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本編~2ヶ月目~
第16話~飲み会~
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~新宿・歌舞伎町~
~居酒屋「陽羽南」~
バイトの面接を終えて、開店準備も終えて、今日も開店した居酒屋「陽羽南」。
だが今日はスタッフ一同、いつも以上に緊張感を増して仕事をしていた。
何故なら。
「すみませーん、生ビールおかわり3つ!あとレモンサワーも!」
「かしこまりましたー!A卓様、生3、レモンサワー1!」
店内の一角、普段は4人掛けのテーブル席を2つ繋げた大テーブルで、手を上げる団体客が一気に注文をよこしてくる。
そう、飲み放題付きのコース料理、その最初の利用客が本日、遂に来店したのだ。
グループの代表者を含め、数名は馴染みの客だが、残りの数名は連れられて初めてやってきた客である。総勢8名。
フロアにて動くエティ、パスティータ、シフェールの三人とも、てんやわんやであった。五月雨に繰り出される注文、運ぶ端から飲み干されて空になっていくジョッキ、大量の料理。
今日が木曜日で、人がさして多くないタイミングなのが幸いしたが、それでもお客様の注文は待ってはくれない。
「店長、これ、この人数で仕事回るんですかね!?」
「だからバイトを、しかも即戦力になる人材を雇ったんじゃないか!でも、早いところ厨房スタッフの募集もかけないとね!」
生ビールを次ぐ僕の後ろで、フライドポテトを大量に揚げる澄乃がこちらも振り向かないままで言った。
僕と澄乃の二人が厨房に入っている状態だが、その実仕事量が多すぎて全然追い付いていない。時折シフェールにこちらに回ってもらってもいるが、それでもギリギリだ。
これは本当に、早いうちにもう一人バイトを募集しないといけない、そんな気がする。
「マウロちゃんごめん、注文いい?」
「あ、はい!少々お待ちください!」
カウンターに座ったお客様が僕に声をかけてくるのに笑顔で返事をしながら、僕はレモンサワーをジョッキに作った。ちょっと濃くなってしまったかもしれない。
僕は生ビールのジョッキ3つとレモンサワーのジョッキをカウンターに置く。それと同時に澄乃が、揚げ終わったフライドポテトの皿を並べて置いた。
「A卓様、生3、レモンサワー1、フライドポテトどうぞ!……お待たせしました、ご注文をお伺いします」
すぐさまカウンター越しに、声をかけて来たお客様に声をかける。お客様はメニューを指さしながら僕に告げてきた。
「えーと、ジャガイモのグスターシュ一つ、あとこれに合う日本酒って何になるかな?」
お客様の質問に、僕は腕組みして高速で思考を巡らせた。グスターシュはコクがあって濃厚な味わいを持つ。それに見合う日本酒を、今まで味見した酒の中から探し出す。
思案することおよそ5秒。僕は日本酒を収めた冷蔵庫に向かうと、二本のボトルを取り出した。
本当はもっと早く決断したいのだが、如何せん引き出しが多くないのが悩ましい。
「そうですね、味の濃い料理なので……兵庫のケンビシなどどうでしょう。あとは福岡のダイシチもうまく合うかと思います」
「なるほどねー。それじゃ大七を一合、お願いしようかな」
お客様が僕の手にしたボトルの一本を指さした。にこりと微笑み一礼し、選ばれなかったボトルの一本をしまった僕を、澄乃の声が出迎える。
「マウロちゃん、お酒が済んだらA卓様の唐揚げをお願いできる?2席様のグスターシュは私の方でやっとくから!」
「了解しました!」
厨房に持ち込んだボトルから、一合用の徳利に日本酒を注ぎつつ、僕ははっきりと返事をする。最近ようやく、漏斗を使わなくてもこぼさずに注げるようになってきた。
棚の上からぐい飲みを一つ手に取り、カウンター越しにお客様にそっと差し出した。
「お待たせしました、ダイシチでございます」
お客様が笑顔で徳利とぐい飲みを受け取ったのを確認すると、僕は屈んで冷蔵庫を開けた。中からビニール袋に入れられた、醤油と酒に漬けられた鶏もも肉を取り出す。
その袋を手に、澄乃と場所を入れ替わるようにコンロの前に立つ。袋の封を開けてバットに小麦粉を広げ、そこに鶏肉を開けて絡めていく。そしてフライヤーの油に投入しよう、というところで。
「A卓様、ハイボール3いただきました!」
「ありがとうございまーす!!ごめんシフェールちゃん、中入ってハイボールお願い」
飲み会のテーブルから再び飛んでくる注文。応える澄乃の声は最早やけくそである。僕はその声に背中を押されるように、鶏肉を油の中に放り込んだ。
あまりの忙しそうに、音を上げそうになるのをぐっとこらえた。他の居酒屋の何ヶ所かに行ったが、今日の陽羽南よりも多く客が入っているところが殆どだった。
勿論、仕事をしているスタッフの数や練度にも差はあるし、お店の定着具合にも開きはあるはずだ。
だがそれでも、僕達にとって今日の陽羽南が忙しくないと否定することは出来ない。
その「忙しい」を「日常」にするか「楽しい」にするかは、僕達次第だ。
「A卓様、唐揚げどうぞ!!」
僕はカラリと揚がった唐揚げを盛りつけた皿を両手に持ち、声を大きく張り上げるのだった。
~第17話へ~
~居酒屋「陽羽南」~
バイトの面接を終えて、開店準備も終えて、今日も開店した居酒屋「陽羽南」。
だが今日はスタッフ一同、いつも以上に緊張感を増して仕事をしていた。
何故なら。
「すみませーん、生ビールおかわり3つ!あとレモンサワーも!」
「かしこまりましたー!A卓様、生3、レモンサワー1!」
店内の一角、普段は4人掛けのテーブル席を2つ繋げた大テーブルで、手を上げる団体客が一気に注文をよこしてくる。
そう、飲み放題付きのコース料理、その最初の利用客が本日、遂に来店したのだ。
グループの代表者を含め、数名は馴染みの客だが、残りの数名は連れられて初めてやってきた客である。総勢8名。
フロアにて動くエティ、パスティータ、シフェールの三人とも、てんやわんやであった。五月雨に繰り出される注文、運ぶ端から飲み干されて空になっていくジョッキ、大量の料理。
今日が木曜日で、人がさして多くないタイミングなのが幸いしたが、それでもお客様の注文は待ってはくれない。
「店長、これ、この人数で仕事回るんですかね!?」
「だからバイトを、しかも即戦力になる人材を雇ったんじゃないか!でも、早いところ厨房スタッフの募集もかけないとね!」
生ビールを次ぐ僕の後ろで、フライドポテトを大量に揚げる澄乃がこちらも振り向かないままで言った。
僕と澄乃の二人が厨房に入っている状態だが、その実仕事量が多すぎて全然追い付いていない。時折シフェールにこちらに回ってもらってもいるが、それでもギリギリだ。
これは本当に、早いうちにもう一人バイトを募集しないといけない、そんな気がする。
「マウロちゃんごめん、注文いい?」
「あ、はい!少々お待ちください!」
カウンターに座ったお客様が僕に声をかけてくるのに笑顔で返事をしながら、僕はレモンサワーをジョッキに作った。ちょっと濃くなってしまったかもしれない。
僕は生ビールのジョッキ3つとレモンサワーのジョッキをカウンターに置く。それと同時に澄乃が、揚げ終わったフライドポテトの皿を並べて置いた。
「A卓様、生3、レモンサワー1、フライドポテトどうぞ!……お待たせしました、ご注文をお伺いします」
すぐさまカウンター越しに、声をかけて来たお客様に声をかける。お客様はメニューを指さしながら僕に告げてきた。
「えーと、ジャガイモのグスターシュ一つ、あとこれに合う日本酒って何になるかな?」
お客様の質問に、僕は腕組みして高速で思考を巡らせた。グスターシュはコクがあって濃厚な味わいを持つ。それに見合う日本酒を、今まで味見した酒の中から探し出す。
思案することおよそ5秒。僕は日本酒を収めた冷蔵庫に向かうと、二本のボトルを取り出した。
本当はもっと早く決断したいのだが、如何せん引き出しが多くないのが悩ましい。
「そうですね、味の濃い料理なので……兵庫のケンビシなどどうでしょう。あとは福岡のダイシチもうまく合うかと思います」
「なるほどねー。それじゃ大七を一合、お願いしようかな」
お客様が僕の手にしたボトルの一本を指さした。にこりと微笑み一礼し、選ばれなかったボトルの一本をしまった僕を、澄乃の声が出迎える。
「マウロちゃん、お酒が済んだらA卓様の唐揚げをお願いできる?2席様のグスターシュは私の方でやっとくから!」
「了解しました!」
厨房に持ち込んだボトルから、一合用の徳利に日本酒を注ぎつつ、僕ははっきりと返事をする。最近ようやく、漏斗を使わなくてもこぼさずに注げるようになってきた。
棚の上からぐい飲みを一つ手に取り、カウンター越しにお客様にそっと差し出した。
「お待たせしました、ダイシチでございます」
お客様が笑顔で徳利とぐい飲みを受け取ったのを確認すると、僕は屈んで冷蔵庫を開けた。中からビニール袋に入れられた、醤油と酒に漬けられた鶏もも肉を取り出す。
その袋を手に、澄乃と場所を入れ替わるようにコンロの前に立つ。袋の封を開けてバットに小麦粉を広げ、そこに鶏肉を開けて絡めていく。そしてフライヤーの油に投入しよう、というところで。
「A卓様、ハイボール3いただきました!」
「ありがとうございまーす!!ごめんシフェールちゃん、中入ってハイボールお願い」
飲み会のテーブルから再び飛んでくる注文。応える澄乃の声は最早やけくそである。僕はその声に背中を押されるように、鶏肉を油の中に放り込んだ。
あまりの忙しそうに、音を上げそうになるのをぐっとこらえた。他の居酒屋の何ヶ所かに行ったが、今日の陽羽南よりも多く客が入っているところが殆どだった。
勿論、仕事をしているスタッフの数や練度にも差はあるし、お店の定着具合にも開きはあるはずだ。
だがそれでも、僕達にとって今日の陽羽南が忙しくないと否定することは出来ない。
その「忙しい」を「日常」にするか「楽しい」にするかは、僕達次第だ。
「A卓様、唐揚げどうぞ!!」
僕はカラリと揚がった唐揚げを盛りつけた皿を両手に持ち、声を大きく張り上げるのだった。
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