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波乱の大祭、千差万別の恋模様編
16.何度目だ拉致
しおりを挟む「ヤバい……これは、ひっじょぉおおおにやばいぞ……」
本当ヤバい。どう考えてもヤバいっていうか考えなくてもヤバい。本能レベルでアカンと俺の頭脳が言っている。
いや、もう、今の自分の状況を見ただけでヤバいってのは分かってるんですが、見た物をすぐに理解出来るかどうかってのは別でしょ? 別だよね?
何度も言うけど俺そんなに頭良くないんですってば。
そんな俺がテンパった状態で賢い事を言えるわけがないでしょう。
しかし今はとにかく冷静になってどうにかしないと。
なにせ俺は……両手両足を縛られて、どっかの倉庫に放置されているのだから。
「よ、よーし……まずは状況確認だ。俺、絶賛捕縛中。周囲、木製の扉一つ以外に逃げられる所まるでナシ。その上何がどうなってココに居るのかまるで不明」
……や、やばいな。まるで何も解ってないし、羅列しただけの俺が馬鹿っぽい。
とにかく何でもいいから手掛かりが掴めないかと思って、俺は周囲に散らばっている品物からここがどこかを推理する事にした。
芋虫のようにしか動けなくても、動けるんだからそれだけでラッキーだ。
ずりずりと這いずり回って周りに積まれている木箱やずた袋、そして小道具などを色々調べて、俺はある推測に辿り着いた。
どうもここ……誰かの船の中らしい。しかも、だいぶん片付けがヘタな奴らの。
「ほんのり変な臭いもするし……もしかして、ここが噂の船倉って場所か……? あのちょっと臭ったりすると評判の……」
海賊ものの小説で見た事有るが、昔の船の船倉って奴は船に染みて腐った海水を排出する為の管が通ってるらしくて、それが凄く臭うらしいんだわ。
船倉自体は普通に倉庫なんだけど、その臭いがある為に、この場所に閉じ込められるのは船乗りでも遠慮したいという話だったんだが……少なくとも、この世界の船はそんなに酷い臭いはしないようだ。
置いてある物は予備の帆だったり木材だったりで、別段俺の世界の木造帆船と違う所は見当たらない。何に使うんだか分からない物もわりと有ったが、まあそれは俺が知らんだけで船乗りには必須アイテムな物なのかもしれないしな。
とにかく、ここが船倉だってのは理解出来たぞ。
しかし、どうして俺がこんな所に……っつーかこれ誰の船なんだ……。
「直感だけど、リリーネさんの船じゃないと思うなこれ。すげー散らかってるし、良い匂いのする所なんて一個もないし……絶対これ男所帯の船だ。間違いない」
俺の女子センサーがピクリとも反応しないんだ、絶対に間違いない。
だがそうなると……。
「今までの事から考えると……俺ってばやっぱり気絶させられて、誰かの船に担ぎ込まれちまったんだろうなあ……あぁ……またブラックがおかしい事になる……」
しかも俺、自分で「もう何度目だよ攫われるの。いい加減にやめとこうぜ」とか言ってたってのにこれだよ。もう何だよ。俺死ぬの、桃色なお姫様のパクリなの。
男なのに姫のパクリってなにさ。
同じピーチなら桃太郎のマネの方が良かったわ。
「いや、メンバー的には金太郎かな……」
鬼(みたいな外道中年)と熊と俺だもんな……。まさかりが有れば完璧だな……と考えて、俺は有る事に思い至り改めて青ざめた。
そ、そうだ。クロウ。クロウはどこだ!
一緒に連れて来られた……感じじゃないな。じゃああの場所に置いてけ堀にされたのか? それはそれで大変だぞ。もし俺が攫われたのをブラックに咎められてたとしたら、今頃二人で凄まじい喧嘩とかしてるかも……。
いや、自意識過剰だろとかいう話ならいいんだけど、マジだから困るんだよ。
あのオッサン俺にさらっと「奪われたら相手を殺す」とか言ってたんだぞ。これは自意識過剰とかじゃなくてアレだよ。危機感から来る予測だよ。
とにかく早く戻らなきゃヤバい。
「うわわっ、ど、どうしよういやちょっと待って、俺は万能能力持ちなんだ、落ちつけ、落ち着いてまずはこの縄を切るんだ……!!」
折角炎の曜術も扱えるようになってきたんだ、この場で使わない手は無い。
待っていても状況は悪化するだけだ。
ならば、自分で脱出してクロウが袋叩きにされる前に止めなければ……!
「えっと、えーっと……ライターくらいの炎、縄以外焼けない炎……!」
イメージを失敗するなよ俺ぇええ。
「ふっ……フレイム……!」
そう呟いたと同時、俺の背後から何かが焼けるような音がして、腕を戒めている縄が焼け落ちた。よっしゃ、俺ってば本番に強い!
手が自由になったので早速縄でぐるぐる巻きにされていた足を解放し、動けるかどうかを確かめて俺はゆっくりと立ち上がった。
気を失うような事をされたけど、体にはなんの異常もないみたいだ。
「パンツ一丁にされてなくて良かった……逃げるのには好都合だぜ」
元から装備品は持ってなかったので、所持品の紛失は心配してないが、真っ裸で縛られていたら流石にどう抜け出そうかと焦ったな……。
ケツに違和感もないし、五体満足で縛って貰ったのは感謝しよう。
「よし、行くぞ……」
扉に近付いて耳を当て、近くに人がいないかどうかを確認する。
耳を澄ませてみるとなにかがギイギイと傾ぐ音が聞こえて来て、改めて部屋の中を観察していると、ほんの少しだけ揺らいでいるのが判った。
やっぱり船の中なのかとは思ったが、それよりこの揺らぎの小ささってのは……どこかに停泊しているんだろうか。だとしたら逃げるのには好都合だな。
ゆっくりと扉を開いて、俺は外の様子を窺ってみる。
「…………誰も居ないな」
ここは突き当りの部屋らしく、左手にはすぐ階段があって上へと続いていた。
昼間でも薄暗いだろう狭い廊下には、ランプの明かりがほんのり灯っている。
少し待ってみたが誰も来ないようなので、俺は部屋を出てゆっくりと階段を登った。凄く急な階段だが、婆ちゃん家の二階への階段もこんな感じだったので、特段苦労するような事は無い。
最小限の音で押さえながら四足歩行で上がり、そっと上階を覗き見る。
船倉より上の階は食料庫になっているのか、鍵付きの部屋が一つあって、その他にもいくつかの扉があった。もしかして、食堂とかそういうのかな?
人の騒ぎ声とかは聞こえないが……一応注意して進もう。
抜き足差し足で移動しつつ、上階に向かう階段へと近付こうとすると。
「……!」
上の階からなにやら騒ぐ音が聞こえてきた。
もしかしなくても乗組員だよな。やべえ、隠れなきゃ。
俺は慌てて船倉への階段に戻ると、相手がどこへ向かうのか知る為に、注意深く聞き耳を立てた。コッチに向かって来るなら、どうにかして隠れなきゃな。
出来れば来て欲しくないがと思いつつ待っていると、複数の声が聞こえて来た。
「出航はいつだって?」
「襲撃が終わり次第すぐだってよ。サベージ島に潜伏して、オーデルから積み荷を受け取ったら、すぐにプレインに向かうんだと」
その声に、数人が落胆したような声を出した。
「そんなに寄り道すんのか? 黒鋼の伯爵サマはえらくゆっくりしてるな」
「今回は白煙壁の実験だけだからな。こっちはあんまり急いでないんだろうよ」
「しっかし、船長もやるよなあ。女奪うだけじゃなくて囲っちまうなんてよ」
「違げぇねえ、だけど珍しいな。そんだけあの坊主が魅力的だったのか?」
「まあ可愛くはあるけどな。アッチの方はどうなのか早く教えて貰いたいもんだ」
「ハハハ! だな、出航が待ち遠しいぜ」
そんな風な声が遠ざかって行き、やがて彼らはどこかの扉に入ったようだった。
……なんか聞きたくない会話が聞こえて来たけど、その辺りは忘れよう。
「しかし……白煙壁ってことは、やっぱここガーランドの船だよな……」
一番嫌な事実だったが、現実であるなら受け入れなければならないだろう。
問題はそんな嫌な状況をどうやって打開するかだ。ガーランドの船に拉致された事を嘆く暇があるなら、早く脱出せねば。
黒鋼の伯爵とか色々気になる事はあったが、逃げるのが先だ。
まずは、甲板の位置を知らないとな。
「よーし、じゃあ気を取り直して再びスニーキングやっちゃうぞー……」
そろそろと階段から這い出して、人が居ない内に先程見つけていた階段に辿り着く。奥の部屋からは賑やかな笑い声が聞こえていたが、人が出て来る気配は今のところない。安心して、俺はまたゆっくり階段を登った。
この船はそう大きくない船みたいだし、あと二つか三つ程度の階段を登れば甲板に出られるはず。出てどうするのかと言う疑問はあるが、まあ、あれだ。
人間死ぬ気になればなんだって出来る。
飛び込み初挑戦ですが、死にはしないだろう。
そんな事を思いながらコソコソと船を這い階段を登り、俺は時間をかけてやっと甲板へ出る扉のある第一層へと辿り着く事が出来た。
よ、よーしもう少しだ。ここを出れば、状況が判る!
甲板に人が居ない事を何度も確認すると――――俺は慎重に扉を開けた。
「誰もいませんねー……っと……」
扉を閉めて壁に背中を付けて死角をなくすと、俺はやっと前方を見た。
「――――……っ」
息を吸うと、周囲の空気が動くのが判る。
何故わかるのかと一瞬考えて、俺は周囲の異様な風景に目を剥いた。
「こ、ここ……」
一面、真っ白な霧。
船の周囲には何も見えず、ただ波の音が聞こえているだけだ。
「扉の窓からは霧なんて見えなかったのに……なんで……?」
何か魔法が掛かってるんだろうか……って、いやこれアレだ白煙壁だよきっと。
だとしたら魔法はかかってるわな。曜具だもんなコレ!
相変わらず原理なんてモノが存在しなさそうなアレだけど、とにかく白煙壁ってのは船の中からじゃ見えないものなんだろう。多分!
解説者がいない以上、今はそう言う物なのだと納得するしかない。
……でも困ったな……これじゃ船から海に飛びこむなんてとても……。
「……つーか、この船ってどんくらいの高さなんだ……?」
ちょ、ちょっと試しに覗いてみようか。
そう思って船の縁から真下の海を覗こうとすると……。
「お早いお目覚めだな、子猫ちゃん」
今一番聞きたくなかった下衆な声が、背後から聞こえてきた。
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