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祭町ラフターシュカ、雪華の王に赤衣編
13.受けだって好みの服装を選びたい
しおりを挟む※閑話休題回……というかお遊び回です(;^ω^)
「ツカサ君……寒くない?」
「ん……別に……」
「……お腹減った?」
「いや、出て来る前にお昼食べたし……」
「じゃあ、えっと……」
「ブラック、これ帰宅してるだけだからな。デートじゃないからな?」
「ぐ……」
やっぱりそういうつもりだったかと、俺は軽く溜息を吐いた。
大通りに入ってからと言うもの、コイツは周囲でイチャイチャしてるカップル(同性異性問わず)を観察しつつ歩いていたから、似たような事をしたいと言って来るだろうなと予想はしていたよ。
まあ、手を繋いで歩いてたら、そう言う気がしてくるかもしれない。わらわらと人がいる大通りだし、目移りするほどのお店が並んでるし、これだけ沢山恋人達がいたならば自分らも同じ事がしたいと思うのは仕方ない事かも知れない。
……が、忘れないでほしい。
俺達はしょーもない街長を見返すために、これから作戦を練らねばならんのだ。
ブラックには悪いけど一分一秒も無駄には出来ない。祭りの開催はそれこそもうすぐそこまで迫っているんだ。ドカンとやるならちゃんと計画を立てなければ。
しかし……。
「…………やっぱダメ?」
しょぼーんと見えない犬耳をへたらせて悲しそうな顔をするブラック。
オッサン、その表情は十八歳未満までですよ……とは思ったが、しかしながら、悔しい事に俺もだいぶ……いや、ちょっと、本当に、ほんとおぉおおおに少しだけブラックに絆されたり可愛さを感じている所もあるらしく、キュンとしてしまう。
キュンて。キュンてなんだよクソ恥ずかしい。
クロウもオッサンだけど、クロウは獣人だし獣耳は大正義だからキュンとしても仕方ないよな? クロウは普通にイケメンだし。中年だけどもうちょっと若いし。
でもブラックにキュンて。恋人だから?
恋人だから中年でも反応したのか俺の可愛い物センサーよ。
そりゃまあ、ムサい無精髭中年のブラックにも可愛いと思った事は、まあ、過去に有ったかも知れないが、しかしキュンは無かったような……。
あれか、周囲が恋人だらけで俺も頭が変になって来てるんだろうか。
いやでもキュンて……キュン……。
「ツカサ君?」
「ひゃっ。な、なに!?」
「二人っきりで買い物って言ってたのは、またにするのかい?」
「あ……」
そう言えばそんな事言ってたな。
俺はその……クロウとアレな事やっちゃったんだし、それを考えるとブラックにも何か喜ばせられるような事をしてやった方がいいと思ってたんだった。
でも、この状況で俺達だけが楽しむってのはなあ……うーむ……。
少し考えて、俺は妙案を思いついた。
「そーだ! 服だよ服!」
「ふえっ? 服?」
「おうっ。ジェドマロズの時のお前の服を選ぶんだよ! そしたらデー……違う、二人で出歩いてても、その、別にいいだろ」
そう言えば俺、ブラックが他の服着てる所なんて二三度しか見た事ないわ。
しかもその二三度だって礼装だった訳で、あれはまあ悔しい事に格好良かったが私服って感じはしない。俺の方はブラックに着せられたり他の奴に着せられたりで色々と大変な目に遭ってるんだけど、まあそれはともかく。
ジェドマロズの衣装を選ぶついでに、ブラックの服とかをプレゼント出来たら……なんか、その……恋人っぽいかなって。
いやだってほら、ブラックも俺に好きな服着せたがってたし、だったら恋人ってこうするのが「らしい」んじゃないかなと思ったんだが……どうなんだろう。
これデートなのかな。いやこれデートじゃないから。調達だから。
デートじゃないから間違ってても問題ない!!
うーん、言い訳がましい! いやでも、これはアレだからね! デートじゃないから予行演習だから! お前も解ってくれるよなブラック! と相手を見やると。
「ツカサ君……僕に服、選んでくれるの……?!」
まるで、泥酔した時の崩れた笑顔で、オッサンは満面の笑みになっていた。
にへらぁああという効果音が背後に見えた気がする。気のせいかもしれないが、凄く鳥肌が立った。さっきのキュンがなくなってしまった。
ああ、俺の恋人って本当にオッサンなんだな……そんな感慨すら湧いてくる。
いやまあ、解ってて付き合ってるんですけどね。こういう時辛いよね……。
まあ、うん……まあいっか……。
「言っておくけど、デートじゃないからな」
「解ってる解ってるー!」
あははーと花を散らして笑いながら俺の手を更にぎゅっと握るブラックに、何だか気が抜けたようになりながら俺は一路服屋へと向かった。
幸い、この街には死ぬほど防具屋……と言うか服屋が在る。
正直な話、俺は服なんて物は「着られればいい」とか思っているタイプなので、どの服屋も同じような店にしか見えない。
と言うか、ぶっちゃけマトモな服を積極的に選んだことがない。
アホみたいな柄のTシャツとかトランクス程度は自分で選ぶけど、彼女も居ない俺や悪友達としては、オタクファッション丸出しのチェック柄のシャツにくたびれたズボンがマストアイテムだった。
紺色や黒のインナーが普通で、しかも通常は母さんが買った服しか着てない。
ガチで。
……いやだって、俺達みたいな底辺エロオタがオシャレしたって女子が振り向く訳じゃないだろう? こっちの世界は美醜の価値観が違うのか、ブラックを含めたみんなが変な褒め方をしてくれるが、日本じゃ俺はモテナイグループなんだ。
まったく女子に相手にされないのに、服だけ小奇麗にしたって無駄な努力でしかないだろう。その考え方がダメオタクまっしぐらなのは解っているけど、だってほら、実際無視されるとね!もうね!
クラスの女子と街中ですれ違っても挨拶されないんだから、ネガティブに考えて趣味に引きこもるしかないでしょうもう俺は!!
アホTとか着てるからじゃないかと言われるかもしれないが、あのダサ面白さを解ってくれないクラスの女子なんて知らないやい! 泣いてないやい!
……はっ。いかんいかん。俺の事はどうでも良いんだ。
とにかく、俺達は適当な服屋に入って店員さんに話を聞いて見る事にした。
ジェドマロズ役であると言う事は隠しておかねばならなかったので、とりあえず「家の中でジェドマロズが見たいという子供が居るので、似たような服は無いか」と言ってかけあってみた。
ジェドマロズは、極寒の精霊にして氷と全ての雪を統率する長でもある。
俺としては重厚な色のローブなどが出て来るかと思っていたのだが、店員さんが出して来たのは、服……というか、聖騎士が着用するような白銀の鎧だった。
「えーっと……あの……。すみません、俺ここに来たばかりなので知らなかったんですが、ジェドマロズってこういう装備なんですか……?」
恐る恐るそう訊くと、巨乳で抹茶色の髪の店員さんはにっこりと笑って頷く。
「はい! ジェドマロズは別名“冬将軍”と呼ばれておりまして、その荒々しい雪の力でモンスターからこの街を守った英雄でもあらせられるのです! ですので、代々ジェドマロズを行う司祭の方々は、このような白銀の鎧を見に着けていらっしゃるのですよ~」
冬将軍……まさかそんな単語まで出て来るとは思わなかった。
魔法使い系だと思っていたのにまさかの武闘派とは、俺の中のサンタクロースとますます遠くなっていくなジェドマロズお爺ちゃん……実際の姿ってどんなんだったんだろうか……。
いやでも、確かにこんなゴツい鎧だと俺の年齢や背丈では似合わないな。
ギルベインさんだったら確かに似合ったかも。老年の騎士ってのも格好いいもんな。ゲームでもそういうお爺ちゃんキャラは一撃必殺のスキルを持つ強敵扱いだ。
ぶっちゃけ魔法使い的なローブ姿やサンタ姿は、ブラックには似合わないんじゃないかと思っていたんだが、これならブラックも似合うかも。
「えっと、着用されるのはそちらのお父様でよろしいのですよね?」
「お父様じゃないけどそうです」
「僕はツカサ君のこいびっ」
「あーっ! あーっ! いいから早く試着してこい!!」
余計な事を言うなバカ!
ずっしり重い鎧一式を手渡して試着室へとブラックを追いやり封殺し、俺は息を吐くと、改めて巨乳で可愛い店員さんに向き直った。
「えっと……ジェドマロズの衣装って大体白銀の鎧なんですか?」
「そうですよ~。背に翼を付けたり、ハデな宝石を付けたり……付属品を加える方は多々いらっしゃいましたが、全ては厳つい白銀の鎧で統一されてますね。何せジェドマロズ様は、この国の皇帝騎士団の紋章の元にもなっていて、騎士としても崇められている方ですから」
勇ましい系のおじい様がプレゼントを配る様子を想像すると、胸に熱い物が込み上げてくるが、俺の中のサンタクロースはそう言うんじゃないんだよなあ。
サンタさんは、鎧じゃなくて暖かそうな服装をした優しげな顔のお爺ちゃんだったから、勇ましさとは無縁なんだ。
あのふくふくした体型のお爺ちゃんが剣を振り回すのは見たくない……。
「じゃあ、冬将軍は贈り物を人々に与える優しい老人って感じじゃないんですね」
「そうですねえ……ギフトはそもそも、お使いの妖精さんが配るって話でしたし」
「使いの妖精ですか。どんな姿なんです?」
「それが……儀式自体は真夜中に行われるので、どんな妖精が配っているかは不明らしいんです。私も昔気になって聞いた事があるのですが、歴史家の人でも詳しい姿は解らないんだそうで」
「そうなんですか……」
使い魔みたいなのがギフトを配ってたのか。
俺の世界で言う所の、プレゼントを作る小人さんみたいなアレかな?
なるほど、そのあたりは別に決まっていないのか。となると……その部分も街長達に差を付けられるパフォーマンスが出来そうだな。
ふっふっふ、こうなったらトコトン凄い事をやって「ナトラ教がやった時の祭りが一番凄かったなあ」とか言わせてやるぜ。
なんて思っていたら、背後からカーテンを開く音がした。
「ツカサ君……これ動きづらいよ……」
がしゃり、と音が聞こえる。やっと装備したかと振り返って――
俺は思わず面食らってしまった。
「ふあ……」
だって、目の前に現れたブラックは。
ブラックの、その姿は……物凄く……サマになっていた、から。
「鎧って動きづらくてしょうがないんだけど……コレ、ホントに必要なの?」
怪訝そうに俺を見るブラックの顔かたちは全然変わらない。
無精髭もうねった赤い髪もそのままだ。だけど、そのしっかりとした肩幅に合わさった肩当や、すらりと長い足に取り付けられた白銀の覆い、それに勇ましく顔を露出させ側面を守る独特な兜は、妖精の耳にも思える形で格好良くて……。
「はぁああ~! お、お似合いですお父様~!! 上背も体躯も鎧にぴったり!! ほ、本当に騎士様みたいですよ!」
「そ、そうかな……っていうか僕はお父様じゃな……ツカサ君どうしたの? 顔がなんか赤いけど……」
はっ。
か、顔が赤い!?
いやあの、違います、違いますよ! これはその、鎧が格好いいだけで、その!
「もしかして……僕の事、格好いいとか思って……」
「おおおおおもってにゃい!! ちがうっ! そ、そんなっ、よっ、鎧きてなんか、か、かっこ良くなんてないんだからなっ!?」
「ホントに?」
不敵な笑みでこちらに向かってくるブラックに、頭が爆発しそうになる。
体が緊張して、一気に熱湯でも浴びせかけられたかのように熱が上がった。
こんなの初めてだ。な、なんでこんな風になるんだ俺。
「ぶわっ、ちょっ、ちかづいてくるなっ!」
「ツカサ君……実はこういうのも好きなのか……これは発見だな」
「好きじゃないってば!!」
な、なんで!? 鎧なんてこの世界に来て腐る程みてるし、白銀の格好いい奴だってわりとチラホラ見た事有ったのに。なのになんで。どうしてブラックが鎧を着ただけで、頬が痛いくらいに熱くなってるんだよ俺ぇえ!!
あああっ、ち、近付かないで。頼むからあっち行って!
そんな風に近付いて来られたらし、死んじゃう、死んじゃうから!!
「ちなみにその鎧、常時ラピッドが発動するようになっている曜具ですので、少々お高いですが街の外に出るのにも役立ちますよ~」
俺の様子を知ってか知らずかニコニコと俺達を見て笑う店員さん。
そんな彼女に一旦顔を向けると、ブラックも同じように笑ってこう言った。
「この鎧買うので、あとで包んで下さい。ああ、それと、別の服も着てみたいので良さげなのを適当に見繕って下さい」
は、はひ。
別の服ってなあに。
「畏まりました~! では、お父様にお似合いの服を全て持ってまいりますので、少々お待ちくださいね!」
言いながら、店員さんはドタバタと走って行く。
ぽかんと口を開けて二人のやりとりを聞いていた俺に、ブラックはもう一度振り返ると、とても嬉しそうに微笑んできて、俺の手を取った。
「ぶ、ぶら、っく」
「……この際だから、ツカサ君が僕のどんな服装が好きなのか、知って置こうと思ってさ。……付き合ってくれるよね?」
どんな、服って。
それって要するに……俺が赤面するかどうかで、服を決めて買うって事?
……ちょっと手段は、違うけど……それも俺がブラックに服を選んでやるって事になるのかな……いや待ってちょっと待って、ブラックは俺が赤面するかどうかで服を決めるんだろ!?
それアレじゃん、俺の事殺しにかかってるんじゃん!
い、いや違う。俺は騎士っぽい鎧姿のブラックがあまりにもゲームキャラっぽくて、格好いいなって思っただけで、別にブラックに赤くなったわけじゃない。
恋人だってそこはゆずれない。違うぞ、違うんだからな!!
何を選んだって無駄だぞ、と目の前で俺の手を取るブラックを睨もうとしたのだが、カッカして強張る顔ではうまいこと睨めない。
そんな俺に、ブラックは実に嬉しそうな顔で微笑むと……俺に跪き、掴んだ手の甲に騎士のごとく恭しくキスをした。
「あっ……うっ、~~~~~~っ!?」
「今度は、僕がツカサ君好みの服を着るから……楽しみにしててね」
不敵に笑うその顔は、大人の笑みだ。
……ち、ちくしょう……服なんて選びに来るんじゃなかった……。
だけど、口は震えてしまってそんな悪態すらつけない。
顔が熱くて恥ずかしくてドキドキして仕方なくて、俺は涙目で歯を噛み締めたのだった……。
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