異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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アタラクシア遺跡、妄執の牢獄編

7.いざ行かん、第四層! 1

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※申し訳ない長くなったので一旦切ります…* な展開は次回…_(:3 」∠)_


 
 
「ツカサ君、提案が有ります」
「ほう。なんですかブラック君」
「第四層からは二人で行きましょう。っていうか二人で行こう。僕二人が良いな、絶対に二人がいいなあ。もういい加減うんざりなんだよね……あのさ、いくら我慢するって言っても限界があるよお願いだから二人で行動しようねえもう本当二人で二人っきりで二人のためのふた」
「だーっ! 解ったから耳元でごにゃごにゃ言うな!!」

 朝起きた時は、ブラックがまだ機嫌悪かったらどうしようかと心配していたが、そんな事は杞憂きゆうだったようだ。ブラックは俺が起きて来るなり近付いて来て、朝食を食べる前の寝惚ねぼけた耳にこんな事をささやいて来る程度には元気だし。

 これはもう、どう考えても俺の態度に不機嫌になった訳じゃなく、兵士達と一緒に居るという状況に対して不機嫌になってるんですよネ。
 つまり俺は悪くないわけよね。
 それが分かったのには不覚にもホッとした訳なんだが、ブラックの言い草を聞いていると……俺としては何と言うか、複雑な気持ちが湧いてくるわけで。

 そりゃ逃げたいのは解るけど。
 自分の事を心底見下してた奴らと行動したくないってのは解るけどさ。
 でも、和解出来るんならした方が良いと思うんだよ俺は。そう言うのは偽善的で当人からすれば有難ありがた迷惑だってのは重々解ってるんだけどさ。

 でも、ここであの二人と仲良くしておけば、味方とは行かずとも、ブラックへの偏見が薄まった中立派になってくれるかも知れない。それに、いざって時……例えば、レドがやって来た時なんかに匿って貰えるかも知れないし。

 望みは薄いかも知れないが、彼らが偏見に疑問を持ってくれたら、それが回りまわって一族の見方も変わり、ブラックを歓迎してくれるかもしれないじゃないか。
 ……ブラックはそんな事になっても一族を絶対に許さないとは思うけど、でも、味方が増えるって言うのは良い事だと思うんだよ俺は。

 それに俺は、アンタがもう危険人物じゃないって事を証明したいんだ。
 だって悔しいじゃないか。ブラックは一生懸命「普通」になろうとしてるのに、それを知らない奴らが「昔のままの悪魔だ。変わりようがない」とでも言うようにアンタをなじり続けるなんて。

 昔がどうだか知らないが、今のブラックはもう真人げ……真人間かな……こいつ真人間って言っていいの……?

「いやー……ガチで他人に殺す殺すって言ってる奴だし、実際コレまっとうな人間ではないのでは……」
「ねー、つーかーさーくーんー」
「あーもーハイハイハイ! どーせあの人達は第四層まで上がらないみたいだし、大丈夫だってば!! それより肩からどけ! 重い!!」

 だあもうこのオッサンテンション上がったり下がったり面倒臭いなあもう!
 こっちだってアンタの過去に振り回されてるんだから、ちょっとはこの苦労を解って欲しいもんだが。いやまあ、そんな事言っても仕方ないか。
 とにかく今はスライムをどうにかしなければいけない。

 俺達は、地下水道遺跡でスライムとの戦闘を経験している。
 だから弱点は知ってるつもりなんだが……その弱点を、のパーティーでどうやって突くかが問題だ。もし一匹だけじゃなくて同じ個体がうじゃうじゃいるのなら、攻め方にも工夫がいるだろうし……なにを仕掛けるにしても、二人だけで上位種を相手にするのは難しい。
 術が効くと言われてもこの人数の曜術じゃ限界があるし、相手のスライムはどう考えても地下水道の奴より強いだろうから、小賢しいマネは通用しないだろう。

 だって、人間の上半身みたいな形してんですよ相手。
 知能が有ってもおかしくないって。人の形してる魔物は大体頭いいんだって。

 本で調べたところによると、人型のスライムの情報はなかったけど、スライムはやっぱり水分が蒸発するレベルの炎とかが一番効果的らしく、曜術で倒すのが最適解さいてきかいであるという。
 しかし……蒸発するレベルの炎ってことは……個室でソレをやると、俺達も熱で危ない目に遭う可能性もある訳で。

 一体だけに発動、とかなら耐えられるだろうが、範囲魔法みたいに広範囲で炎をぶちかまされたら酸素が無くなって俺達は死ぬぞ。
 この世界に酸素あるのか解らんが。

 と言う訳で、朝食を終えて準備する段になっても俺は延々と悩んでいたのだが。

「あのー……クグルギさん」
「あ、ハイ?」

 第四層へはどういう装備で行こうかと皿を洗いながら悩んでいる途中で、ルアンが話しかけて来た。ブラックは自室で剣の手入れをしているので、今は俺一人だ。
 何か遠慮しているようなもじもじした感じだけど、どうしたんだろう。

「ルアンさん、なんスか?」
「昨日は色々と気を使って頂いて、申し訳ありませんでした……。彼にしてみれば、我々と行動を共にするなんて憤死物な事なのに、それを我慢させて食事まで作って下さるなんて……」

 ああ、一応ブラックの気持ちは考えてくれてたのか。
 でもこの言葉にも、根底にはブラックへの偏見が混じっている。ブラックは自分の意思で我慢しているのに、それを俺がやらせていると思っているのだ。

 けれど、こればっかりは多分どうしようもないんだよな。
 長い間ブラックをしいたげる環境が作られていたのなら、その行為はもう常態化してしまっているんだ。子供達も、大人に虐げよと刷り込まれてしまっていただろう。
 そうなってしまっていたら、認識を改めようと思ってもすぐには出来ない。
 今日から優しくなれ! なんて言うだけで改められるのなら苦労はないよな。

 でもまあ、こんな事を言うって事はブラックと少しは近付いたって事なのかな?
 実際の所ルアン達の本心は解らないが、申し訳なく思ったって言ってくれただけでも進歩と言える。
 しかしルアンは何でこんな事を急に言いだしたのか。

「別に我慢もさせてませんし、俺は……お礼に食事をと思っただけなので。あと、ブラックも言いはしませんが、案内してくれる事には感謝してるでしょうし」

 まあ感謝してないと思うけど、俺の主観だから後でどうとでもいえるし良い。
 ルアンも軽く頷いて、申し訳なさそうに綺麗な緑色の髪を掻き上げた。

「あの……今まで私達は彼……ラークさんの悪い噂を色々と教えられていたので、どうしても名前を言えなかったり、失礼な態度を取ってしまうのですが……それでもそれに憤慨ふんがいしない彼は、どうしても私達が教えられた悪魔とは異なるような気がするのです」
「は、はぁ……」
「ティールはどう思っているか判りませんが……少なくとも私は、昨日彼に教えて貰った知識を悪と考えることが出来ません。一族としての血が、それは正しい知識だと訴えるのです。それに……クグルギさんと一緒に居る時の彼は、我々への態度はその……アレですが、逆にそんな態度だからこそ安心できると言うか……」

 ブラックの正直な嫌悪は、彼らにある種のショックを与えたらしい。
 まあ確かにあれだけ堂々と嫌悪を見せてるのに、一応話しかけたりもするし大人しく行動してるってんなら、「ブラックは悪魔だ!」とか聞かされてた人は奇妙に思うよな。まともに相手を判断しようとしている人なら尚更。

「じゃあ……ルアンさんはもうブラックの事を悪く言わないんですね?」
「……正直な所、彼への嫌悪感や恐れはぬぐえないと思います。ですが、無抵抗で大人しい相手に暴言を吐き続けるような事はもうしません。……ただ、このお話を彼に面と向かって言うほど私は強くないので……暴言を吐いたお詫びの代わりに、お二人に出来るだけ協力と情報をと思いまして」
「情報っすか」

 協力して貰えるのはありがたいが、昨日漁った以外の情報が有るのだろうか。
 向き直った俺に、ルアンは一呼吸置くと再び口を開いた。

「第四層から上の事なのですが……もし一気に進まれるおつもりでしたら、食料を持って行くのをおすすめします」
「えっ、なんでですか?」
「ヴォールの従者から聞いた話なのですが……第四層以上のモンスター達は時間が経過すると復活するらしく、数時間滞在する場合は、行きも帰りもモンスターを倒さねばならないのだそうです。なので、体力の事も考えて食料を携帯した方が良いと思いまして」

 え……ま、マジで……。
 ちょっとぉおお! こんな所で無限湧き仕様とか持ってくるのやめてくださいよぉおお! これゲームの世界じゃないんでしょ、現実的な異世界なんでしょ!?
 なんでそんな手ごわい敵に限って無限湧き仕様になってんすかああああ!

「む、むげっ……い、いや、あの、それ本当の話ですか」
「はい、確かに従者から聞いた話ですので……。ですから、よければ食料庫の食材を持って行って下さい。大したものは有りませんが、お役にたてるものが有るかも知れないので……ああ、武器庫も良かったら」
「ありがとうございますぅう……」

 備えあれば憂いなし、これマジね。
 ほらー、やっぱり人には愛想良くしといた方が良い事あるじゃーん。

 頑張りは無駄じゃ無かったと内心感涙しながら、俺は早速食料庫に移動した。
 干し肉じゃなくてベーコンを所持できる日が来るとは、と感動しつつ、ちょこちょこと肉やらパンやらを頂いていたのだが、そうして食料庫を上から下まで見ている時に棚の下に麻袋が積まれているのを見つけた。

 比較的目につきやすい場所に有ったのだが、昨日はベーコンに興奮してて気付かなかったようだ。何の袋かと焼き印されている文字を見て、俺は目を丸くした。

「……あれ? これって……小麦の種子……?」
「ええ。万一供給が絶たれてしまった時に備えて保管してるんです」

 なるほど、ここは辺境の地だもんな。定期的な食糧補給が万が一無くなってしまったら、自分で作らなければなるまい。そんな最悪の事態に備えて、こうやって穀物を保存しているのだ。砦とか辺境って、やっぱこういう備えがあるんだなあと感心しながら腰を上げようとして――俺は、ある事を思いついた。
 種子。そうか。こういうものを使えばいいんだ。
 食料は何も食べる為だけの物ではない。戦闘でだって十分に使えるのだ。
 少なくとも……この世界では。

 俺の場合重い剣なんて持てないし、弓だって小型のもので精一杯だ。
 ならば、バカはバカなりに奇抜な戦法で攻めるしかない。

 やって見なければ成功するかどうかは解らないが、良いヒントにはなると思う。
 心の中で種子に感謝すると、俺は食料を揃えて食料庫を出ようと立ち上がった。と、同時、さっきから俺に付き添って来ていたルアンが、うかがうような顔つきで俺に話しかけて来た。

「あの……所で、クグルギさん」
「はいはい?」
「ラークさんとは……恋人同士、なんですか?」
「ぶはっ」

 い、今その話ですか。
 って言うか何でその話をいまするんですか。

 出鼻をくじくようなエグい発言に咳き込みながら、俺はルアンに逆に問うた。

「な、なんでそんにゃこと言うんですか」

 すると、相手は困り顔になりながらも、少しだけそのイケメンの顔を赤くして。

「あっ、いえ、その…………そうじゃなかったら、その……ぇえと……」
「………………」
「いえっ、な、何でもないです。今のは忘れて下さい!」

 そう言いつつ熱のこもった瞳で俺を見つめるルアンに、なにか強烈なデジャヴを感じて俺は久しぶりに気が遠くなりそうな感覚を覚えた。

 えーと……さっきの言葉、訂正。
 人に愛想良くするのは良い事だが、この世界では思わぬ獲物を釣りあげてしまうので、くれぐれも節度を持ちましょう。

 ……うん。何度も思うけど、みなさん何故料理作って愛想良くしただけでこんなガキにコロコロ騙されるんでしょうね……。毎度うんざりするほど言ってるけどさ、俺はフツメンだしガキだし女子も認める「彼氏にしたくない男ランキング」の上位なんですよ。つまり魅力度ランキング圏外マンなのよ。

 なに、地味系? この世界って美形多すぎて地味系日本顔が珍しいの?
 ふざけんなチクショウ、喧嘩売ってんのか! いや売ってないか。俺が被害妄想強すぎるだけですねすみません。でもそう言いたくもなるよ、何で普通にやってる事が、こうバスバス男の美形のハートだけをぶち抜くんだよ。
 フツメンに優しくされてコロッとか、心が疲れた失恋中の女子かよ。
 みんな妥協しすぎだよ、心休めようよ。

 この世界の人達はストライクゾーンが広すぎるぞと思いながらも、俺は一生懸命知らぬ顔で準備を整えて、ブラックの所へと戻ったのだった。











お久しぶりの現在の所持品コーナー
  ○回復系
  ・自家製回復薬(中)×30個
  ・毒消し薬(中)  ×20個
  ・包帯1ロール  ×10個
  ・気付け薬酒   ×4 瓶

 ○攻撃系
  ・自家製睡眠薬(中)×2 瓶
  ・召喚珠【ペコリア】
  ・召喚珠【ドービエル】
  ・召喚珠【ディオメデ】

 ○その他
  ・狩猟用ナイフ    ×1 個
  ・小さな弓      ×1 挺
  ・丈夫な弦(一巻)  ×2 個
  ・雑草の種      ×2 袋
  ・クレハ蜜(中)   ×5 瓶
  ・クレハ蜜(小)   ×8 瓶
  ・溶解液(大)    ×2 個
  ・水筒
  ・小麦粉       ×1 袋
  ・パフ粉(中)    ×1 袋
  ・くらげ粉      ×1 瓶
  ・他、食料や調理器具など
 
 
 
 旅の途中で色々あって、蜂蜜やシュクルの実は在庫ゼロです。
 そろそろ装備品とかの項目もつけてあげたいですな(´・ω・`)
 あとツカサはフツメン地味顔とか言ってますが、実際は可愛い系の顔なので
 まあそら普通にモテますよねっていう……(´・ω・`)知らぬは己ばかりなり…
 
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