異世界日帰り漫遊記!

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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編

26.”種”明かし1

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 朝方、ふと目が覚めるとクロウがいつの間にか帰ってきていた。

 どうやら昨日の夜のうちに戻っていたらしいんだが、夜中までどこに行っていたんだろうか。ブラックは「気にしなくていい」とか言って教えてくれないし、ロクちゃんは連日の変化や移動で疲れていたのかスヤスヤだしで、結局いつのまにか眠ってしまってたんだけど……なんだか申し訳ないな。

 夜中か明け方に帰って来たって事は、きっと並々ならぬ用事だろう。
 俺達がふざけていた間に、クロウはきっと今後の方針とかどう戦うかとか色々話し合っていたに違いない。なんたってクロウは真面目だからな。

 しかし、そう考えるとやっぱり居た堪れない。

 そもそも、今回の事はクロウの故郷が消えるかどうかの由々しき事態なのだ。
 ……だってのに、俺ってやつはブラックに流されるままにえっちしたり、不可抗力とは言えベッドの上でなんかヘンに甘くなってたし……。

 …………い、いや……ブラックがなんか元気無さそうだったから、それは仕方ないんだけどさ。でも、もう少しやりようがあったのではと考えてしまう。

 なんつうか、その……クロウ達が大変なのに、それを忘れてなんかイチャイチャしちゃったのが良心の呵責ってヤツなんだよな。
 俺だったら、緊迫した時にイチャイチャしてるバカップルが居たら「何してんだ」とか激怒しちゃうだろうし、ちったあ手伝えとか思うだろうし。

 そんな風に自分が思うのに、当の本人がこんなことしてちゃあな……。

 なので、朝起きた時に熊さんモードのクロウがベッドの横でスヤスヤ寝ているのを見て、朝から反省モードになってしまったのだ。
 だけどクロウは心が広いのか大人なのか、全然気にしてないみたいだった。

 起きた俺に気がついても、熊さんの口でくあーっとあくびをして「回復したようで安心したぞ」と言うだけだ。俺が刺されたのを知ってるからだろうけど、それにしたって心が広いってもんじゃない。クロウ、お前ってやつは……。

「ム? むふ。もっと撫でてくれ」

 起きぬけ一番にベッドに乗せてきた大きくて重たい頭を撫でると、クロウはつぶらな瞳を細めて、満足げに鼻を動かす。
 ぐっ……声はクロウそのままのオッサン声なのに、やっぱり可愛いぃい……。

 頭だけでなく顎や鼻筋も撫でると、クロウは座布団のような熊さんの尻尾を震わせながら持ち上げて、もう辛抱堪らんと仰向けになって床に倒れた。
 どうやらお腹も触って欲しいらしい。
 ぐぐっ……ま、まあ、俺も少しは動いて体を動かさなきゃいけないしな。

 それに、クロウは俺達がぐっすり眠った分頑張ったんだからこれくらい……いや、別に俺が触りたいわけじゃないぞ。クロウが望むならってことで……

「ツカサ君……人が寝てる隙に、そんな横恋慕熊にご奉仕なんてして……」
「いや、してないけど!?」」
「してるもん!! ツカサ君たらそんな風に駄熊の上に乗って、腹やら顎やらを手で存分に愛撫してるもん!! そんなオッサン相手にいいい!」
「お前もオッサンですけど!? てか熊状態のクロウにそんな気持ち抱けないんだけど、可愛いしかないんだけど!?」

 何でこんな可愛い熊さんモードのクロウに劣情を抱くんだよ。
 熊さんの時はモフる、望む限りめちゃくちゃ撫でるのが礼儀だろ、どこに性欲などという下半身主体の考え方が介入できるというんだ。

 意味が分からないとツッコミを入れる俺に、ブラックは口をとがらせながら子供っぽく指摘する。

「そいつのドコが可愛いって!? どう見てもスケベ心丸出しの毛むくじゃらにしか見えないじゃない! 同じ毛むくじゃらなら僕の上に乗ってきてよ騎乗位しよ!」
「おい最後の願望やめろ、っていうかお前とは体毛の種類が違うだろ!」
「確かにツカサに下腹部らへんをわしゃわしゃされるのはこの姿でも勃起するぞ」
「周回遅れの返答やめ……お前も結局性欲かい!!」

 頼むから可愛い熊の姿で下ネタを言わないでくれ。
 ていうか興奮しとったんかいチクショウ、おぬしなにかよからぬ事を企んでおるな。

「朝っぱらから元気っすねえ、旦那方、ツカサ……」
「あっ、ナルラトさん……」

 やだ変なとこ見せちゃったじゃないの。
 慌ててクロウの腹の上から転がり降りると、俺は今しがた話していたとんでもない下ネタを押し隠すために、慌ててナルラトさんに近寄った。

「ああああああのあのあのですね」
「き、気にするな。旦那方の度を越した性欲は十分把握しているから」
「おいてめえこのクソ鼠」

 ブラックシャラップ!
 やめんかと一度振り返って睨み、もう一度ナルラトさんに振り向く。
 ……確か昨日、俺を刺した賊を追っていったって話だけど……対峙したって言っていたし、戦闘したんだよな。大丈夫だったんだろうか。

 気になってナルラトさんの体に何か起こって無いかを見ていると、俺が何を思っているのか分かったのか、相手はちょっと照れながら頬を掻いた。

「ん……ま、まあ……俺は無事だから心配するな……ゴホン……ともかく、ツカサが回復したんなら、ちょっと話を聞かせてほしいんですが……それと……」

 何かを伺うように、ナルラトさんがブラック達の方を見やる。
 どうしたんだろうかと振り返ると、ヒト型に戻って全裸のまま胡坐をかいているクロウと、それを蔑んだ目で見ているブラックは、こちらを向いて首を振った。

 なんだ、どういう意味だ。
 三人の中でだけ通じる何かがあるのだろうか。

 不思議に思っていると、ブラックが言葉を付け加えた。

「まだ話してない。意識が戻っても、体が回復しないうちに話したら衝撃でまた精神が摩耗するかもしれないし。……でもまあ、時間もないんだ。仕方ないか」

 なになに何の話。
 今しがた起きて俺の肩に飛んできたロクショウと一緒にキョトンとしている内に、外へ出る支度をさせられて部屋を後にすることとなった。

 朝食を食べながら話をするらしいが、何の話だろう。

 昨日の不可解な出来事は説明して貰ったけど、それを踏まえての今後の話かな。妙に張りつめた空気の三人を見ながら、俺はナルラトさんについて行く。

「キュー?」

 どうしたのと言わんばかりに緑青色の可愛いお目目をパチパチさせるロクにキュンとしつつ、俺もどうしたんだろうねえと頭を指で撫でる。

 この感じは、ロクも何を話すか知らないみたいだな。
 でもそれは純粋無垢でニンゲンの話が分からない……みたいな話じゃないぞ。ロクはもう俺とテレパシーなんかは出来ないけど、でも元から凄く頭がいいんだから。

 ロクは、本当に賢い。俺達と一緒に旅をしていたことで見聞を広めたからなのか、俺としてはそこらの大人より賢いんじゃないかと思うわけだ。

 なんたって、モンスターには難しいらしい“変化の術”だって覚えてるんだもん。
 魔族のナイスバディドラゴン美女が師匠についてるからとはいえ、こんな風に自在に術を操れるのは、間違いなく賢さが高いからだ。
 きっとゲームならアレだな、賢者を名乗れるな。なんたって、ロクは色んな事に気が付いてくれるし、なにより人を気遣ってやれるんだから。

 人を気遣うって、けっこう頭を使うんだ。
 その人にとって嬉しい言葉なんて、性格の違いだけじゃなくてその時その時の感情に振り回されることだってあるからな。

 相手を思っての事でも、力になれない事だってごまんとある。

 だけど、そこをロクは上手く気が付いてくれるんだ。
 まあちょっと親バカみたいなことを言ってる自覚はあるが、それくらいロクは優秀ってコトだな。だから、ブラック達の話を覚えていないはずはない。

 じゃあ、俺の知らないことがまだあるって事か。
 でも、どうして?

 そんな疑問を抱きつつたどり着いた場所は、いつもの会議室だった。
 入ると、そこには何故か見知ったごく少数の人達しかいない。ドービエル爺ちゃんに、カウルノス。そしてアンノーネさんとデハイアさんだけだ。

 何故だろうかと思っていると、着席を促されて話を聞かされた。
 それは……――――



 ヨグトさんが俺を襲った刺客で、ナルラトさんが聞いた言葉によると……彼が、あの【黒い犬のクラウディア】のために俺を刺した可能性があるという話だった。



 ……ヨグトさんが、犯人。
 とてもショックだったけど。でも……なんとなく、納得してしまう自分がいた。

 だって、刺される前に聞こえた「すまない」って声は、今考えてみるとヨグトさんの声で間違いなかったし、それに……殺そうとする前に謝る姿が容易に想像できた。

 “根無し草”の鼠人族は三人しか出会った事が無いけど……でも、ラトテップさんも、ナルラトさんも、ヨグトさんも……ずっと、自分自身を責めて何かを悔やんでいるような雰囲気があるような気がしていた。

 今のナルラトさんには幸いそんな感じを覚えないが、ヨグトさんは昔の立場もあり、そう簡単には罪悪感を消すことは出来なかっただろう。
 だから、それを知るとなんだか恨もうと思っても恨めなくなってしまった。

 最初からそんな気持ちはなかったけど、でもこれも俺が無意識に「自分は死ぬ事がない」と思ってるからかもしれない。
 それはそれで傲慢な気持ちを抱いてるんじゃないかと覆ったが、それでも、あの時の「すまない」という言葉を思い出すと、怒る気すら起こらなくなってしまっていた。

 ブラックとクロウは話をする間中殺気がダダ漏れしていたが、まあ……二人が俺のために怒ってくれたから、もういいと思う。


 ……色々と考え込んでしまったが、ともかく。
 何か気付いたことはないか問われたのだが、ヨグトさんの言葉くらいしか思い出せず、これと言った収穫はなかった。


「ふむ……。明確な何かはナシ、か……ここで“裏切り者”のことが何か分かれば、と思ったのだが……」

 難しそうな顔をして腕を組むドービエル爺ちゃん。
 調査はしているようだが何も判明せず、捜査は暗礁に乗り上げているらしい。

 そう思ったのだが、次に飛び込んできたブラックの言葉に、俺は「そうではなかった」のだと認識を改めさせられた。

「依然として“どっちが裏切り者か”は分からないわけだ」
「えっ……ど、どっちが……って……?」

 唐突に結論を出されたような感覚に陥り焦りながら問うと、ブラックは何かに気付いたような顔をして、そういえばと片眉を上げて見せた。

「そっか、まだそこは説明してなかったね。昨日ツカサ君に聞いた話で容疑者はほぼ確定したようなものだし、そろそろ情報を整理した方が良さそうだ」
「昨日聞いた話? なんだ、何かわかったのか」

 さっきのブラックと同じような顔をして、訝しげにカウルノスが聞いてくる。

 俺と一緒で「話が見えない」と言った感じだが、そんな相手をブラックは一瞥し、場の長であるドービエル爺ちゃんに顔を向ける。
 自分が話の主導権を握ってもいいか、と問いかけるようなブラックに、ドービエル爺ちゃんは深く頷いて許可の姿勢を見せた。

「じゃあ、とりあえず容疑者をおさらいしようか」

 ブラックの言葉に、その場の全員が息を呑んで緊張する。
 俺を含めた円座の聴衆を見回して、ブラックは座の中心に二つの石を置いた。

 一つは石炭のような黒い石で、もう一つは褪せた緑色をした小石だ。

 これが何を意味するのかとブラックを見た俺に、相手は告げた。

「容疑者は二人。

 ルードルドーナ・アーティカヤと――――

 ジャルバ・ナーランディカ。

 …………まず、この二人に見られた不審な点から上げていこうか」



 一人は何となく予想していた名前。
 だが、もう一人は予想外の名前で、俺は硬直する。

 ジャルバさんって、なんで。
 どうしてあの人が、裏切り者だなんて。

 頭の中が混乱して二つの名前がぐるぐる回るが、それ以上何も考えられない。
 そんな俺の様子にブラックは少し心配そうな顔をしたが、今は話を優先させるためか表情を厳しく保ちながら、再び話し始めた。









※次がちと長くなりそうなので切りました
 ツイ…エックスで言ってた通り明け方……ていうか
 朝に更新になりました_| ̄|○

 
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