異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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交易都市ラクシズ、綺麗な花には棘がある編

4.今までのダイジェストは大事

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 そもそも、ブラックとクロウが何故馬車に乗っていたのか。

 今更いまさらなことだが、俺もまだ頭がボーッとしてるので、頭を再起動させるために前回までのことを振り返って確認した方が良いだろう。そんなワケで、馬車に乗った目的を振り返る事にする。

 ――ラスターとの遺跡調査を終えた後、俺達はラスターからの結果報告を待つために、ライクネス国内にあるラクシズという街に滞在する事になった。
 そのため、俺が自分の世界に戻っている間、ブラック達は馬車でラクシズに向かい移動していたのだ。

 だけど、今回は普通の宿に宿泊するワケではない。
 俺のたっての願いで、今回はちょっと特殊な所に泊まる事になったのだ。

 その名は【お休み処・湖の馬亭】――――俺達は普通に「湖の馬亭」と呼んでいるが、この宿は普通のお宿ではない。俺の世界で言う娼館……おねーさん達がウフンでアハンな事をしてくれる、成人しか入れないえっちなお宿なのである。

 ……いや、まあ、お金さえあれば未成年でも入れるのかも知れないが……ともかくこの宿は、多種多様な女性がひしめいている魅惑のお宿なのだ。

 しかも、その【湖の馬亭】は、ラクシズの【蛮人街】という……街の中でもスラムとか危険地帯とか言われるようなエリアにあって、もっといえば国に認められていない、非公認の少々後ろめたい娼館なんだよな。

 なのに、何故そんな所を滞在先に選んだのかというと――――まあ、長い話になるので簡単に言うと、この【湖の馬亭】は、異世界に来て右も左も分からなかった俺を拾ってくれた恩義のある娼館だからだ。そんで、俺はたったの数週間程度だが、ここに娼姫として席を置いていた。だから、他の宿に泊まるよりもここに泊まりたかったのだ。女将さんやベイリーにも会いたかったしね。

 ……あ、娼姫と言っても別に女装とかはしてないぞ。
 言っておくが仕事してないからなっ。ブラックと鉢合わせしただけで、それ以降、俺は一回も客なんて取ってないからな! そこ重要だぞっ、俺は男に春なんか売ってないんだからなマジで!!

 はあ、はあ……一人で何を言ってるんだ俺は。
 ともかく、俺は潔白だ。日本男児として、そこまでメスにはってないぞ。あと、別に俺は特別な理由で【娼姫】にされたワケじゃないからな。

 この世界で言う「娼婦」の役割である【娼姫】は、何も女性だけの名称ではない。俺のように、組み敷かれる立場の存在を、男女問わずそう言うのだ。
 だから、男の俺も当たり前のように「娼姫」をしてたってワケ。

 最初は俺も戸惑ったけど、まあ、この世界の仕組みを知った今だと納得だ。

 この世界には男女と言う身体的区別の他に、子供を産める区別である「オス」と「メス」が存在する。そう。何度も言うが、男でも子供が産めるのである。
 個人的にはいまだに納得出来んが。

 いや、俺は異世界人だから産めないと思うけど、でもまあこの高身長で成長の速い奴らばかりの世界では、十七になってもガキくさい俺は「メス」に認識されているので、だから仕方なく俺もそれに甘んじているというか。
 ……まあさすがに子供は産めないと思うけどな! 俺異世界から来た男だし!

 えー……ゴホン。話がれた。
 だから俺は「珍しい黒髪のメスっ子少年」という属性でこの娼館に連れて来られたのだ。まあ、女将さんは良い人だったし、この【湖の馬亭】も蛮人街という劣悪な所にっても従業員第一のホワイト娼館だったので、俺も客を取らず済んだけどな。
 …………にしても、改めて考えるとヘンな経緯だよな。

 この世界で初めて他の人間と会った時は、こんな事になるとは思ってなかったよ。速攻で拉致られ奴隷にされて、最終的に娼姫にされるなんてさ……ハハ……。まあ、そうでなければ、ブラックとは違った出会い方をして、最悪の場合そのままサクッと殺されてたかもしれないから良いけどさ。
 元々ブラックは俺のことを殺しにラクシズに来てたワケだし……。

「……そっか、そういや最初はそうだったんだよな……」

 そこそこ柔らかいベッドの上で大の字になり、ぽつりと呟く。
 馬車の中でオッサンどもに滅茶苦茶めちゃくちゃされたせいで意識が混濁していたが、今までの事を振り返っていたお蔭でやっと正常に戻ってきたようだ。

 …………まあ、初めてブラックと出会った時の事なんて、今更思い出してどーすんだって話だけど……ああもうやめやめ、今はそんなこと考えてる場合じゃないだろ。
 どっちかって言うと、なつかかしむより怒る方が先だ。
 あんにゃろども、こっちに到着して早々俺を好き放題しやがったんだからな!

「ったく……マジであいつら……もう絶対しばらく近付かんぞ……」

 怨嗟を吐きながら見上げる天井は、質素な木板の天井だ。
 娼館、と言っておきながらだいぶ場末感があるが、しかしここは娼姫達の仕事場と言うわけではない。俺達が使わせて貰っているのは、いわゆるバックヤード……外の見栄えがする館の奥に存在する、娼姫達のつつましい寮なのだ。

 お世辞せじにも綺麗とは言えないし、廊下までごちゃついてるし水場は井戸だけだしで、なんだかホントに中世の外国で見るよう日雇い労働者達のアパートのようだが、ここは俺の故郷でもあるのだ。
 不便な所は有るが、それでも帰って来るとホッとしてしまった。

 まあここ俺が使ってた部屋じゃないんだけどな。

「……にしても、ブラック達は……?」

 ベッドから起き上がり、床に足を降ろす。
 相変わらずギシギシ鳴る古さだが、どうやらここは俺が使っていた部屋よりも広い場所のようだ。家賃は払うという俺達の提案を受けて、女将さんが広くて良い部屋を用意してくれたらしいな。そういえば、そなけの家具も少し高級な気がする。

「おっ、風呂は無いがトイレはある。……ってことは、ここ一階かな?」

 常春とこはるの国ライクネスでは、庶民しょみんは基本的に井戸から水をんで来ての行水だ。
 下水道などは存在するけど、その前に庶民が風呂に入る文化が無いのである。
 それに、下水道を上に伸ばす設備が無いので、庶民が使う建物だとトイレは一階にしかない。しかも共同。部屋に個室トイレがあるなんて結構な待遇だ。だけど、それでもやっぱり風呂場は無いほうが普通だった。

 そもそも、風呂に浸かる習慣があるのは貴族とかお金持ちだけなんだよなあ……。まあ、ここはそう言う文化なんだから仕方がない。だけど、風呂好きな俺としては、それが結構つらい。冒険者として旅をしている途中は、基本的に風呂のある宿を選んでいたから、こういう風呂なしアパートみたいな部屋は久しぶりなんだよな……。
 俺は行水生活に耐えられるだろうか。オッサン達と一つ屋根の下にいるのに。

 ……やっぱり、ここで三人で暮らすとなると微妙かも知れん。台所ないし。
 それにブラック達の前で行水なんて、嫌な予感しかしない。

「共同の台所を使うのはいいけど、風呂はどうすっかな……まあ、後で考えるか」

 とりあえず、ブラック達の所に行こう。
 確か、女将さん達と話す事があるとか何とか言って部屋を出て行ったんだよな。
 娼館の方に居るだろうかと扉を開けると――――そこは、娼館と娼姫達の寮を繋ぐ中庭だった。せまい中庭ではあるが、真向いにもう一つ平屋が在る。
 どうやら俺が出て来た家と同じく倉庫を部屋に改築したらしい。
 てっきり寮の部屋だとばかり思っていたが、こんな所だったんだな。

「ソコは、高級娼姫専用の部屋にする気だったんだってさー」

 少し離れた所から気の抜けた声が聞こえて振り返ると、娼館の方の通用口から出て来るブラックとクロウが見えた。
 もう話終わっちゃったのかな。ちぇっ、俺も女将さんと話したかったのに。
 ……って、高級娼婦?

「高級娼姫って、寮の最上階のお姉さま達がここに移って来たのか?」

 問いかけると、ブラックは手で「ちゃうちゃう」と否定した。

「イロツキ……えーと、公式の娼館から下って来る予定の娼婦がいたそうなんだが、急に取りやめになったとかで小屋だけ空っぽだったそうなんだ。んで、特に使い道もなかった所に僕らが丁度来たので貸したってワケ」
「へー……でも、それなら売上一位のお姉さまがたを住ませてあげるとか……」
「真新しいだけの部屋に住むのは我慢ならんそうだ。娼姫にとっては、年季が入ってなお美しい部屋というのが一種のほこりなのだろうな」

 クロウが言うのに、俺はそう言う物なのかとちょっと首をかしげつつもうなづいた。
 古くて綺麗な部屋……つまり、長年その広くて良い部屋を使い続けているってことが、彼女達のステイタスになるって事なんだろうか?

 確かに、長年その地位を死守してるって凄いけど……そんだけお店に貢献してる人だったら新築でイイとこに住ませてあげたいような気もするんだけどな。
 でもそれは俺が一般人だから思ってしまう事なんだろうか。
 一番の人がココに住めば、ソコが一番の場所になりそうなもんだけども……ううむ娼姫の世界ってのは難しい。

「ところでツカサ、もう具合はいいのか。腰は?」
「う、うん……そういえば何か今日は平気みたい……」

 そう言うと、ブラックとクロウは意外そうに目を開いて顔を見合わせた。
 い、いや、俺だってタマには自己治癒能力が強くなる時も有るさ。たぶん。

「ホントに平気?」
「大丈夫だってば」
「じゃあ、早速だけど回復薬作ってくれないかな~」
「え?」

 ブラックの急なお願いに、今度は俺が目を丸くする。
 どうして回復薬が欲しいんだろうかと相手を見上げると、ブラックは困ったように顔を歪ませつつ頭をポリポリと掻いた。

「いやー……実は、頼まれちゃってさあ……」
「頼まれごと……いやまあ良いや、とりあえず入ろ」

 麦茶出して淹れるからとドアを開くと、オッサン達は遠慮なしに入って行く。
 俺も部屋に入って、ドアを閉めようとふと外を見やると――真向いの平屋のドアが、閉じたように動いたのを見て手を留めた。

 …………あれ。向こう側、ほんとは人がいるのかな?

「ツカサくーん、早くぅ」
「日が暮れると寒くなるぞ」
「あ、うん」

 もしかしたら気のせいかも知れない。
 とりあえずブラック達の話の方が先だよなと思い、俺は完全にドアを閉めた。










 
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