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波乱の大祭、千差万別の恋模様編
15.一番になれない苦しみ※
しおりを挟む「んっ、ぅ……んんんっ……!!」
何をするんだと体を押し返そうとするが、相手の体はびくともしない。
酒の臭いがつんと鼻を突いて、クロウの唇が僅かにずれる度に異様な恥かしさを覚えてしまい俺は身を捩る。だが相手は構わず何度も角度を変えて俺の口を貪り、その間に俺の足の間に膝を割りいれて来た。
「んう゛ぅっ、んむっ、ぅ……っ、んぅう……!」
ちろりと舌が唇の合わせを這い、緩くこじ開けようとする。
それだけはしてはいけないと強く思って、俺は満身の力を籠めてクロウの胸を押し、僅かに顔を離す事に成功した。
「はぁっ、はっ……はぁっ……く、クロウ、あんたっ、何を……っ」
クロウを押し返すのに全力を使ったせいで、呼吸が酷く乱れている。だが相手の呼吸は全く乱れてなくて、まるで俺だけが興奮しているみたいで更に恥ずかしくなった。
い、いきなりキスしたのも、押し倒したのもクロウの方なのに。
なのになんで俺だけハァハァしてなきゃ行けないんだよ。
いや、とにかく、クロウにどいて貰わないと。
俺はこんな事望んじゃいないし、何よりクロウは泥酔してるんだ。きっと自分でも何をしているのか解っちゃいない。
シラフに戻ったら、また自分を半殺しにするまで謝り続けかねん。
落ちつけ、落ちつけ俺。なるべく穏便に離れて貰うんだ。
必死に息を整え、俺は潤んだ目をしているクロウの顔を見上げた。
「クロウ、怒らないから離して。こんな事しちゃ駄目だって」
「何故だ?」
「何故だって……そ、そりゃお前はその、俺の……ぃびと……じゃ、ないし……」
うぐぐ、じ、自覚はしてるし認めてはいるんだけど、やっぱ自分の口から他人に「俺はブラックの恋人です」なんて言うのは難しいよぉおお。
だけどクロウは俺がちゃんと言えなくても意味は分かったみたいで、不機嫌そうに眉を顰め口をへの字に曲げた。
「ツカサはもう、ブラックのつがいだからか」
「う、うん……まあ……そう言う事って言うか……」
獣人であるクロウと俺達人間の文化は微妙に違う。だから理解して貰えないかも知れないけど、俺はその価値観で暮らしてたので、恋人……って言うか、好きな人がいるのに他の奴とえっちするなんて、まず考えられないんだよ。
まあその、下半身は正直な生物だから触られたり誘われれば勃っちゃうし、時には魔がさしたりしてしまう事もあるが、ブラックの事を考えると……なんでだか、そんな気が起きないんだよ。だから無理。クロウの事も大事だけど、無理なんだ。
解ってくれないかなと俺に圧し掛かっているクロウに懇願の目を向けてみるが。
「……種族の掟の壁を越えようと思えないほど、オレには魅力がないのか……?」
「ぇ……」
初めて聞いた、どこか弱々しい声。
思っても見ない言葉を言われて瞠目する俺に、クロウは悲しそうに目を細めつつ再び顔を近付けて来た。
抵抗も出来なかった俺の頬にキスをして、そのまま唇を耳に寄せる。
柔らかな感触が耳朶に触れて思わず跳ねてしまうが、クロウは構わずに囁いた。
「オレは……あの島でツカサに救われた時から、ツカサの事が好きだった」
「クロ……っ、ぁ、ちょっと……!」
脳髄に直接響くような声と共に、手が動き始めて俺は反射的に体を跳ねさせる。
クロウに押さえつけられて動けない俺の体の上を、淫らな意図を以って大きな掌が這っている。やがてその手は了承も無く俺の服の中に入り込み、なだらかな俺の胸をゆっくりとさすり始めた。
「ツカサ……覚えてるか、オレはお前に酷い事をした。なのにお前はオレを許してくれて、見ず知らずのオレ達異種族の為にあんなに力を尽くしてくれた……」
「っ、ゃ……手ぇ、だめだ、って……!」
ブラックのとは全く違う、武骨で硬い掌。拳闘士である事を感じさせる骨の太い指と広い掌はごつごつしていて、緩く掴むように胸全体を擦るその動きは、いつも胸を這いまわる感覚とは似ても似つかなかった。
だけど、何故か…………クロウを、拒めない。
ブラック以外の奴にいやらしい目的で触られるなんて事、今までだったらすぐに拒否反応が出て抵抗しまくってたのに、前にクロウに犯されかけた時だってそうだったのに、何故だか今は全く拒否反応が起こらない。
それどころか、浅ましい事に体は羞恥を覚える度に熱が上がっていって。
訳が分からない自分の変化に、俺はただただ戸惑う事しか出来なかった。
「人族の国……いや、この世界で、あれほどまでに俺達を心配してくれて、オレの本性を知っても怖がらずに接してくれたのは、お前だけだった。ツカサ、お前だけだったんだ……」
「んっ……く、クロウ……っ」
だってそれは、俺が獣人が好きだったから。
怪力も角の生えた形態も勿論怖いけど、だけどアンタはそれを振りかざすような性格じゃない。無表情だけど優しいし、仲間を大切にしてる良い奴じゃないか。
そんなアンタの事を知っているから、何とも思わなくなっただけなんだよ。
怖がった人達だって、アンタの性格を知ったら好きになってくれるって。
それに、アンタの仲間に頼まれたし……何より、俺がああいうのを我慢できなかっただけで。きっと、正義感の強い人間なら誰だってやってた。
俺が特別じゃ無かったんだ。なのに、どうしてそこまで。
そうは思っても、言葉にならない。
冷えはじめる空気に触れて乳首が緩く勃ち上がってしまい、クロウの指がそれに触れて気付くと、膨らんだ突起を捕まえてこりこりと指の腹で擦り始める。
ブラックの手に散々慣らされた体が、それに耐えられるはずも無く。
「ひぁ、や……! ぃや、だって、クロウ……だめっ、だめだってば……!」
「可愛い……ツカサ、その声が……ツカサのその声が聴きたかった……つがいになって、笑顔だけじゃない、色んなお前の顔が見たかった……」
耳元で吐かれる熱のこもった息は、やはり酒の臭いに染まっている。
望んで酩酊状態になった訳ではないのだと思い知る度に、どうやったらクロウを傷つけずに治められるかとしか考えられなくなって、俺は内心頭を抱えた。
どうしたんだよ俺、いつもなら滅茶苦茶抵抗して拒否ってる所なのに。
なのに、なんでこんな事されてても穏便に済ませたいと思ってるんだ?
……何故だろう。仲間だと思ってしまったから?
仲間としてでも、好きだと思ったら拒めなくなってしまったんだろうか。
犯されそうになってるのにこんな事を考えてるなんて、どうかしてるよ。
自分の冷静さに混乱するが、クロウはそんな俺の事など気にもせずに続ける。
「でも、お前はもうあの男のモノで……ツカサはオレを子供のようにあしらって、オレを愛するに適う相手として見てはくれなかった」
シャツをたくし上げて、クロウは胸に唇を這わせる。
冷たい外気に曝された肌に暖かく柔い感覚が這い、肌が粟立つ。
既に勃ち上がっていた乳首をその唇が強く食むと、俺の下半身は情けないくらい簡単に反応してしまった。
「ぃ、や、やだって……! クロウ……っ」
「でも、今は違うよな……? 初めての時はあんなに拒んでいたのに、今はオレに触れられてもお前は嫌がらない、それどころかこんなに可愛い声を出している」
どこか嬉しそうな声で言いながら、クロウは猫がミルクを舐めるように俺の乳首をちろちろと舐める。少しざらついた独特のその感覚は耐え難くて、俺は股の間に入れられた膝を足でギュッと挟んで押し寄せてくる衝動に身悶えた。
「っんぅっ……! ひ、ぁ、待ってっ舐めなっ、ぁっう、ぁあ……!」
ざらりと小さな乳首の先端まで舐められて軽く吸われるだけで、体の中心が熱を上げる。背中に当たる土や根の感触が俺の体を刺激するが、それでもクロウに舐められる事の方が刺激が強くて、俺は甲高い声を漏らしてしまって。
クロウの指が突起を捏ねて弄い、舌で舐めて苛む度にその声は増していった。
駄目だって。もう、声を出しちゃいけない。
ブラックが怒るし、だって、あいつこの声聞けるのは自分だけだって嬉しがってたのに……なのに、あいつ以外の奴に、こんな声出して……。
「ダメっ、クロウ、駄目、も、やめて……っ」
「何故だ。ツカサもこんなに興奮して、喜んでくれてるじゃないか。体の方は俺を受け入れてくれている。なのに、どうしてダメなんだ」
「だっ、て……俺は……っ」
「あの男の恋人だからか。あの男が望んでいないから、オレとまぐわいたくないと言うのか。オレがどんなにツカサを好きでも、ツカサが嫌がっていなくても、オレはツカサに触れる事すら許されないのか……?」
顔を上げて、クロウは俺を見る。
その顔は、今まで見た事も無い程……悲しそうに、歪んでいて。
酔った心地と感情の高ぶりのせいなのか、その表情は子供が泣きだしてしまった時のようにくしゃくしゃになっていた。
「クロウ……」
「苦しい。胸が痛いぞ、ツカサ……オレはどうしたらいい、どうしたら、ツカサに嫌われないで済む? もう何もしないなんて嫌だ、ツカサが欲しい、ツカサの全部が。オレもツカサに抱き締められたい、ツカサとの子が欲しい……っ」
泣きながらまた俺の胸に顔を埋めて、クロウは鼻を擦りつける。
酔ったが故のこととは言え、その切実な感情のこもった言葉に何も言えず、俺はただクロウのなすがままにさせることぐらいしか出来なかった。
だって。
だって、どうすればいいんだよ。
俺だってクロウは嫌いじゃないよ。少なくとも、こんな事されても嫌悪感もないし、俺の事を好きだと聞かされた時も「困る」という感情は湧いても「離れたい」と思うような感情は一つも湧いてこなかった。
ただ、クロウにはブラックに向けるような感情を持ってなかったから、だから。
「ツカサ……ツカサ……!」
「っあ!? や、まって、駄目、そこ駄目だってクロウ……!」
黙ってしまった俺に堪らなくなったのか、クロウは俺の太腿に手を掛けると乱暴に割り開く。そうして片足を掴み俺の腰を無理矢理引き上げると、ズボンと下着を掴んで引きずりおろしてしまった。
そうして、俺の尻に敷く。
紛れもなく、今から性交をするという意思表示だった。
「ひっ……」
冷たい空気が下半身を包んで鳥肌が立つ。
その肌を温かい手が滑って、僅かに勃ち上がろうとしていた俺のモノを掴んだ。
「っあぁ! だ、だめ……本当それはっ、ぅっ、く……!」
「いっそ、嫌いになってくれればいいのに……それなら、無理矢理犯して、憎まれて、だけどオレは今度こそお前の一番になれる。ツカサと子を成せる……。嫌われたい、ツカサ、オレを嫌ってくれ。頼む……オレは……」
「っんぅ……! っ、ぁ……っ……!!」
無理矢理に扱き立てられて、腰が面白いくらいにびくびくと跳ねる。
必死に声を出さないように口を塞いだが、執拗に先端を擦りあげられてたまらず俺はクロウの服を掴んだ。でも、クロウは止めてくれなくて。
「ツカサ、気持ちいいか。固くなって勃ち上がってきたぞ」
「っ、ぅ……ふぅう……っく、ぁっ、んあぁ……!」
「良い匂いがする……ツカサ……ほら、音が聞こえるか、お前の音だ」
「やっ、ぁ……やだぁ……っ!」
「泣いてるのか……? ハハ……いいぞ、泣いてくれ、オレを、オレを嫌ってくれ。そうしたら犯せる、お前をあの男から奪えるから……!」
指の腹で鈴口をぐりぐりと押さえつけられながら乱暴に根元から擦られて、股の間のクロウの体を反射的に足でぎゅっと抑えてしまう。
相手の服の感覚が素肌の足に伝わって、俺は体を反って浮かせた。
「ふぁあっ、も、だめ……だめぇ……!」
クロウの手がとどめとばかりに扱いた刹那、俺は呆気なく果ててしまった。
あまり量も出ず薄白い液体だが、それでもクロウの手にかかったのを見てしまうと恥ずかしくて、俺は泣き顔で頭を振る。だが、相手は躊躇いも無くその手を見せつけるようにして舐めると、再び顔を近付けてきた。
「薄くてもやはり美味いな……だが、足りない……」
「っく……クロウ……っ」
体の昂ぶりが抜けきれず震えた声で名前を呼ぶと、クロウはまた悲しそうに顔を歪めて笑った。
「……嫌いに、なったか」
ただそう言われて、抱き締められる。
下半身は素っ裸でシャツもたくし上げられていて、とても間抜けな格好なのに、拒めない。今までやって欲しくない事をされて、嫌いになったかと聞かれているのに……俺は、その答えに応とは言えなかった。
「…………嫌いになれるなら、最初に襲われた時から嫌ってたよ」
いくら謝られたって、許せない事はごまんとある。
だけどその反対で、許されない事をされても許してしまう事があるのだ。
俺は少し足を閉じて恥ずかしさを抑えると、クロウを抱き締め返した。
「どうして、お前はそんなに優しいんだ……」
耳元でまた涙声が聞こえる。荒くて酒臭い息が頬にかかったが、今は嫌だと言う一言すら言えずに俺はただクロウの髪に頬を摺り寄せた。
「泣くなよ……」
「優しいと、苦しい……苦しいんだ……優しくされるのがこんなに辛いなんて思わなかったんだ……っ」
涙声の後に首筋に何度も水が伝い落ちるのを感じて、俺は初めてクロウの気持ちが分かったような気がしていた。
そうか。そうだよな……。
いっそ嫌われてしまえば離れられるし諦めもつく。遠ざけられたらそのぶん熱も冷めるかもしれない。だけど、恋心を否定されないままでずっとそばに居る事になったら……どうなるだろうか。
好きな人が恋人と仲睦まじくしているのを見せつけられて、大事だからと言われてもやはりそれは「一番」じゃないのを思い知らされて、自分がどんなに好きでも、相手がその想いを知っていても、絶対にその感情は届かなくて……。
そんな辛い日常に耐えられる人間が、何人いるだろうか。
きっと誰もが耐えられなくなって逃げてしまうに違いない。
俺は今まで、それをクロウに強いていたのだ。
愛されたいのに愛して貰えない。一歩深い所まで踏み込む事も許されない。
だけど「大事だ」と、「大切な仲間だ」と言われて、自分の恋心なんて知りもしないような態度で近い距離に置かれて、触れられる。
まるで拷問だ。俺だったらその好きな人を憎んでしまうかもしれない。
だけどクロウはずっと、俺を好きでいてくれた。それどころか嫌われた方がマシだと言いながらも、これ以上の事も出来なくて泣いているのだ。
俺に嫌われたくないから。俺が、好きだから。
……今ほど、自分が最低だと思った事も無いかもしれない。
クロウはこんな思いを今まで押し隠していた。泥酔しないと言いだせない程に、我慢していたのだ。なのに俺はそれを知らないで、クロウに諦めさせることばかり考えていて……。
「ごめん……。ごめんな、クロウ。辛かったんだよな」
「ツカサ……」
「こんな事しても、またお前が辛くなるばっかだと思うけど……でも……だからってアンタを嫌えないよ……苦しませて、痛い思いさせてごめんな、クロウ」
「つかさぁ……!」
大人らしくない、子供のような泣き声でクロウは俺を強く抱きしめる。
加減の解っちゃいないその行動に顔が痛みに歪んだが、けれど俺は耐えてクロウが泣きやむまでずっとそのまま抱き締めてやった。
……やっぱり、クロウとブラックは似てたんだな。
誰かに好かれたくて、誰かの一番になりたくて。
だけどその方法が判らず、自分を受け入れてくれる人が見つからなくて、ずっと苦しんでいる。きっとそうなった理由は違うんだろうけど、でも、ブラックが言うようにクロウも「俺が受け入れてくれた」と言ったのは、そう言う事なんだろうと思う。
クロウは、昔のブラックみたいにまだ求め続けてるんだ。
自分を受け入れてくれる、大事な人を。
「オレが……どうしてオレが……一番先にツカサに出会えなかったんだろう……」
いっそ他人を好きになれれば苦しまずに済むのに、他の誰も見る事が出来ない。
その苦しさは、俺も知っている。クロウほどじゃないけど、散々味わったんだ。
だから、何も言えずただ「ごめん」と言う事しか出来なかった。
「ごめんな、お前を一番にしてやれなくて……。でも、俺にとってはクロウも失いたくない大事な奴だから。……何されたって、怒らないよ。だから……絶対に自分を責めるんじゃないぞ。クロウは、なんにも悪くないんだから……」
痛いくらいに抱き締められてるのに耐えて、広い背中を優しく撫でてやる。
この言葉もきっとクロウを苦しめる事になるんだろうけど、でも、クロウを失いたくないと思っているって事は伝えたかった。
もしクロウに酷い事をされたら、ショックを受けはするだろうけど、でも……きっと、クロウを嫌いにはなれないだろうから。
「泣いたらすっきりするから、遠慮せずに泣けよ」
「っ……ぐす……ぅ、ん…………」
頭を撫でて、背中を撫でて、しゃくりあげる肩を優しく宥めてやる。
締まりのない恰好で寒いけど、でも、今は少しでもクロウの苦しさを宥めてやりたかった。普段はそんな事なんて言ってくれないから、だから、今だけでも。
……それにしても、本当に子供みたいだ。
泣いて、だだこねて、嫌われたくないアレが欲しいとがむしゃらに暴れて。
オッサン全部がこんなに感情を溜め込んでるとは思わないが、少なくともクロウとブラックは大人になりきれてない子供っていうか、大人になろうとして子供の部分が残っちゃって苦しんでるっていうか……。
とにかく、暴れ方が子供と一緒なんだよなあ。
普段はそこそこ大人なのに、どうしてこんな事になっちゃうんだろう。
――そういえば、とある漫画で「大人は叱ってくれる人や甘えられる人がいなくて可哀想だ」って台詞があったけど、ブラック達もそうだったのかな。
甘えられないって、そんなに辛い事だったんだろうか。
……だったら、二人がこうなるのも仕方ない、かな……。
子供に甘えるなんて恥ずかしい事かも知れないけど、って言うか、自分なら絶対恥ずかしくて出来ない事だけど、ブラックやクロウが俺に甘える分には構わない。
そんなに辛いのなら、甘えさせてやりたかった。
だって、俺だって人に言えないだけで、本当にガキみたいに甘えてダダこねたいと思った事なんていくらでも有るしな。
俺でいいのなら、男としてどんと受け止めてやろうじゃないか。
本当はオッサンじゃなくて女の子にやりたかったんだけどな、うん。
そんな不純な事を考えつつ、抱き締められる痛みにも慣れて来てただただ背中をさすっていてやると、落ち着いて来たのかクロウは頭を頬にすり寄せて来た。
獣人らしい行動に苦笑して頭を撫でてやると、クロウは首筋に鼻を埋める。
「ツカサ、大好きだ……やっぱり、嫌いになって欲しくない……一緒に居たい」
「うん」
「オレをもう置いて行かないで。一番じゃなくても良いから、ごはんがなくても、苦しくても、辛くてもいいから……一緒に……おいてかないで……」
「クロウ……?」
口調が子供っぽくなった相手に違和感を覚えて顔を見ようとするが、独特な色味の綺麗な青い髪が見えるだけで顔が判らない。
どうしたんだと背中を軽く叩くが、クロウは身じろぎしただけで動かなかった。
「つかしゃ……すきら……」
ろれつが回らなくなった言葉が耳に届いたと思ったと同時。
急にクロウが重くなって、俺はまたもや地面に背中を強打してしまった。
「いってえ!! ちょっ、く、クロウ!?」
「……ぐぅ」
「寝てるし!」
安心したのか泥酔が最高潮に達したのか知らんけど、とにかく寝るなら寝るって言わんかいこんちくしょう!
俺は必死にクロウを横に転がして脱出すると、軽く自分の体を拭ってからズボンを穿いた。はーもーホントこれだからこのオッサンどもは。
人の苦労も知らずに幸せそうな顔で寝やがって、そう言う所もそっくりだコラ。
「まあ、別にいいですけど。良いですけどね!!」
気持ちがすっきりしたのなら、言う事ないですけど。
いや本当は愚痴の一つでもぶつけてやりたいですけどね!
「はぁ……しかし、なんで俺も毎回毎回許すかね……」
二度も犯されかけてるのに許せるっていうのもどうなんだろう。
こういうのって、他の人は普通に許せるものなんだろうか。
いや、でもなあ……ブラックとクロウは何かほっとけないっつーか、事情がありそうで怒れないって言うか……。
「うーん……もしかして俺、人情に厚過ぎるのでは?」
まあ人情に厚い人は「悪人は殴っておk」とか言わないだろうけどな!
……うぅ……セルフツッコミも虚しい……。
と、とりあえず、ブラックにバレそうな事にはならなかったし良いか。
色々引き摺るのも面倒くさいから嫌だし、今回襲われた事は忘れよう。
クロウの苦しさについては今後も考えなきゃいけないけど、今日は疲れたしこのまま大きな酔っ払いを引き摺って帰ろう……。
「クロウ、ほら起きて……帰るぞ」
「ん……ぅうー……」
「……だめだこれ、起きねーわ」
置いて帰る訳にもいかないし、どうしたものかと思って腕を組む。
誰か連れて来ようかと考えていると、遠くの茂みからガサッという音がした。
「……?」
もしかして、行方不明だったお爺ちゃ……ベリファント船長だろうか。
音はこっちに近付いて来る。しかし次第に近くなっていく度、俺はその音の主が目的の相手ではない事を知って身構えた。
音は一つじゃない。一つ、二つ……それ以上の音がする。
「なんだ……!?」
酒を飲んでた人達が、船長の捜索に協力しようと来てくれたとか……いや、それなら声がするはず。こんな無言で近付いて来るなんて、まさか亡霊……い、いや、モンスターか。でもなんでこの島にモンスターが。でも人にしても無言だしなんか怖いしぃいいい。
「く、クロウ起きて! 起きてってば!!」
「ふが……つかしゃ……うむぅ……」
「起きてくれないぃいい」
ちょっと待って、この状態でクロウを置いて行けないし、かといって俺一人じゃ逃げられないし、どうしたらいいんだよぉおお!
「みーつけた」
……え?
今、なんて言った?
誰が何を言ったのか解らなくて、俺は振り返えろうとしたが。
「ぅぐっ!?」
口に何かを当てられて、意識が途切れた。
→
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