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最終日
浮遊霊が行き着く不思議な山カフェ⑫
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「椋野、もう大丈夫。続きを聞かせて」
「……わかった。社長令嬢であるミマは会社の都合で、政略結婚をすることになった。俺とミマの気持ちは、社長であるお父様に一蹴されてしまったよ」
「じゃ、じゃあ、その日は私たちの最後のデート?」
「……そういうこと。ミマが俺を振る形で、その日を最後にもう会うことはなくなった。俺は悲しみに明け暮れ、生きる気力がなくなっていったよ。だけど、新たな問題が起きたんだ」
「新たな……問題?」
「その日を最後に、ミマが行方不明になったんだ。数日探しても見つからず、結局警察の捜索も打ち切り。俺の喪失感に追い打ちをかけるように、心がすさんでいった……」
ミマは自由な恋愛もできずに、本気で好きだった人を、振らなければいけないような状況だった。
そして、藤沢を振った後に、一人で抱え込んでしまったミマは、一ノ瀬山に迷い込んでしまったのだろう……きっとその時の精神状態は、異常の極みだったはずだ。
その後どうなったかは、今浮遊霊としてこの場に存在しているのを見れば、容易に想像できるだろう。
自力でこの険しい山道を登っていき、自力でこの自殺スポットを導き出し、断崖絶壁から淀み荒れた沼に向かって身を投げたのだ……。
藤沢の話で何かを思い出したのか、今度はミマが苦しそうな顔をしながら、藤沢へのその時の心境を告げる。
「椋野のことが、世界で一番好きだった。だけど、自分の思い通りにならない現実に、私は嫌気が差したんだと思う。何もかも壊れてしまえばいいと考えた私は、確か……」
「そう。ミマは、この一ノ瀬山に入って、自分を消滅させたんだ。ミマの家族や関係者は未だに、生きていると願っている。でも、当時から俺は知っていた。ミマがすでに、死んでいるということを」
「じゃあ、椋野がこの場所に山カフェを作ったのは……」
「そう、ミマのためだ。ここでカフェを作れば、浮遊霊になったミマと会えるかもしれない。そう思って、来る日も来る日もミマを待ち続けた」
「私のことを……まだ愛してくれていたのね」
藤沢がこんな辺境な地で山カフェを営んでいたのは、愛する婚約者のためだった。
浮遊霊が不思議と集まったのも、藤沢がミマに会いたいという気持ちを強く持っていたからかもしれない。
この浮遊霊が行き着く不思議な山カフェには、藤沢の強い想いが込められているのだ。
事の全てを把握したミマは、ティーカップの中に入った残り僅かなハーブティーを飲み込んだ後に、受け入れるように一言呟いた。
「そっか……私は、死んでいるのね」
「ああ。ミマはもう、この世の人間ではないんだ」
「……最後に、椋野が淹れてくれたジャスミンのハーブティーが飲めて良かったわ」
「俺がジャスミンのハーブティーを好きになったのは、ミマのおかげだからね。ミマが褒めてくれたおかげで、もっと上手に作りたいと思えたんだ」
「……ねえ、椋野。私と出会った日のこと、覚えてる?」
会話は、藤沢とミマが出会った日の話に流れた。
これまでの苦しそうな表情が、二人共から消えている。
辛い話の山を越えた二人は、穏やかな表情に変えながら、幸せだった時期を思い出していた。
何も話すことなく聞いていた恵那が、同じように無言だったリュウの方を見てみると、リュウは泣くのを我慢しているように見えた。
過酷な状況を味わった二人が、懐かしそうに思い出を振り返っていることに、悲しさと儚さを感じたのだろう。それは、恵那も同じ気持ちだ。
藤沢はミマの手を取りながら、ミマと出会った日のことを回想した。
「……わかった。社長令嬢であるミマは会社の都合で、政略結婚をすることになった。俺とミマの気持ちは、社長であるお父様に一蹴されてしまったよ」
「じゃ、じゃあ、その日は私たちの最後のデート?」
「……そういうこと。ミマが俺を振る形で、その日を最後にもう会うことはなくなった。俺は悲しみに明け暮れ、生きる気力がなくなっていったよ。だけど、新たな問題が起きたんだ」
「新たな……問題?」
「その日を最後に、ミマが行方不明になったんだ。数日探しても見つからず、結局警察の捜索も打ち切り。俺の喪失感に追い打ちをかけるように、心がすさんでいった……」
ミマは自由な恋愛もできずに、本気で好きだった人を、振らなければいけないような状況だった。
そして、藤沢を振った後に、一人で抱え込んでしまったミマは、一ノ瀬山に迷い込んでしまったのだろう……きっとその時の精神状態は、異常の極みだったはずだ。
その後どうなったかは、今浮遊霊としてこの場に存在しているのを見れば、容易に想像できるだろう。
自力でこの険しい山道を登っていき、自力でこの自殺スポットを導き出し、断崖絶壁から淀み荒れた沼に向かって身を投げたのだ……。
藤沢の話で何かを思い出したのか、今度はミマが苦しそうな顔をしながら、藤沢へのその時の心境を告げる。
「椋野のことが、世界で一番好きだった。だけど、自分の思い通りにならない現実に、私は嫌気が差したんだと思う。何もかも壊れてしまえばいいと考えた私は、確か……」
「そう。ミマは、この一ノ瀬山に入って、自分を消滅させたんだ。ミマの家族や関係者は未だに、生きていると願っている。でも、当時から俺は知っていた。ミマがすでに、死んでいるということを」
「じゃあ、椋野がこの場所に山カフェを作ったのは……」
「そう、ミマのためだ。ここでカフェを作れば、浮遊霊になったミマと会えるかもしれない。そう思って、来る日も来る日もミマを待ち続けた」
「私のことを……まだ愛してくれていたのね」
藤沢がこんな辺境な地で山カフェを営んでいたのは、愛する婚約者のためだった。
浮遊霊が不思議と集まったのも、藤沢がミマに会いたいという気持ちを強く持っていたからかもしれない。
この浮遊霊が行き着く不思議な山カフェには、藤沢の強い想いが込められているのだ。
事の全てを把握したミマは、ティーカップの中に入った残り僅かなハーブティーを飲み込んだ後に、受け入れるように一言呟いた。
「そっか……私は、死んでいるのね」
「ああ。ミマはもう、この世の人間ではないんだ」
「……最後に、椋野が淹れてくれたジャスミンのハーブティーが飲めて良かったわ」
「俺がジャスミンのハーブティーを好きになったのは、ミマのおかげだからね。ミマが褒めてくれたおかげで、もっと上手に作りたいと思えたんだ」
「……ねえ、椋野。私と出会った日のこと、覚えてる?」
会話は、藤沢とミマが出会った日の話に流れた。
これまでの苦しそうな表情が、二人共から消えている。
辛い話の山を越えた二人は、穏やかな表情に変えながら、幸せだった時期を思い出していた。
何も話すことなく聞いていた恵那が、同じように無言だったリュウの方を見てみると、リュウは泣くのを我慢しているように見えた。
過酷な状況を味わった二人が、懐かしそうに思い出を振り返っていることに、悲しさと儚さを感じたのだろう。それは、恵那も同じ気持ちだ。
藤沢はミマの手を取りながら、ミマと出会った日のことを回想した。
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