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曜力艦アフェランドラ、大海を統べしは神座の業編
12.喜ぶ部分が違う1
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日は暮れて夕方。
曜力艦・アフェランドラは敵の奇襲も受けず、無事にランティナへ帰港を果たしたが、俺達にはまだまだやる事が残っている。荷の積み下ろしや兵士達の輸送などだ。
お客様の俺達であっても、船の乗組員ならそれらを手伝わねばならない。
と言うワケで、俺達はカミナリオヤジな上官様の怒鳴り声に操作されながら、下船前に充分すぎるほど働いて、やっとランティナの港に降り立ったのだった。
「はあ~、疲れたぁ!」
「グゥウ……あまり動かなかったから体がバキバキだぞ」
両手を組んで体を伸ばすブラックと、腰を捻るクロウ。溜息が中々にオッサン臭いが、そもそも二人はオッサンなので年相応と言うべきなのだろうか。
まあそう言う俺も両腕上げて伸びてるんですけどね!
でもマグナは全然疲れてないみたいで、俺達を呆れ顔で見ている。
おかしいな……マグナだって機関士として沢山働いていただろうはずなのに……。
「みんな、おかえりなさい」
そう言いながら迎えてくれるのは、我らがシアンさんだ。
ちょっと疲れてるみたいだけど大丈夫だろうか。心配になって駆け寄ると、シアンさんは優しく微笑んでくれた。
「報告を聞いた時は驚いたけど……ツカサ君達だけでも無事で、本当に良かった」
「えへ……」
「それに、ツカサ君は兵士達を治療したんですって? 今見て来たけど、あれならきっと“神霊樹の実”ですぐに気が付くわ。頑張ったわね」
ニコニコと笑って、俺の頭や頬を撫でてくれるシアンさん。
えへへ、やっぱり綺麗な人やお婆ちゃんに褒められるのは嬉しいなあ。
今日も凄く疲れたけど、シアンさんに労って貰えるなら疲れも癒えるよ。……欲を言えば、エネさんにも褒めて貰えたらもっと元気になるんですけど……ね!
「ツカサ君から邪念を感じる……」
「ムゥ……」
「う、うるさいなあもう! 邪念ってなんだ邪念って!!」
何でアンタは俺が女の人の事を考えると毎回心を読んで来るんだよ。
俺の背後に居たのに読める意味が解らないぞ、お前エスパーか何かなのか。
そんな事を考えている間に俺はシアンさんから引き剥がされてしまい、脇から抱え上げられてしまった。おいコラ、俺はペットか何かか、やめろ。
「ったくもう、目を離すとすぐに僕以外の奴の事を考えるんだから……」
「ツカサ、撫でられたいならオレが撫でてやるぞ」
「わーっもう解った解ったからおやめください! 髪がボサボサになるっ」
いや元々ボサボサかもしれんが、でもクロウの逞しい獣人アームで髪を掻き乱されたらワイルドな仕上がりになってしまう。
っていうか、マグナの前!! こういうの趣味じゃない奴の前で抱え上げるな!
頼むから撫でるのもやめて!
「あらあら、ブラックもクロウクルワッハさんも元気ねえ……。お婆ちゃんは、治療と会議のし通しで疲れちゃったわぁ」
「あっ、じゃあ俺が肩たたきとか足踏みとかしましょーか!?」
お婆ちゃんの疲れを取る孫の行動と言ったら、コレしかないでしょう。
肩を叩くのは定番だけど、俺の婆ちゃんは畑仕事も未だにやってるから、自分の足で婆ちゃんの足の裏を軽く体重を掛けながら踏むと、喜んでくれるんだよな。
シアンさんも今日は疲れただろうし、俺なら喜んで揉んだり叩いたりしますよ!
「あら、肩叩きなんて懐かしいわねえ。うふふ、お願いしようかしら」
へへ、やっぱり美人はお婆ちゃんになっても美人だなあ。
シアンさんに嬉しそうに微笑まれると今日の疲れも吹っ飛ぶような気がしたが、脇をオッサンに掴まれて宙ぶらりんなので悦に入る事も出来ない。
何この天国と地獄と思っていると、横からマグナが割って入って来た。
「でしたら、その前に湯浴みをするのはどうですか」
「あら、そんな用意があるの?」
ゆあみ?
なんだそれ、何か聞いた事あるけど頭の中には網しか思い浮かばないぞ。
「ツカサ君、湯浴みって言うのはお風呂に入る事だよ」
「あへ」
なっ、なーんだお風呂ね! あーそうそう、時代劇でそういう単語あったねえ!
いや、ド忘れしてたワケじゃ無いぞ。意味が出て来なかっただけだからな。
そうか湯浴みか……。でも、今から用意してすぐ間に合うのかな。
「マグナ、今から沸かすの?」
抱えられたままそう問いかけると、相手は俺を見てニヤリを笑った。
「こちらに残った兵士に頼んで用意をさせていたから大丈夫だ。来てみろ」
「……?」
なんだか自信満々だが、どういうことだろう。
ブラックとクロウと一緒に首を傾げつつも、シアンさんと共にマグナについて行く。と――マグナは倉庫街を抜けて、船着き場がいくつも海にせり出している、この町の人達が使う停泊エリアに近付いてきた。
ここは……俺達がガーランドに絡まれた場所かな。
木の桟橋がずらずらと並んでいて、なんだかアミダくじみたいだ。
その桟橋の横には、手頃な船がいくつも着けられていた。
……そう言えば、この桟橋がある所の更に向こう側までは行ってなかったな。
何があるんだろうかと前方を見やると……やけに立派な建物が見えてきた。
もしやあれは……海賊ギルドか?
俺の予想は当たったようで、古い西部劇の映画で見かけるような洋風木造のレトロな建物に、格好良さげな飾り文字で【海賊ギルド】と看板が掛けられている。
このような建物にはお決まりの、やっぱり西部劇で良く見る「ドアの意味が無いんじゃないか」っていうウェスタンドアもバッチリ装備だ。
こう言う所は冒険者ギルドと全然変わらないんだな……。
そう言えば、冒険者ギルドって【空白の国】の発掘とお宝発見を期待した出資者が始めたものだって言ってたけど、海賊ギルドも同じ物なんだろうか。
でも、そもそも海賊と冒険者って相容れない関係なんだっけ?
もしかして建物は同じでも出資者は違うんだろうか。うーむ、よく分からない。
でも、同じような建物をアジトにしてんだから、きっと根っこは一緒だよな。
それにこの街の海賊ギルドは、冒険者ギルドのギルド長・ファラン師匠と現在ラブラブ真っ最中な、金髪牧毛の美少女リリーネさんが運営しているんだ。
基本的に仲が悪くても、この町なら俺達がお邪魔しても大丈夫だろう。
…………でも、なんで海賊ギルドに?
「なあ、なんでギルドに来たんだ?」
マグナに問いかけると、相手は軽く肩を竦めた。
「良い感じの風呂場がここにしか無かったんだ。さ、こっちだ」
そう言いながら、マグナはウェスタンドアを横目に更に歩を進める。
ギルドには用が無いのだろうかと思ったら、その隣にひっそりと隠れるようにして存在していた、兵舎のような地味な建物に近付いて行った。
あの町の入口の大通りから港に来ると、ギルドに隠れて見えなかったけど、こんな建物があったんだな。
ブラック達と一緒に兵舎っぽい建物の扉を開けて中に入ると、そこには古いホテルのような、飾り気のない古びた小さなロビーが広がっていた。
うーん、なんかホテルっていうか、旅館に近い?
あの無骨な外見を見たら意外な感じがするけど、こんなもんなのかな。
キョロキョロと見ていると、マグナは俺達を誘うように手で招いた。
「えらく歩かされてるけど、どこに連れていくんだか」
「こらっ、とにかく付いて行ってみようって」
もう飽きて来たのか愚痴を吐くブラックを叱りつつ、俺達はロビーから長く続いている一本道の廊下を歩き出した。
途中、いくつか部屋のドアのような物を見かけ、一つ階段を見つける。
どれも古びた感じで、この館が相当古い事が知れた。
……なんか、婆ちゃんの集落の近くにあるホテルみたいだなあ。
そろそろ行き止まりに辿り着くぞと思っていると、右にある引き戸の所でマグナが立ち止まった。どうやらここが終着点らしい。
「こちらが女湯、この隣が男湯だ。ベランデルンは嗜好より身体的特徴が重視されるから、メスとオスで分ける事は無いが……とにかく、先に女湯を案内する」
「えっ!! 女湯入れるんですか!!」
「ツカサ君……」
なんだよ呆れたその声はっ。
お前女湯だぞ女湯! 男なら誰だって一度はお邪魔したいと思う女湯!!
あっ、でもこの世界は男女の差なんてあんまり関係ないんだっけ!
でも女湯は良いぞ、ロマンだぞ……。誰も入っていない場所をみてどう興奮するんだと言われるだろうが、良く考えてみて欲しい。そのお風呂は女性専用であり、俺達男湯とは異なるシャンプーやリンスが置かれていたりするだろうし、心なしか女性に好かれる感じのデザインになっているんだ。きっとそうなんだ。
俺達が普段目にする事のないその女性的な内装を見れば、そこで女子が気兼ねなく豊満な胸をほっぽり出して体を洗ったり、仲の良いお友達とキャッキャしたりする事は最早自明の理!!
男子禁制の禁断の花園で開放的になる女子をよりリアルに感じる事が出来るとなれば、興奮して然りでしょーが!!
これは俺の心の「オカズフォルダ」に、現実感と新たなる妄想を書き加える一大事なんだっ! 喜ばずにいられるかーい!!
「ツカサ、鼻が膨らんでる」
「ツカサ君その顔僕の好みじゃなーい」
「うるせーなんとでも言え!!」
文句があるならお前らも女体を愛でる気になって見ろってんだ。
男なら混浴に夢を持つ。それは俺の世界の当たり前なのだ。
「さあマグナ入ろう!」
「お前な」
「いいからいいから!! 何があるのかなっ!」
何か凄い哀れな目で見られた気がするが、そんな事はもうどうでも良い。
俺は女湯が見たい。女湯を拝んでこれからの妄想に役立てたいだけなのだ。
誰も入ってないんだから、気兼ねなく観察させて下さいよ。
そんな俺の熱意に折れたのか、マグナは何も言わずに戸を開けて案内してくれた。
うむっ、脱衣所は男湯と変わんないな。
でも婆ちゃんが使ってるような平たい櫛とか、良い匂いのする石鹸ぽいものがあるから、そこはさすが女湯って感じだな。ううむ、女子がいつも良い匂いがするってのは、こういう石鹸を使ってるからなんだろうか。
気になりつつも、スリガラスの戸を開けると。
「おおっ……!!」
そこは、まさに女湯……想像していたのとはちょっと違うけど、男湯よりも設備がちょっと小さめに作られた感じの浴室だった。
でも置いてあるタオルとか小物は何か一々置台みたいなのがあって細かい。
髪が長い人用なのか、髪留めみたいな物もあった。そういや石鹸とかも色々と種類があるな。ふーむなるほど、女湯はこうなってるのかぁ。
「おいツカサ、どこを見ている。こっちを見ろ」
「えっ?! あっ、はいはい!」
へへへすみません、つい好奇心が先立っちゃって。
マグナに指摘され、ブラックとクロウに溜息を吐かれながら振り返ると……そこには、お湯がたっぷり湛えられた浴槽と……そのお湯の出口であろう筒に取りつけられていた、真四角の給湯器みたいな機械があった。
給湯器……ん……? 給湯器……?
「見覚えがあるか?」
マグナにそう言われて、俺はハッと気が付く。
そーだこれマグナが作ってた湯沸し機械……つーか曜具じゃないの!?
前にプレインでこの曜具を使った銭湯に入った事が有るけど……そうかぁ、コレがあの曜具の完成系なんだな。つーか本当に給湯器だな。
「これ、あの時の……」
「そうだ。……だが、あの時よりも少し工夫して持ち運び可能にしたんだ。こうすれば、馬車引きの商人程度なら気軽に使えるだろう?」
「これ取り外せるの!?」
二度びっくりすると、マグナは満足そうに口端を釣り上げて笑った。
「もちろんだ。でないと持って来るものか」
「あらぁ、じゃあ、すぐにお風呂に入れるのね」
「はい、湯は自動的に供給されるよう設定してあるので、気兼ねなく使って下さい」
マグナがそう言うと、シアンさんは上機嫌でニコニコと嬉しそうに微笑んだ。
うふふ、やっぱり美女の笑顔は素晴らしいなあ。お風呂あがったら俺が肩叩きしてあげよう。お婆ちゃん孝行をするのだ。
「男湯にもついているのか」
クロウが聞くと、マグナは頷いた。
「ああ。……しかし、そっちはツカサを一番に使わせると約束した。なのでお前達はもう少し待て。というか、ツカサが入ってからにして貰う」
「はぁ!?」
何を馬鹿な事を、と言いたげな感じでメンチを切るブラックに、涼しい顔のマグナはサラッと言葉を返した。
「なんだ。水麗候に仲裁役をして貰って争うか?」
「…………チッ……」
あ、ブラックが引き下がった。
あれか、やっぱり母親代わりのシアンさんに色々言われるのは嫌なのか。
……俺も今度何かあったらシアンさんに助けを求めようかな……。
「よし、では行こう。お前に見せたいものがあるんだ」
「う、うん」
何だかよく分からない内に一番風呂を頂く事になってしまったが……さっきマグナが言ってた「見せたいもの」はお風呂の中にあるんだろうか。
この感じだと給湯器っぽいけど……男湯は何か違うのかな?
首を傾げつつ、俺はブラック達と一旦離れて男湯へ入った。
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