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最終日

浮遊霊が行き着く不思議な山カフェ⑬

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「もちろん、覚えているよ。大学に入学したてのミマが、学校帰りに俺の店に来た時のことでしょ?」

「そうそう。椋野はその時店に一人で、私のわがままで閉店後も居させてもらったの」

「確か、家に帰りたくなかったんだよね」

「ええ。その当時から家が厳しくて、生まれ変わりたいとすら思ってた。その時椋野がこのジャスミンのハーブティーを淹れてくれて、心が安らいでいったの」

「ジャスミンの花には、鎮静作用があるからね。その時のミマにピッタリだと思って」

「あの時の優しさが、私の人生の全てだった。椋野に出会わなければ、私はもっと早くに死んでいた気がするわ」

「俺も、あの日からミマのことを支えてあげたいと思うようになった。一生を賭けて守り抜くと決めたんだ。それなのに……」

 藤沢がミマと、恋に落ちた時の話。この恋が悲しい結末を迎えたことは、もうすでにわかっている。
 幸せだった時期を回想したところで、話の終着点はドロドロした黒い結果だ。
 話を進めても良いことはないと気づいた藤沢は、二人が出会った時の感情を伝え終えようとした瞬間に、声を出すのを躊躇った。
 全てを理解しているミマは、恐れずに会話の続きをしようとしている。

「椋野、いいの。最後に、話させて」

「え? う、うん……」

「あの日、椋野を好きになって、本当に良かった。そして、最後にデートをした相手が椋野で、私は幸せよ」

「ミマ……」

「大好きな椋野の前で、私を成仏させて欲しい」

「……ミマを、成仏……か」

 ミマも、力を振り絞って言葉にしているのが、恵那の目から見てもはっきり伝わってくる。
 巴先輩という、恵那の大切な人が成仏した時の記憶を思い出すと、ミマにはとても成仏してほしくないと思ってしまう。
 藤沢に、生きる希望が目の前で消えてしまうという不幸を味わってほしくないし、何よりもこんな離れ方は惨めでしかない。
 ミマの願いを、今にも了承してしまいそうな藤沢に、恵那は感極まったような掠れ声をぶつける。

「藤沢さん、ダメです! せっかく会えたのに、もうお別れなんて! もう少しこの状態で、二人で過ごしてくださいよ!」

 言葉で通せんぼするように、恵那が藤沢の前に立ちはだかる。
 物理的には、椅子に座っている藤沢の隣に恵那が立っているけど、藤沢からしたら進むべき道の途中に立たれている気分だろう。
 藤沢のことを、想っているからこその発言をした恵那の気持ちに応えるように、藤沢は小さく「ありがとう」と言った。
 そして、その恵那の言葉が逆に後押しになったのか、逞ましい顔つきに変わった藤沢が、ミマとの別れを受け入れるように力強い言葉を吐く。

「ミマは……もうこの世の人間ではないんだ。アロマの香りと共に、成仏してもらうよ」
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