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彩宮ゼルグラム、炎雷の業と闇の城編
5.例え偽物の身であろうとも
しおりを挟む※あけおめ早速すみません、都合上今回は皇帝との絡みだけっす…(;´Д`)
ブラック出てなくて申し訳ない、もうすぐ色々進みますので許して…!;;
「……あいつら、どうしてるかな……」
拉致されてから五日経った。あと数日で一週間になるが、ここまで来ると流石にブラック達の様子が本気で心配になってくる。
俺は順調に脱出の足掛かりを固めている……もとい、屋敷内を探検して、どこに逃げ出せる通路が在るかを日々探っているので、相変わらず元気ではあるのだが……ブラック達はどうしているだろうか。胃を痛めてないだろうか。
元はと言えば相手の言葉に素直に従って一人でホイホイ出向いた俺が悪いのであって、ブラックとクロウは充分に注意しろと言ってくれたのだ。そんな二人に今も心配させているのだと思うと、日に日に申し訳なさが募っていく。
自分の中に巨大な力があるとは解っていても、それを使えば後々困る事になるのは明白なので、使いたくても使えない。
すぐに会いに行ける力があるのにそう出来ないのは、余計に焦燥感を煽る。
「変な事に巻き込まれてないかな……ロクは起きてるんだろうか。クロウは乱暴をせずに、ちゃんとブラックと仲良くしてるだろうか……」
何もする事がない時間があると、そんな不安ばかり考えて頭を抱えてしまう。
今夜もパーヴェル卿に連れられて馬車の中でじっと彩宮に着くのを待っているが、三回四回と回を重ねると会話も無くなってくる。
そうなると、街灯が煌めく皇帝領内を窓から眺めながら、声も無く呟いて延々と悩む事くらいしか出来なくて。
そうこうしている内に馬車は再び彩宮ゼルグラムに到着し、俺は当たり前のように門の中へと通された。
何度も会いに来ているせいか、最早彩宮の人達は俺の事を警戒しもしない。
それどころか、門番の暗黒騎士さんは手を振ってくれるし、メイドさんや執事っぽい人達はニコニコ笑って俺に会釈してくれる。
パーヴェル卿曰く「最近物凄く陛下の機嫌が良いから、みんな助かってるんだ。だから、みんなが君に好意的なんだよ」との事だったが……俺が皇帝陛下と部屋で何をしてるのかを妄想されてると考えると、とても居た堪れない。
違います、俺皇帝陛下とえっちしてません。してないんですってば。
そう言いたいが、そんな事を言えば変な事になりそうなので言えない……。
結局、俺は今夜も黙って皇帝陛下の寝所へと参上仕るしかなかった。
「おお、ソーニャ……! 昨日は機嫌が悪かったから、もう来てはくれないのではないかと思ったぞ。良かった、怒っていないのだな」
「あ、は……はい……ご心配かけるような真似をしてすみません」
扉が閉まるなりいつものように嬉しそうな顔で俺に「ソーニャ」という皇帝に、俺はぎこちない笑みで答えつつ、その抱擁を受け入れる。
二度目の時に抱き着かれてから、なんとなく拒否出来なくてこんな事になってしまっているが……俺は別に皇帝の事が好きになった訳ではない。
拒否できる物ならしているのだ。
だけど相手は皇帝だし、この人懐こさが病のせいってのも重々理解してるから、拒否できないっていうか……なんかこう、懐かれるとどうにも弱くてなあ……。
「ソーニャ、今日はどんな話だ? 今日もあの英雄の話をしてくれるのだろう?」
俺をぎゅっと抱き締めたまま弾んだ声で問いかける皇帝に、俺はちょっと笑って体を離す。そうして相手を見上げると改めて微笑んだ。
「陛下が俺の話を気に入って下さって良かったです」
「気に入らぬものか。自らが城下に降り立ち、しもべと共に国に蔓延る悪漢を成敗する英雄の話だぞ。聞いているだけで胸が躍る!」
俺の肩を抱いて密着しながら、皇帝は当たり前のように俺をベッドへと連れていく。そうして自分が先に寝転ぶと、俺に布団を被せさせた。
こう表現するとまるで子供だが、言動が人に甘える子供そのままなので仕方がない。恐らく、奥さんを失った時のストレスの反動で、子供みたいになってしまっているんだろう。
そんな相手を突き離すなんて、俺にはどうしてもできない。
こんな事をしてても仕方がないのは解っているが、だけどパーヴェル卿に頼まれているし……何より、こんな状態の人を放っておけなかった。
脱走するとしたら、皇帝にも別れを告げる事になるけど……本当に逃げる段になった時、俺はどうすれば良いんだろうか。
俺が居なくなれば皇帝はまた病んでしまいかねないが、しかし、俺と似たような容姿の人間が現れれば、ソーニャさんと認識するかもしれないし……。
うーん、解らん……どうすればいいのかわからん。
「ソーニャ、早く」
「ああ、す、すみません。……じゃあ、今日の水戸黄門は筑後という国に到着した時のお話をしましょうね」
「チクゴ。ふむ、異国の国の名前は本当に面白いな」
そう。水戸黄門。俺が皇帝に話して聞かせているのは、お年寄りに大人気だったという時代劇の水戸黄門なのである。
なので、国と言うか藩の話なんだが、まあそんな事を言っても仕方ない。
というか皇帝にこんなに水戸黄門の話がウケるとは思わなかった。正直俺は千夜一夜物語みたいに色々な話をするつもりでいたんだが……ううむ、やっぱり黄門様は凄い。しかもめっちゃ話数があるしお約束のシーンもあるから、多少話の中身を忘れていても、話す時には大体つじつまが合うしな。
それに、お約束がある王道は何だかんだで面白いからホント凄いわ。
婆ちゃんドラマを見せてくれてありがとう、時代劇よありがとう。
遠い世界の人に感謝しながら、俺は今日も水戸黄門の話を皇帝に聞かせた。
ソーニャさんがこんな話をしていたかどうかは解らないが、相手は枕に頭を乗せたまま、死んだような目だけどそんな目を精一杯キラキラさせて、俺を見上げ話を聞いてくれている。
やがて水戸黄門の話が終わりにまで近付き、いつもの皇帝ならばここで寝てしまう……と言うポイントに来た。しかし、皇帝は今日は目を閉じる事も無く、じっと俺を見つめていた。
「……小町娘の梅も綻ぶ笑顔に、春の訪れを感じる一行であった……と、言う訳で今日はここまで……」
ああ、話が終わってしまった。
もしかしてもう一話聞きたいのかなと皇帝を見返すと、相手はただじいっと俺を見つめていたが――やがて、少し遠慮がちに呟いた。
「…………ソーニャ。やはりまだ……一緒に寝てはくれないのか?」
寝る、の意味が幾つかあるが、何にせよそれには答えられない。
俺は申し訳ないと頭を下げると、布団から少し出ていた皇帝の大きな手に自分の頼りない手を重ねた。
「申し訳ありません……ですが、陛下が安心してお眠りになるまで、ここに控えていますから」
「……しかし、私が眠ってしまえばお前は出て行ってしまうのだろう? そんなの嫌だ……せっかく……せっかくお前を取り戻せたのに……」
今にも泣きだしそうな位に顔を歪めた皇帝は、俺の手をぎゅっと握る。
その痛いくらいの感触は、俺に大いに罪悪感を覚えさせたが……ここで彼に付き合って眠る訳にはいかなかった。
彩宮に籠ったりなんかしたら、俺はずっとこの場所にいなきゃ行けなくなる。
そうなれば脱出は難しくなるだろう。
だから、俺は何としてでも、アドニスの屋敷にいなければならないのだ。
勿論、それは彼の研究に付き合うためではない。アドニスの屋敷に居れば多少の自由が利くし、何よりあそこには暗黒騎士みたいなこの国の兵士が居ないからな。脱出の難易度を下げるためには、絶対にあの館にいなければならなかった。
だけど、そんな俺の事情は皇帝には関係ないことだよな……。
滅多な事は言えないけど、でも安心させてあげたくて、俺は精一杯の優しい笑顔を作りながら、握られていない方の手で皇帝の頭を優しく撫でた。
「俺はこの皇帝領にいます。陛下のすぐ近くにいますよ。だから、安心して休んで下さい。……俺は、自分の体調よりも、あなたの体調の方が心配です」
「ソーニャ……」
「目の下の隈、酷くなってますよ。ちゃんと食事をして眠りましょう。そしたら、きっと明日は今日よりも心が楽になります。……貴方は炎雷帝。誰もがおそれ敬う存在です。……その姿にいつか戻れる日が来るまで……今は、楽しいお話をして、沢山笑って、好きな物を食べて眠りましょう。……ね?」
本心からそう言って、俺は皇帝の額を優しく撫でる。
そう。俺が話に聞いた皇帝は、恐るべき存在だった。他人を粛清し、冷酷に切り捨て、邪魔であれば毒殺さえする。けれど、それを誰もが許すほどに有能であり、この資源の乏しい国を守ってきた皇帝。
例えその姿が悪だとしても、誰もが彼の復活を望んでいるのだ。
この宮殿の給仕達も、皇帝を守る兵士達も、そして……本当のソーニャさんも。
俺にはソーニャさんがどういう人だったか未だに解らないし、他の人に訊いても教えてくれないので解らないが……これほどまでに皇帝に縋られる存在なんだ、きっととても優しくて、強くて、皇帝ではなく“ヨアニス”としての彼を愛していたに違いない。そんな人なら、絶対にこう言うだろう。
そう思って皇帝の額を撫でていた俺に、皇帝は目を丸くすると、なにか信じられない物でも見たかのような表情になり……震えた声で俺に問いかけて来た。
「ソーニャ……」
「はい」
「私は……お前が私の許を突然去った時、今度こそ心が壊れてしまうかと思った。いや、ナーシャを喪った時に、私の心は一度壊れて……それを、お前が治してくれたのだ……。だから、私はお前を失いたくなかった。このゼルグラムに閉じ込めて、お前の自由を奪った……だから、お前はそれに耐えかねて出て行ったのだと、そう、思っていた……。だが……違うのか」
「陛下」
「戻って来てくれて、私の事を……こんな私の事を……炎雷帝と、国の王と認めてくれる……。ああ、やっと……やっと、私のソーニャが戻って来てくれた……」
皇帝のブルーグレイの綺麗な目からは、涙が静かに流れている。
心に傷を負った人間はこれほど脆くなるのかと思うほどに弱々しい相手に、俺は眉根を寄せている自分に気付きながらも黙って相手の涙をぬぐった。
……こんな事を言ってはいけないのかも知れない。
だけど、本当に……可哀想な人だと思う。
この人が愛した人はここにはいない。俺は、その名を借りた偽物でしかない。
だけどもう、それすら解らないほどにこの人は心を患って、いつ消えるかも判らない俺に「戻ってきた」と涙しているのだ。
「…………」
そんな人に、俺は嘘をついてまで優しくしているのか。
そう思うと胸の辺りが酷く痛んだが、しかしそれを止める術は無い。
無意識に顔を歪めていたらしい俺に、皇帝は体を起こして再び俺に抱き着くと、俺の頬を緩めるかのように優しくキスをした。
「っ……! へ、へいか……」
「寝台の上では、ヨアニスと……前のようにそう呼んでくれ」
「えっ……ぁ……」
驚く俺に構わず、皇帝は俺を背後から抱え込んで、首筋からうなじまでまるで慈しむように何度もキスをしてくる。
突然の事に動けない俺の体を太い腕で抱き締めながら、皇帝はそのままベッドに倒れ込んで俺を引き寄せた。
「っ……」
違う、匂い。いつも俺が一緒に居た、ベッドで寝ていた相手とはまるで違う……微かに花の香りがする、清潔な甘い匂いだ。
それが何故だか急に怖くなって、俺は思わず体を強張らせる。
だが皇帝はそんな俺の緊張を解そうとしたのか、背中に体をくっつけてきた。
俺の事を、ソーニャと、そう思っているからこその、行為。
だけど俺にはそれを受け入れる事なんて出来ない。どれほど相手のために何かをしてやりたいと思っても、恋人と言う存在が居る以上、俺には……。
「へ、へい……いや、あの、ヨアニス……!」
「解っている、抱き締めるだけだ……だから……私が眠るまで、このまま……」
そう言って俺の頭に顔を埋めて呼吸をする。
「銀の髪が恋しいが……でも、黒い髪も……悪くはないな……」
――銀の髪……。
それってもしかして……ソーニャさんの髪の色なのか?
今まで知る事の出来なかったソーニャさんの事を聞いてみたかったが、そんな事なんて問えるはずもなく。俺はただ皇帝……いや、ヨアニスが眠るまで、そうして抱き着かれている事しか出来なかった。
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