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王都シミラル、貴族の陰謀と旅立ち編
7.そんなご奉仕聞いてません(号泣) 1
しおりを挟むそんなこんなでなし崩しに話を進められてしまった俺は、ラスターに肩を抱かれて食堂へと連れて行かれ、食事をした後風呂に入る事になってしまった。
……二行で済む程度の話だけど、俺にとっては大変な数時間だったよ。
げっそりしたよ。だれかほめて。
いやもう本当、庶民な俺には耐えられない世界だったんだってば。
唐突に夕飯ですと言われて無理矢理連れて行かれた食堂は、まあありがちな細長いテーブルが置いてある豪華な西洋のお屋敷の食堂で、給仕のメイドさんがずらりと並んでいた。ラスターの家族はいなかったけど、変な格好をしてる俺としてはメイドさんが並んでるだけでも緊張して仕方がない。
ラスターの隣で豪華な食事を頂いたが、まるで味がしなかった。
長く思えた食事をやっと乗り切れたと思ったら、そこでラスターの「風呂に入るぞ。湯殿での作法も教えてやろう」発言である。
逃げられるのなら逃げたかったが、肩をガッチリホールドされた俺は、無理矢理に歩かされてまた風呂に来てしまった。
男と風呂だぞ風呂。二人っきりで。
いや、男ってんなら別にいい。だけど、こいつは俺を側室にした男だ。
つまり、俺を性的対象として見ている。
そんな奴と和やかに風呂に入れって方が無理じゃないか?
俺が自意識過剰なんじゃないぞ。この世界は本当にケツが何個あっても足りない世界なんだ。それくらい怖いんだ。俺、出来れば棒が何本あっても足りない世界が良かったよ。うう。
「ツカサ、俺の服を脱がせろ」
「ハッ?」
「側室に入る者は、己の主人に尽くさねばならんのだ。常に付き従う事で従順な気持ちが生まれるからな」
それ、洗脳っていいません?
やだなあ男の服脱がすとか。でもやるしかないか……。
覚悟を決めて、俺は目の前にずんと突っ立っているラスターに向き直った。
シンプルなシャツにズボンだけだから、脱がす手間はそうない。
じっと見つめて来る視線がなんか突き刺さって痛いけど、早く終わればいいんだこんなもん。少し硬めの生地に手をかけ、ボタンを一つずつ外していく。
そうして一つ留めを外すたびに、ラスターの肌が露わになる。
輝かんばかりのきめ細かい白い肌がシャツの間から見えて、俺の目のやり場がなくなっていく。縋るようにラスターを見上げると、相手はそれはそれは面白そうに微笑みながら俺の顔を凝視していた。
「…………」
な、なんか……やだ。
いたたまれない。なにこれ、何で俺こんな事やってんの?
「シャツを脱がせたら、ズボンもだ」
「うぇっ!?」
「さあ、早く。風邪をひいてしまう」
この野郎ニヤニヤすんなあああ!!
もう、もうなんだよ、笑うな見るな!
何が悲しゅうて俺が男のズボン降ろさなきゃなんねーんだよ、くそっ、もう涙出て来た。なにこれ、新手の羞恥プレイ!?
「早くしろ」
「うぅ……」
ああもうハイハイ解りましたよ!
カッカしながらも、俺は覚悟を決めてラスターに跪いた。そして、ボタンで留められているズボンの合わせに手を伸ばす。
う、うう、ど、どうしよ……なんかもう、指が熱くて震えててなんか手がちゃんと動かない……。
「ツカサ、お前は本当に愛い奴だな」
うるしゃい顔だけ最高金賞!!
やだもう。恥ずかしい、顔熱い、涙出そう辛い。
でもそんなこと言ったってやらなきゃ終わらない。
俺は必死に指を動かして、ゆっくりと合わせを解いた。うええ、ズボン降ろさなきゃダメなの。貴族ってイヤすぎる。俺絶対こんなの人にさせられない。
女の子にして貰ってもすぐ勃起しそうやだ恥ずかしい。
ぐつぐつ煮える頭で必死に見ないようにしながらラスターのズボンを降ろす。畜生コイツすね毛も生えてないのかよ。綺麗な足しやがって。
俺がすね毛生えてないのはからかわれるのに、コイツの場合は称賛されるんだから本当にムカツク。世の中不公平だ。
とか思っていたら、ラスターがとんでもない事を言い放った。
「下着もやれ」
「うあああもう無理ですううう!!」
思わず叫んじゃったけど本心からですもう許してよお!
涙目でラスターに訴える俺にラスターは少し驚いたような顔をしたものの、またニヤニヤと笑って笑みに歪んだ口を手で覆った。
何だよもう、やだ、本当にやだ。
「フッ……分かった分かった。そう泣かんでもいい。下着は自分でやろう。だから、今度はお前が服を脱げ」
「う……」
「どうした、服を脱がんと風呂に入れんだろう」
で、でも……アンタにそんな凝視されてたら……。
「お、俺の方……見ないで」
「一緒に風呂に入るのに何を今更」
「や、やなんだよ! 風呂はいいけど、脱ぐの見られるの嫌なの!」
「生娘のようだなお前は。まあいい、恥じらいがあるのは好ましいからな」
キムスメじゃないです男です。
そりゃ男湯は俺のテリトリーよ、丸出しで入るのだって大丈夫だよ。だけど、そんなに裸を凝視されたらそりゃ恥ずかしいでしょうが。自分を手籠めにするかも知れない相手と一緒に入るなら、尚更でしょうが。
情けない顔でそう訴える俺に、ラスターはまだ笑っている。
けど、俺の辛さはようやく理解したようで肩を揺らしながら背を向けてくれた。
き、貴族に命令するのってヤバそうだけど……でもやだもん。しょうがないもん。暴れるよりはマシだよな?
とにかく早く裸になって湯気の中に隠れよう。
俺は変なバスローブをバッと脱ぐと、そのまま小さなタオルを腰に巻く。今だけは下着穿いてなくて良かった。そして、矢のごとき速さで風呂場へと突っ込んだ。
風呂場は大衆浴場も真っ青の広さで、総タイル張り。タイルの一つ一つが磨かれていて壁にはモザイク画なんてのもはめ込まれている。
風呂の周りにはこれ見よがしに植物だの女神さま像だのと、全くもって悪趣味だ。感動しない。ウワーテンプレ貴族風呂だーなんて感動なんてしないからな俺は。
浮足立ってなんかないんだからな。さあ早く入ってしまおう。
洗い場にすぐさま付き、俺は体に湯をかける。
一度風呂には入ったけど、これは日本人のくせみたいなもんだ。
入ろうが入るまいが、とりあえず一杯ひっかける。これ酒も風呂も一緒ね。
「何故すぐに風呂に入らん」
「はえ?」
「そこにサボンの塊があるだろう。それを湯に入れろ」
「え? こ、この丸い塊がザボン?」
洗い場の鏡台の上には、確かに白いごつごつした球体が置いてある。触ってみるとわりと軽い。これがザボ……サボンって奴なのか。
言われた通りに湯船に浮かべると、サボンは一瞬で消えて広い湯船にアワがモコモコと立ち上がった。うおおおすげえ。
っていうかこんなでっかい湯船こうしていいの!?
「そうか、庶民は風呂に入る習慣がないのだったな。貴族の風呂は基本的に一度使えば湯を抜く。清潔な泡風呂の中で女官に体を洗われるのが普通なのだ」
あ、そう言えば俺もそんな事されたな。滅茶苦茶美味しいシチュエーションだったのに、高速すぎて覚えてないけど。悲しい。
それじゃあ俺も泡風呂の中でラスターを洗えばいいのかな?
なんか犬洗うみたいだな。それでいいのか貴族。
じゃぶじゃぶと泡の中に入ると、体にぬるぬるとした泡が纏わりついて、湯の流れでスッと足の間をすり抜けていく。多分体を洗ったら洗い場で泡を流すんだろうけど、ホント贅沢なこったよなあ。
まあ、体が隠れるから俺的にはありがたいけど。
ラスターの側まで来ると、相手はさあと言わんばかりに体を広げた。
「……あの、なんです?」
「洗え」
「えーと……布とか、洗う器具とか」
「そんなものは使わん。毎度毎度の風呂で固い布なんぞを使い体を擦っていたら、それこそ逆に病気になるだろう。手で全身を洗えと言っている」
うん?
ちょっとぼく、言ってる意味がわからないな。
「俺の手で?」
「お前の手で」
「ら、ラスターさまの体を?」
「俺の体を全身くまなくだ」
………………。
全、身、くまなく。俺が、俺の、手で。
「い――や――!! 無理っ、無理ぃいそれだけは勘弁して、駄目だって、女の子ならまだしもこんなの出来ない、無理絶対無理!」
ヤローの体を丁寧に両手で擦りあげるなんて誰がやるんだよそんなこと!
俺は泡姫か。ああそうだな娼姫だし泡風呂入ってるから泡姫だったな畜生!
違うよそんなこと言ってる場合じゃねえんだよ!
「照れているのか、本当にお前は初心だな」
「違いますってぇえええ」
男の体をまさぐるのが嫌なだけなんだよ。
貴族ってなんでそんな無防備なの? 羞恥心ないの?
引っ込んだ涙がまた出そうになってる俺を見て、ラスターは余裕アリアリの顔で笑う。リボンを解いた髪は肩に落ち、キラキラと輝いて胸に少し張り付いている。
蒸気の中で見る相手は一層艶めいているようで、とてもじゃないが顔を合わせるなんて出来なかった。
だけど、ラスターって奴は。
「照れると言うのは、それをいやらしい行為だとお前が思っているからだろう」
「は、はひ……?」
「そこまで恥ずかしがるのは、想像するからだ」
「ちょ、ちょっと……」
「お前は本当に愛い奴だ。貴族令嬢とてお前のように恥じらう事はせんだろう。……そこまで己を高めているのなら、お前の主人たるこの俺がお前を抱かない訳にはいかないな」
は、はい?
何言ってんの。ナニ勘違いしてんのこの人。
「ツカサ、俺がお前を洗ってやろう。お前が望むように……な」
のぞんでましぇん……。
やだもう、泣きたい……てか泣いてる……誰か助けてくれよお。
貴族ってなんでこんな俺様思考最優先なの……。
→
※ちょっとアレなので20時更新でした(´・ω・`)スミマセヌ
明日は22時更新です。(つまりえろ)
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