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七鳴鐘楼モンペルク、月蝕は混沌の影を呼び編
24.泉に出づるは妖しの姿1
しおりを挟む「さっ、ツカサ君液体だよ、ほら液体。嫌がられる中年の精液」
「う゛、ぐぅう……げほっ、すっ、すり、つけんなぁ……っ」
やめ、ろ、くそ……ばか、なんでそんな執拗に……っ。
う、ううう、ブラックの野郎……萎えたてホヤホヤのイチモツを頬にぐいぐい押しつけてきやがる。ただでさえ精液でドロドロで、ブラックのモノで五感が侵されてるというのに、このうえ何をしとるんだアンタは。
でも、腰がビクビクして動けない。
ブラックのを今までずっと口に挿れられてたから顎も痺れてるし、喉もイガイガして声が上手く出ないし、頭もまだボヤけてて上手い言葉が出てこない。
もう、完全敗北だった。
……ちくしょう。こんなのでイッちゃうなんて、本当に情けない。メスだのなんだのはともかく、雑魚なのは拭いきれない……うう……。
「あぁ~、ツカサ君のほっぺホントに気持ちいいなぁ~……。なんならこのぷにもちな頬でもう一発」
「やめろばかぁっ! う、うぅ……顔にぶちまけやがって……」
「だって採取するためじゃない。飲んだらなくなっちゃうよぉ? ほらほら、早くしないと新鮮じゃなくなっちゃうよ?」
「ぐうううう」
なんちゅう理屈だ。
っていうか、お前、まさか精液を材料にさせるつもりなのか。
やめろそんなもん俺の大事なリコーダーに塗りとうない。
まだうまく働かない頭で必死に精液を台無しにしようとしたのだが、ブラックは俺の魂胆などお見通しだとでも言うように小瓶をもう一つ用意し、俺の頬に垂れる白濁を掬って収めてしまった。
ぐわあああああ。
「ふっ、ふふっ、つ、ツカサ君の縦笛に、僕の体液を塗りたくるだなんて……そんなの見たら僕また勃起しちゃうかも……。その時はちゃんと責任とってねっ」
「取るわけねーだろばかああああ」
きゃぴっ、と分不相応な茶目っ気ポーズでテヘペロするオッサンに、魂からの叫びが出てしまったが、きっと誰も俺を責める事は無いだろう。
だってよく考えたらそうじゃん。薬になったとしても成分にヤバいの混入してるのには変わりないじゃんか。カエルの目玉とかの材料よりヘタしたらヤバいぞ。
おい待ってくれ、やっぱりこの薬作らない方が良いんじゃないのか。
起こす方法なら他にも探せばいいじゃないの。今からだって遅くは無いぞ。
「ツカサ君たら照れ屋さんなんだから……。ま、それは一先ず置いといて……顔も体もべっとべとになっちゃったから、僕らも泉に行こうよ」
「ベトベトにしたのは誰だろうな」
「そんなに拗ねないで。今回は洗うだけで我慢するから……ねっ?」
ご機嫌伺いのつもりなのか、目をわざとらしくパチパチさせて顔を覗き込んでくる。首を傾げるみたいに腰を横に曲げて見つめてくる時点で、身長の差を思い知らされてイラッとくるんだが、しかしここで怒っても何の得にもならない。
落ち着け、落ち着け俺。深呼吸だ。
ブラックの度が過ぎるセクハラオヤジ発言は、いつもの事じゃないか。
それに、薬を作ろうと決めたのは俺なのだ。オッサンの体液が必要である時点で、この色欲塗れのオッサンが精液をなすりつけてくる予測をすべきだった。
なのでこれは俺の甘さが招いた結果なのである。怒っても仕方がないのだ。
…………うん、いや、普通はそんな考え方しないんだけどな。
なんで俺の方が落ち着かなきゃいけないんだろうな……。
「ツカサくぅ~ん……泉いこ?」
「はぁ……ホントに水浴びするだけだからな……」
いつまでもこうしてはいられない。
仕方なく許可すると、ブラックはパァッと顔を明るくして笑顔になった。……頭の所に犬の耳が見えたのは多分幻覚だろう。
「ささっ、早く行こうねっ! 早く洗い流さないと、顔射した僕の濃い精液がこびりついて取れなくなっちゃう! ツカサ君のぷにぷにな柔肌が台無しになっちゃうよっ」
「アンタがやったんだろーがアンタが!!」
だーもーやっぱり怒らないとか無理だわこのっ、一々余計な事を言いおって!
どつき回してやろうかと手を軽く振り上げたが、そんな俺の行動を予測していたのか、ブラックは即座に俺の背中側に回ると、泉の方へ押し出し始めた。
ちょっ、ちょっと待て、まだ顔をちゃんと拭けてないんだけど!?
「さ、さっき汗を掻いちゃったから服も脱ごうねえ」
「待てってばっ、こんな顔のままロク達の前に出られないって……っ」
慌ててハンカチ代わりの布を取り出して顔を拭うが、その間にブラックは俺を泉の前に強引に連れ出してしまった。
背後から腕で囲われて、半ば抱えられるように移動させられたのだ……って、ああやめろ、顔がヤバい状態なのに純真無垢なロク達の前に出すのはやめてくれえ。
思わず顔を隠してしまうが、そんな俺を不思議に思ったのかロクショウ達がこちらに近寄ってくる足音がする。あああ見ないでこんな穢れた大人を。
「キュ~?」
「クゥ?」
「クゥックゥ」
「やあやあ君達、いっぱい遊んだかな?」
俺の嘆きなど気にもしないオッサンは、朗らかにロク達に語りかけている。
もちろん、こちらの事情など知らない三匹は「はーい!」と元気よくお返事だ。
可愛いけれど今は顔を見られないよう。
「キュキュ?」
「実は僕達ちょっと汚れちゃってね……申し訳ないけど、水浴びをしたいから森の方で遊んできてくれるかな?」
「クゥー」
言葉は通じずとも、賢いロクとペコリア達はヒトの言葉が分かるのだ。
それを証明するかのように、賢くてピュアなロクちゃん達はキャッキャしながら森の方へと駆けて行ってしまった。
「……さっ、水浴びしよっか。服を脱ごうねえ」
「ぐうう……」
俺の術で水を工面しても良かったような気がするんだが、今更言っても遅い。
ブラックも何故だか上機嫌だし、もうさっきので恥ずかしさもピークだしさっさと水浴びを終わらせてしまおう。そう思い、俺は服を脱ぎ始めた。
ちらりとブラックの方を見ると……相手も俺の方を見ながら、服を脱いでいる。
こっちを見るな。
「へ、へへ……ツカサ君のお尻……」
「変なこと言うなスケベ!!」
もう良いから早く洗ってしまおう。
……正直、こんな綺麗な泉を男二人の小汚い汗とかなんとかで汚してしまっていいのだろうか。せめて水が流れ出すところギリギリに入るしかないか……。
申し訳なく思いつつ、俺はブラックの視線から逃れるために泉に入った。
「う……おお……? 思ったより冷たくないな……」
ちゃぷ、と控えめに水面を揺らして入った泉は、ひんやりしている程度で震えるような冷たさではない。春の国だから水温むってヤツなんだろうか。
なんにせよありがたいな。
そう思いつつ、俺は顔を拭って口を濯いだ。適度に冷たい水が気持ちいい。そんな事を思っていると、俺よりも大きな入水音が聞こえて、水面が大きく揺れた。
ようやくスッキリした顔で波紋が広がって来た方を見やると――――そこには、髪を降ろした姿でこちらに近付いてくるブラックが……。
「っ……」
「えへへ……。ツカサ君、一緒に水浴びしよ?」
どこぞのヒロインが言ってくれたら可愛いだろう台詞を吐きながら、笑みを浮かべているブラック。だけど、俺はツッコミを入れる事も出来ずに息を飲んでしまった。
だ、だって……泉の中に入ってきたブラックは、その……本当に、どっかの外国の映画で見るような存在に見えて、どきっとしちまったんだよ。
そんなこと思う俺もどうかと思うんだけど、でも相手はどこに出しても恥ずかしくない美丈夫なんだから仕方ないじゃないか。
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無精髭なんて人除けどころかワイルドな男っぽく見えてくるし……大人の証である体毛が、その雄々しさを増しているような気がして……。
で、でも、こんなこと言えるワケもない。
「…………い、いま、一緒にしてるじゃん……」
なんとか言葉を絞り出す俺に、ブラックは目を細めてざぶざぶと音を立てる。
更に近付いてくる相手に腰が引けていると、腕を強く引かれて再び背後からぎゅっと抱きしめられてしまった。
うわ、ちょっと待って、俺いま裸なんだけど……っ!
「んもう、やだなあツカサ君たら……。恋人が“一緒”っていうのは、こういうコトを言うんだよ……? 裸で抱き合ってもおかしくない関係なんだから……」
「う……」
背中に、ブラックの肌がひっついてるのが分かる。
冷たい水の中のはずなのに、触れられているところがあったかくて、人の体温を直に感じることにドキドキしてしまう。
そ、それに、俺の体の感触とは違う独特な硬さとか、くすぐったさとか……。
普通に抱き合うのでも俺にとっては結構な大事なのに、それをお互い素っ裸でやるなんてとんでもないぞ。自分なら出来る気がしない。
ま……まあ、ベッドでの時とかは、雰囲気で出来るかもしれないけど。
でも、素面でこんなことできるのなんて、ブラックくらいだよ。
しかも、俺がそういう格好に弱いこと知ってて、わざと髪を降ろしてくるし……。
「気持ちいいねぇ。えへ……外でこういうコトするのも久しぶりだね」
「そ、そりゃまあ……泉が有る森なんてわりと珍しいしな」
「ちーがーうーでーしょー? 川とか泉とか水辺なんていっぱいあるじゃない。それよりも、久しぶりなのはツカサ君が僕と一緒に入ってくれないからでしょー?」
「だって一緒に風呂入ったらアンタ絶対サカるじゃんか!」
そう、一緒に入ったら最後なのだ。
俺はのんびりしつつ体を洗いたいのに密着してくるし、それだけで飽き足らず好き放題して来ようとするだろアンタは。風呂に入ってるのに汚しに来るなんて、風呂や水浴びの意味がないだろう。
なのに、何度も一緒に入ろうとするから断固拒否なのだ。
文句を言う前に我が身を振り返れと睨むけど、ブラックは全然堪えてない。むしろ俺が怒っている様を実に楽しそうに見て、顔を近付けてくる。
……ってオイなにしてんだっ。
「ツカサ君キスしよ、キス……」
「それだけじゃ済まなくなるから絶対いやだ!」
「そんなこと言わずにぃ……キスだけ、キスだけだから……ね?」
この目を信じて、と、瞳を潤ませて俺を凝視してくるが、そうはいかないぞ。
今度と言う今度は流されないんだからな……。
「ツカサくぅん……」
「だ、だからダメだったら……」
「そんなこと言うと、僕ずっとこの格好でツカサ君におねだりしちゃうよ……?」
「はっ、ハァッ!?」
二度見する俺に、ブラックは切なげな顔をしながら顔を近付けてくる。
わ、わざとだ。絶対わざとだ。
そう分かっているのに、俺と来たら律儀に動悸が激しくなってしまう。ああもう、こんなのいい加減慣れたっていいってのに……!
「ずっと、ツカサ君がドキドキしちゃうこの髪を降ろした格好のまんま、所構わずくっついて、キスをねだっちゃうかも……」
「そ、そんなこと……」
「しないと思う?」
…………うん、と言える自信がない……。
このオッサンはこういう事に関しては大マジのマジだし、やると決めたらほぼ確実にヤッてしまうのだ。しかも俺の弱点を的確に攻めてくる。
普段のブラックだけでも真面目にされたら困るのに、こ、この状態って……そんなの、慣れるまで何日かかるんだよ。その間生きた心地がしないかも知れない。
でも、このままキスだけで止まる気もしないし……。
「……本当に、キスだけだろうな……」
目の前のムカツクくらい整った顔に凄むと、ブラックはクスクスと笑った。
「ロクショウ君達も帰って来るだろうし、さすがにやらないよ。……でも、キスは今すぐしたいんだ。……だって、ツカサ君てば泉の中に居ると妖精みたいなんだもん」
「はっ、はぁ!?」
「誰かに捕まりそうだから、キスして僕が捕まえちゃうんだ……」
「なっ、なっ、なに何言って……っ」
なんなの、何で急にそんなメルヘンな事を言い出したのアンタは。
普段そんなことなんて言わ……いや、似たような台詞は……でもこんな、歯の浮くようなことなんて言わなかったはず。
さっきまでスケベオヤジの顔だったのに、なんで急にリリカルになるんだよ。
「ツカサ君……」
「ぅ……」
菫色の綺麗な瞳が、いつも見上げている顔が、近付いてくる。
体が緊張して、動けない。そもそも抱きしめられているから逃げられないんだけど、それでもそんな事を考えているヒマもなくて。
結局、考える時間も満足に与えて貰えず……俺は、諦めて目を閉じた。
……とてもじゃないが、平気な顔をしてブラックを見ていられなかったから。
「――――……」
改まってキスされると、変に意識してしまう。
そんな俺を見越したかのように、ブラックは額に軽くキスをした。
まるで挨拶をするかのように触れて来た感触に、俺は予想が外れたと無意識に力を抜いてしまう。だが、それを狙ったかのようにブラックはキスをしながら徐々に下の方へと動いて来て……結局、触れ合ってしまった。
……でも、拒否する気も起きなくて。
泉の水は冷たいはずなのに、体が熱くなってすごくドキドキする。
えっちな気分になる時とは違う熱だ。相手と触れ合っている。恋人とするキスをしているんだと思うと、自然と胸が苦しくなって頭が甘い痺れにぼやけてしまう。
恥ずかしいけど、ガラじゃないって思うけど……でもやっぱり、ブラックとキスをすると、心が舞い上がってしまうみたいだ。
ただ抱き合って、キスしてるだけなのにどうしてなんだろう。
考えるけど、答えなんて思いつけそうにない。
恋人って、そういうものなんだろうか。
いつまで経っても、ブラックに悟られたくないほどの思いが湧き上がってしまう。
自分のそんな思いと同じ思いを相手が抱いているんだと思うと、ただ幸せな気持ちだけが俺を支配した。
……そんな事を考えてしまう自分が、恥ずかしい。
ブラックが急にリリカルな事を言い出して驚いたが、俺も大概なんだろうな……。
そんな呆れを頭の隅で浮かべながら、ただ唇を合わせるだけのキスに意識を支配されている、と――――
『あらあらっ、お邪魔しちゃったかしら……』
「んっ……!?」
い……いま、何か、透き通るように綺麗な女性の声が聞こえた、ような……。
えっ、ちょっ、ちょっと待って、もしかして俺達見られてる!?
誰かに見られてるのか!?
うわあああごめんなさい見なかったことにして下さいいいいい!
「あっ、ツカサ君離れちゃダメだよぉっ」
「ちょっいやそれどころじゃないって、誰かの声が……!」
「え? 声?」
何故かブラックは聞こえていなかったのか、声の主を探して振り返る。
そこは、泉の中心部。
存外広い泉は、魚もおらずただ澄んでいたが――――
その中心から、人の頭が半分出ていた。
おっ、おば……っ……!!
…………い、いや違う。あの顔は見覚えがあるぞ!?
俺は、俺に優しくしてくれた素敵な女性の顔は覚えているんだ。そう、上半分しか見えなくたって正確に分かるぞ。あの透けるように美しい肌で愛嬌のある顔は……。
「ま、まさか……アグネスさん……!?」
呼びかけた名前に反応して、相手が泉から顔を出す。
その姿は、まさしく泉の妖精そのものだった。
『うふふっ。お久しぶりね、ツカサくん』
ああ、やっぱりそうだ。
でも変だな。アグネスさんは慈雨泉山のアーグネスから動けなかったはず。
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「……気配を感じさせずに出てきた……? どういうことだ?」
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そんなブラックに、アグネスさんの方が嬉しそうに微笑んだ。
『これは、貴方達のおかげなのよ』
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どういうことなんだろう。
目を瞬かせる俺達に、アグネスさんは説明してくれた。
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