異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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港地区ディナテイル、情けは人のためならず編

7.なんでもあります裏商会

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 トルベールが主人を務める【アスワド商会】は、色んなモノを手広く扱っているらしく食料品は当たり前で、おおよそ衣食住の全てが自前で揃うようだった。

 彼の話では、でっかい倉庫が有るのだそうで、地下の秘密の街であるジャハナムへの色々な物資の輸送も引き受けているのだそうな。もちろん、そういった商会は【アスワド商会】だけじゃないんだけど、青の【大元】のお姉さまに信頼されているトルベールは商会の中でも特別に規模が大きいのだそうで……あんな美しいお姉さまに信頼して貰えているなんて、妬ましい羨ましい。

 思わず血の涙が出そうだったが、まあトルベールが有能だからなんだよな。そこは俺には真似が出来なさそうなので涙は呑んでおく。
 ともかく、そういった手広い商売なのでトルベールの商会にはなんでもある。
 一部は商館の地下にもあるとのことで、クロウの服選びがてら見せて貰った。

「はえー……ホント色々あるんだなあ~」

 水琅石のランプで明るく灯された広い地下倉庫。どっかの通販会社の倉庫かよと思ってしまうほど広い空間には、ジャンルごとにきちんと分けられ整頓された商品が並んでいる。ここまで来ると、こういう形態のお店のようだ。
 流石に食糧品は木箱に入っていたりするけど、服などは型崩れを防ぐためなのかスタンドに一着ずつかけられていて服屋さんのようでもある。日用品も有るし……俺も、トルベールに頼んだら携帯用の調理器具とか揃えて貰えるんだろうか。

 そんな事を考えつつ、ブラック達と一緒に歩いていると――――

「ん? うわぁっ!?」

 視界の端に、何かでっかいモンスターのような影が見えて、俺は思わずブラックの背中に隠れてしまった。

「あっ、ツカサ君たら~……へへ、うへへ……ぼ、僕にしがみついちゃってぇ」

 ううう嬉しそうな声を出すんじゃないっ。
 俺はお前が強いから背中に隠れただけで、べ、べつに頼ってるとかそういうのではないワケで……ともかく、なんかデカいのが居たんだよ。怖いとかじゃなくて、危険だと思ったから後衛の俺はお前の後ろにかくれたの! 怖くないっての!

「……剥製だな。中型モンスターのものか。随分と悪趣味だな」
「え……剥製……?」

 ブラックの背中から覗きこむと、クロウがでっかくて怖い顔をしたモンスターの剥製――らしきものを、ジロジロと眺めていた。そ、そっか、剥製か。
 なんだ驚かせやがってっ。……い、いや、驚いてないけどね。

「ツカサ君、可愛い……うへっ、こ、こんな所で勃起させようとしないでよぉ」
「わーっやめろ鎮まれっ! なんでお前はそう明後日の方向に素直なんだよ!」

 慌ててブラックの背中から離れてクロウの隣に行き、俺も剥製を見上げる。
 ……これは……マンティコア……みたいなヤツかな?
 以前ライオンをベースにした、マンティコアの亜種みたいな守護獣と触れ合った事があるけど、この剥製のモンスターは凶暴な猿の顔に獣の体をしていて、なんだか凄く怖い。剥製ってことは……この世界には、こんなモンスターもいるんだよな。
 ……普段可愛いモンスターとしか触れ合ってないから、なんか怖くなってきた。

 旅してる間、危険なモンスターが出ると言われる夜は全然遭遇しなかったけど、仮に遭遇して居たらこんなヤツと戦う事になってたんだろうか……くわばらくわばら。
 デカいモンスターには苦戦させられた思い出しかないし、これからも会わないように旅をしていきたいものだ。とはいえ、遭遇して倒したと剥製にされるってのもな。

 研究目的とかならわかるんだけど、剥製ってなんか怖いし……俺としてはあんまり趣味にしたくない趣味だ。魚拓とかはまだわかるんだけど……。

「こんなモン飾るヤツがいるのか?」

 呆れたように言うブラックに、トルベールも白けた顔で肩を軽くすくめてみせる。

「お貴族様とか変な趣味のヤツが欲しがるんスよ。俺には理解出来ませんが、まあ外で危険な目に遭わない奴らの冒険ってヤツなんでしょうねえ。……あと、たまーに人の剥製が欲しいとかトンデモな注文されたりもしますし」
「ひっ、人って……ここにも、あるの……?」

 恐る恐る訊くと……トルベールはニタリと笑った。
 思わずビクッと震えてしまったが、相手はすぐ明るい笑みになって俺の肩を叩く。

「はっはっは、じょーだんだよ冗談! 注文があるのは本当だが、んな危険なモンを用意できるかよって話だ。人形ならできねえこともねえが、ナマの人族の剥製なんぞ見つかったらお縄で即座に監獄行きだ。俺は脱法はしても違法はしない主義なの」
「脱法はいいのか……」
「良くなきゃ裏世界でオシゴトしてませんて。オボコな鉄仮面君からしてみれば、俺はわるーいおにーさんなんだからなー? そりゃ当然後ろ暗い品もあるさ」
「オボコは余計だ!!」

 まったくもって失礼なチャラ男だ。まあ実際そうだから仕方ないんだけども。
 自分で認めるのもなんだか悲しいなと思いつつ、俺達は剥製ゾーンを抜けて洋服が並んでいるところにやってきた。

「一応、ここにあるもので似合うものが有ればって話なんスけど……旦那と鉄仮面君も、正装用の服をここで見繕っといてくださいよ」
「正装用?」
「商船の食堂は服装規定があるんだ。鉄仮面君が今回使うのは、冒険者が滅多に乗らない等級の高い船だからな。どこに行くにも服装は正装だ」
「えぇ……もっと普通の等級の船はなかったのか?」

 ウンザリしたように言うブラックに、トルベールはすんませんと頭を軽く下げた。

「一番早い出港がその船しかなかったんスよ。費用は【世界協定】持ちなんで、どうか服装くらいは我慢してください」
「そういう船は色々うるさくてイヤなんだけどなあ……」

 ブラックは、ブツブツ言いながら耳をほじっているが、その口ぶりからすると、まるで以前高級な商船に乗った事があるかのような感じだ。
 ……まあ、すんごく強い冒険者パーティーにもいたんだし、実力から言ってもお高い船にだって簡単に乗れるくらい稼いでそうだし……乗った事があって当然か。だけどブラックは面倒臭いの嫌いみたいなんだよな。食事のマナーとかは毎回当たり前のようにこなしてるのに、不思議なヤツだ。

「……では、オレの耳を隠す服も多少高級感が無ければならないのか」
「そういうことになりますね。熊の兄さんは肌が褐色ですし、その熊の耳さえ隠せればハーモニック出身でも通りますから、いっそのこと部族の髪飾りで直接抑えますか。それなら船内でずっと帽子を被らないでも済みますし、服装規定も大丈夫っす」
「ムゥ……耳が不快になりそうだが、まあ仕方ないか……」

 いつもより素直に提案を受け入れるクロウ。
 うーん……やっぱのっぴきならない事情が有るのかなあ。せっかく故郷に里帰りが出来るっていうのに、なんか帰郷が近付くたびにどんどん元気がなくなってるし。
 帰りたくない事情があるんなら、クロウが悩まずに済むように要望を聞いてやりたいんだけど……本人が言いたくないようなので、俺達は見守るしかない。

 クロウなら、どうしようもなくなった時はちゃんと話してくれると思うけど……。
 なんだかもう色々と不安だ。俺にも何か出来たらいいんだけどなあ。

「ツカサ」
「んっ? なに?」

 服を選んでいたクロウに呼ばわれ、俺は早速「何か出来る事があるかな?」と思い、駆け足で近付いた。すると、クロウは一着の服を俺に見せる。
 それは……めちゃくちゃ丈が短いズボンと、子供が着るような水兵さんのシャツ。

「これを着たツカサをペロペロしたいぞ」
「だーっ、前言撤回! はよ自分で良い感じの服装選べ!!」
「ほう、駄熊にしては良い目利きだな。ヘソ出し生足は常夏の国に良く合う」
「ブラックも乗ってくんな!!」

 もうやだこのオッサン達。
 なんちゅう会話で盛り上がってるんだと恥ずかしかったが、一番恥ずかしいのは、こんな会話をトルベールに聞かれている事だ。絶対ドンビキしてる。
 顔が恥ずかしさで熱くなりつつも、トルベールを振り返ると……。

「……相変わらず、鉄仮面君は旦那達と仲が良いようだな! 色々!」

 ヤケクソ気味な声音でそう言われ、元気に肩を叩かれてしまった。
 トルベール、それ俺には逆効果ですよ。頼むから聞かなかった事にしてくれえ。

「そうなると下着も欲しいな。ツカサ君用のスケベな下着だ」
「むぅ……二週間もあるなら、当然色んな種類がいるな…………」

 ああああ何飛躍した会話してんだお前らあああああ!
 なんで変装用の服と正装を選ぶ時間で俺に着せるヤバいもの探してんだよ!

 つーか、メンドクサイ場所に行くってウンザリしてたのに、何その変わり身の早さ。
 急にウキウキしながら変な下着選ばないでくれ。頼むから真面目にやってくれ。
 思わず地面に突っ伏しそうだったが、俺は堪えて二人の手から何か凄いレースのヤバそうな下着を奪い取ると、もう二度と選ばないようにトルベールに返した。

「トルベール……頼むからあのオッサン達の服を選んでくれ。二人に何も選ばせないようにしてくれ頼むから!!」
「む、無茶なこと言うなあ鉄仮面君は……勘弁してよ俺も旦那方が怖いんだから!」

 俺のせいだが、女物のパンツを握り締めて怖がられても困る。
 いやでもトルベールは前から二人には敬語を使ってたもんな……仲間である俺とは事情が違うぶん恐怖も倍増しているのかも知れない。

 でも、俺が言ってもやめないんだもんなアイツら……。
 どうしたものかと考えていると――――地下への階段を下りて来る音が聞こえた。

「御主人様! 海運協会から荷物はどうなっているかと問い合わせが来てます」

 俺よりちょっと年上ぐらいの可愛らしい女の人が、トルベールに駆け寄ってくる。
 思わずドキッとしてしまう俺だったが、二人は俺を余所に話を続ける。

「あ~、例のアレかぁ。今回の船に積んであるはずだが、届いてないのか」
「ベーマスからの船は、ちょっと今問題がありますから……どうしますか?」

 女の人がそう言うと、トルベールはチラッと俺を見る。
 な、なんすか急に。

 目を瞬かせていると、トルベールは申し訳なさそうな顔で俺に手を合わせた。

「ごめーん鉄仮面君……旦那方の服はこっちで選んでおくから、もうしわけないんだけど……おつかい頼まれてくれねーかな?」

 なんだか深刻そうな話だったが、俺がおつかいをして良い事なのだろうか?
 ちょっと不安だったが、トルベールに二人を抑えて貰うしかないと思っていた俺は、素直に頷いたのだった。











 
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