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七鳴鐘楼モンペルク、月蝕は混沌の影を呼び編
泉に出づるは妖しの姿2
しおりを挟む『実はね、私……あれからどんどん力が強くなってきたの』
「えっ、っていうと……色んな泉に移動できるくらい……とか?」
今だって、実際に離れた場所まで来ることが出来てるよな。
これもその「強くなった」の恩恵なのではなかろうか。
すぐに答えると、アグネスさんはくすぐったそうに笑って体を動かした。
控えめに言っても間違いなくかわいい。
『うふふっ、そうね。確かに、私の泉から繋がる水場には移動できるようになったんだけど……今回は、ちょっと特殊なの。泉に居たら、急に“とっても幸せな気持ち”が伝わってきて……それが、何故かツカサくんの気持ちだって分かったのね? だからつい会いたいな~って思ったら、なんと飛んでこられちゃったの!』
「し……しあわせなきもち……?」
ちょ、ちょっと待って。なんですかそれは。
アグネスさん何を感じ取ったってことなんですか。
恐る恐る聞くと、彼女はたわわな胸をきゅっと強調するように腕で挟みつつ、両手を頬に添えて恥ずかしそうな嬉しそうな顔で体を揺らした。
『そう! すっごく幸せな気持ちよ! ホントは私もまだ自分の領域にしか移動できないはずだったんだけど……でもぉ、あれだけ幸せそうな愛する気持ちが水から伝わってきたら、私としてはつい反応しちゃ……』
「ワーッ!! わーっ! わああああ! いいですそこ良いですぅうう! とにかく俺の気配に引っ張られて来てくれたのはわかりましたあああ」
やめてやめて頼むからもうそれ以上言わないでっ!!
違うんですそうじゃないんです俺は別にそんなっ。
「ふ、ふへへ……ツカサ君てばそんなに僕の事を……!?」
「違うー!!」
やめろ、また抱きしめてこようとするな。
俺は何も考えてない何も考えてない水に沈ませてくれもう誰の顔も見れない。
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『あらぁ、もしかしてお邪魔しちゃったかしら……』
「いや、今回に限っては許そう」
「お前が許してんじゃねーよ!! あっ、いやっ、アグネスさんを許さないとかじゃないですからね!」
アグネスさんが傷つかないかと慌てて釈明すると、彼女は再び嬉しそうにクスクスと笑ってくれた。う、うう、グラマラス美女なのに笑い方が無邪気な女の子みたいで心がキュンキュンするぅ……。
『ふふっ……相変わらず仲が良さそうで良かった! でも驚かせちゃってごめんね、ここに来られたのは、きっと私とツカサくんが“縁”で繋がってるからだと思うわ。だから今回のは特別だと思うの。今度も出来るかは分からないけど……もし出来たら、お伺いをして出てくるから安心してね』
「確かにちょっと驚いたけど、会えて嬉しいのは俺達もですよ。だから謝る事なんて何もないんで、安心してくださいね! なっ、ブラック」
「僕は別に……」
「お前ちょっと黙ってて」
「ツカサ君が問いかけて来たのにぃ」
アンタがロクでもない返答をするからだろうがっ。
ったく……本当に興味がない相手に対してはこんなんなんだから……。
「それよりアグネスさん、力が強くなったってどういうことです?」
『あっ、そうそう。それなのよ! あの後、ツカサくん達が偉い人に街道の事を報告してくれたでしょ? そしたらね、道路を整備したり小屋を管理してくれる人が来てくれたの。それでね、昔みたいな賑わいは無理だけど……その代わり、国が保護する土地? って言うのにしてくれて、自然を楽しむ観光地として整備をしてくれるってお話になったの!』
「えっ……そんなことに……!」
俺達の世界で言う国立公園みたいな物だろうか?
確かにあの山は大事な水源でもあるし、なにより滅多に現れない【元素妖精】が泉に棲みついているのだ。保護しないなんてありえないって感じだったんだろうな。
これも、アコール卿国の国主卿……つまりローレンスさんが取り計らってくれたって事なんだろうか。ううむ、いよいよ足を向けて寝られなくなってきたぞ。
『それでね、私と仲良くなってくれる人が増えるたびに……なんていうか……こう、力が湧いてくるっていうか……今までより、周囲の事が色々分かるようになったの。だから、ツカサくんの所にも偶然出てこられたんだと思う』
それは……どういうことだろう。
急にパワーが満ち溢れて来たなんてことないよな。
どういうことだろうかとブラックの方を振り返ると、難しい顔をして腕を組んでいたが、一応の推測を俺に答えてくれた。
「妖精ってのは僕達人族や他の“ヒト”である種族と違って、個体ごとに特徴や性質もバラバラだから、一概には言えないけど……この泉妖精の場合は、多くの人族に認知されるか、もしくは他人の生気を吸って力を得ているんじゃないかな」
「せ、生気?」
「たぶん、ごく少量だろうけどね。でも、この妖精は人族に名前を貰ったんだ。そのせいで、人族に依存した性質になってしまったんだろう」
あ、そっか……この世界にも、チートもの小説で良く見る“名付け”でパワーアップが可能になる感じのがあるんだよな。
ということは、アグネスさんは黒髪の女の子に名付けてもらったことで、成長するにも人族の力が必要不可欠になってしまったという訳か。
でも、人との縁が出来た事で、知り合った俺達の所に飛んでこられるくらい力が増したのだから、痛し痒しってトコだな。
人に依存しているからこそ、俺達を感じ取って移動してきてくれたんだし。
『人から何かを吸い取った覚えはないけど……でもみんなのおかげで私がこうやって元気にしていられるのは凄く分かるわ!』
なるほど、じゃああながち間違いでもないのか。
そう納得していると、不意にアグネスさんが尋ねてきた。
『ところで……ツカサくん達はここで何をしてたの?』
「ナニって、そりゃツカサ君の口で」
「そっちじゃねーよ!! い、いや実は……」
――――と、俺はアグネスさんに今までの事を簡単に説明した。
不可解な術か、もしくは特殊な能力で人を眠らせてしまう人がいて、その人の力で眠らないようにするために、今まで材料を集めていたのだと。
すると、アグネスさんは小さく首を傾げた。
『人を眠らせちゃう能力かぁ……。なんだか人族じゃなくて妖精みたいね』
「はは、確かに……」
『うーん……でも、自覚がないんじゃお話も難しいものねえ……あっ、じゃあ……私もツカサくんのために少しお手伝いしちゃおうかな』
「お手伝い……ですか?」
なんだろう。
綺麗な水をくれる、とかかな?
アグネスさんを見やると、相手は「安心して」と言わんばかりに優しく微笑み、その人を魅了する笑顔のままで両手を空へ向けた。
まるで、空から落ちてくる雨を待っているかのようなポーズだ。
そのまま、アグネスさんは目を閉じた。
すると、彼女の体が淡く水色に光り始め――――
掲げた両手の中央、何もない空中に、渦を巻いて水が現れ始めた。
その渦巻く水は、色が無いはずの普通のものではなく、アグネスさんが放っている光と同じような色に染まっている。
目が覚めるような、明るい水色だ。
水色、というのに現実の水のように透明ではないソレを球体に収めると、ようやくアグネスさんは目を開けた。
「それは……なんだ?」
問いかけるブラックに、アグネスさんはニコッと明るく笑ってみせる。
『これはね、ツカサくん達のために作った特製の【水牢】というものよ』
「す、すいろう?」
あれ、なんか字面的にちょっと怖い物じゃないですか。
どうしてそんなものを……と思っていると、ブラックが「なるほど」と呟いた。
「妖精の【水牢】の中に入ってさえいれば、他のあらゆる能力の干渉を受けない……と言うワケだな。それで眠らないようにするわけか」
えっ、妖精さんの力ってそういうこともできるんですか。
というかそういう事も知ってんのかよお前、本当凄いなオイ。
素直に感心してしまうが、それが本当なら俺も笛を吹かずに済みそうだ。
付け焼刃の薬より、実際の妖精さんが作ってくれたモノの方がよっぽど信用できるというモノである。まあ、一応薬は作っておくけどさ。
『どこまで通用するかわからないけど、この【水牢】は入ったまま移動できるようにしておいたから……たぶん、大丈夫だと思うわ。でも、強い力には効かないかも知れないし、強い術とか……聖水とかに当たるとたぶん消えちゃうから、気を付けてね。それに初めて作ったモノだから、耐久性も無いかもしれなくて……』
「いやいや、充分ですよ! そんな凄い物を……ありがとうございます……!」
もしかしたらコレで、ブラックが眠らずにいられるかも知れない。
予想だにしなかった凄い物をくれたアグネスさんにお礼を言うと、相手は再びくすぐったそうに笑った。
『いいのよ。だって、私の方こそ感謝してるんだもの! ……私、ツカサくんと縁が出来て、またいっぱい人に会う事が出来るようになったし……こんなに動けるようになったのよ。貴方達には、感謝してもしきれないわ。だから、私にも手伝えることが有ったらいつでも言ってね』
私が手を伸ばせる限りの水辺があれば、きっと助けに行くから。
そう迷いなく伝えてくれるアグネスさんに、俺は強く頷いた。
変な再会になっちゃったけど、でも、元気なアグネスさんを見られて嬉しかったし、彼女が幸せそうで本当に良かった。
アグネスさんは「縁が繋がった」と言っていたけど……そのおかげで、こうして俺達も助けられているんだと思うと、なんだか心が温かくなるな。
縁ってのは、ひょんなことからまた人を引き合わせるんだ。
そうやって再会することで、また深い縁が結ばれていくのかな。
願わくば、こうしてまた色んな人と出会えると嬉しい。
……ヌエさんとも、そういう「縁」に成れたらいいんだけど……。
そんな事を思いながら、俺は彼女から【水牢】を大事に受け取ったのだった。
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