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二章 憧れの先輩は陸上部 ~後押しする、豚キムチーズ~

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「山久君……これ……」

 アイ美ちゃんのカバンから出てきたのは、ランチクロスに包まれた弁当箱だ。
 中身を出して、山久君に渡す。

「え、これ……おにぎり?」
「そ、そう。私が作ったの」

 それは弁当箱ではなく、タッパーだった。
 中にはラップに包まれた豚キムチーズのおにぎりが二つ入っている。

「山久君に元気になってもらいたくて……」

 山久君は驚きながら、おにぎりを一個手にした。
 隼斗君はおにぎりを見て深く頷いている。形は完璧みたいだ。

「俺のために……作ってくれたんだね。俺を勇気づけるために……」

 アイ美ちゃんは照れながら「山久君に、絶対勝ってほしいから」と言った。
 その言葉で、山久君は真剣な表情に変わった。

「ありがとう……早速いただくよ!」

 アイ美ちゃんの想いを受け取った山久君は、勢いよくおにぎりにかぶりついた。
 山久君のひと口はとても大きい。
 噛めば噛むほど目が大きくなっていく……その美味しさに驚いているようだった。

「すっごい……美味しい」
「本当?」
「ああ! こんなに美味しいおにぎり食べたの初めてだ! 豚キムチとチーズ? だよね?」
「う、うん……」
「俺、どっちも好きなんだ! 力が湧いてきそうだよ!」

 アイ美ちゃんはとびきりの笑顔で「良かった!」と叫んだ。
 さっきまでの落ち込みようが嘘みたいに、山久君の表情に光が宿る。
 アイ美ちゃんは続けて二個目を食べている山久君に、もじもじしながら想いを告げた。

「山久君……私、応援してます! 山久君の走る姿、心の底から……大好きです!」

 すずめの鳴き声をかき消すように、アイ美ちゃんの声が響く。
 朝の穏やかな空間で、アイ美ちゃんは想いを伝えた。
 山久君は最初驚いた反応をしたけど、すぐに受け止めるようにニカッと笑った。

「ありがとう、アイ美ちゃん! すごく嬉しいよ! なんだか力がみなぎってきた!」

 山久君、アイ美ちゃんの言葉が相当嬉しいみたい……顔つきがさっきと全然違う……。

「アイ美ちゃんのおにぎりは、まるで魔法がかかっているかのようだ! 胃の中からどんどん活力が湧いてくる!」
「本当!? 嬉しいな!」
「ああ! もしよければ……また作ってきてくれないかな?」
「……はい!」

 隼斗君が隣で「あれは付き合ったと言っても過言ではないな」と静かに呟いた。
 私も、うんうんと同意する。
 良かった……おにぎりを通して、アイ美ちゃんの想いが伝わったみたい。
 山久君は軽やかにその場から走り去っていった。
 そろそろ時間がきたらしい。

「アイ美ちゃん、やったね!」

 山久君の姿が見えなくなってから、すぐに近寄った。
 アイ美ちゃんは反応をしてくれない……まさに放心状態だ。
 今度は隼斗君が声をかける。

「おーい、大丈夫かぁ? なんか固まってるみたいだけど……」
「……あ! ご、ごめんなさい! 夢の中にいたみたいで!」

 アイ美ちゃん、相当嬉しいんだ……。
 山久君の背中を押すことができて、その上感謝されて……想いが伝わって……夢見心地って感じかな?
 とにかく、作戦は大成功だ。

 ――その後三人で、山久君のレースを見た。
 不調と言われていたのが嘘みたいに、山久君の独壇場だった。
 圧倒的な一位。アイ美ちゃんも手を叩いて喜んでいる。
 100メートルという距離が短く見えるほど、山久君はあっという間に駆け抜けていった。

 山久君はスタンドで見ていた私たちのところまできて、手を振ってくれる。
 アイ美ちゃんはキラキラした山久君を見て、改めて好きだと思えたみたいだった。
 
 作戦は大成功に終わった。
 アイ美ちゃんと山久君の笑顔を取り戻せて……本当に良かったな……。
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