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首都ラッタディア、変人達のから騒ぎ編
14.古代遺跡・地下水道―4日目・手紙―
しおりを挟む気絶から復帰して早々、俺は本当に居た堪れなくて皆から背を向けていた。
……だって。だってさあ!
気が付くと目の前に元気なブラックがいて、ああ殺されてなかったんだってホッとして、感極まり過ぎて抱き着いて泣いちゃったけどさ……それはそのほら、ずっと旅してきた仲間だし、なんだかんだ俺ってブラックを頼りにしてるし、その……なっ! まあ、しょうがないよな!
しょうがないと言わせてくださいお願いします。
そうでも思わないと恥ずかしくて死ぬ。
いつの間にかゴーレムは倒れてたしみんな無事だったけど、そうなるともう如何ともし難い。戦闘中ならその場の勢いで誤魔化しが効いたが、今は安全だ。つまり皆さん心の余裕があるのだ。
そんな所で感動の抱擁とかやったらそりゃ注目集めるでしょ。
理性死ぬでしょ。
あああ俺のバカ、スーパーバカ。これはアニメじゃねーんだ、時間軸続いてんだよ。場面転換でさっきまでの話が終わるなんて事は無い。居心地が悪いまま仕切り直ししなきゃいけないんだ。うう……現実嫌い。
真っ赤になった顔が戻らないまま、俺はとにかく場の雰囲気を変えようと必死になった。ブラックから飛びのいて、何事も無かったかのようにみんなに回復薬を配ったり、包帯や布で手当てしたりして懸命に場の空気を変えようと頑張った。
周囲もそれを察してか俺には生暖かい目を向けるだけで、何も言わなかったけどぐううその目やめて下さい早く忘れて下さい。
「とにかくみんな無事で良かったな……ツカサ君、きみは平気か」
コータスさんが気を使ってくれたのか、殊更明るい声で俺に問いかける。
俺も何度も頷きながら普段通りを装った。ありがとうコータスさん。
「俺はなんともないです。それより、あの……ブラックの事なんですけど、どうして怪我が治ってるんですか? あいつに聞いても教えてくれなくて」
そうなんだよなあ。
あんちくしょう、聞こうとすると何も言わないし抱き締めて来て窒息させようとするし、ちっとも会話にならないんだもの。
教えてくれないかとコータスさんに懇願の目を向けると、相手は戸惑ったように顔を歪めて、それからやっぱりブラックの方を見た。
ブラックはそんなコータスさんに不機嫌そうな視線を向けていたけど……やっぱり隠しきれないと思ったのか、深々と溜息を吐いてまたもや背中から俺に抱き着いてきた。
「ばっ……」
「僕まだ怪我が完治してないから、ね」
「ぐう……で? その怪我はどうして治ったんだよ。それくらいは教えてくれたっていいだろ」
ゴーレムはブラック達がどうにかして倒したんだろうし……その間気絶してた俺ってすげー恥ずかしいけど、まあ、それはいい。
とにかく今はブラックの怪我の謎の方が先だ。
首に息を吹きつけてくる鬱陶しい頭を引き剥がして威嚇すると、ブラックはやれやれとでも言いたげに話し始めた。
俺の力が無意識に発動して、ブラックを治したと言う事。
ゴーレムも俺の力――恐らく、黒曜の使者の力で倒されたのだと言う事を。
そんなバカな、とは思ったが、セインさん達やマグナまでもが「何か知らんけどお前が倒した」と認めてるんだから仕方ない。
また無意識に力を使ったのかと思うと凄く怖くなったけど、けれど、今回は上手く働いたようなので何も言わないでおいた。
下手にショックを受けたフリをして不安にさせたくないしな。
とにかく、まあ、俺の力でブラックの怪我が治ったんならそれでいい。
力が未熟だったのか、完治まではさせられなかったみたいだけど――――正直、今はあまりこの事について考えたくない。
まだ頭が混乱していて、何もかもが夢みたいで気味が悪かったからだ。
ゴーレムが崩れた後の岩の山が無ければ、誰がそんなことを信じるだろうか。
さっきまで苦戦していたのも幻覚か何かに思えてくる。
俺だけじゃなく、ブラック達もそんな状況に戸惑っているようだった。
「……とにかく、ここを調べるのが先じゃないのか」
ぽつりとマグナが言う。
その言葉にみんな振り返って、ようやく動き出した。
「そ、そうだね。こんなモンスターが居たんだから、絶対に何か見つかるはずだ。みなさん、手分けして探しましょう」
コータスさんが手を叩いたと同時に、動ける人間だけで色々と探す事にする。
回復薬で傷を治したけど、それでも重症だったフェイさんには休んで貰い、まだ色々とショックを受けているセインさんとエリーさんに看病を頼む。
本当はブラックにも休んでて欲しかったんだけど、自分も探すと言い張るので、しょうがなく俺と一緒に行動させる事にした。
コータスさんとマグナは巨大コンピューターのようなモノリスを調べる担当で、俺達は部屋の隅の机や棚らしき物を探す担当だ。
地下水道に関しての資料がないかと棚を漁りつつ、俺は何とも言えない居心地の悪さを覚えて顔を歪めた。
「うーん、なんか火事場泥棒みたいだな」
「まあ、古代の人の家を勝手に漁ってるんだから、泥棒には違いないけどねえ」
だよなあ。考古学の為と言っても、結局泥棒には違いない。
そう考えると悪いような気がしたけど、でも、邪な目的に使う事は絶対ないからどうか許してほしいと思う。
「にしても……なんか薬品がいっぱいだな、この棚」
磨かれたように光る石造りの棚には、幾つかの瓶が有る。だけど全て中身が劣化しているようで、触る事は出来なかった。瓶にはそれぞれラベルが張ってあるけど、古代文字なので俺達には理解不能。他の棚も探したが、薬品ばかりで目ぼしい物は見つからなかった。
「うーん……こんだけ綺麗に残ってるのに、意外と『古代技術!』って感じのモノは無いもんなんだな」
「まあ、この遺跡は使用目的がはっきりしてるからね。そう突飛な物は置かないだろう。ここにある薬なんかも、消毒液とかそう言う類のようだし……恐らくここは管理室か何かだったんだね。この棚の薬も、地下水道の水を悪い人間から守るために常備してた可能性が高い」
なるほど……。確かにこれだけ大規模な水路なら、悪事に利用しようと思う人間もいるよな。だからあの『まつろわぬ兵士』だって置いてたんだろう。
なら、この薬も鑑定や照合を使える人が見たら、新発見があるかもしれない。
俺には判らないけど……うーん悔しい。やっぱ査術勉強しよう。
「棚はこれくらいかな……次は机を調べてみようか」
「おう……って、お前勝手に歩くなよ! ほら!」
「あはは、つい……」
怪我治ってないって言ってるだろうがこんちくしょう!
無理して傷口が開いたら大変な事になるんだから、本当にやめてほしい。
慌ててブラックの腕を肩に回し、俺達はえっちらおっちら机へと移動した。
机は、この世界ではスタンダードな木製の質素なものだ。
引き出しを空けてみると、幾つかの紙束が見つかった。かなり保存状態が良くて、少し黄ばんでいるが字はちゃんと残っている。どうやら空調が適度に調節されている地下だったから、紙が劣化しなかったらしい。
ブラックを椅子に座らせて、俺はぺらぺらとその紙束をめくってみた。
文字は相変わらずの古代文字だけど、図とか日付っぽい物があるから、連絡日誌みたいな物なのかな。時々落書きが書いてあるのはご愛嬌だ。
こういうの見てると、古代の人も俺達と同じ人間だったのが分かるなあ。
ちょっと楽しくなって、俺は他の引き出しも開けてみた。
筆記用具だったり白紙の紙束とか鍵束が出て来たが、そんなもんは後でコータスさんに丸投げだ。俺はもうちょっと面白い物が見たい。
どーせ古代文字は俺には判らないんだし、俺が手に入れられる物でもないんだから、何かこう、お宝か面白いもんをだな。
「うーん、他にないかなー……っと」
言いつつ、がらりと一番下の引き出しを引いてみる。すると、そこにもまた何かの紙束が有った。これも古代文字……かな。
でも、ナトラーナ文字とはちょっと違うような気もする。
別の時代のもんかな。なら、結構な発見じゃないか?
ちょっと興奮しながら捲っていると、メモ用紙のようなものが地面に落ちた。
「……?」
紙束を置いて、それを拾う。
小さな紙片に乱暴に書き殴られた、幾つかの文字。
その文字を視認して、俺は――――固まった。
「――――……!!」
劣化していないメモは、いつ書かれたのか判らない。だけど、そこにあった文字は、しっかりと紙の裏に字の痕が浮き上がる程に力強く刻まれていた。
インクの滲みからして、このメモはこの世界で書かれた物に間違いない。
だけど、これは。
「ツカサ君、どうしたの?」
不意に呼ばれて、俺は思わずその紙を握りつぶした。
「何かあった?」
「い、いや……。それよりそっちはどうだ?」
「駄目だね、水路に関する資料はないよ。ここを出て行った時に重要な資料は破棄していったのかな……じゃなけりゃ、他の場所に保管してるのか……。まあそれはコータスさん達が見つけてくれるだろう……おっ?」
そう言いながらブラックがコータスさん達を振り返っていると、二人が何か地下への通路を見つけたようで大騒ぎしているのが目に入った。
どうやらあっちは大発見をしたようだ。
でも、俺は素直に喜ぶ気にはなれず、引き攣った顔で笑うしかなかった。
「ツカサ君、本当……大丈夫? 気分悪いの?」
「い、いや。何でもない。……ことも、ないかな。気分悪いのかも……多分、まだ少し混乱してるんだ。時間を置けば平気になると思う」
言いながら、俺は握りしめた紙を黒曜の使者の力でそっと水に溶かした。
これならもう、誰にも見られる事は無い。
水の曜術はパーティーの中じゃ俺しか使えないんだ、誰も、俺がこんな事をしたなんて思わないだろう。証拠隠滅をしたようで気分が悪かったが、仕方なかった。
これは、恐らく誰にも見せてはならない物だ。
だから、これで、良かったんだ。
激しく高鳴る心臓を必死で宥めつつ、俺はぎこちない笑顔で再びブラックの腕を取って、立ち上がらせてやった。
「さ、行こうぜ。もしかしたら地下に下水道の施設が有るのかもしれないし」
「うん……そうだね。……でも、本当に無理しちゃ駄目だよ」
「そりゃこっちの台詞だよ。お前も勝手に出歩くなよな」
軽くそう言うと、ブラックはやっと安心したようで人懐こい笑顔で笑う。
その顔を見てると、何故だか俺も楽な気持ちになった。いつも見てるからかな。
気付かれないように何度か分けて深呼吸をしながら、俺はやっと心を落ち着かせてゆっくりと歩き出した。
「これで、この遺跡ともオサラバかな」
「だと良いけど……この分だと一日伸びそうだね」
そう言いながら、ブラックはコータスさんの方へ向けて顎をしゃくる。
釣られて見てみると、阿波踊りでも踊ってるのかってほど動いて喋りまくってるコータスさんがいた。物凄く騒いでるその姿を見て、俺は思わず噴き出してしまう。
確かにあれじゃあもう一泊させられそうだ。
まあ、予定よりも早い中枢部到達だったから、別にいいんだけどね。
「んじゃ、今日の飯は豪勢なもんにして全員に栄養付けて貰わなきゃな」
「僕も?」
「そうだよ。アンタにも早く完治して貰わないと困る。旅出来ないし」
「あはは、そうだよね」
朗らかに笑うブラックに緩く苦笑して、それから俺は一つ言葉を飲み込んだ。
言おうと思ったけど、やっぱり……言えない。
あのメモの事は、ブラックにも伝えられそうになかった。
だって、内容が内容だったし……それに何故だか、ブラックには絶対に見せてはいけないような気がしたから。
……だって、あの、メモには。
『この言葉を読める奴は ここに来ると思っていた
■がそうだったから
だから かいておく
手遅れになる前に 殺される前に 探せ
執着 ■妬 受身 ■虐 勝手 乱暴 ■■ 無心
誰かの手に渡る前にこの■■書を探せ
支配しろ だれも しんじるな
俺はだめだった もう 帰れない 死ぬしかない
お前 何■目だ いまどうなっている
もしこれを見ているなら、助けてくれ
■は■■■■■ 他の■跡へ逃げる
かくれているから どうか■を元の世■へ 帰して くれ』
――――日本語で……そう書かれていたのだから。
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