たくさんの想いの先に

来栖瑠樺

文字の大きさ
26 / 38

あの日を境に

しおりを挟む
***
 イザベラが、意識を失ってから半年。
あの日、出血は多かったものの一命は取り留めた。
でも、イザベラは目覚めない。
傷が治っても、ずっと眠ったまま。


 あの日、ライリーによって、行動を制限されてた者達は解除された。
ライリーが使ってたのは、催眠術で相手を思い通りにさせる方法だった。
厄介なのは、あの剣だ。ライリーの供述で、呪いの品だと分かった。
その品を売った店主の話を聞いた時は、絶望としか言いようがなかった。
「ライリー様が購入したのは、本、ナイフ、剣です。ナイフは呪いはありませんが、他の2つにはあります。皇太子殿下が、ライリー様の命令が通じなかったのは、催眠術の途中で、イザベラ様の言葉が被り、そちらの力が強かったからでしょう。そして、イザベラ様は呪いの剣で斬られました。呪いの品は、普通の剣で斬られるのとは全く違います。傷が治っても・・・死ぬか、目覚めないか、目覚めても精神が異常か、記憶が失っているか・・・。どの結末でも、おかしくありません。この剣は、それだけ人の血を吸うと共に想いも吸ってます。救う方法はありません。奇跡は・・・ないと考えた方がいいでしょう」
その後は、呪いに詳しい者が国中から呼ばれたが、誰も呪いを解く方法は分からなかった。


 王宮が、できることはもうないと判断し、イザベラは実家に帰される事になった。
俺は、時間を見つけてはイザベラに会いに行く。
でも、イザベラの様子は何も変わっていない。
規則正しく寝息を立てて眠っている。
「イザベラ、ごめん。こんなことになって、人生を変えてしまったかもしれない」
『自分を責めないで』
イザベラが、意識を失う前に言われた。
苦しそうに息をして、皆に言葉を残して。
顔は、心配かけないように軽く微笑んでいた。
俺が、イザベラを守る立場なのに、逆に守られてしまった。
騎士の功績なんて関係ない。何も守れてない。殿下の事も。
殿下は、あの日から、ずっと自責の念に駆られている。

 部屋がノックされドアが開かれる。
「殿下」
「イザベラ嬢の様子は?」
「変わりません」
「・・・・・」
殿下は、暗く沈んだ顔をよくしている。
食事量は減って痩せた。
公務はしている。ただ、それ以外の時は、人と関わるのは限られた人だけだ。
今の殿下は、何を言っても心に響かない。
あの日のことは王宮で噂になり、首都のフェレアにまで届くのは時間がかからなかった。
 「明日、イザベラ嬢が実家に帰る。私も付いて行く」
「殿下も?」
殿下は、イザベラの近くの椅子に座る。
「こんなことになったのは、私のせいだ。イザベラ嬢の両親に謝る。謝っても、本心は許してくれないだろう。それでも、王宮から見送るだけは嫌だ」 
「殿下のせいではありません。ライリー・ヴァリアントンが悪いです」
「それでも、私は自分を許せない。イザベラ嬢を、この手で斬った感触が今も残ってる。大切な臣下を傷つけるなと言われた。だけど、イザベラ嬢も私にとっては大切だ」
「・・・・・」
「私が憎くないのか?アレクサンドル」 
「殿下を憎んで何になるのですか。イザベラは殿下も守りたかったんです。ライリーにさえ、過ちを犯した後の気持ちを考えていた。それに、自分を殺しにきたクレア嬢は、説得した後に拘束せず、命の危機があったら逃げろと言って・・・優しすぎます」 
「イザベラ嬢には一生敵わないな」 
「そうですね」 
殿下の表情が、僅かに柔らかくなった。

 しばらく無言の後、殿下が俺に視線を向ける。
「アレクサンドル。お前の最後の任務は、イザベラを実家に無事に届ける事。その任務が終われば、騎士を引退だ。その後は自由だ」
「それは、どう言うことですか?辞める為に功績を残す。その話から、俺は何もしてません」
「いや、功績はある。あの日ライリー・ヴァリアントンが暴走した。ライリーが一時的に気持ちが揺らいだとしても、また催眠術をかける恐れがあった。術がまだ解けていない騎士も多い中確保ができた。そして、あの日を機にヴァリアントン家の悪事が分かり、1人残らず確保ができた。アレクサンドルが先導にたったおかげだ。もう十分だ。最後の任務を頼む。アレクサンドル・モンフォール」
 
 ヴァリアントン家は財産を没収され、いくつかに分けて島流しになった。遠い島の為、戻ってこれない。
クレア嬢は、生涯フェレアから追放になった。

 「はい。殿下。時間はかかると思いますが、元の殿下に戻って下さいね。主人の変わった姿は胸が痛みますし、イザベラも同じ事を思います」
「立ち止まってばかりではいられないな」
殿下が立ち上がり、右手を差し出す。俺も右手を差し出し握手をした。
騎士に行く前は、王家に不安は多少はあったが、殿下に会って払拭された。
時に厳しいが臣下を労る事ができる方だ。
ただの使い駒の扱いはしない。
いなくなった臣下の事もちゃんと覚えている。
俺は、良い主人に出会えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】平凡OL(β)ですが、同期の末っ子御曹司(α)に溺愛されています

神無月りく
恋愛
日本外食産業の一翼を担う『川嶋フーズ』で秘書としてOL黒田鞠花(くろだまりか)は、同期で社長令息の川嶋隼人(川嶋はやと)に入社以来恋に似た憧れを抱いていた。 しかし、そもそもの身分が違う上に自分はβで、彼はα。 ただの同期以上の関係になれないまま、五年の月日が流れた。 ある日、Ωのヒートに巻き込まれて発情した彼を介抱するため一夜を共にし、それがきっかけで両思いだったことが発覚して交際がスタート。 意外に庶民的でたまに意地悪なスパダリ彼氏に溺愛され、順調にデートを重ねて幸せな日々を送っていた鞠花だったが、自分の母親からαの交際を反対されたり、彼の運命の番を自称するΩ令嬢が登場したりと、恋路を妨げる波乱に見舞われるように…… ※ムーンライトノベルズ(小説家になろう)様で同一作品を連載中ですが、こちらが若干先行公開となっております。 ※一応R18シーンには☆マークがついています。 *毎週土日および祝日の不定時に更新予定(ただし、1月1日~5日までは連日更新)。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

この結婚に、恋だの愛など要りません!! ~必要なのはアナタの子種だけです。

若松だんご
恋愛
「お前に期待するのは、その背後にある実家からの支援だけだ。それ以上のことを望む気はないし、余に愛されようと思うな」  新婚初夜。政略結婚の相手である、国王リオネルからそう言われたマリアローザ。  持参金目当ての結婚!? そんなの百も承知だ。だから。  「承知しております。ただし、陛下の子種。これだけは、わたくしの腹にお納めくださいませ。子を成すこと。それが、支援の条件でございますゆえ」  金がほしけりゃ子種を出してよ。そもそも愛だの恋だのほしいと思っていないわよ。  出すもの出して、とっとと子どもを授けてくださいな。

処理中です...