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帝都ノーヴェポーチカ、神の見捨てし理想郷編
10.変化にも喜びと恐れと悲しみがあるもので
しおりを挟む「…………ヤバい」
洗面所の鏡で自分の顔を見て、改めて自分の変化に気付く。
間を置かずに犯されていれば、いずれはそうなると解ってはいたけど……しかしまさか、あんなデカブツを突っ込まれても一回程度なら普通に朝起きれるようになっただなんて、自分でもあまり信じたくない。
顔色も悪くないし、腰は若干痛いが気にするほどでもないと言うのが、個人的に物凄く納得がいかない。何で慣れちゃってんだよ俺。こんなん絶対にブラックには言えないぞ。言ったら絶対アイツ「じゃあ二発やっても平気だよね!」とか言ってくるに決まってる。
昨日すんなり受け入れちゃったのは、あれだ。急な不法侵入や添い寝で気が動転してしまったから、あんな風に変に興奮してしまったんだ。多分、いや、きっと。でも、次はそんな訳には行かないだろう。
っていうかヤダ。もう嫌だぞなし崩しにえっちするのは。
恋人らしい事をするってのとえっちするってのはイコールじゃ無かろう。他の事は頑張るけど、覚悟してない時にヤられるのはごめんだ。俺ばっかり恥ずかしくて、なんにも良い事ないじゃないかくそう。
「ぐぅう……とにかく、昨日は不覚だったけど今度からはちゃんとしなきゃな」
こんな調子で自分の体もコントロール出来ないんじゃ、ブラックに変な道具を使われた時にまた必要以上に怒ってしまいそうだ。
いやまあ道具は嫌ですけど。出来れば使われたくないですけど!!
ってそんな事言ってる場合じゃないか。さっさと顔を洗って身支度を整えよう。
「はぁ……分かっちゃいたけど開発されてるって思うと嫌だなあ……」
ブラックの事は嫌いじゃないが、男としての機能とは別の機能を拡張されると、物凄く違和感があるしかなりキツい。
受け入れようと努力はしてるし、その……癪だけど、ブラックに触れられたくないって訳じゃないから、抱かれること自体はもういいんだけどさあ。うん。
でもやっぱ、何か納得できない部分が有るんだよな……。
このあたりの線引きは自分でも良く解らんなと思いながら、俺は身支度を整えて洗面所から出た。すると。
「ツカサ君、この指輪なに……?」
……出るなりなんか凄く不穏な声が聞こえたけど、なんなんでしょうねもう。
指輪って、もしかしてアレクから貰った指輪だろうか。
「……あ、やべ。説明し忘れてた……」
出発のゴタゴタで頭からすっぽ抜けてたが、そういやアレクの事を話してなかった。さてはブラックの野郎、誤解してるな。
ベッドの上で髪も結ばずにじとーっと俺を見るブラックに、俺はアレクの事をかいつまんで説明し、指輪がどういう物かも説明した。
ブラックが疑うようなものではない、と、何度も会話の中に入れながら。
その間、ブラックは物凄く不機嫌そうに小さな指輪を眺めていたが……俺の発言と指輪の大きさからして一応納得は出来たのか、不承不承と言った体で頷いて見せた。いいぞ、偉いぞブラック。昨日のえっちが効いてるな。なんかもう大型動物を調教している気になって来た。
「ふーん……まあ、納得は出来たけど……でも指輪……僕だって……」
「ん?」
「あ、い、いや何でもない。とにかく……これは没収!! 僕が持っておく!」
「はぁ!? なんでだよ!」
意味が解らんとブラックから指輪を取り返そうとするが、相手は体格差を利用して俺の手を華麗に逃れやがる。ええいおのれ、このどこもかしこもデカブツ男め。
「こ、のっ! かっえっせっ!」
「い、良いじゃないかっ! 失くしたりしないってば!」
「そう言うっ問題じゃっないっ!」
何度もベッドの上のブラックに挑んだが、結局指輪を奪取する事が出来ず、俺は諦めてベッドに顔面から沈んだ。
ぐううちくしょう、長身嫌い。ベッドやわらかい。
「返す時にはちゃんと渡すから心配しないでよ」
「絶対に返せよ、失くしたら本当に駄目な奴なんだからなそれ……つーか、なんで指輪をそんなに没収したいんだよ。納得してるなら持たせてくれたって良いだろ」
「う……」
「なんで頑なに自分で持ってようとするんだよ、お前」
嫉妬とかも有るだろうけど、それだけじゃないよな?
シーツから顔を離して睨むと、ブラックは寝癖がついた赤い髪をがしがしと掻き回しながら、いかにも「誤魔化してますよ」と言わんばかりに口笛を吹いて俺から視線を逸らした。
「……わざとらしすぎ」
「う……と、とにかく約束するから。ね? だからさ、ツカサくーん……」
「あーもー分かった分かった、分かったから髪結んで顔洗ってこい」
近付いて来ようとする顔を手で押しとどめてベッドから降りる。
が、相手はあからさまにしょぼんとした顔をして、俺に物欲しそうな目を向けていた。……ああ、そうだったね。俺が髪結んでやるんだったね……。
「だーもー、ほら、後ろ向いて!」
「あは……! うん!」
うんじゃねーよと思いながらも、ブラックの盛大にもつれた髪を梳いてやる。
まったくもう、人の預かり物を強奪したり髪を梳いて欲しがったり、ほんと子供かっての。もうちょっと大人らしくすればいいのに。
でも、普通の大人なブラックなんて逆に変か……。
「ツカサ君の指はやっぱり気持ちいいなぁ」
「はいはい」
こうやって慣らされていくんだろうなあと思うと、さっき考えていたケツ慣れ問題がヤケに厄介な事案に思えて来て、俺はブラックに聞こえないようにこっそりと溜息を吐いたのだった。
◆
世界協定で美味しい朝食を頂いた俺達は、早速植物園に行くことにした。
食事の最中、クロウが訝しげに眼を細めて俺とブラックをじーっと見ていたり、シアンさんが「あらあら」という生暖かい笑みで俺達を交互に見ていたりしたが、そう言う事は忘れたい。とにかく、植物園に行くのだ。
今回ばかりはブラックと協力してクロウの探るような視線から逃れながら、足早に目的地へと向かった。
――国立植物園は、皇帝領に近い上民街の一角にある。
その名前の通り国がその建設に大きく関わっており、シアンさんの話によると、この植物園もラスターの屋敷の温室のように有事に備えた蓄えや種が貯蔵されており、植物に関する研究が日々行われると言う。
そんな事を言われると、俺は俄然植物園に期待してしまうわけで。
植物園には名誉皇国臣民とか言う凄そうな称号を持つ木の曜術師がいる。と言う事は、日々様々な薬を研究するだけにとどまらず、木の曜術に関してもかなり知識を蓄えているに違いない。
だから、もし出会えたら、俺の薬の事だけでなく木の曜術師の事も色々と教わりたいんだよな。もちろん、忙しそうだったら無理は言えないが……。
「そろそろ見えて来るかな……あ、あれじゃないか?」
「え? どこどこ……」
街の案内板を頼りに歩く道の先、大通りから少し外れた場所を見てみると――
そこには、大きなガラスのドームが見えていた。
「うわ……!すごい、緑だ……!」
「木々なんて久しぶりに見たぞ……」
曇り空の中でも透明さを失わないドームの中には、様々な濃度を持った緑が溢れている。光が有ればきっと新緑の季節のようにきらめくだろうその青々しい色は、俺のみならず自然に飢えていたクロウまでも素直に驚かせた。
そうだよな、そうだよなクロウ!
よし、お前も一緒に森に帰ろう!
「早く行こうぜ、なっ、な!」
「お、おう」
「つっ、ツカサ君はしゃぎすぎだってば」
ええい悠長に歩いてられっか。
俺はオッサン二人の腕を取ると、植物園へと向かって走り出した。
どんどん近付いて来るドームにいやがおうにも期待は高まり、道から吐き出されるオイルの臭いがする湯気も気にせず、俺はあっという間に植物園の前へと到着してしまった。
「はぁっ、はぁ……ツカサ君こういう時ばっかり早いんだから……っ」
「つ、ツカサ……引っ張られると調子が狂う……っ」
「ええいだらしないオッサン達だな! お前らいつも俺を振り回してるのに、逆になると音を上げるなんて軟弱なっ」
「えぇえ……」
えええもヘチマもない。でもいつもと逆の立場になってるのは少し面白くて、俺はほくそ笑みつつ、二人に待つように言って植物園の受付へと向かった。
やっぱファンタジーの世界でも発券所はあんまり変わらないようだ。
受付のおねーさんも定番なんだな。
「えーとすみません、こど……いや、大人三人なんですけど」
開園したばかりだからか、発券所は一つしか開いてない。なので、そこに座っていたちょっと童顔で可愛らしいピンク髪の美少女ちゃんに問いかける。
ふふふ、この世界で美少女に耐性がついたから、もうどもったりしないぜ。
「あっ、は、はい! 国立植物園へようこそお越しくださいました! 大人三枚で三百六十ケルブになります!」
「えーっと銀貨三枚と銅貨六枚……はい、どうぞ」
「確かに。それではこちら一般入場券になります。順路に従ってご観覧下さい」
「あの……職員の方からお話を訊けたりはしますか? ここに、名誉臣民である木の曜術師の方がいらっしゃると聞いたんですが……」
そう言うと、受付のピンク髪っ子は急に顔を赤らめた。
な、なんだなんだ。
「あっ、パブロワ様ですね! はい、確かに! ……ですが、申し訳ありません、パブロワ様は滅多に一般区域にはいらっしゃらないのです……とてもお忙しい方で、日々この国の為に身を粉にして働いている研究熱心な方ですから……」
「そうなんですか……ありがとうございます」
「いえ、植物園どうぞ楽しんでいらして下さいね」
うーむ、アテが外れたな……。パブロワって人には会うのは難しいようだ。いやでも待てよ、昨日ロサードが馴染みの人間に話を付けておくって言ってたし、もしかしたら他の職員の人にかけあえばどうにかなるかも。
ここで諦めちゃいけないよな、折角来たんだしやれることはやらないと。
俺はブラック達の所に戻ると、券を渡して入り口のゲートへと近付いた。
開かれた扉の先には、緑の洪水が見える。
久しぶりに懐かしい森に帰って来たような感覚を覚えて、俺はそっとバッグの中で眠っているロクを布の上から撫でた。
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そう思いながら、俺は係員の人に券を千切って貰うと、緑が満ち溢れるゲートの向こうへと足を踏み入れた。
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