たくさんの想いの先に

来栖瑠樺

文字の大きさ
32 / 38

告げられる事実

しおりを挟む
 両親との朝食が終わり、部屋に戻って読書を楽しんでいた。
子供の頃から読書が好きで、いろんな種類の本がある。部屋でも楽しめるし、没頭する事もあったらしい。
今日は、どの本にしようか。本棚を眺めていると部屋がノックされ、入室を許可すると開いた扉にいる人物が視界に入り、目を見開いた。
「イザベラ」
「・・・アレクサンドル」
名前を呼ばれただけで心臓が跳ね、待ち焦がれた気持ちになる。
アレクサンドルは近づき目の前で止まる。
「・・・調子は?」
「悪くないわ。記憶はほとんど思い出せないまま」
「焦らなくていい」
顔に出てたんだろうか。
周りの人達だって早く記憶が戻った方がいいのに、どうして優しいんだろう。
アレクサンドルは優しく微笑んでいるが、瞳の奥は悲しげだ。

 「ひとまず座ろう」
アレクサンドルに座るように促され、向かい合うように座った。
私は、使用人にお茶を用意するように伝え、待ってる間に尋ねる。
「あなたは、いつもその位置で座るの?」
「隣に座る時もあったが、向かい合うように座る事もあったぞ」
「そう・・・ねえ、隣に座ってほしいと言ったら?」
「イザベラが望むなら移動するが、記憶が戻ってない状態で、近くに男がずっといたら話しづらかったり、怖くないか?」
アレクサンドルなりの配慮だったのか。
どう接するのが正しいか分からないが、ただ、このテーブルを挟んだ距離さえ寂しい。
「怖くないわ。隣にいないのは寂しい」
最後は顔を見て言えなかった。言い終わった後すぐには動かなかった。
気持ちを抑えたくないと、目覚めた時に伝えたが、やっぱり迷惑なんだ・・・。
そう思った。
 そしたら気配を感じて顔を上げると、アレクサンドルが隣に座っている。
「平気か?」
私は、嬉しさで口角が上がり頷く。
すると、アレクサンドルは顔を逸らしてしまう。
「アレクサンドル?何か気に触る事してしまったのかしら?」
「何もしてない」
「でも「大丈夫だから、イザベラは気にするな」」
アレクサンドルの顔は見えないが、耳が赤くなっているのが分かった。
照れてるのか。何がそうなったのか思い当たらない。
そこに使用人が、お茶と茶菓子を用意して、すぐに出て行った。
そのタイミングで、アレクサンドルが元の姿勢に戻る。

 「久しぶりだな。イザベラと一緒にお茶を飲むのは」
どこか懐かしそうに話している。
「アレクサンドルと私は、幼なじみなのよね。出会いから聞きたいわ」
「そうだな。出会いは6歳の時。お互い両親に連れられて、ある花畑に集合したんだ。今度一緒に行こうとしてる場所だ」
お花畑・・・きっと綺麗なんだろう。
そういえば、アレクサンドルのご両親に、記憶を失くしてから会ってない。
言ったら会わせてくれるかしら?
 「お互い初めての友人になった」
「初めての?」
不思議そうに聞くと、アレクサンドルは苦笑いした。
「お互い子供ぽくない考えをしてたからな。俺の場合は、仲良くできなさそうな人とは、会わないようにしてた。イザベラは、俺が態度を変えても接し方が変わらなかったから」
「そう。誠実そうに見えるし、今は私以外に友人はいるの?」
「・・・」
返事がないと言うことは、友人はいないと言うことか。
「ごめんなさい」
「気にするな。イザベラは、先を見てしまうからと言って友人がいなかったな。自分の身分により、近づく人やその親とかの思ってることを考えてるとか言ってたな。今はエミリーと言う友人がいる」
「そうなの?」
「今度会うといい」
それにしても、6歳の時の私は子供らしさない。普通は先の事なんて考えない。
私は前から変な人?
まるで違う人格が中にいるみたいだ。

 頭の中に映像が流れる。
窓がたくさんついた高い建物。馬のついていない走る物体。たくさんの人達がいて、人の声以外の音がある。
ここは、どこ?
 そして、誰かに突き飛ばされた感覚。目の前に大きな物体が近づいてくる。
次は私の屋敷の天井。
『私は、死んだんじゃなかったの?ここはどこ?』
誰の想い?私の中にいる人物?
だから、子供らしさがなかったの?
「イザベラ、どうした?」
心配そうに顔を覗き込むアレクサンドルを、しばらく見つめる。
 前に、一部記憶が戻った事に関係してるの?
関係しても、してなくても、頭の中で思い出した事を伝えたら、アレクサンドルは教えてくれるだろうか。
まだ早いと言うだろうか。
でも、私は知りたい。

 意を決して、アレクサンドルに伝えて教えてほしいとお願いした。
アレクサンドルは迷っていたが、落ち着いて聞いてくれと言った。
転生の事、ライリーや殿下の事、記憶を失くした経緯を教えてくれた。
言われた内容は、あまりにも衝撃的で、しばらく何も言えなかった。


***
 イザベラに会いに行くと、本棚の前に立っていた。
そういえば、子供の頃から本が好きだったな。読書しているイザベラを、何度か見かけた事がある。
俺はあまり読まないが、イザベラから本の感想をよく聞かされてた。
正直、本には興味ないがイザベラが意気揚々と語っていたから黙って聞いていた。
少しでも、イザベラと過ごす時間が欲しかったから。
その思い出を胸にしまいイザベラに近づいた。

 体調は見た感じ大丈夫そうだ。
ソファーに座ると、イザベラは寂しそうな表情を浮かべる。
向かい合って座る事もあったし、イザベラが1番想いを強く寄せているのは俺だが、いきなり隣に座って大丈夫なのかと戸惑いもあった。
「平気か?」
と聞けば、隣に来てくれた事が嬉しかったようで笑顔を向けられた。
久しぶりのイザベラの笑顔。記憶が失くなる前は、よく見てた笑顔。
もちろん毎回可愛いと思っていたが、不意に見せられるのは反則だ。
イザベラは、鈍感で俺の気を知らずに見当違いの事を言ってる。
目覚めた時に「お互い惹かれ合ってる」と伝えてあるから、少しは気づいてほしいと思った。


 お茶を飲みながら、出会いの事を話していた。
懐かしいな。今と違う雰囲気はあるが、昔も今も好きだ。
あの花畑で花の指輪を渡したな。
俺は、何気に恥ずかしい言葉を当時から言ってたな。
イザベラは、あの指輪をどうしたんだろうか。
初対面だったし、どうしようとイザベラの自由だから、聞くのは止めよう。
そもそも覚えてないからな。

 イザベラの様子がおかしくなったのは、6歳の子供にしては考えが年齢に合わないと聞いた時からだ。
また記憶の一部が蘇る。転生前の事。何故辛い記憶ばかり先に思い出すのか。
いっそ楽しい記憶だけ思い出せばいいのに。
しかし現実はそんなに甘くない。
 イザベラから前の記憶の事も教えてほしいと頼まれ悩んだ。
辛い記憶で、また心を痛めるんじゃないか。まだ話さない方がいいんじゃないか。
悩んだが、転生前の記憶があり今のイザベラに繋がっている。
タイミングは大事だろうが、一部の記憶が蘇っても何の事か分からないのは、本人が1番不安だろう。
話す事に決めた俺だが、話を全て聞いたイザベラは泣いたり怯える事はなく、ただ呆然としていた。
近くにいる俺の呼びかけにも反応しないほどに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

俺様御曹司は十二歳年上妻に生涯の愛を誓う

ラヴ KAZU
恋愛
藤城美希 三十八歳独身 大学卒業後入社した鏑木建設会社で16年間経理部にて勤めている。 会社では若い女性社員に囲まれて、お局様状態。 彼氏も、結婚を予定している相手もいない。 そんな美希の前に現れたのが、俺様御曹司鏑木蓮 「明日から俺の秘書な、よろしく」 経理部の美希は蓮の秘書を命じられた。     鏑木 蓮 二十六歳独身 鏑木建設会社社長 バイク事故を起こし美希に命を救われる。 親の脛をかじって生きてきた蓮はこの出来事で人生が大きく動き出す。 社長と秘書の関係のはずが、蓮は事あるごとに愛を囁き溺愛が始まる。 蓮の言うことが信じられなかった美希の気持ちに変化が......     望月 楓 二十六歳独身 蓮とは大学の時からの付き合いで、かれこれ八年になる。 密かに美希に惚れていた。 蓮と違い、奨学金で大学へ行き、実家は農家をしており苦労して育った。 蓮を忘れさせる為に麗子に近づいた。 「麗子、俺を好きになれ」 美希への気持ちが冷めぬまま麗子と結婚したが、徐々に麗子への気持ちに変化が現れる。 面倒見の良い頼れる存在である。 藤城美希は三十八歳独身。大学卒業後、入社した会社で十六年間経理部で働いている。 彼氏も、結婚を予定している相手もいない。 そんな時、俺様御曹司鏑木蓮二十六歳が現れた。 社長就任挨拶の日、美希に「明日から俺の秘書なよろしく」と告げた。 社長と秘書の関係のはずが、蓮は美希に愛を囁く 実は蓮と美希は初対面ではない、その事実に美希は気づかなかった。 そして蓮は美希に驚きの事を言う、それは......

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...