たくさんの想いの先に

来栖瑠樺

文字の大きさ
11 / 38

転生前の関係者

しおりを挟む
 何度目の夜会の時だろうか。
「僕と少しお話ししませんか?」
挨拶や世間話に疲れ、椅子に座って休憩してる時に知らない男性から声をかけられた。黒髪で目は緑色だ。
「はい」
「ありがとうございます。ただここは人が多くて騒がしいので、バルコニーで話をしたいです」
「分かりました」
椅子から立ち上がった時に、彼の笑顔が視界に映り背中がゾクッとした。
どうしてだろう。この笑みとそれに対する感覚。この嫌な感じ知ってる。
「僕は、ライリー・ヴァリアントンです」
「・・・私は、イザベラ・シャロンです」
彼はバルコニーまでエスコートしようとしたが、断りそのまま彼の後を付いて行った。
バルコニーに着くと、早速ライリーから話しかけてきた。
「イザベラ公爵令嬢は有名ですよ。何度かあなたを見かけてます。ただ、いつも誰かといるから話しかけられなくて、今日やっと話す事ができます」
「そうでしたか」
貼り付けの笑顔で対応する。さっさと話を切り上げたい。
「何を話せば、あなたは興味を持つのでしょうね。そんな貼り付けの笑みも剥がれて」
「何を言ってるのですか。ヴァリアントン公爵子息」
この人が何を考えているのか分からない。
ただジッと私を見ている。
「いや。あなたは多くの人と交流してきたでしょう?話の中身が薄っぺらなら、つまらない存在になるし、自分はそうなりたくないと思ったんです」
「はあ」
私はライリーから目を逸らした。

 「転生を信じますか?」 
「はい?」
意外な話に視線をまた戻すと、ライリーは一瞬だけ不敵に笑った。
「僕は信じます。何故かと言うと僕自身がそうだからです。時代で言うと今よりもっと先の未来なんですよ。その時好きな女性がいましたが、想いが届く事はなかった。それで、僕は事故に見せかけて彼女の命を奪ってしまいました。その後、自分は首吊り自殺して目が覚めたら、この世界に転生してたんですよ」
ライリーは、どこか切なげな目をしていた。
「・・・どうして、その話を私に?」 
「何故でしょうね。あなたを見かけた時から、どうしようもなく惹かれたから」
ライリーは私の手を掴み、一歩前に進む。
「僕と付き合ってくれませんか?」 
「離して下さい!急すぎます!」 
手を振り解こうしたが力強くてできない。
「どうして僕を拒否するんですか?転生の話をしたから?」
「いきなり言い寄られても嫌です!気持ち悪い!」
それを聞いたライリーは、呆然としていた。
 「あなたも同じ事を言うんですね。転生前に好きになった人と同じだ」
「とにかく離して下さい!」
思いっきり振り切ると今度は離れた。
「もう、あなたとは話す気になれません」
その場から去ろうとした。
「お願いです。待って下さい!僕はあなたを渡辺真奈と重ねていた。もうしません。だから、そんなことを言わないで下さい!」
「・・・・・あなただったの」
懇願するライリーに対して、私は転生前の自分を殺した人が分かった。
ただ私の言葉は相手には聞こえなかったようだ。
「イザベラ様~」
そこに、夜会でも何度も会っているエミリーが手を振って近づいてくる。
私は彼女に手を振り返してライリーに告げる。
「絶対に許さない」
ライリーは、ハッとした顔で私を見た。
それ以上は何も言わず、私はエミリーの元に向かった。


 ***
 ついに、イザベラと話せる。僕は心が踊っていた。彼女の周りには、いつも誰かいるし、夜会の途中で帰ってしまう。
だから、1人になる時を待っていた。そして、やっとその日が訪れた。
バルコニーに行く前、イザベラは怖がっているように見えた。
何故だろう。初対面だから嫌われるようなことしていない。
疲れてるだけだろうか。
そんな疑問を抱きながら、バルコニーに着く。 
どんな話をすれば、イザベラを退屈にさせないか、ずっと考えてきた。
周りと同じ話をすれば、自分の印象は薄い。僕は彼女の中で存在を強く残したい。
転生の話なら誰とも被らない。引かれるかもしれない。
そしたら、また別の話や方法で挽回すればいい。
「転生を信じますか?」
そう聞けば視線を僕に戻し、何を言ってるんだと思ってそうな顔をする。
そして、自分が転生した事、転生前に行った事を伝えた。
自分から言い出しておいて、転生前の事を思い出したら少し切なかった。


 転生前
 僕の名前は岡本翔平。IT系会社に勤めててヘッドハンティングで、渡辺真奈のいる会社に来た。
新しい部署で僕の紹介がされてる時だった。部署内の人達をザッと見回した時、渡辺真奈で視線が止まった。外見は普通だ。
ただ、僕に向ける視線は、どうでもいいと考えてるような感じの目だ。
他の人は、好奇な目や嫉妬だったりする。前の会社でもそうだった。今までと違う反応。
渡辺真奈に興味が出てきた。

 自己紹介が終わり、社内を軽く案内され先程の部署に戻ってきた。
「ここまでで何か質問はあるかい?」
部長が穏やかな笑みで尋ねる。
「・・・彼女は誰ですか?どんな人ですか?」
「ああ。彼女は渡辺真奈だよ。仕事はできる。根は悪い人じゃないよ。まあ、淡々としてるから冷たい人と最初は誤解されやすい。興味がある内容なら、普段より喋るよ」
「分かりました」
第一印象が良くないタイプなんだな。
彼女と話してみたいが、何をきっかけにしようか。
僕は仕事をしながら考えた。

 仕事の休憩時間などに、いろんな人が声をかけてくる。
一方、渡辺真奈は、こちらに目をくれることはない。
向こうから声をかけてくることはなさそうだから、自分から声をかける。
「渡辺さん。これから一緒にお昼どうかな。まだ話したことないし」
「・・・」
渡辺真奈は僕と視線を合わせるが、無表情で無言。これは拒否ってことか。
「私より他の人と行った方が楽しめますよ。会話は、特に用がなかったので話さなかっただけです」
そう言うと僕から視線を外す。
周りから僕が渡辺真奈に声をかけた時から騷めいている。
「渡辺さんを誘うなんて」 
「岡本さん。まだ来たばかりで渡辺さんの事を知らないから」
この騷めきは本人も聞こえてるが、表情を変える事はない。
「・・・いつまでここにいるんですか。周りの声聞こえてますよね。私とは、あまり関わらない方がいいです。早くどっかに行って下さい」
渡辺真奈は視線を合わさず、僕にだけ聞こえるように言う。
「そうか」
それを聞いて僕はその場を後にした。

 次の日、早く出勤し、有名店のチョコレートを渡辺真奈の机に置く。紙袋の中に僕の名前と一言添えたメモを入れた。
だんだんと出勤する人が増え、渡辺真奈も来てチョコレートとメモを見た。彼女の近くで仕事している人達も、チョコレートと差出人が気になっているようだが口には出さない。当の本人は、紙袋ごとデスクにしまい特に反応がない。
気にならなかったのか?
昨日、彼女のデスクに甘いお菓子が置いてあるから好きだと思うのだが・・・。
日を空けて別のお菓子を置いてみたが、反応はなかった。


 僕が移動してから2ヶ月後。新しいプロジェクトでリーダーをやってほしいと言われた。メンバーを見ると渡辺真奈の名前もある。僕は、部長にお願いして彼女をリーダーの補佐役にしてほしいと伝えた。承諾を得てその後は、部長がメンバーを集めてプロジェクトを説明した。
 説明が終わると、それぞれその場から去っていく。僕が支度をしていると声をかけられる。なんと渡辺真奈から。
「岡本さん。お礼が遅くなってすみません。お菓子ありがとうございます。美味しかったです」
「それは良かった」
「部長から聞きましたが、何故私をリーダーの補佐役に?」
「君は、よく周りを見てるから。仕事で遅くなった人や疲れてる人にコーヒー入れたり、仕事が遅い人をサポートしてるから」
「あなたも、よく見てますね」
 少し驚いた顔をしている。
「そうだね」
「これから、よろしくお願いします」
右手を差し出し握手を求めてくる。
初めて見る渡辺真奈の笑顔に、自分が赤面したのが分かり、顔を逸らした。
無表情以外を見れたのが新鮮だが、笑顔を見て思わず可愛いと言いそうになった。
「岡本さん?」
顔を渡辺真奈に向けると、首を傾げている。
彼女の右手は差し出されたまま。
「あ、ああ。こちらこそ、よろしく」
そう言って握手をした。

 この時は何も疑っていなかった。少し距離が近づいたと思っていた事に。


 プロジェクトは問題なく進んでいた。真奈のおかげでもある。
勝手に下の名前で心の中では呼んでる。フルネームで呼ぶのは長いし、気になる人は下の名前で呼んでしまう。前からそうだし、本人の前で言ってないからいいだろう。 
真奈は、メンバーの進捗の確認やアドバイスをしてくれる。そして、今後に向けたプランを提案してくれた。
真奈に感謝し、甘い物を差し入れするとよく見ないと分からないが軽く口角が上がってるのが分かった。喜んでくれた事が嬉しかった。

 その後、昼食に誘うと真奈は躊躇っている様子を見せる。
「今は仕事じゃないし、前にも言いましたが、私とあまり関わらない方がいいです」 
「僕は気にしてないよ。それより早く行こう」
そう言って真奈の手を取り、小走りでその場を後にした。
「岡本さん!手を離して下さい!」
後ろから真奈の声が聞こえたが無視した。
行きつけの店に向かい、席に着いた。
それぞれ注文した後に言われた。
「岡本さん。こうゆうのは困ります」
「何が?渡辺さんとあまり関わらない方がいいって話?さっきも言ったけど気にしないよ」
すると真奈は眉間に皺を寄せる。
「そのことは、後何度言えばいいのか分からないので、もういいです。しかし、私は事前に伝えているので、何かあっても恨まないで下さい」
「他人から見た印象なんてほっとけばいい。じゃあ、何に怒ってるの?」
「手を離して下さいと言いましたよね。あの距離で聞こえなかったとは言わせません。嫌がってるのに、止めないのはどう言うことか分かってますか」
「あー、ごめんね?渡辺さん、あーでもしないと来てくれなさそうだから」
「・・・今後は気をつけて下さい」
眉間の皺はなくなったが、視線を合わせてくれない。
食事中も同じ。
 この雰囲気が気まずくて、どうにかしようと、今までの自分の功績を話し続けた。
お菓子の話がいいかと思ったが、自分はあまり興味ないし、今の真奈が話に乗ってくれるか分からない。結果的に自慢話をしてたが、相槌や何度か言葉が返ってきた。
無視されなくて良かった。安堵の溜め息が出そうになった時
「美味しかったです」
真奈がようやく視線を合わせてくれた。
「良かった。また一緒に来よう!それとタメ語で話さない?歳近いし」
「敬語が癖なのでタメ語は難しいですね。食事は考えておきます。そろそろ会社に戻りましょう」
そう言って立ち上がる真奈に、自分も慌てて立ち上がる。
そして伝票を持ち「お会計は僕がするから」と言ってレジに向かった。
そんな僕を見て「やっぱりダメそうね」と真奈が言ったのは知るわけなかった。


  「渡な・・・」
次の日、出社すると真奈を見かけた。まだ他の人は出社していない。少しゆっくり話せると思って、声をかけようとして途中で止めた。
僕の知らない男と歩いている。顔は見えなかったが、真奈がその男を見た時笑っていた。何度か見た軽く笑うのでもなく、張り付けの笑みでもない。まるで自然に笑っているように見えた。
いつも、真奈は僕より遅くに出勤するのに今日は早い。
あの男は誰だ?
後を付けようと思ったら会議室に入っていく。
しばらくすると、男だけが先に出てきたが、僕の方に背を向けてて顔は分からなかった。
その後、会議室からは真奈しか出てこなかった。
・・・2人きり。
何を話してたかは気になるが、2人はどうゆう関係?
僕の心の中がモヤモヤして、真奈に笑顔を向けられていた男が憎らしかった。
どうすれば、僕にも自然な笑顔を見せてくれる?
いろいろ考えて歯ぎしりした。

 「おはようございます」
真奈が僕の所に来て挨拶をする。軽く笑っている。いつもなら無表情が多いのに。
あの男に会った後だからか。
「おはよう。今日は早いね」 
「いつもより、早く目覚めてしまって。家にいてもつまらないので、そのまま出社しました」 
そう言って、仕事用のPCを立ち上げた。
真奈の答えに疑問を抱いてしまう。
本当にそうなのか?あの男に会いたかったからじゃないか?
「・・・渡辺さんって彼氏いるの?」
「いません」
「じゃあ、気になる人は?」
「いません」
僕からの質問に答えてくれたが、作業を止めて怪訝な顔をしている。
それでも止まらなかった。

 「さっきの男は誰なんだよ?!」 
「・・・」
声を上げ立ち上がった僕を見ても驚いた様子はない。
「さっき見たんだ。相手の顔は見えなかったけど、真奈が男と会議室に入る所!その男に自然な笑顔を向けてる所を!」
真奈は、一瞬眉を寄せたが無表情の顔になった。
「私が誰といようが、仕事に支障をきたしてません。笑顔も同じ事が言えます。何故感情的になってるんですか。それに私は下の名前で呼ぶ事を許可してません。あなたの言動は仕事に支障をきたします」
「・・・何で、ほとんど無表情なんだよ。淡々として。僕は、真奈があの男してたことに、心がモヤモヤする。あの男が憎らしい!僕とだって過ごしてきた時間はあるのに、どうして進展しない!どうすればいい?!今、こんな気持ちになってるのは、真奈の事が好きなんだ!!それに君の事は、心の中では前から下の名前で呼んでいた。僕は、気になる人がいたら下の名前で呼ぶから!」
「・・・・・私が無表情で淡々と対応してるのは、あなただけではないでしょう。軽く笑う事はありますが、それも同じ事が言えます。それと、岡本さんの気持ちには応えられません。それに、自分が気になる人なら下の名前で呼ぶ。はっきり言って勝手ですね。心の中は見えないので仕方ないですが、それを表に出すなんて。今後は止めて下さい」
「そう言われても・・好きなんだよ!悪い所は直すから!男として見てほしいんだよ!」
僕は真奈の手を握った。
 その瞬間
「離して下さい!」
手を振り払われた。
呆然としてる僕に
「いきなり言い寄られても嫌です!気持ち悪い!」
僕を嫌悪の目で見てる。
嫌だ。そんな目を向けないでくれ。
そんな目を向けられるくらいなら、最初の時のように、どうでもいいって目を向けられた方がマシだ。
「ごめん・・・せめて、あの男が誰なのか教えてくれないか」
「・・・結局あなたは自分の事ばかりですね。知りたがってる男は、そのうち分かりますよ」
真奈は僕から視線を外しPCの作業を再開する。
「どうゆうこと?」
「仕事の時間が始まりますよ」
周りを見回すと、チラチラと他の社員が出勤してきている。
 それからの真奈は仕事に関してはいつも通りだが、差し入れは断られ休憩時間でも相手にしてくれなかった。


 「プロジェクトが白紙?!」
「ああ」
部長からプロジェクトが白紙を言われたが信じられなかった。
「何故ですか?!」
「詳しい事は分からない。この状況で悪いが社長室に今から行ってくれ」 
「・・・分かりました」
部長に聞いても分からない。それに社長に呼ばれてるなら直に聞く。
僕は社長室に向かって歩き出した。
その背中を部長は不敵に笑っているのは知らずに。

 社長室のドアをノックすると入室の許可が聞こえ部屋の中に入る。
部屋の中に入ると、社長の椅子に男が座っている。その横には真奈が立っている。
「真奈。君も社長に呼ばれてたんだ」
「真奈?あの男とは親密なのか?」
社長の椅子に座っている男が真奈に聞く。
「親密ではありません。下の名前を勝手に呼ばれて、止めてくれと言ったんですが直ってません」
真奈はまた嫌悪の目を向ける。

 「立ち話も悪いから座って。ああ、俺は社長の平泉だ」
「社長?社長は「君の知る社長は辞任して俺が社長になった」」
僕の言葉を、新社長の平泉によって遮られた。
困惑する僕を見ても、平泉は平然としている。
「ほら、座りなって」
そう言って、僕の座る椅子を指さした。
「渡辺も座って」
平泉は真奈の座る椅子を指さす。僕と対面する形だ。
平泉は1人がけの椅子に座る。僕と真奈が見える位置だ。
「何故、君が呼ばれたか分かる?」
平泉は僕に尋ねる。
 「いえ、いろいろ聞きたいことはあります」
「何?」
僕は一息ついて疑問をぶつけた。
「プロジェクトが白紙と部長から聞きました。何故ですか?」
「それは前社長の提案だったから。今は俺が社長。必要がないから白紙にした」
「必要ない?あのプロジェクトが成功すれば、我社の利益は大きいと思います。それに順調に進んでました。そこにいる真奈・・・渡辺さんもサポートしてくれました」
「活動報告は聞いてる。渡辺も頑張ってた。しかし、君はリーダーで彼女はリーダー補佐役だよね。実際は彼女が主導で、君はリーダーらしいことは何もしてない。それに、そのプロジェクトがなくても利益を出す方法は他にもある」
「そんなこと「それと君は元々この会社に必要ない。ここに呼んだのはその為だ。今日付けでクビ」」
平泉の僕に向ける目は、どうでもいいと言いたげな目だ。真奈と同じ。

 突然の解雇通知に頭が追いつくまで時間がかかった。
「な、何を言ってるんですか。突然そんな・・・僕はヘッドハンティングされて、この会社に入ったんですよ。前の会社で優秀だと言われてきました。それなのに、クビだなんて何かの間違いでしょう」
額から汗が流れ、手が震える。
これは悪い夢だ。そう、夢であってくれ。目を覚ませば、いつも通りプロジェクトをしていて、平泉と言う新社長もいない。そんな現実に戻ってくれ。
そう思って自分の頬を抓ったが痛みを感じる。やはり現実。
それを見た平泉は鼻で笑った。
「優秀だと言われてきた人ほど、悪い事は受け入れられないんだな。もう、この際だから教えてやる。岡本のヘッドハンティングは前社長しか認めていない。社長の命令に背く事はできない。ただお前が、この会社に居続けるのはリスクが高いと思い、俺は条件を出した。お前がこの会社に必要ないと判断された場合、俺が社長になると言う条件付き」
「なっ!」
「元々、次の社長は俺で決まってたようなものだ。お前のヘッドハンティングに反対してた人達も俺側に付いてくれた」
「・・・真奈がここにいるのも僕のクビと関係があるって事か?でも、僕を簡単にクビなんかできない。親父が許すわけない!」
平泉を睨むと呆れた表情を向けられた。
「また下の名前で呼んでるのか。渡辺からも伝えろ」
「はい。私もあなたのヘッドハンティングに反対してた1人です。あなたがこの会社に来れたのは、前社長とあなたのお父さんが友人だったから。ようはコネですね。表向きはヘッドハンティングって事になってるだけです」
「コネだと!?違う!僕の優秀が認められたからだ!それに真奈が反対の1人って・・・この会社で上の人なのか?」
「上の人・・・と言うより役目があるので場合によってはですね。私は首斬り役人です」
「首斬り役人?」
「そう。普段は一般社員と混ざって仕事して、会社にとって不必要だと判断すれば報告。そしてその人はクビ。だから、首斬り役人と言われてるんですよ」
「・・・・・」
「それで岡本さん。あなた自身の能力は高くない。今回のプロジェクトで自分では率先して何かできていない。前の会社で優秀と言われたのは、他の人の仕事を横取りして美味しい所だけ自分でする。上手くいかなければ、お父さんに頼む。あなたのお父さんは、業界に顔が効くから前の会社の社長も何も言えない。それと、あなたは自慢話が多くて他者の話を聞こうとしない。それに相手が嫌がってる事を注意しても止めない。その為、あなたはこの会社に必要ない。この間、あなたが私と一緒にいた男が気になって、迫ってきましたね。その人は、ここにいる社長ですよ」
真奈も淡々と理由を言ったのは後、最後に平泉を一瞥した。
「そう言うことだ。お前のお父さんに頼んでも無駄だぞ。お父さんの方が終わってるな」
「どういうこと?!」
「不正をしてたんだよ。お前が恵まれてたのはお父さんのおかげ。不正のおかげだ」
「そんなこと「嘘だと思うならネットを見てみろ」」
平泉に言われた通りネットを見ると、親父が不正で逮捕と出ている。
僕はスマホを落とした。
いきなりこんな・・・・・受け入れたくない。
 「真奈・・・いや、渡辺さん。社長。僕は、これから心入れ替えます。だからクビだけは・・・どうかお願いします」
僕は、椅子から降り土下座した。
この僕がクビだなんて。そんなこと認めたくない。
僕は懇願してるのに聞こえてきたのは2人の溜め息だった。
「渡辺。報告にあった通り、どうしようもない人だな」
「仕方ないですよ。今までと正反対の扱いされてるので、受け入れられないのでしょう。土下座までするとは驚きです」
「どうする?渡辺」
「結果は変わりません。と言うか社長。どうする?と聞いてますが、判断を変える気はないでしょう」
「確かに。相変わらず厳しいな。俺も、首斬り役人に目を付けられないようにしないといけないな」
「笑いながら言うとは。せめて言うタイミングを考えてほしいですね」
僕はずっと頭を下げてるのに。僕の願いは却下されてるのは分かった。
ギリッと歯ぎしりをする。
「おい、いつまで頭を下げている。クビは変わらないから、さっさと荷物をまとめて出ていけ」
 僕は頭を上げ2人を見た。
2人は僕の事を全く見てない。ただ仲良さげに会話をしている。
僕は、フラフラと足元が覚束無い状態で部屋を出て、自分のデスクを片付け会社を出た。


 その後のことは記憶がない。気がつけば一人暮らしの家にいた。
もう終わりだ。何もかも。今まで挫折なんてなかった。
エリートの道を進み、これからもそうなると思っていた。
・・・こんなことになったのは渡辺真奈のせいだ!
それが頭に浮かんだ途端フツフツと怒りが込み上げてくる。
あの女が首斬り役人でなければ。
会社にあの女がいなければ。
好きになんてならなければ。
他の人が首斬り役人で未来は変わらなかったとしても、あの女は許さない。
・・・・・裏切られた!
許さない!!!
「クソッ!!!」
僕は拳で床を思いっきり殴った。


 家に帰って1週間経った頃、会社の近くの地下鉄の入口付近に来た。
見た目はボロボロだが、どうでもいい。
僕は、渡辺真奈を待っている。
前に通勤で、この電車を利用していると聞いたから。
20分くらい経って、あの女が現れた。
渡辺真奈と話をしたくて、ここにきたんじゃない。
あの女が、信号待ちをしている時に彼女の背後に立ち、思いっきり突き飛ばした。
彼女は前に飛び出し、そのままトラックに跳ねられ身体が宙に上がり、遠くまで飛ばされていく。そして、そのまま動かなかった。
周りは悲鳴や動揺している人達だらけだ。
 僕は周りと反対方向に歩き、家に帰る為歩いた。
トラックに轢かれる直線、渡辺真奈の顔には恐怖の色が浮かんでいた。
初めて出会った時から死ぬまでを思い出す。
「・・・・・ククク・・・・・アハハハハ・・・・殺ってやった!!!お前も道連れだ!!!バアアァァァカア!!!ギャハハハ」
笑い声が抑えきれず、大声で叫んだ。
周りの人は、離れ遠くから見ている。
ああ、最後の顔、今まで見た中で最高だったな。

 家に帰り、僕は椅子に乗り、事前に用意していた物を首にかける。
もう生きていたって仕方がない。
何もかも終わり。ただ最後に渡辺真奈を殺してから死のうと考えた。
 もう一度、渡辺真奈を思い出した。最後の顔と動かなくなった身体のところで胸がズキッと痛む。
何故だ?憎い存在になったはずなのに。
そう思った時、涙が流れた。
意味が分からない。涙が出るなんて。
ふと思い出したのが、甘い物を差し入れした時に軽く口角を上げ、お礼を言ってくれた事。それも嘘だったのか?
彼女のデスクから少しでも距離を詰めようとしたヒント。
今となっては、本当か嘘か分からないが、その時は首斬り役人じゃない気がした。
僕は、今も渡辺真奈が好きなんだろうか。
そうだったとしても、結ばれることはない。過ちを犯したから。

-------もし、またこの世に生まれて好きな人ができたら、結ばれて穏やかに暮らしたい-------

 こんな僕に、その願いが許されるかは分からない。
ただ言えるのは、渡辺真奈の未来を奪ってしまった。君は役目を果たしただけ。
生きていたら、また首斬り役人の仕事をするだろう。
それとは別で、幸せと思う瞬間が何度もあったかもしれない。
ごめんなさい。渡辺真奈。きっと君は許してくれないな。
涙を拭き、溜め息をついた後、椅子から足を外し首吊り自殺をした。


 目を開けると、ライリー・ヴァリアントンとして転生した。
意味が分からないが、特に不自由することなく育った。
 ある夜会でイザベラと出会った。
理由は分からないが、心が惹きつけられた。彼女と話してる時、必死になって手を掴んでしまった。
すると、イザベラは渡辺真奈と同じ言葉を言う。
僕は、転生前の渡辺真奈とイザベラを無意識に重ねていたが、別人だと割り切ろうとした。
ただ言われた言葉が同じで、思わず渡辺真奈の名前を出した。
彼女の名前を聞いても誰か分からず、変に思われるだろう。
しかし、イザベラは、僕を睨み「絶対に許さない」と言う。予想外の言葉。
そのままイザベラは去っていった。
渡辺真奈の転生は、イザベラと確信する。

 ああ、運命は残酷で時に幸せをもたらしてくれる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】平凡OL(β)ですが、同期の末っ子御曹司(α)に溺愛されています

神無月りく
恋愛
日本外食産業の一翼を担う『川嶋フーズ』で秘書としてOL黒田鞠花(くろだまりか)は、同期で社長令息の川嶋隼人(川嶋はやと)に入社以来恋に似た憧れを抱いていた。 しかし、そもそもの身分が違う上に自分はβで、彼はα。 ただの同期以上の関係になれないまま、五年の月日が流れた。 ある日、Ωのヒートに巻き込まれて発情した彼を介抱するため一夜を共にし、それがきっかけで両思いだったことが発覚して交際がスタート。 意外に庶民的でたまに意地悪なスパダリ彼氏に溺愛され、順調にデートを重ねて幸せな日々を送っていた鞠花だったが、自分の母親からαの交際を反対されたり、彼の運命の番を自称するΩ令嬢が登場したりと、恋路を妨げる波乱に見舞われるように…… ※ムーンライトノベルズ(小説家になろう)様で同一作品を連載中ですが、こちらが若干先行公開となっております。 ※一応R18シーンには☆マークがついています。 *毎週土日および祝日の不定時に更新予定(ただし、1月1日~5日までは連日更新)。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

ワンナイトラブは副団長と

狭山雪菜
恋愛
彼女は、エリザベス・フォスター 銀髪と赤い目の18歳 国の政を仕切る大臣の令嬢だ 素直に言ってしまう事が私の長所だと思っていたのだが、お父様とお母様からは短所と言われてしまったの社交界デビューした立派な成人だ。 アンナというちょっと天然の友人しかいない もう成人したので婚約者を探せねばならないのだが 素直すぎる性格故に上手くいかず 気分転換にお忍びで行った町で、副団長と会ってしまい… 全編甘々を目指してます この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...