異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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アタラクシア遺跡、妄執の牢獄編

 いざ行かん、第四層! 2*

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 アタラクシア遺跡は、基本的に図書室以外の全ての設備が隠されていると言っていい。兵士達が寝泊まりしている宿泊区域もそうだが、階段もただの壁にしか見えない隠し扉の向こうに秘匿ひとくされ、窓すらもどこにあるか判らない有様だ。

 その為、基本的に階段から登った場所は一本道の廊下となり、逃げ場も隠れ場所も無い。隠し扉があったとしても、モンスターを前にしては、その扉を開く暇すらないのだ。

 ……まあ、俺達にはそんなもん関係ないんですけどね。
 俺達は隠し扉じゃなくて、図書室に入らなきゃいけないんだし。

 こうなりゃ強行突破だ、と言って階段から飛び出したい所だったんだが。

「…………なに、あれ。何あれ。ナニアレー!!」
「ツカサ君気持ちは分かるけど落ち着いて!」
「落ち着いてる奴に俺の気持ちがわかってたまるか!! なんだよ、なんで上半身なんだよ、青いんだよ透明なんだよスライムなんだよォ! あんな大きさだなんて聞いてねーぞー!!」

 興奮しつつも潜めた声で叫びながら、俺は階段へと引っ込む。
 そのまま逃げ出したいのは山々だったが、俺の理性がそれを許してはくれなかった。だって、だって廊下に居るスライムは……実際、めっちゃくちゃ怖かったんだもの……。

 俺達が今いる階段を上がって真正面。
 人が十人ぐらい横に並んで歩いても全然狭くないほどの広い一直線の廊下では、五体のモンスターがゆっくりと歩き回っている。

 人の上半身を模した青いスライム。
 それだけなら、俺だってこんなヒステリックになったりしない。
 問題は、その大きさだ。

 人型スライム達は、どう贔屓目ひいきめに見ても、長身のブラックと同じぐらいの上半身を持っていたのだ。それがどんなに恐ろしいか、実際に見なければ解るまい。
 良く考えてごらんよ、百八十センチの上背うわぜいがある成人男性の腰から上が、半透明のゲル化してうねうね動き回ってるんですよ。五体も。

 百七十センチにギリ届かない身長の俺と比べたら、どう考えても無理でしょ。
 いつ逃げるの今でしょ。冒険でしょでしょなんて言ってられないですって!!

 広い廊下だから相手の速度が速ければこっちは回り込まれるし、そうなると後衛専門の俺にはどうしようもない。術を使うって言っても、呪文を唱えたり集中する時間が必要なんですよ。どう考えても勝ち目ないんスよ。
 階段から術を発動するにしても距離が遠くて目標が定まらないしううう……。

「大丈夫だってツカサ君、僕に良い考えがあるから」
「いいかんがえ……?」

 ホント? ホントにある? もうスライム姦されない?
 潤んだ目でブラックを見ると、相手はうんうんと頷いて俺に耳打ちしてきた。

「僕がスライム達を炎で取り囲んで一気に燃やせば、少なくともあの水の体は一気に蒸発させられるよ。そしたら、後は残った核を地道に剣で突けばいい」

 ほう、なるほど。そりゃたしかに一気に相手を倒せるだろうけど……その炎の中にスライム達が入る保証はないのでは。
 っつーか酸素不足で廊下が大変な事になんね?
 そもそも、核って残るものなのかな。
 あいつらにもあからさまな弱点として、赤く発光する球体が胸の部分にあるけど、見た目からして賢そうだし……炎に取り囲まれたらどうにかして逃げそう。

「……希望的観測な戦術すぎね……?」

 俺がそう言うと、ブラックは無精髭の頬を膨らませて口をとがらせた。

「じゃあツカサ君は他に良い方法知ってるのー?」
「うざっ! いや、俺はだな……この雑草の種をスライム達に投げつけて、水分を吸わせようかと思ったんだよ。そしたら弱体化するんじゃないかって思って」

 そう、俺が考えた案は、【グロウ】をかけた植物を【ブリーズ】でスライム達の所まで射出し、そこで芽吹かせて水分を枯らそうという作戦だった。
 しかし、そんな俺の考えにブラックはむすくれた顔で反論をしてくる。

「それだって上手くいく前提の戦法じゃないかー! 確かにグロウで成長する時に水が有れば植物の成長は倍加するけど、スライムの水分がちゃんと植物に伝わるかどうかは解らないじゃないか。もしそれで失敗したら、まーたツカサ君ドロドロのねっちょねちょだよ。穴と言う穴犯されまくるよ!」
「がーっああいえばこういう!! でも反論できない!!」

 いちばちかの作戦はリスクが高すぎる。だけど、ブラックの言う炎で包囲作戦ってのも上手くいくかどうかは解らない訳だし……ううう、どうすれば……。
 頭を抱えて階段にせった俺だったが、そこで妙案が閃いた。

「……あ、そうだ。じゃあ合体させたらよくね?」
「ん?」
「つまりさ、ブラックの術は標的が目標範囲から動かなきゃいいんだろ? でも、曜術は二つ同時には出せない。炎の曜術を陽動に出したら警戒される。……なら、俺の曜術でグロウをかけた植物を射出して、あいつらが自然と一塊ひとかたまりになるように順番に成長させれば、確実に殲滅できるんじゃないか? ……という訳ですよ」
「なるほど、グロウは術の掛け方によって、時限式発火みたいな事が出来るんだよね。しかし、問題は動き回るあいつらをどう動かせばいいか……」

 と、呟いて、ブラックは俺の事をじいっと見た。

「……な、なに」
「ツカサ君、モンスターに好かれやすかったよね! あと、グロウって炎の曜術と違ってほとんど詠唱必要なかったよね!」
「お前ぇええええ俺をおとりにするつもりかあああああ」

 ああそりゃそうだな、俺をおとりにした方が都合がいい。
 だがしかし、アンタ俺を生贄にしてトラップカード発動させる気か。
 失敗したら俺がスライムにとんでもない事されかねないんですけど、最悪殺されかねないんですけど!!

 色々とまくし立てたかったが、しかし、今の所それ以外に敵を一網打尽いちもうだじんに出来るすべもなく。俺も他に案が有る訳でもなく。
 結局、俺が先陣を切って第四層に足を踏み入れることになってしまった。

 ……ええ、ええ、俺は口喧嘩も弱いし腕っぷしも弱いですよ畜生。
 こんな時ばっかり外道なんだからこの恋人のオッサンったらもう。

「んんん……じゃあ、やるぞ……」
「頑張って! 危なくなったらすぐに助けるから」
「当たり前だバカ! ……っと、ええと最初は……」

 あのスライム達を一か所に集めるには、四方を取り囲む必要がある。
 ブラックの炎で取り囲む術は、廊下の横幅を考えるとそれほど遠くへ距離を伸ばせないらしい。だから、俺がブラックの術を補強してやる必要がある。
 俺はグロウで雑草の種に曜気を籠めると、それをそっとブリーズの術でブラックが指定した場所へ流した。スライム達が蠢いている場所とはまだ距離が有るので、相手は気付いていない。

 それを何度か繰り返し、スライム達を追いこむ仕掛けを作っていく。
 相手が天井を這ってくる可能性も有るので、そこも考えて俺は種に背が高く伸びるようにと念入りに術を掛けておいた。恐らく、もうそろそろ発芽するだろう。
 俺はブラックに目配せして頷くと、そろりと階段から這い出した。

 やっぱり人型スライムは五体。
 それに駆け寄られるとゾッとする、っていうか夢に見そうだが、ここでウジウジしてても始まらない。俺は大きく息を吸って気合を入れると、こうなりゃ自棄やけだと大口を開けた。

「おるぁああ! かかってこいやスライムどもぉおおお!!」

 い、いざとなったら、いざとなったらペコリア達と藍鉄を召喚する。
 それだ、それしかない。自分でも思った以上の声量が出て思わず目を剥いたが、スライム達は俺以上にびっくりしたようで、口なんて無いはずなのに、口の部分がなんか縦長に伸びていた。

 え。驚くって事は、やっぱり知能高いんじゃ……。

「ひっ」

 こ、こっち来た! 一斉にコッチ来たぁああ!!
 いやまて落ちつけ、予想通り、予想通りだ。全員俺一人だけだと思っているのか、天井やら壁やらに散らばらないでこっちに来てるぞ!
 広い廊下だ、五匹横に並んでも走れるんだから壁にひっつく理由はない。
 だが、そこが俺達の狙い目なんだ。

「だっ、第一弾、来い……っ!」

 頼むから引っかかってくれよと願いながら、俺はスライム達が俺が撒いた種の上を通り過ぎるのを待った。その上半身しかない体が、小さな粒の違和感に気付く事も無く通過する。そして、五匹目が種を踏んだ瞬間。

「――――ッ!?」

 ずお、と形容しがたい突出する轟音が響き、地面一面に撒かれた種が一斉に芽吹めぶいて五体目の人型スライムを飲み込んだ。

 スライムはもがき、他のスライム達も彼の状態に気付いたのか動きを止め振り返ったが、もう遅い。植物は伸び、その度にスライムの体は水分を吸われて小さく……え? 小さく? スライムって水分吸われると小さくなるの!?

 思わず驚いたが、スライム達も俺が仲間をハメたのだと気付いてすぐに身をひるがえしてこちらへ向かってくる。小型になったスライムは蔓のように天井まで伸びた草木から脱出し、遅れながらもこちらへ向かって来ていた。

 隊列を成していた群れが、俺の攻撃に危機感を抱いたのかそれぞれにばらけて、天井や壁に移動する。散開して俺の攻撃を分散させようとする作戦なのだろうが、残念ながらそれも予想済みだ。廊下の隅に散らした種が左右から一斉に発芽し、天井まで届く植物がスライム達の行く手を塞ぐ。

 相手が視覚を有しているのならば、この突然の妨害も意味が有る。端から一斉に茂る植物に慌てふためいたスライムは再び一塊ひとかたまりになり、俺を倒すべく唯一無事な地上に舞い戻り一直線に向かって来た。

 そ、そろそろヤバい、近くなってるぅううう!!

「ブラックっ、ブラーック!」

 早くしてくれ、と、叫んだ瞬間。

「炎の光輪よ、緑なす命を食らい敵を殲滅せよ――
 【ディノ・パイラフレイム】!!」

 以前聞いた、呪文。だが内容が違う。
 ブラックの鋭い声に放たれた紅蓮の光が、俺の背後から飛び出し廊下の壁を走るように一気に広がる。しかし、俺の視界はその光がどう変化するかを見る前に吹き上がった炎の壁によってさえぎられてしまった。

「うわぁっ!?」

 熱さに思わず退いたその奥で、じゅうっと焼けるような音がする。
 これがスライムが蒸発する音なのか……? 確認したいけど、俺には真っ赤な炎の壁が見えるだけで、何がどうなってるか解らないんですよぉ!

「ブラック、ちょっと火力強すぎない!?」
「だって五体も居るならこのくらいが妥当かなっておもって……」
「バカ! お前やり過ぎなんだよ、俺の植物まで呑み込んで火力マシマシって壁が溶けたらどーすんだ!!」
「えぇ……頑張ったのに怒られるとは……」

 努力は買うけど屋内でやり過ぎなんだよ、バックドラフトみたいなヤバい現象が起きたらどうしてくれるんだ。いや曜術だし大丈夫かもしれないけどさ!

「火力弱めに出来ないの?」
「そんなかまどの火みたいな事を言われても……うーむ、でももう蒸発する音も聞こえなくなったし、大丈夫かなぁ……。とりあえず解除するね」

 そう言って、ブラックは階段からのろのろと出て来るとすぅっと片手を上げた。
 刹那、俺の目の前であんなに赤々と燃えていた炎の壁が解けるように消える。

 中にはまだ溶けてないスライムが居るのではと思って身構えた俺だったが、しかしスライム達を捕えていたであろう円形の炎の柱の中には、すでにあの水色の姿も赤い核も存在していなかった。

「え……エグいこの曜術……」

 これ、人間がやられたら確実に骨も残らないんじゃないのか……。
 ダイナミック火葬とか怖いと思いつつ、スライムの残滓ざんしを確認しようと俺は一歩踏み出した。その、刹那。

 びしゃ、と、なにかズボンの裾に付いたような気がした。

「…………うん。うん?」

 なんかジュウって言ってるんだけど、なんだろうね。
 嫌な予感がするけど、見たくないけど、見なければなるまい。
 ぎこちない動きながらも、自分のズボンを確認する為に下を見て――――俺は、思わず悲鳴を上げた。

「ぎゃあああ!! すっ、す、スライムーッ!! ちっちゃいの死んでなかった、ちっちゃいのがぁあああああ!!」

 倒したとばかり思っていたのに、どうやらその見通しは甘かったらしい。
 俺が木の曜術で弱体化させた小さな人型スライムは、あの炎の範囲にギリギリ入っていなかったのか、なんと生きていたのだ。
 そして俺のズボンの両裾にしがみ付き、眼も無いのに俺を凝視している訳で。

 待って待って待って、俺お化けとかダメって言ったでしょ、駄目なんだってば、のっぺらぼうも範囲外なんだってば!

「ブラックちょっ、これ……」

 どうしたらいいのと助けを求めようとする俺に反応したのか、またもやジュウっという変な音がズボンから聞こえる。それと同時に、素足の脛にぬめる感触を感じて、俺はまさかと思い青ざめてもう一度オノレの足を見やった。
 すると、そこには。

「あ……あぁあ……」
「ツカサくんっ、ず、ズボンが溶けてるよ!!」
「ギャー!! こ、これ一張羅なんだぞおまえー!!」

 ナイフを取り出して核を突こうとするが、なかなかうまくいかない。
 いやまて、ここで混乱したらいけない。今回スライムには木の曜術も効果的だと分かったではないか。それだ。木の曜術を使って動きを止めるんだ。

「ブラックっ、こいつの気を逸らせるの手伝って……グロウかけるから……!」
「わっ、わかった!」

 そう言うなりブラックは俺の前に回り込み、スライムを挑発しようと手を伸ばしたが……ブラックの動きを察知したスライムは、あろう事か俺のズボンの中にぐいぐいと入って来てしまった。

「あっ……!」

 内腿うちももに感じるじっとりとして弾力のある冷たい感覚に、思わず力が入る。

「こらこのっ、スライムの分際でなんて所に……!!」
「やだっちょっまって! そんな引っ張ろうとしたらっ、やぁあっ……!」

 奥に入ってくるだろうがばかぁ!
 やめてくれ、と言おうとしたのに、勢いよく入って来たスライムの塊が股間に勢いよくぶつかって来たのに俺は仰け反る。柔らかい感覚は股間にダメージを与える事はないが、しかし代わりに妙な感覚を俺に伝えて来て。

 炎の暑さでじわりと内腿が湿っていたのが分かったのか、スライムはその水分で自分の体を補おうと吸い付き始める。まるで柔らかい掌に捕まれているような感覚がして、俺は無意識に内股になってブラックにしがみ付いてしまった。

「あっ、やっ……ぶ、ブラックっ、早くこれどうにかしてぇ……!」
「ええぇえ……そ、そんなこと言われても核までズボンの中に入って……ああもう仕方ない、後で怒らないでね、ツカサ君!」

 らちが明かないと思ったのか、ブラックは俺のズボンのベルトに手をかけて合わせを解く。そして、一気に俺のズボンを足元まで引き下げた。

「ふあぁああ!? やっ、ばかっ、こんな所で!!」
「だってツカサ君、そのままじゃ下着も溶かされちゃうよ!」
「う、うぅうう……解ったよ、早く、早くコレ……っあぁあ!」

 内腿に吸い付いていたスライムが再び人型を成して、頭部が股間に思い切り食らいつく。そうして、湿った体全体で、下着の膨らみを思いきり吸い上げはじめた。

「ひぁあっ!? まっ、そぇっ、だめっ、なにこれダメぇえっ! やだっ、ブラックっ、これやぁあ……!」
「あっ……つ、ツカサ君……ど、どんな気持ち、今どんな気持ち……?」
「ばかっ、ばっ、も……っ、死ねぇえ……!!」

 何言わせようとしてんだタコぉおおお!!
 このアホ、俺が悶えてるのを見て興奮した顔しやがって、お前それ何度目だっ、スライムの時と言い触手の時と言い何度目だこらぁあああ!

「もっはやくっ……きらぃにっ……なるぞ……!!」

 吸い付かれた股間が熱くなって、のっぴきならない事になってくる。
 人間の口とは全く違う冷たく湿ったその感触は、まだ下着を濡らすほど興奮していない俺の股間を濡らし、布越しに急所全てを包み込んでくる。
 その全てを呼吸をするようにちゅうちゅうと強弱をつけて吸われていては、どうしようもない。直情的なその部分がそんな事に耐えられるわけもなく、情けない事に俺の慎ましいモノはもう半勃ちになりかけていた。

 これじゃ遺跡の時の二の舞じゃないかと睨み付ける俺に、ブラックは苦笑すると頭を掻いた。

「嫌われるのは困るなぁ……解ったよ、ちょっと熱くするけど我慢してね」
「あっ、あつ……!?」

 何をするんだと目を見開いた俺に、ブラックは何事かを呟くと掌に赤い光を纏わせた。そうして、手を俺の股間へと近付けてくる。
 あ、熱い。そうか、これは手に熱を纏わせているんだ。

「そのまま……動かないで……」

 ゆっくりと、手がスライムへ触れる。
 スライムは己に張り付いてきた異物に一瞬動きを止め、その姿を見ようとして形を変えようとうごめくが――――ブラックは、その隙を突いて一気に手を突っ込み核を鷲掴わしづかみした。

「普通のスライムより核が大きいから、手で掴みやすくて助かったよ」

 手が、ぱきんと音を立てて核を握り潰す。
 その瞬間俺の股間に吸い付いていたスライムが一気に液状化した。

「っあ……!」

 びしゃりと股間に浴びせかけられた水に思わず体を震わせると、ブラックは猫のように目を細めてにやりと笑う。

「ね、ツカサ君。凄い恰好だね」
「え……?」

 そう言われて自分の姿をかえりみて、俺は思わずぎょっと目を剥いた。
 だ、だって、今の俺って……ズボンを降ろされて、びしゃびしゃに濡れた下着を見せつけてる状態なんだもの。ブツが透けてる下着を! 見せつけて!

「あああああ死にたいぃいい」
「死ねって言ったり死にたいって言ったり忙しいねぇ、ツカサ君」
「お前のせいだろっ、お前の!!」

 変な事を言うから悪いんだろうと睨み付けるが、ブラックはまったく気にせずに嫌な笑顔のまま俺に近付いてきた。
 ……あ。こ、これって……。

「ねえツカサ君……ごめん。ツカサ君のいやらしい姿を見ている内に……僕もちょっと、我慢出来なくなっちゃったんだけど……」

 低い声でそう言いながら、ブラックは俺の勃ちあがりかけた股間に触れる。
 冷たく濡れたその部分に温かなてのひらが触れて、俺は反射的にびくりと震えた。

「っ、ブラック……」
「僕の我慢、認めてくれるかな」

 我慢。
 きっとその言葉には、幾つもの意味が有るんだろう。

「…………」

 いつもなら、こんな場所で発情するなと怒る所だったが……。

「……部屋の中に、行ってから…………なら……」

 今の俺は、ブラックにねだられると弱い。
 それを解って強請ねだっているのなら、大した極悪人だ。
 だけど、嬉しそうに笑って俺にキスをしてくる相手を見ていると……
 極悪人を憎む感情は、まるで湧いてこなかった。












 
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