵の楽園を利用してくださいね」
「ああ、ありがとうフローラ。それじゃあ話も纏まった事だし、ゼロの所にでも行ってみるか」
俺は話を切り上げて、ゼロがいるマナストーン・コアの前まで近づいた。コメットサークル領にあったマナストーン・コアは間近へ近づくと流石に眩し過ぎて目を開けるのは辛かったが、ここのマナストーン・コアは遠くても近くても明るさが一定となる不思議な光だった。
俺は早速ゼロに「調べものはどんな感じだ?」と尋ねると、彼は何種類かの花を地べたに並べて解説を始めた。
「ここの植物は本当に凄いよガラルドさん。パラディア・ブルーがたくさん育っているだけじゃなくて『人や魔獣の魔力制御を狂わせる花、触れた物に纏っている魔力を離散させる花、物質と物質を合成させる樹液』他にも色々なものがあるんだ」
ちょっとしたスキルかと思わされるような植物が目白押しだ。それに俺の素材図鑑でも分からない植物がほとんどである。俺は興奮するゼロに「今並べた植物はどんな風に役立つんだ?」と尋ねた。
「う~ん、仮定の段階だけど『魔力制御を狂わせる花』なら摂取することで魔力制御の特訓に使えるかもしれないね。筋力を鍛える為に重たい負荷をかけるのと同じように、花で難易度を上げれば通常時にはもっと密度の濃い魔力を練ることが出来るかもしれない。そして『触れた物に纏っている魔力を離散させる花』に関しては戦闘に使えるかもしれないと考えてるよ」
「戦闘に? 杖の先端とかにぶつけて魔術師の魔術を妨害するとかか?」
「それもいいけど、魔術は最悪自分の手からでも発動できるから最善の使い道とは言い難いかな。僕の理想では魔力砲やサクリファイスソードにぶつける事が出来れば最善だと思うよ。どちらも武具を介して持ち手の部分から魔力を吸い取り使用者を強化するものだからね。吸い込み口と言ってもいい兵器の部分が魔力を離散する状態になれば魔力砲なんてただのガラクタだ」
「理屈は分かったしゼロの言う通りだとは思うが、もう帝国と戦うのはこりごりだぞ……。まぁ帝国に限らず魔力を角などに一点集中させる魔獣とかもいるからハンター業でも役に立つかもな、頭に入れておくよ」
ゼロは俺への説明を終えると今度は各植物の名称をフローラに尋ねた。どうやら魔力制御を狂わせる花は『コンフ』 纏っている魔力を離散させる花は『ヴァリアン』 物質と物質を合成させる樹液は『ミクスード』と言うらしい。
物覚えの悪い俺では直ぐに花の名前を忘れてしまいそうだが、せめて特性だけでも覚えておくことにしよう。
ようやく一通りの話を終えることが出来た。フローラは「研究・植物採取・特訓・寝泊まり、なんでも自由にここを使ってくださいね」と言い、両手を広げると改めて俺達に歓迎の意思を見せてくれた。
研究はゼロに任せて、俺は役に立つ植物の採取をするのが正解なのだとは思うが、正直マナストーン・コアの加護に満ちたこの空間で早く特訓がしたくて仕方がなかった。
グラッジも俺と同じ考えだったようで、二人で早速体が疲れるまで戦闘訓練をしよう、と話し合っていると、横からフローラが声をかけてきた。
「おぉ! 早速戦闘訓練ですか、いいですね。よかったら私も混ぜてくれませんかガラルドさん」
「ん? 構わないが大丈夫か? 自慢じゃないが俺もグラッジも結構強いし破壊的な力を持っているから危ないと思うが……」
「問題ありませんよ。むしろ皆さんが纏めて私にかかってきて欲しいぐらいです。勿論全力を出してもらっても大丈夫です、皆さんに怪我はさせませんので」
最初に会った時は気弱そうで、物腰柔らかなフローラが突然自信満々に自分の戦闘力を誇示しはじめた。それとも俺達の事を侮っているのだろうか?
グラッジは少し負けん気を漲らせた顔をしているが、俺にはフローラが何かを隠しているような気がする。俺は訓練を始める前にフローラへ尋ねる事にした。
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