異世界日帰り漫遊記!

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港地区ディナテイル、情けは人のためならず編

6.チャラ男と地味目は両立できる

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   ◆



 なんだかアラビアンな感じがするハーモニック連合国の首都・ラッタディアには、裏からこの都市を牛耳る組織が存在する。それが【裏世界・ジャハナム】だ。

 この国の地下に存在する、歓楽街の廃墟のような謎の遺跡に本拠地を構える彼らは、裏世界と言う名に恥じぬ欲望丸出しで滅茶苦茶な地下街を作っているのだが、実はシアンさんが属する【世界協定】やハーモニックの上層部とも付き合いが有り、彼らは彼らなりのポリシーのもと楽しく裏稼業をやっている。

 まあその、アコギだったり殺し屋だったり、そこは割とアウトローなんだけど……この世界はアウトローが多過ぎるので、些細な問題なのかも知れない。
 ともかく、トルベールはそんなジャハナムに属する裏世界のオトコなのだ。

 でも、俺が知っているトルベールはホスト風のスーツのチャラ男という以外に、ボスである【青の大元】の美しいお姉さまに忠実だし、義理人情に篤い常識人だ。
 初対面の時は地上げ屋みたいな事をやってていけ好かなかったが、正当な理由でやっていたことなので、今となっては「ちょっとやり方が悪かったね」という感じだ。

 そんな甘めの考えになってしまうくらい、トルベールは良いヤツだった。

 でも、トルベールはイイ奴なだけではない。【青の大元】に一目置かれ信頼されてるし、面でも【アスワド商会】という会社を取り仕切っている。
 ブラックと同じレベルで難儀な性格が多いらしい裏社会の人と表社会の人を上手い事引き合わせる手腕も持っているのだ。恐らく、そう言ったコミュ力が高い人間だから色んな人に一目置かれているのだろう。

 そう思うと、ホストって凄……じゃなくて、トルベールは凄いよな。
 でも気さくだし、俺より年上なのに気楽な話し方にしてくれるし、ほんと……本当に、女子におモテになりそうで……爆発して欲し……いや、なんでもないです。

 ゴホン。話が逸れてしまった。
 ともかく、トルベールは裏社会の後ろ暗いお兄さんだが良い奴てことだ。
 【世界協定】との連絡係とかもやってくれるみたいだしな。……ってことは……俺達が来る事を知っていたのは、シアンさんが事前に連絡してくれていたんだろうか。

 シアンさん……息子のセレストってヤツの事でショックを受けてるのに、本当にもう優しいお婆ちゃんだな……落ち着いたら肩とか揉んであげたい。労わりたい。
 いや絶対労わろう。シアンさんはこっちの世界での俺のお婆ちゃんだもんな。

 そんな事を思いつつ、俺はブラック達と一緒に商館が並ぶ大通りへとやって来た。
 前回、クロウを出迎えるために同じ港に来た気がするのだが、どうも俺達は商館のある通りを通って来なかったようで、ヒポカム馬車が何台も行き交う凄く広いレンガの通りを見て、ただただ目を剥いてしまった。
 で、デカい。通りが、四車線道路ぐらいの広さはあるんじゃなかろうか。

 その両脇にぎっしりと品のいい洋館が並んでいるんだから、ちょっとした別世界だ。港地区というと場末のナンタラとかを想像してしまうのだが、この世界の港は、街の中でも結構ハイソな場所らしい。ってか……俺の世界で言う、オフィス街なのかな。
 これ、宿屋とか抜いたら全部商館っぽいもんな……。

「ムゥ……金の亡者どもの館ばかりではないか」
「まー、ここの商人は儲かってるからねえ。当然……ソイツも儲かってるんだろう」

 何故かムッとしているクロウと、呆れたような声で言うブラックに、トルベールは苦笑しながら「いやぁ」と頭を掻く。

「まあそりゃ、ウチは手広くやってますからね~。儲けさせて貰ってますよ、たっぷり」
「……や、やっぱ……裏の仕事とかで?」

 ゴクリと生唾を飲み込んで聞くと、トルベールはわざとらしくニヤリと笑った。

「ふふん、それは今更だろ鉄仮面君。蛇の道は蛇。ヘビなりのお得な通路ってのは、持ってて当然だろ。なあツカサの守護獣クン」
「キュー!」

 トルベールのウインクはともかく、ロクちゃんのお返事は可愛いっ。
 小さなお手手を挙げて「おとくなつうろ知ってるよ!」と無邪気に同意するロクショウは、間違いなく全世界で一番可愛いヘビちゃんだろう。間違いない。

 あ、因みにトルベールが俺を指して鉄仮面君と言うのは、彼と初対面の時に俺が鉄仮面を被ってたからだ。なんか相当インパクトが有ったらしい。その鉄仮面は今も【スクナビ・ナッツ】の木箱に死蔵されている。
 使い所が無いが、いつかまた使いたいもんだな。うむ。かっこいいし。

「で、お前の商館はどこなんだよ」

 歩くのに飽きてきたらしいブラックが、うんざりした顔で言う。
 そんなブラックに、トルベールはチャラ男らしく大仰な動きで、手やら首やらに着けたアクセサリーをジャラつかせながらある館に手を向けた。

「いやあ良い拍子ッスね旦那! お待たせしました、俺のアスワド商会でぇーす!」

 びしっと指を揃えられた手に示された洋館。
 そこは……トルベールの自信満々な声とは裏腹に、他の洋館より少し小さくて外観も目立たない地味な洋館だった。他の商館と同じで、この世界じゃ高層建築とされる三階建ての建物だが、それにしても……地味って言うか、落ち着いている。
 なんかチャラくて派手なトルベールのイメージに合わないな……。

「さあさあ、みなさんどうぞ!」

 訝しげな顔になる俺達だったが、トルベールは構わずドアを開ける。
 中に入ってみるが、そこもまたとくに飾り気のない玄関だった。商館らしく、受付とかお客さんを待たせるためのテーブル一式はあるけど、小さな喫茶店くらいの感じで、裏世界にあるトルベールのド派手な店とは比べ物にならない地味さだ。
 ……ここ、本当にトルベールが仕切っている【アスワド商会】の館なんだろうか。

「あーあー、鉄仮面君の気持ちは分かるよ。だがな、ココではコレが“最適”なんだ」
「最適……?」
「そ、まあ間違いなく俺の商会の館だから安心してくれよ。さ、上へどうぞ」

 これまた飾り気が全然ない、しかし綺麗な飴色を保たれた木製の階段をトルベールは迷いなく上がっていく。俺達は顔を見合わせたが、素直に付いて行った。
 やがて、地味な廊下を通り応接室へ冬される。トルベールの事だから、大人しくても高そうな調度品は置いているだろう……と思っていたのに、応接室も物凄く地味で、ホスト風のチャラ男が運営しているようにはとても見えなかった。
 あ……怪しい……。

「鉄仮面くーん……そんなに警戒されたら俺もちょっと悲しいんだけども……」
「いやだって、アンタジャハナムの店はめっちゃ派手だったじゃん!」

 おかしいなと思うのは当然だろうと言うと、ブラックが俺の肩を抱き、まあまあと落ち着かせるように指で肩をポンポン叩いて来た。

「要するに、目立ちたくないってことだよ。後ろ暗いことを隠そうとするヤツほど、質素で健全な姿を取り繕うとするものさ。……ま、頭の悪い奴は派手にやるんだけどね」
「さっすが旦那、分かってらっしゃる! どこでどう嗅ぎつけられるか分かんないッスからねえ。用心だけはしておこうってヤツですわ」
「俺達堂々と裏世界とか言ってたんだけど……」
「そういうのはコソコソするから怪しまれんのよ。噂程度でしか知らないヤツが、必要以上にコソコソするワケもないっしょ」

 そういうものなのだろうか。
 確かに、噂話をする程度じゃ周囲に気を付けたりはしないけど……そういうところは緩くて良いんだろうかと心配になってしまう。まあ、万が一何か嗅ぎつけられたとしても裏世界の精鋭たちなら屁でもないんだろうけどさ。

「まあそれは置いといて、とりあえず座って下さいよ。シアン様から話は聞いてますんで、おおまかなトコは了承済みっす」

 そうブラックに言って、トルベールは椅子を勧めて来る。立って話すのもなんなので、俺達は素直にソファに座った。すると、真向いにトルベールが座って来る。

「んで、わざわざ商館に来て貰っての話なんですけど……端的に言うと、俺達が船の手配をします。んで、申し訳ないんスけど……その時に、そっちのクロウの兄さんには、獣人である事を隠して貰いたいんですよね。なので、これからその耳を隠す物を用意して頂けないかと……」
「え……な、なんで?」

 これから向かうのはクロウの故郷なのに、どうしてそんな必要があるのか。
 驚いてしまって口を挟むと、トルベールは難しそうな顔をした。

「うーん……それは俺も聞いてないんで詳しい事は知らんのだけど、どうもベーマスに到着してすぐクロウの兄さんがクロウの兄さんと分かるとダメっぽいんだわ。だから変装するんじゃねーかな。しかも俺にわざわざ注文するんだから……よっぽど隠しておいた方が良いってことなんだろうし」
「隠しておいた方が良いって……うーん……?」

 俺に説明しながら、トルベールはチラリとクロウを見る。
 すると、クロウはいつもの無表情な顔で黙っていたが……コクリと頷いた。

「ム……確かに、そうだろうと思う。水麗候の指示に従おう」

 丁寧にシアンさんの敬称を言うクロウに、トルベールもホッと息を漏らす。
 事情は知らないらしいけど、やっぱりかなりの組織からの依頼となると遂行できるか否かで気苦労が絶えないんだろうな。それを思うとちょっと可哀想だ。
 でもまあ、トルベールが有能だから頼まれてるワケだし、俺が可哀想なんて思う事は無いんだろうけども。ぐぬぬ……有能チャラ男……。

 内心トルベールに嫉妬心を燃やしてしまったが、そんな俺の横で……ブラックは、冷静にトルベールを見て目を細めていた。

「…………世界協定からのお達しで変装、ねえ。……お前、ベーマスで一体何して来たんだ? 最初の奴隷の件はともかく、二度目の気持ち悪いメイド服といい雑用係で潜り込んだ事と言い、どうも解せない事が多いんだが」

 そう言えば……クロウが帰って来てくれた時、クロウは普通に船には乗らず雑用係としてメイド服を着て仕事をしてたって言ってたよな……。
 がっしりした大柄なオッサンがメイド服という強烈なインパクトのせいで細かい事が消し飛んでしまっていたが、よくよく考えたらちょっとおかしい。

 クロウは、自分の父親であるドービエル爺ちゃんの所に一度戻ったはずだ。
 恐らくベーマスで部下っぽい人達とも再会した事だろう。となれば、仮に船に乗る金が無かったとしても彼らがカンパしてくれただろうし、着の身着のままで船に乗ったりはしなかったはず……ドービエル爺ちゃんが、息子を裸一貫で放り出すなんてとても思えない。食料ぐらい持たせてくれたはずだ。
 なのに、良く考えたらクロウは荷物らしい荷物も持っていなかった。

 …………確かに、考えてみればちょっとおかしいかも……。

 しかし、あの衝撃の中でよくそんな細かい事を覚えてたなブラック。
 感心しながら、いつになく真剣な表情をするブラックの横顔をを見ていた俺だったが、クロウがグゥと喉を困ったように唸らせたのに振り返った。
 無表情だけど、クロウは困っているような雰囲気を醸し出している。

「……すまん、今は……答えたくない」

 そう言って、クロウはトルベールが居るのに熊耳をショボンと伏せた。
 俺達以外の人間がいる前では、あまりそんな風に獣耳を動かさないのに。
 ってことは……よっぽどの事情があるってことなんだろうか……?

「ハァー……ったく、どうせ行かなきゃいけない旅とはいえ、こうなって来るとベーマスに行きたくなくなって来たな……」
「だ、旦那ぁ、そんなコト言わんでくださいよ! 報告して怒られるの俺なんすから! と、ともかく、服はこちらで用意しますんで、今日の所はこの商館に泊まって下さいよ。メシも寝床も極上のモン用意してますんで!」

 ブラックの心底嫌そうな声に、トルベールが慌てて機嫌を取ろうとする。
 それだけトルベールも困る事が有るんだろうけど、なんだか変な感じだ。クロウが口を閉ざしたのもそうだけど、トルベールが慌てるのも妙に引っかかる。

 二人とも、悪いコトを隠してるワケじゃないだろうけど、これじゃあ確かにブラックが不安だと言うのも無理はないかもしれない。俺も何か不安になって来た。
 ベーマスに【銹地の書】を取りに行くだけの旅だったはずなんだけど……なんだか、内乱が起こってるらしいしクロウにも事情があるみたいだし、妙に胸騒ぎがする。

 どうか取り越し苦労であって欲しいと俺は思ったが、こういう時に限ってその願いが叶わない事も、イヤというほど分かり切っていた。












※ツイッターで言ってた通りだいぶ遅れました…(;´Д`)スミマセン

 
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