異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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王都シミラル、貴族の陰謀と旅立ち編

6.何で貴族って袖にヒラヒラがついた服着るの? 1

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 かつて、この世界が一巡しました。

 その一巡した世界は、成功しました。
 そして、世界は六度巡りました。
 失敗と成功を繰り返し、世界は平穏になりました。

 ですが、終わりは避けられません。

 七度目が、今です。
 いずれ、世界は失敗します。

 何もできませんか。何か変えますか。
 何を選びますか。何が変わりますか。

 誰も指図しない。



 世界は
 ころされるも いきるも ただの世界






-----------------------------------------------
 
 
「…………ん……」

 ……なんだろう。
 何か、変な夢を見ていた気がする。
 白い世界でふわりふわりと浮かんでいるような、夢の中で夢を見ているような変な夢だ。でも、内容は良く覚えてない。どんな夢だったっけ。
 ああ駄目だ……頭がボーっとしてて、かなりだるい。起きたくない。
 このふかふかのベッドでゆっくり寝てたい……。

 そう思って、俺はふと自分の思考の違和感に気付いた。

 ふかふかのベッド? あれ、俺ってばいつの間に寝たんだっけ。確か俺はリタリアさんの屋敷にいて、そこで泊まる予定になってて、リタリアさんと話をして色々あって、そしたらあのいけ好かないバカ貴族がやってきて。
 そしたら……。

「うげぇっ!?」

 そうだ俺、拉致されたんだった!! うわあっ!

 ようやく気付いて飛び上がると、そこは見た事もない部屋だった。
 天蓋付きの御姫様ベッドは金ぴかの装飾がしてあり、掛布団にすら金糸の刺繍がしてある。悪趣味。部屋はアールヌーヴォーとか言う感じのお洒落くさった英国風でとっても清潔そうな部屋だ。お貴族様趣味極まれり。
 一々そこかしこに芸術品ぽい像やら金ぴかの置物があってムカツク。庶民舐めてんのか。この部屋だけで二十人くらい雑魚寝出来るぞ。
 
 なによりイライラするのが、ここがアイツの屋敷って一瞬で判っちまうことだ。
 なんでかっていうと……。

「だあ――ッ!! あの野郎そこかしこに自分のミニチュア像置いておくんじゃねええええ!!」

 絵画ならまだしも金ぴかの自分の像って!
 一部屋に三体ぐらい飾るって!
 あいつ頭おかしいんじゃねえのか俺なら恥ずかしくて気が狂うぞこれ!!

 細かすぎる刺繍がされたランチョンマットでその像を全部くるむと、俺はそこら辺にあった箱に詰め込んで鍵をかけた。
 こんな事したってどうにもならないが、やらずには居られなかったんだから仕方ない。あんなもの見ながら大人しくしてられっかっつーの。
 
 とにかく落ちつけ俺、深呼吸だ。はいどーはいどー。
 まず現在の状況を知る事が大切だな。一度ベッドに戻って考えることにしよう。
 実はまだ体がだるくて、思い通りに動けないんだ。多分ラスターが何かしたせいだと思うんだが、あいつは一体何をしたんだろうな。
 俺はベッドに戻って、胡坐をかきつつ腕を組んだ。頑固おやじスタイルだ。
 そうして、ゆっくりと周囲を見渡す。

 ……部屋は綺麗だ。まあ側室にするって言ってたから、変な部屋には入れないだろう。ベッド横のサイドチェストの中には、香水や女子用の装飾品、それに煙草っぽい嗜好品があった。潤滑剤的な物はないので、ひとまず安心。
 そういえば、さっき開けた箱には何も入ってなかったけど、もしかして洋服とか入れる奴なのかな。
 
 となると、ここは客室か何かか。
 壁に埋め込まれているタンスも開いてみたが、すっからかんだもんな。
 ここが側室なら、変な服とかがもう用意してあるはず。
 側室ってそう言うもんだってエロ小説で言ってた。
 それに、あいつらも「急遽!」って感じで俺を連れて来たみたいだし、そういう部屋までは用意できなかったんだろうな。ってことは、まだ逃げられる可能性もあるかも。

 俺は頑固おやじの陣を解いて、ベッド側にある窓に近付く。
 そして、窓の外の光景に息を呑んだ。

「うげっ……まじかよ……」

 広い広い左右対称の美しい庭園の向こうに、高くそびえる煉瓦の壁。
 その更に向こうへと視界を向けると、あまりに広い街が見えた。ラクシズとは段違いの規模を見せつけるその場所は、ロンドンとかイタリアレベルの大都市のようだ。高い塔が街の中心に立ってるのも、いかにも首都って感じ。

 っていうか、あっちの風景ってさ、古い家が沢山あるにも関わらず「大都会」って分かるのが凄いよな。……いや、そんな事言ってる場合じゃないか。

 もう夕暮れ時になって薄暗くなってるけど、街の明かりが灯ってくると、空よりも街の方が明るく見えた。そういえば、あんなに沢山の人工の明かりを見たのって久しぶりかも……。この世界だと高い場所になんてそうそう行けないし、山に登っても明かりが遠くに見えるだけで、夜景だかなんだか分からないもんな。

 なんか文明を見たって感じでちょっと感動……。
 うん。だからそんな事考えてる場合じゃねーよな。いかんいかん。

「えーと……街の明かりが下に見えるってことは、この部屋は三階以上にあって、尚且つこの屋敷は小高い丘っぽい所にあるのか?」

 中心から離れてるとなると、郊外にあるのかな。
 でっかい街だから周辺にモンスターがいるって事は無さそうだけど、外に逃げるなら地図なりなんなり必要だな。
 街に逃げてもいいが、ラスターの屋敷がここに有るって事はあの街はラスターの領地の可能性がある。となると、街の人に協力させて俺を探しそうだし……。なんにせよ、逃げ出すなら一旦どっかに隠れなきゃなんないかも。

 そういや俺の私物はどうなったんだ。

 ズボンのポケットを探ると、ギルドで貰ったメダルがしっかりと残っている。
 念のためにと思って上着の内ポケットに入れていた数枚の金貨も、全部無事みたいだ。そういや靴も履いたままだし、もしかして俺ここに放り込まれてあまり時間が経ってないのかも。そっと扉を開いてみたけど、見張りみたいなものもいない。

「……今の内に、屋敷とか探検してみようかな?」

 部屋の外の廊下は、蝋燭の明かりが等間隔に並んでいるだけなので、少し薄暗い。この世界の明かりって【水琅石すいろうせき】っていう、水を加えると発光する不思議な石と蝋燭が主なんだけど、石に比べると蝋燭はやっぱ仄明るい程度なんだよな……。
 妙に雰囲気が出てて、外に出辛い。

 なんか、なんかバケて出そうって言うか……。
 いや、駄目だ。怖がってたら逃げるチャンスも無くなる!

「よっ、よし、今の内にれっつら」
「おおツカサ様、お目覚めになられましたか!」
「ひぎゃあ!」

 だだだ誰だおい何おばけ!?
 咄嗟に振り返って相手を確認しようとしたが、それよりも先に俺は腕を引っ張られてどんどんと何処かへ引きずられていく。
 あれ、なにこれどうなってんの。

「えっ、え!?」
「今丁度お呼びしようと思っておったのです。ささ、ラスター様にお会いになる前にお召替めしかえを」
「はっ? ちょ、え、おじーさん誰!?」

 きっちりとしたタキシードに身を包んだ白髪のお爺さんが、俺の事を右に左に引き摺って、豪華な廊下を競歩で疾走している。
 なにこれちょっと理解できない。

 ラスター様に会うって。お召替めしかえって?
 ぽけらと悩んでる間に俺はでっかい風呂場に押し込められて、美人なお姉さん達にウヘヘと思う間もなく泡風呂に突っ込まれて思いっきし全身を洗車マシーンみたいに擦られ、なんか知らん内に服が気持ち悪いビラビラのついた服に取り換えられていて、俺の服はどこだと怒る間もなくどこぞの部屋の前に連れて来られていた。
 
 ぜー。ぜー。説明するこっちも疲れるくらい超特急過ぎてもうやだ。
 なにこの昔のアイドルみたいな裾も袖もひらひらの服。きもい。バスローブとかそういう感じっぽいけど、俺の下着どこ行ったの。着物のつもりなの。俺の容姿考えてもムリでしょこれ。ボインバインな美女に着せようよこれ……。
 逃げるに逃げられなくなっちまった。どうしよ……。

「いいですかツカサ様、ラスター様にくれぐれもご無礼のないように」
「あ、あの……」
「おお申し遅れました、わたくしラスター様の忠実な執事でメラスと申します。これからは、何か用が御座いましたら何なりとお言いつけ下さい」
「いやそうではなく……」
「さ、ラスター様のお側に」

 ちょっとぉおおこの人も話聞いてくれないんですけどおおおお。
 貴族の関係者こんなんばっかか! 軽く泣きたい!

 しかしそうは言ってもどうにもならない訳で。
 ああもうしゃーねえ、なるようになれだ。

 俺は覚悟を決めて、お洒落くさった扉をばんと開いた。












わ、分けます……同日20時更新です(´・ω・`)オォゥ…
 
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